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すいこばなし 特選集(嗚呼遊撃隊)

すいこばなしの問題作集ここに爆誕!

遊撃隊の面々のこばなしをまとめました!

旧遊撃隊

旧遊撃隊…水滸伝時代の遊撃隊。まだまだ芸も粗かった。

人物
史進(ししん)…おなじみ九紋竜(くもんりゅう)。事の発端は主にこいつが脱ぐところから始まる。
杜興(とこう)鬼臉児(きれんじ)の由来はその強面。史進の所業を見ては、その顔をしわくちゃにするが、結局こいつも同レベル。
陳達(ちんたつ)跳澗虎(ちょうかんこ)のジャンプ力自慢。史進の腐れ縁で阿吽の呼吸。
施恩(しおん)…替天行道マニアの隊長。圧巻の朗読力。
穆春(ぼくしゅん)…色々しょっぱい小遮攔(しょうしゃらん)。お兄ちゃんがクソめんどい。
鄒淵(すうえん)…元猟師の遊撃隊隊長。色々便利な自称遊撃隊の良識派。

1.
史進「モテる男は辛いな。鄒淵」
鄒淵「李瑞蘭からか?」
史「他の女からもしこたま貰った」
鄒「懲りない野郎だ」
史「気の毒だから一つやる」
鄒「いらん。俺にはとっておきがある」
史「誰から?」
鄒「李逵だ」
史「李逵?」

鄒「お前は知らんかもしれんが」
史「おう」
鄒「石梯山の兵は皆李逵を母だと思っていた」
史「そうなのか」
鄒「去年のバレンタインでも全員に配ってくれてな。控え目に言って美味すぎた」
史「ふむ」
鄒「数より質を選ぶのだ。俺は」
史「知ったような口を」

鄒「ところで史進」
史「なんだ」
鄒「お前。今日は素っ裸で帰らなかったのか?」
史「馬鹿を言うな。しっかり着て…」
鄒「どうした」
史「下が」
鄒「忘れたのか?」
史「…」
鄒「乱雲に乗っていたんだろ?」
史「気づかなかった」
鄒「すげえものを見た」

史「どうしよう」
鄒「俺に聞くな」
史「取ってきてく…」
鄒「断る」
史「命令…」
鄒「杜興に言いつけるぞ」
史「調練で覚えてろよ」
鄒「待て。今外は風が」

李俊「風が、俺を遮った」
鄒「手遅れだったか」

・史進(ししん)…やはり下は履かないに越したことないな。
・鄒淵(すうえん)…遊撃隊は上から下まで変態しかいねえよ…

・李俊(りしゅん)…俺も仕事柄裸になることは多いが、下は隠すぞ。

2.
陳達「宴会を始める前の注意をさせてもらう」
扈三娘「はい」
陳「史進は脱ぐ」
扈「はぁ」
陳「鄒淵も脱ぐ」
扈「…」
陳「杜興は絡む」
扈「…」
陳「頃合いで合図を出すから帰ってもいい」
扈「…」
陳「犠牲になる馬鹿は俺だけで十分だ」
索超「苦労してるな」
馬麟(お前もな)

林冲「おい九紋竜。お前の竜に酒を飲まさなくてもいいのか」
史進「よくぞ言ってくれた林冲殿。鄒淵、酒だ」
林冲「鄒淵、九杯もってこい」
「www」
陳(脱ぐぞ)
索(合図だ)
馬(林冲殿やっぱ馬鹿だな)
扈「…」
陳(なぜ俺をおいて帰らない)
索(俺達は、陳達を残して帰るよりも、馬鹿でいたいんだ)

林「一杯目」
史「痛い、林冲殿。棒で打たれるのと同じくらい痛い」
林「二杯目」
鄒(酒を浴びた所が打ち身みたいになってやがる…)
林「出林竜にも一杯」
鄒「痛え!マジで痛え」
索「www」
扈「…」
馬「何を凝視している、扈三娘」
扈「史進殿の竜に名前をつけていました」
馬「ほう」

史「もう辞めてくれ、林冲殿。鄒淵が失神した」
林「酒を飲めてないお前の竜が泣いているぞ」
扈「今泣いている竜を哭竜」
馬「柩に入ってそうな竜だな」
史「安道全に言いつけるぞ」
林「それがどうした」
扈「苦悶している竜を苦悶竜と名付けました」
馬「もう史進の渾名でいいのではないか」

・陳達(ちんたつ)…本当の馬鹿だ、こいつら…
・索超(さくちょう)…絶妙な席を確保し、笑うだけの高みの見物。
・馬麟(ばりん)…史進の芸は三竜、だな?
・扈三娘(こさんじょう)…馬麟殿?

