見出し画像

鷹匠裕氏に新作『ハヤブサの血統』について聞く。

 60歳になって小説家デビューした鷹匠裕氏に、このほど出版された第二作『ハヤブサの血統』(角川書店)について、なぜこのテーマを選んだのか、どんな取材をしたのかを聞いた。合わせて、なぜ定年まで広告代理店に勤めた後に、小説家に挑戦をしたのかを話してもらった。

 『ハヤブサの血統』は、1機が200億円近い次期戦闘機の購入・開発をめぐる、一般市民があまり知らない話が書かれている、とても興味深い小説だ。読み始めてから2日で一気に読み終えるほど面白かった。

 ムサシ重工の社員・光崎哲司は、「モータースポーツ担当チームリーダー」として四輪駆動車のラリーを仕切っていた。しかし、東日本大震災で生産設備が被災し、ラリーどころではなくなっていた。ムサシ重工はラリーから撤退。光崎は一時「追い出し部屋」に送られる。そこから光崎を拾い上げたのが、防衛装備を作る特機カンパニーの五十幡だった。ムサシ重工の前身は「武蔵飛行機」。そこで戦時中に戦闘機「ハヤブサ」を開発したエンジニアが、光岡の祖父だった。祖父の血統を継ぎ、戦闘機の国産化に奔走することになる光岡の生き様を描いたのがこの小説だ。

 ”軍需産業”を取り上げているが、描きたかったのは、その業界で苦闘しながら立ち回るビジネスマン、ビジネスウーマンたちの姿だったという。望んでいたわけではない特機部門で重要な役割を担わされた主人公を描くことによって、あまり知られていない、米国企業の次期戦闘機開発に絡む日本メーカーの動き、防衛省、経産省の思いなどをビビッドに見せる。

 インタビューではこの小説を書くに至った理由などを聞いた。

 1機が200億円近い途方もない金額の商品を米国から買う。「軍事オタク」でなくても関心を持っていいテーマではないかと鷹匠氏は語る。

 そして、人生100年時代を小説家として歩き始めた鷹匠裕さんに、なぜこの生き方を選んだのか語ってもらった。

 鷹匠裕というペンネームは高校時代に考えたという。東京大学の文学部に入ったから、小説家になりたいという思いはあったのだろう。しかし、卒業後は、広告代理店に。「忙しすぎて、面白すぎて」小説を書くことはすっかり忘れるが、49歳で亡くなった先輩に「いつ書くんだ」と背中を押され、50代になって、小説を書きたいと思い始める。

 しかし、「小説で食べていく」ことは簡単ではない。定年までじっと待って、第1作『帝王の誤算』(角川書店)を書き下ろす。担当編集者に小説の書き方を教わりながら書いたという。

 定年まで思いを実現できなかったが、「定年まで勤め上げたことでビジネス小説が書けるようになったと思うようにしている」と鷹匠さん。「遅く始めても長くやれば辻褄が合う」という指揮者の朝比奈隆さんの言葉を胸に、これからいろいろな分野のビジネス小説を書いていきたいと言う。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?