お役立ち本(4)藻谷浩介、NHK広島取材班著『里山資本主義~日本経済は「安心の原理」で動く』

 お役立ち本の4冊目は、藻谷浩介、NHK広島取材班著『里山資本主義~日本経済は「安心の原理」で動く』(角川oneテーマ21、2013年7月10日発行)。2014年3月2日に、私のプライベートのブログに書いた記事を転載する。

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 『デフレの正体』で、生産人口の減少がデフレの正体であり、財政や金融の出動で経済を活性化しようとしても限界があることを説いた藻谷浩介氏が、NHK広島取材班の井上恭介、夜久恭裕の両氏とタッグを組んで著した『里山資本主義~日本経済は「安心の原理」で動く』(角川oneテーマ21、2013年7月10日発行)を読んだ。里山資本主義の実践は、特に都会に住む人間にとっては、そう簡単ではないと思うが、生きることを、全面的に「他者」あるいは「マネー」に依存していいものかということを真剣に考えさせてくれる本だった。

 NHKの二人が中国山地やオーストリアですでに始まっている「里山資本主義」の実践事例を紹介する。

 製材工場から出る木くずを「木質ペレット」に加工し、「木質バイオマス発電」を行うという試みが中国山地で広がっている。そして、オーストリアが国を挙げて木質バイオマスは発電に取り組んでいることが紹介される。

 オーストリアは「世界でも珍しい『脱原発』を憲法に明記している国家である」。そして「オーストリアのエネルギー生産量の約28.5%は再生可能エネルギーによってまかなわれている」。

 二人のリポートを受けて、藻谷氏が総括する。

 「『里山資本主義』とは、お金の循環がすべてを決するという前提で構築された『マネー資本主義』の経済システムの横に、こっそりと、お金に依存しないサブシステムを再構築しておこうという考え方だ。お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み、いわば安心安全のネットワークを、予め用意しておこうという実践だ」

 「今日本人が享受している経済的な繁栄への執着こそが、日本人の不安の大元の源泉だと思う」「マネー資本主義の勝者として、お金さえあれば何でも買える社会、自然だとか人間関係だとかの金銭換算できないものはとりあえず無視していて大丈夫、という社会を作り上げてきたのが、高度成長期以降の日本だった」

 「極度のインフレという、高齢者や中高年のこれまでの金銭的蓄積を、元も子もなくすような事態が起きる危険性も少しずつ高まりつつある」

 「里山資本主義はマネー資本主義の世界における究極の保険なのだ」

 保険であるだけでなく、里山資本主義が広まると、「明るい高齢化」も実現すると藻谷氏は言う。

 「山村部分では、土に触れながら良質な水を飲み、清浄な空気を吸って暮らし、自宅周辺で取れる野菜を活かした食物繊維の多い食事を摂る暮らしが続いている」

 これにより、日本人の健康寿命も延びる、と言うのだ。

 「里山資本主義の普及に伴って、今後ますます、金銭換算できない価値を生み出し地域内で循環させる高齢者増えていくだろう」

 「元気な高齢者が先に衰えた高齢者を介護するNPO、公共スペースに花壇を作る老人会、小学生の通学時に道路横断などを助けるボランティアのお年寄り、幼稚園や放課後の小学校などで子どもに遊びを教えるおじいさんなど、金銭換算できない価値を生み出し、増殖させている高齢者は全国に無数にいる」

 ほとんどのことが、いまだに、お金で解決できる、と正直、思う。しかし、お金で解決しないことにより生み出されるものは多い気がするし、お金で解決できないことも次第に増えている気がする。「里山資本主義」だけが「マネー資本主義」の欠点を補ってくれるものだとは思わないが、里山資本主義は、とても魅力的な解決策を我々に示してくれる。

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