・林冲(りんちゅう)…史進曰く、おちょこから酒をかけるられたダメージが、急所の一点に凝縮されていたらしい。
・史進(ししん)…林冲によるアルハラとパワハラ案件で文治省相談窓口に行ったが、扈三娘へのセクハラ案件を指摘された。
・鄒淵(すうえん)…謎の打ち身だらけの身体に、安道全は小首をかしげた。

・郁保四(いくほうし)…杜興に延々と絡まれてた。

3.
史進「俺たち遊撃隊の野郎はバカばかりだな」
陳達「なんだとこの野郎」
史「穆春はバカだろ?」
陳「あいつはバカだ」
史「施恩は替天行道バカだろ?」
陳「筋金入りだな」
史「鄒淵だって賢いとは言えんだろ?」
陳「言えん」
史「じゃあもう俺が一番賢いんじゃないか」
陳「それは無い」

穆春「好き勝手言いやがって」
施恩「史進より賢い自信はあるぞ」
鄒淵「そうだ」
陳「人望ねえな」
史「貴様ら」
穆「俺は史進よりも賢い兄上の弟だから賢い」
陳「ん?」
施「俺は史進よりも替天行道を暗記しているから賢い」
陳「…」
鄒「俺は史進よりも山に詳しいから賢い」
陳「同レベルだった」

史「お前らの賢さはその程度か」
陳「強気だ」
史「穆弘の賢さは関係ないだろう」
穆「む」
史「替天行道は暗記するものではない。この世で活かすものだ」
施「不覚」
史「山の事なら子午山で学んだ」
鄒「ぐ」
史「やはり俺が一番のようだな」
陳「む、風が」
史「しまった」
陳「履いてねえのかよ」

・史進(ししん)…チラリズムもほどほどにしなければ。
・陳達(ちんたつ)…誰得だ、馬鹿野郎。
・穆春(ぼくしゅん)…汚い…
・施恩(しおん)…おぞましいものを見た。
・鄒淵(すうえん)…こいつは一体なんなんだろうか。


4.
杜興「李家荘の執事だったこのわしが、下品極まりない貴様らにお行儀というものを叩き込んでやる」
陳達「うるせえ、老いぼれ」
鄒淵「くたばりぞこないめ」
杜「貴様ら」
史進「ご老体、無理をなさるな」
杜「︎」
史「陳達も鄒淵も失礼ではないか」
陳(そういえばあいつ、お坊っちゃんだった)

史「杜興殿。奴らが悪いのは口と頭だけ。そうカリカリなさるな」
陳(なんか腹立つな)
杜「すまなかった」
鄒(謝った)
杜「行儀の良い史進ほど気持ちの悪いものは無かった」
史「何だと」
杜「史進は口を利くな。口汚くても行儀良くても腹がたつわい」
史「」
陳(ひでえwww)

・杜興(とこう)…早い話が、史進は黙れ。
・陳達(ちんたつ)…身体で主張し始めたぞ。
・鄒淵(すうえん)…結局同レベルだよな、この馬鹿と爺は。
・史進(ししん)…なぜこんな爺が遊撃隊にいるのだ…

5.
史進「相変わらずガチャガチャうるせえ鎧だな、徐寧」
徐寧「賽唐猊に関する苦情は一切聞かん」
史「金ぴかだし、やたら光は反射するし」
徐「聞こえんな」
史「お前を夜間の偵察に出せと命令したのはどいつだ?」
徐「林冲だ」
史「なんでそういうことするかな」

