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ニホンミツバチとドライブ 京都から滋賀へ

いろいろあって、
ニホンミツバチを京都の山裾から、琵琶湖西の山の中に運ぶことになった。

そう。夫が。

ニホンミツバチは、夜になると活動を終えて巣箱にお帰りになるので、その時をねらい、車で移動させるのだ。

そして、そのまま、新しい居住地に巣箱を設置する。

活動開始が夜なので、そこから、車での移動、そして設置となると、最終は夜中の作業となる。
ニホンミツバチの活動に合わせると、そのようにやるしかない。

そう。夫が。



しかし。
やはり。

当日、車のシートベルトで固定された巣箱を、隣で押さえているのは私。

巣箱の出入り口は、布ガムテープと押しピンでとめられているだけ。

移動の振動で、ハチたちは怒りだす可能性があるらしい。
そうなると、グオングオンとすごい音がするらしい。
そして、怒りのエネルギーが熱に代わり、巣箱が熱くなってくるらしい。


万一、なんらかの衝撃で、ハチが飛び出してくることがあったら、
その時は、落ち着いて、押しピンを止め直さなくてはならない。
その押しピンをとめるのは私だそうな。
なぜなら、運転をするのは夫なので、万一の事態の時に対応できるのは、どう考えても私しかいない。

怒ったニホンミツバチの、ブンブン羽音を聞きながら、そんなことができるのか?

それに、当然、そうなると、ニホンミツバチに刺されることは、免れられない。

夫のニホンミツバチの師匠のお一人は、

「イヌを飼ってたら、噛まれることもある。
ネコを飼ってたら、引っ搔かれることもある。
ミツバチを飼ってたら、刺されることもある。
それだけのことや。」

と、ガハガハ笑いながら、おっしゃってた。

そりゃ、夫を含め、養蜂に関心のおありの方々は、それでいいよ。

刺されることも、養蜂のひとつなんやろうし。
ハチミツをとるためには、少々刺されるくらいは、たいしたことやないのやろ。


でも、わたしは、ちゃうねん。

美味しいハチミツを諦めてでも、ニホンミツバチに刺されることを、避けたいねん。
刺される覚悟なんか、まったくないねん。

イヌを飼ったことも、ネコを飼ったこともないから、そんな説明、まったく理解できないねん。

だいたい、聞いてないよ~~~。
そんなこと。

でも、もう巣箱は車の中。
やるしかない。
巣箱に密着するように座り、右腕で巣箱を支え、左腕で車の天井を押すようにして、自分の身体を支える。

長い人生で、一番怖い相手とのドライブは、1時間あまり。
右腕は、パンパン。背中はキンキン。

でも、もっと怖いのはここから。
琵琶湖西の山の中は、真っ暗な闇。
当然、イノシシやシカやサルが出てくる可能性が大あり。
もしかしたら、幽霊に遭遇するかも。
いや。
もしかしたら、殺人犯が死体を埋める場面に遭遇するかも。

うわあ。
怖すぎて、妄想がとまらない。

とにかく、車のライトをつけっぱなしにして、特大懐中電灯を抱え、少しでも早く終わるように、作業を進める。

怖い。
怖すぎる。



いったいなんでこんなことに。

元はといえば、養蜂は夫の趣味なので、夫が一人でするはずだったこと。

ただ、夜中の活動が、あまりにも不審者のそれすぎるので、どこかで職務質問を受けたり、通報されたりした時に、わたしが警察署に、夫の身柄を引き取りに行くことになるやもしれず。

それは嫌やなあ。

そんなことを言うわたしに、夫は、小さい声で

「そんな迷惑をかけられへんから、一晩くらい、警察にとどめられるのも仕方ない。
やったことないことを経験するのも、いいかもしれんし。」

とつぶやいている。


でも、なぜか上目遣い。
めっちゃ上目遣い。


うわ~~。
きた~~。

必殺!!人につけこみの術!!


「ほっ、ほんまにそんな迷惑かけられへんし・・・。」

と、またもや上目遣い。


必殺!!人につけこみの術重ね!!!


そこからは、思いっきり、ネチネチとこれまでの文句を言い、
悔い改めてほしいことをずらずらと並べ、
この作業と引き換えのご褒美の品を約束させ、
最終的には、その日がちょうど夫の誕生日だったので、
この作業をプレゼントにするってことで、けりがついた。


今、琵琶湖西の山の中の巣箱で、勝手に京都から連れてこられたニホンミツバチたちは、けなげに働いているらしい。

新しい蜜源を見つけることが、できたんやろう。


それを、嬉しそうに報告してくる夫。


でも、私は、しっかりと、夫と師匠とのやりとりを聞いてしまった。

これをきっかけに、琵琶湖西でニホンミツバチの新しい群れが居ついたら、今度はそれを、京都の山裾に引っ越しさせて、もっと強い群れをつくるという計画。


ということは、また、ニホンミツバチ入りの巣箱とのドライブがあるってこと!?


次回の引っ越し業者代は、めちゃくちゃ高くふっかけてやるからな~~~。


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