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カンボジア慕情

旅日記から(画像はトンレサップ湖まで行く道)

             26th Oct, 2001
 昼を近くのレストランで済まし、その後シェムリアップ川沿いをぶらつく。それから予定通り、午後4時からトンレサップ湖へ釣りに行く。

 熱帯の広大な土地をガイド男のバイクの後ろに乗っかって走り抜けていくと、やがて道の両脇が湖になった。トンレサップという、これまた広大な湖だ。そこでごく原始的な釣り竿と餌のエビを買ってガイド男と2人で小さな舟に乗る。
 (中略)――広大な湖には水上家屋が影を黒くしている。湖面を滑る小舟のずっと前方には濃い青空に白い雲のかたまりが立ち昇っている。水面に二重写しになったその空と空との境界線を自分達の舟は進んでいく。自分は宙に浮いている様な錯覚を心地良げに抱きながら、この小舟は一体何処へ向かっているのかと考えてみる。
 やがて西日が雲片を赤く染めて来る。それが過ぎてやがて夕の暗やみが下りてくる頃、自分はずっと彼方に一本だけ湖に立つ木を見つけた。男の操るこの小舟は構わず進んでいく。自分もそれを止めはしない。そして自分は、あの木の場所にきっと幸せがあるのじゃないかと、馬鹿な空想をしてみる。
 舟は行き過ぎる。

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