史「徐寧はここまでで良い。敵に気づかれる」
徐「聞こえん」
史「いい加減に怒るぞ」
徐「なんだと」
史「徐寧」
徐「本当に聞こえないんだ。なんて言ったんだ?」
史「まずはその鎧を黙らせろ」

・史進(ししん)…梁山泊一二を争う武芸者と目されているが、間違っても林冲には言えない。
・徐寧(じょねい)…賽唐猊(さいとうげい)という金ぴかでやたら重い鎧を装着して闘う。装飾品のパーツが多く、一個でもなくなると大騒ぎする。

6.
杜興「また性懲りも無く裸になりくさりおって」
史進「黙れ死に損ない、裸ではなく風通しの良い格好と言え」
杜「貴様を経由した風なんぞわしの屁よりも臭いわい」
史「この野郎」
李応「相変わらず仲が良いな」
杜「李応殿!」
史(今、杜興の尻に尻尾が生えたような)

李「すまんな、史進」
史「…」
杜「全くなんですよ、李応殿。史進は本当に私を困らせまして」
史(声と口調と姿勢が驚くほど違う…)
杜「史進はしょっちゅう裸になるんですよ、はしたない」
李「私も子供の頃はよく裸で寝ていたぞ」
杜「李応殿はいいんです。李応殿は」
史(危うかったな、李応)

李「史進、杜興と仲良くしてくれよ」
史(願い下げだ)
李「杜興も上手くやるんだぞ」
杜「かしこまりました」
史(爺いのデレなんて誰も得せん)
李「またな」
杜「良い一日を!」
史(デレ爺)
杜「…」
史「…」
杜「わしらが上手くやれるのは、どっちか死んだ時だよな」
史「分かってんじゃねえか、爺」

・史進(ししん)…全裸になりたがるところを除けば、割とまともな部類かもしれない。まともとは何か。
・李応(りおう)…攻城兵器を扱う重装備部隊隊長。週末は項充と飛刀を競い合い負けた方が酒を奢る。
・杜興(とこう)…ツンデレ爺。誰も得をしないデレは李応に全振り。史進にデレるくらいなら死を選ぶ。

7.
林冲「強くなったな、史進」
史進「俺は林冲殿すら上回る男になる」
林「ほざけ」
史「王進先生すら上回る男になるつもりだ」
林「大きくでたな」
史「まあどれだけ強くなろうとも」
林「うむ」
史「王母様には死んでも勝てんだろうがな」
林「全面的に同意だ、史進」

史「怖いってレベルじゃないんだよな」
林「俺も着衣の乱れを厳しく指摘された時は死を覚悟した」
史「王母様に躾けられたテーブルマナーは、強烈だった」
林「梁山泊じゃ役に立たんな」
史「王母様より強い人はいらっしゃるのだろうか」
林「童貫すら躾けてそうだ」
史「まさか」

童貫「行儀が悪いな、鄷美」
鄷美「失礼いたしました」
童「手づかみで食ってはならん、畢勝」
畢勝「申し訳ございません、つい…」
童「お前ら、行儀の調練を受けさせてやろうか」
鄷「それだけはご寛恕を」
童(私が心底恐怖を覚えた唯一の相手が、王進殿のご母堂とは死ぬまで誰にも言えん)

・王母(おうぼ)…戦の指揮とか武術の強さとかにいくら秀でていようとも、それらを完全に無力化する最強おばあちゃん。

・林冲(りんちゅう)…襟のシミを見つけられた時の顔が忘れられない。
・史進(ししん)…箸の使い方を正された時の飯は全く味がしなかった。

・童貫(どうかん)…定食屋で店員に不躾な態度をとったところを公衆の面前で厳しく叱られた。
・鄷美(ほうび)…ガサツ
・畢勝(ひつしょう)…ズボラ

8.
史進「一度の失敗をあげつらい、しつこくネタにするのは、人として恥ずべき行為ではないか」
杜興「お前の人として恥ずべき行為が滑稽すぎるからネタにされるんじゃ」
史「いつも着物を着てるだろう」
杜「わざわざ言うまでもないことじゃな」
史「公共の場で裸になったのはあの時だけだ」
杜「なるな」

