メディア総接触時間が450分に

 メディアリテラシーを考える前に、我々を取り巻く最近のメディア環境を見てみよう。

 総務省が毎年実施している通信利用動向調査によると、スマートフォン(スマホ)の普及が進んでおり、8割以上の世帯が保有している。2020年のインターネット利用率は83.4%だが、スマホによる利用率は68.3%で、端末のなかで最も利用率が高い。

 また、総務省が2021年3月にウェブアンケートで実施した「ウィズコロナにおけるデジタル活用の実態と利用者意識の変化に関する調査研究」によると、普段、私的な用途のために利用している端末で、最も利用が多いのがスマートフォンで89.4%だった。テレビが50.8%、ノートPCが48.5%、タブレットが26.5%だった。

 スマートフォンの利用を年齢別に見ると20代が95.0%、30代が94.5%と若い世代の利用率が高いが、60歳以上も81.0%を占めた。

各端末の利用状況

 普段利用しているインターネットサービスは「インターネットショッピング」(73.4%)や「支払い・決済(クレジットカード等)」(66.9%)と消費に関するサービスの利用が最も多かった。「地図・ナビゲーション」(61.4%)、「情報検索・ニュース」(57.9%)、「動画配信」(55.6%)が続く。公的サービスの利用は19.7%にとどまっている。

普段利用しているインターネットサービス

 博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点観測調査2021」によると、メディア総接触時間は450.9分(1日あたり/週平均)で、昨年よりも39.2分伸びた。「携帯電話/スマートフォン」(昨年から18.0分増)を始めとして、「タブレット端末」(同9.7分増)、「パソコン」(同8.4分増)の接触時間が伸びた。「携帯電話/スマートフォン」「タブレット端末」「パソコン」の合計が全体に占める割合は55.2%となった。調査は2021年1月21日〜2月5日に実施しており、コロナ禍でのメディア接触の状況が初めて明らかになった。

メディア接触時間001

 テレビの利用時間に何を入れたのかを調査した結果、有料動画(昨年から8.4ポイント増)・無料動画(同3.6ポイント増)ともに増加し、2割を超えた。

 定額制動画配信サービスの利用は昨年から9.7ポイント上昇して46.6%と半数に迫った。テレビ受像機のインターネット接続率も45.8%(昨年から5.3ポイント増)と半数に迫る勢い。

 テレビは”ネット端末”としても活用され、スマホの利用が、メディア総接触時間を増やしている。

 かつてはテレビを長時間だらだら見るのはよくないと言われたものだ。受動的にテレビを見ていると、脳の前頭葉の活動が抑制されるとも言われた。

 しかし、テレビに代わって、主役の座についたスマートフォンも「脳に悪影響を与える」という研究結果を東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太氏が明らかにしている。

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 仙台市の教育委員会と合同で小学校の児童と中学校の生徒を対象に追跡調査を行ったところ、スマホ等(インターネット接続ができる機器)の使用により学力が低下すること、学力低下は、スマホ等を長時間使用することによって生じる家庭での学習時間の短縮や、睡眠時間の短縮よりも、直接それらを使用したことによる影響の方が大きいことが明らかになった。

 まず、スマホ使用時、さらにLINEでメッセージをやりとりしているときに前頭前野の活動量が安静時よりも少なくなる「抑制現象」が生じたという。さらに、メディア・マルチタスキング(テレビ、ラジオ、パソコン、スマートフォンなど、複数のメディア機器を同時に利用する状態)の時間が長い中学生は数学、国語双方の学業成績が低く、作動記憶(理解、学習、推論などの認知的課題の遂行中に、情報を一時的に保持し操作するためのシステム)力も劣っていることがわかった。

 2017年に川島氏に取材したときに「手書きで手紙を書くと脳の前頭前野はたくさん働き、記憶力アップにつながるが、パソコンやスマホでメールを打っても前頭前野は働かない」と聞いた。「脳が行うはずだった漢字を思い出して書く作業をITが肩代わりするので、前頭前野の機能を使わなくて済んでしまう」とのことだった。

 スマホなどの利用増が脳にまでマイナスの影響を与えると言うのは恐ろしい研究結果だが、その流れは加速されこそすれ、止まる気配はない。

 人が自分で考えることをやめて、判断をSNSやAIに任せる。人間が意思決定することをやめてしまう危うさを、「思考からの逃走」の著者、岡嶋裕史氏は指摘する。

 「人間の歴史とは、面倒なことを外部化する歴史でもある」「もう考えつくものはあらかた外部化し尽くしてしまって、最後の残った大物が思考である」。

 しかし、岡嶋氏は「人の精神の安定や、人生への満足度には、『状況をコントロールする方策があり、自分は自分自身をコントロールしている」と感じることが強く寄与している。いくら正しくても安全でも、他者の決定で生き続ける人生は楽しそうに思えない」と語る。

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 「明日のテレビ」の著者、志村一隆氏は、インターネットの「オンデマンド」を問題視する。インターネットで自分の好きなチャンネルばかり見ていると、「自分の知らないことをどうやって知るのか」という問題に直面するという。「新聞の見出しの大きさでニュースの重要性がわかり、ページをめくって自分の知らなかった記事に興味を持」つ大切さを訴える。

 テレビとスマホに生活時間のほとんどを取られる中で、さまざまなものに対する好奇心や、知識を深めたいと思う探究心が培われていくのかが心配だ。








 

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