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はじめに

 今年4月30日に亡くなった立花隆さんは「勉強を職業にしてきた」「僕は勉強屋だった」と語っていた。(注1)

 生涯で本を3万冊を読み、100冊の本を書いた。「読まないと文章は書けない。まず消費者にならないと、ちゃんとした生産者にはなれない」という(「知の旅は終わらない」=文春新書)。

 私も、何かを書くときは、まず、何をテーマにしようか、あれこれ考え、案をまとめる。その過程がまず、勉強だ。

 しっかり案をまとめ、企画会議に提出(生半可な案だとこっぴどく叩かれる)。会議を通ったら、十分な準備(勉強)をして取材に臨む。

 取材を申し込む段階で、その取材を受けることが面白そうと取材先が思わなければ受けてもらえない。取材依頼で受け入れてもらうことが最初の関門だ。

 取材先が企業であれば、公式ホームページや最近のニュースなどは読んでおく。相手が個人で著書があれば、その時のテーマに関する著書は必ず読み、それから取材依頼をする。約束が取れた後も、もちろん、可能な限り勉強する。

 ラジオや新聞でその人に関して幅広くインタビューするときには、その人の代表作はほとんど読んでから臨む。関連本も読む。だから100冊も本を書くとなると、読む本はきっと3万冊になるのだろうなと思う。準備をしっかりして話を聞けば、それ自体が最高の勉強になる。

 立花さんは「知の旅は終わらない」で、「あらゆる科学の世界において、実はわかっていることよりわからないことのほうがはるかに多い…大学者になると、自分個人の研究だけでなく、その領域の研究全体がまだどれほど遅れていて、どんなにわからないことばかりなのかを、きちんと語ってくれます」と言う。

 これも同感だ。「大学者」(大御所)の本を読み、取材することが、基本を理解することになるし、新しいテーマを見つけることにもつながる。

 メディアが伝えることを、消費するだけでなく、関心を持ったら、さらに調べて、自分の血肉とするのが「メディアリテラシー」だと思う。優れたジャーナリストは、一つの記事や本を著すときにその作業を行っている。だから、立花隆さんの本を100冊読めば3万冊も読まなくて済むのかもしれない。

 信頼できるいくつかのメディアと付き合い、信頼できる人物を見つけて、その人の日常の発言をツイッターなどで追ったり、著書を読んだりする。そして、自分でも勉強と取材を重ね、発信していく。

 そんな「勉強の仕方」について、これから書いていきたい。材料は、読んで感動した著者の本、これまでの取材経験などだ。自分が書いた記事でも新聞社の場合は会社に著作権がある。けれど、自分の新聞記事を手がかりに、どんな思いで、どんなことに気をつけて書いたのかを伝えることは、NIE(Newspaper in Education=「エヌ・アイ・イー」と読みます)と呼ばれる、新聞を教材として活用する活動の一環にもなるので、著作権に抵触しないようにして伝えていきたい。こうした具体的な作業を通じて、新聞記事や良い本をしっかり読むことがメディアリテラシーの向上につながることを読者に理解してもらいたいと思っている。


 注1)NHK人間大学1996年7〜9月期で「知の現在 限りなき人間へのアプローチ」の初回で、「生涯教育という言葉はあまり好きじゃない」「教育をする人、される人と言う関係に立つのがあまり好きじゃない」「あなたの職業はなんですかって聞かれると…勉強屋だったと言えるんじゃないか」「すっと勉強を続けてきて、それをまとめることで自分の職業を成立させてきた」と話す。そして「生涯教育」ではなく「生涯勉強」「生涯自己教育」を、「教育する内容を自分で決めて、自分に与えて、それをやっていくこと」と定義し、薦めていた。

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