史「杜興の糞爺を黙らせたい」
陳達「俺はあの件では杜興の味方だぞ」
史「裏切るのか、陳達」
陳「俺は厠と体を洗う時と妓楼に行く時しか脱がん」
史「脱ぐではないか、陳達」
陳「脱ぐ時しか脱がん」
史「俺が脱いではいけない時に脱いだと言いたいのか?」
陳「だからネタにされてんだよ」

史「俺は裸で外を駆け回りたいから脱いだ訳ではない」
陳「まだやんのか」
杜「いい加減にしろ、史進」
史「貴様らの分からず屋ぶりにはうんざりだ」
陳「俺の台詞だ」
杜「わしは配属された時からうんざりしているが?」
史「尻でもくらえ」
陳「履いてねえのかよ」
杜「お前の性根のように汚い尻だ」

・史進(ししん)…見せびらかしたいからではない!ノーパンだと爽やかだから履いてないだけだ!
・杜興(とこう)…李応殿のぬいぐるみに語りかける夜が多くなった。
・陳達(ちんたつ)…少華山の時から履いてなかったな。そういえば。

9.
史進「妓楼に行くぞ、鄒淵」
鄒淵「二度とお前などと行くものか」
史「…」

史「妓楼に行くぞ、陳達」
陳達「誰がお前と行くか」
史「…」

史「行く口実はないものか…」
安道全「史進、杜興の内服薬を持ってきたが、どこにいるか知らないか?」
史「これだ!」

安「妓楼の女たちの健康診断?」
史「引き受けてくれないか、安道全?」
安「喜んで引き受けよう」
史(しめた)

史「李瑞蘭に、心置きなくしたたかに精を放つのも久しぶりだ」
安「待たせた、史進」
史「お前も悦ばせたのか?」
安「大喜びだった」
史「やるじゃねえか」

安「天にも昇る心地だと言っていたよ」
史「!?」
安「日頃の修行の賜物だな」
史「…」
安「彼女も今日は良く眠れることだろう」
史「…」
安「是非また来て欲しいと連絡先まで頂戴してしまった」
史「なんてこった」

李巧奴「また来てくださいね」
安「私の鍼がここまで喜ばれたのは初めてだ」

・史進(ししん)…またパンツを忘れてきた。
・鄒淵(すうえん)…史進と行ったところより良い店を見つけたが、絶対に教えない。
・陳達(ちんたつ)…実は李瑞蘭に惚れられてる。

・安道全(あんどうぜん)…他の女の子の連絡先までしこたま頂戴してきた。

・李瑞蘭(りずいらん)…独りよがりな史進はもういい。
・李巧奴(りこうど)…李瑞蘭の同僚。久しぶりに清々しい朝を迎えたのも安先生のおかげ!

10.
安道全「白勝、妓楼に行ってくる」
白勝「あいよ」
文祥「え!」
安「何がおかしい、文祥」
白「いつものことだろう?」
文「…」
安「じゃあ行ってくる」
白「気をつけてな」
文「…」
白「…」
文「…」
白「文祥」
文「おう」
白「不覚にも、お前の疑念に今気づいた」
文「だよな」

安「妓楼に行くぞ、史進」
史進「!」
杜興「!?」
陳達「!?」
安「今日は行かんのか?」
史「…後で行く」
安「分かった。今日は五人相手をしなくてはならんので、先に行くぞ」
史「五人…」

杜「安道全と行ったのか?」
陳「説明しろ」
史「実は…」
陳「俺も行くぞ」
史「鄒淵も誘おう」
杜(わしは?)

