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日記堂の告白 中編

  読んでいる君。公のところに置くので、あえて名前は避けますね。君ならここに必ず来るだろうと思って、日記帳を預けました。日記帳と言っても、ただこれだけしか書いていませんが。私の最後の告白です。

  
 きっと君は、いえ、忘れているかもしれませんが、何故私が身を投げたか、今でもわからないでしょう。ましてや、聞いたことも無い男との心中など、理解し難いと思います。
 
 けれど私とて、自殺願望者では無かったのです。ただ、疲弊しきった私は、もう死ぬしかないと考えるまでに、どうしようもなく、追い詰められていたのです。細々とバイトで食いつなぎ、明日の雲行きすらわからず、働くために生きるような毎日に、クラス中に溢れる当たり前と信じてやまないその幸せに、強烈な嫌悪感を感じていました。

  私には、嫌悪する親も、明日のドラマも、美味しいスイーツも、きらびやかな服も、甘酸っぱい青春も、何も無い。周りを妬むだけの哀れな、みすぼらしい女でした。
 
 そうだ、今日死のう。なんて何回考えたか、検討もつきません。ですが、そうして考えているうちは、ちっともそんな勇気は無く、結局、実行することはありませんでした。おかしいですよね。
 
 そんな調子で二年ほど経ったある日のことです。私は、ある男と出会いました。そうです、私と一緒に心中した男です。
 
 名前を名島 春樹(なじま はるき)といいます。
 
 ハルキ(ここからはハルキという呼び方で書いていきますね。)は、近所に住む、二十歳前後ほどの、痩せ型で、少しボーッしているような、それでいて時折、冷ややかで刺さるような目をする、少し変わった男でした。
 
 出会ったきっかけと言えば、なかなか全くロマンチックではなくて、ただ、たまたま見かけて声をかけたというか、本屋でたまたまという感じだったのです。俗に言う、ナンパというやつなのかもしれませんね。話した内容なんかは忘れてしまいましたが、何か強烈に惹かれたということは、しっかりと覚えています。
 
 それからしばらく、お互いに恋人とまでは行かなくとも、それなりに親密な仲になり、私の頭の中からすっぽりと自殺願望なるものが消え去っていました。だけれど、平穏とは続かないものですね。六月の中頃。事件は起きました。
 

 心中の一ヶ月前の事です。
 
 
 

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