鄒淵「あの忌まわしい店で一体何が」
史「やはり一緒に行こう、安道全」
安「分かった」
陳「…」

李巧奴「安先生!」
女「ようこそ、安先生!」
女「お待ちしてました!」
女「今日は私からね!」
女「私が先よ」
安「待ってくれ」

史(大歓迎ではないか)
陳(俺たちの相手をする女の目が冷たい)

李瑞蘭「また史進か」
史「随分しょっぱいな、瑞蘭」
李「私も次は安先生にお相手してもらうの」
史「なんだと!」
李「だって史進の相手は痛いんだもの」
史「…」
李「安先生のはとてもとても気持ちいいらしいわ」
史「…」

李巧奴「マッサージも上手いのね、安先生」
安「ツボを抑えているだけさ」

史「どうだった?」
陳「安道全の部屋から出た女の顔が、とてもつやつやしていた」
鄒「艶めかしい声が鳴り止まなかったぞ」
史「まさか、安道全が…」
安「待たせた」
史(五人も相手をしたのに、この余裕)
陳(何というテクニシャンなんだ)

瑞「史進達には勘違いさせときましょう」
巧「了解」

・安道全(あんどうぜん)…他の店の出張依頼も頼まれ始めた。
・白勝(はくしょう)…帰った安道全に話を聞いたら案の定でホッと一息。
・文祥(ぶんしょう)…場所も相手も御構い無しに治療する姿勢は医者の鑑だ!

・史進(ししん)…いつになく、李瑞蘭は冷たかった。
・陳達(ちんたつ)…次は李瑞蘭に相手してもらおう。
・鄒淵(すうえん)…安道全の部屋から聞こえる艶やかな声に興奮した。

・杜興(とこう)…誘う相手にすらならなかったのは日頃の言動のせいだってば。

・李瑞蘭(りずいらん)…次の史進の指名は仮病を使おう。
・李巧奴(りこうど)…安道全に惚れた。その恋の行方やいかに。

11.
穆弘「春!」
穆春「兄者…」

施恩(また忘れ物か?)
陳達(予備のパンツを調練中届けに来た時は驚いた)

弘「父上から手紙が」
春「調練の後で良いだろう」
弘「そうはいかん」
春「頼むから皆の前で辞めてくれ、兄者」
弘「二人の時なら良いのか?」
春「違う!」

施(仲良いな)
陳(一方通行だがな)

史進「俺も兄貴が欲しいと思ったことはあるが、ああいうのはな…」
陳「調練の妨げだぜ」
史「この間たしなめたら、眼帯から火を噴きやがった」
陳「目じゃねのか?」

春「…」
弘「お前の可愛がっていた猫が子猫を産んだぞ!」
春「声がデカい、兄者」

史(家でやれ)
施(猫か)
陳(俺たちはネコ科だ)

弘「邪魔をした」
史(邪魔なんてもんじゃねえ)
弘「じゃあな、春。調練が終わったら手を洗うんだぞ」
春「いつも身体ごと洗ってる!」
陳(シャンプーハットしながらな)
弘「あと…」
春「…」

史「お疲れ」
春「…」
史「穆春?」
春「見ろ史進!子猫が!」
陳「またやるのか?」
施「可愛いな」

・穆弘(ぼくこう)…穆春に会いに行く用の眼帯を付けて来た。
・穆春(ぼくしゅん)…可愛がっていた猫の話のせいで調練の終了時間が四刻伸びた。
・史進(ししん)…俺たちの兄貴分というと、朱武か。あいつもめんどくせえよな。
・陳達(ちんたつ)…神機軍師のくせに、勢いで突っ走るとこあるよな。
・施恩(しおん)…実は武松が心の兄貴分。

12.
杜興「また裸になりおって」
史進「身体を洗うのだから当然だろう」
杜「それにしても、着脱する時間が速すぎやせんか?」
史「お前がノロマなのだ、老いぼれ」
杜「なんじゃと」
史「よくそんなヨボヨボな肉体で戦ができるな、老いぼれ」
杜「貴様もよくそんな汚い尻で妓楼に行けるな」
史「糞爺め」

杜「しかし、貴様の尻はまだマシだ」
史「なんだと?」
杜「お前の面と性根のどちらが汚いか、妓楼でアンケートでも取ってみろ」
史「俺を怒らせたな、老いぼれ」
杜「身体を洗うぞ、史進」
史「…言うまでもない」
杜「もっとも、水浴び程度でお前の穢れまで落ちるとは到底思えんがな」
史「野郎」

杜「!?」
史「冷や水でも浴びろ、老いぼれ」
杜「年寄りを労らんか、小僧」
史「お前の身体の頑固なシミはクリーニング屋でも落とせんだろうな」
杜「貴様も身体を洗ったところで、性根が腐っとるから意味がないの」
史「野郎」

索超「林冲殿と公孫勝殿とは違う趣があるな」
劉唐「いいコンビだ」

・史進(ししん)…口汚いが、兵の気持ちを掴むのが妙に上手いのが癪に触る。
・杜興(とこう)…尻が汚すぎるが、調練と戦の時の指揮ぶりは認めてやらんこともない。

・索超(さくちょう)…喧嘩するほど仲がいいのだろうな。
・劉唐(りゅうとう)…じゃれあってるだけさ、あの二人と同様にな。 

13.
史進「…」
林冲「どうした、史進」
陳達「何を黙ってやがる」
鄒淵「らしくねえぞ」
史「…父上の命日だったことを思い出してな」
林「そうか…」
陳「そういえば、俺は遠目で見たことがあるかもしれないぞ」
史「なんだと?」
陳「俺たちが頭になる前に、少華山で下っぱやってた時のことだ」

史「まだ王進先生にも出会ってない頃だ」
陳「棒を持ったくそ生意気な小僧と手を繋いでいたおっさんがいた」
林「絶対史進だろ、そいつ」
鄒「それで?」
陳「棒を持った小僧がしきりに文句を言っていたな」
史「あの時は色々やらかしてたからな」
林「今はやらかしてないとは言わせんからな、史進」

陳「文句垂れながら親父と手を繋いで歩いて…」
史「それは触れないでくれ、陳達」
陳「…すまん」
鄒「らしくねえが、悪くねえな」
林「人は死ぬ」
史「林冲殿?」
林「俺たちも、死ぬ」
陳「…」
林「死んだらどうなると思う?」
鄒「その時考えるな、俺は」
陳「俺も」

史「…」
侯真「史進殿?」

・史進(ししん)…何も言えん。

・林冲(りんちゅう)…俺は白い世界があると思うんだ。
・陳達(ちんたつ)…俺は暴れるしか脳がねえからな。病になろうとも槍を振り回してやるさ。
・鄒淵(すうえん)…俺は散々獣を殺したからな、その俺が最後は獣の餌になるなら本望だ。

・侯真(こうしん)…酒です、史進殿。

14.
史進「…」
李瑞蘭「…」

〜したたか〜○

史「…」
李「じゃあ、銀5粒ね」
史「値上げしたのか?」
李「追加料金よ」
史「なぜだ」
李「もう相手しないわよ」
史「…分かったよ」
李「…」
史「…」
李「早くしてよ」
史「…財布が」
李「忘れたとは言わせないわよ」
史「…」

李「九紋竜様、お支払い不可能です」
史「コールするな」
用心棒「困りますな」
史「…」
用「九紋竜様のうっかり、という事で間違い無いですな?」
史「…」
用「人間ですからそういう事もありますがね」
史「…」
用「うちにこっそりお越しになるならば、財布くらいキチンとお持ちいただかんと」

用心棒B「おい、もう一人財布忘れた間抜けがいるぞ」
A「どこのどいつだ?」
B「この爺だ」
杜興「…」
史「!?」
杜「!?」
A「お知り合いですかな?」
B「まさかこんな所で、って面してますよ、二人とも」
史「…」
杜「…」
A「二人でどうやって落とし前つけるか、ご相談していただけますね?」

・史進(ししん)…命からがら帰ることはできた。詳細は覚えてないが、服を着ていなかったことだけは覚えている。
・杜興(とこう)…命からがら帰ることはできた。詳細は覚えてないが、話を聞いた時の李応の顔だけは死ぬまで忘れないと思う。

・李瑞蘭(りずいらん)…安先生来てたのは内緒にしといたわ。いくらでも金持ってたからね。

15.
史進「おい、爺」
杜興「なんじゃ、小僧」
史「双頭山に飛ばされるんだとな」
杜「これでもう貴様の尻を見ずにすむから清々するわい」
史「こちとら老いぼれのカビ臭い吐息と同じ場所で息をするのもうんざりしていたから好都合だ」
杜「最後まで口汚い小僧だ」
史「口内が汚い爺が言うな」

陳達「その白髪頭で双頭山かよ」
杜「黒々とした毛髪が、大バカ供のせいで真っ白だ」
鄒淵「抜けなかっただけましだ、老いぼれ」
杜「史進の三下風情がよくも兵など率いて戦っていたもんじゃ」
陳「さっさと帰れ」
杜「言われんでも帰るわ」
鄒「当分その面見たかねえな」
杜「こっちが願い下げだ」

杜「遊撃隊の屑どもめ…」

杜「さて、双頭山に」

騎兵「!」
騎「!」

杜「なんだ!」

騎「道中くたばるんじゃねえぞ、爺!」
騎「あんたより長生きするのが俺の夢なんだから、死ぬなよ!」

杜「生意気な!」

騎「退け!」

杜「待たんか!」

遊撃隊「達者でな!」
遊「さっさとこのアーチをくぐりやがれ、爺!」
遊「向こうから骸になって帰ってくるんじゃねえぞ!」

杜「屑どもが…」

・杜興(とこう)…やる事が稚拙だぞ、バカども。

・史進(ししん)…こういうのに弱そうだよな、あの爺。
・陳達(ちんたつ)…涙ぐむ顔が眼に浮かぶぜ。
・鄒淵(すうえん)…なんだかんだで面白い爺だよな。

16.
鄒淵「猟師をしていて思うことがある」
陳達「それは?」
鄒「小動物の可愛らしさだ」
杜興「だが、それを狩るのが生業なのだろう?」
鄒「背に腹はかえられんからな」
陳「どの動物が好きなのだ?」
鄒「兎だな」
杜「わしには食い物にしか見えんのだが」
鄒「それは否めないが、実に可愛らしい」

陳「どの部位が可愛いのだ?」
鄒「尻だな」
史進「…」
杜「分かる、という気がする」
史「…」
鄒「あの尻の丸みの丸い尻尾が堪らんのだ」
史「…」
陳「兎の尻か…」
史「…」
鄒「見れば見るほど撫で回したくなるぞ」
史「…」
杜「兎は年中発情していると聞くが」
史「…」
鄒「そうなのか?」

史「…」
杜「繁殖のためだと聞いた覚えがある」
史「…」
陳「だからプレイボーイマガジンのロゴは兎らしい」
史「…」
鄒「そうなのか」
史「…」
杜「解珍殿が犬を飼っていたな」
史「…」
鄒「俺は犬には可愛さよりも格好良さを求めたいな」
史「…」
陳「分かる、という気がする」
史「…」

・杜興(とこう)…黒鉄は見事な猟犬だな。
・陳達(ちんたつ)…どこかの隊長よりもかっこいいよな。
・鄒淵(すうえん)…絶対梁山泊一部の隊長よりも賢いと思うぜ。

・史進(ししん)…(俺はいつまで尻を出し続けていればいいのだ)

17.
王母「また裸になって、史進」
史進「私の竜が、そうささやくのです、王母様」
母「そんなに脱いでばかりいたら、いつか必ず酷い目にあいますよ」
史「あうものですか」

母「馬麟と鮑旭から便りが」
楊令「何事ですか?」
母「…」
楊「王母様?」
母「私は史進に手紙を書きます」
楊(何という気を…)

史進「!?」
陳達「史進?」
鄒淵「どうした、お前が落馬するなど」
杜興「それにかこつけて具足を脱がんなど」
史「今、取り返しのつかぬことが起きる気を感じた…」
杜「起こしたばかりではないか」
林冲「おい、木偶」
史「」
林「新しい技を思いついた、かけるぞ」
陳「この事か?」
史「もっと酷い」

史「痛いにもほどがあった…」
陳「しかし、これより酷いことなんて起こるのか?」
史「!!」
陳「…史進?」
史「あの手紙は…」
陳「…ただの手紙ではないか」
史「開けてくれ、陳達」
陳「俺は字が読めんぞ」
史「開けるだけだ」
陳「…」
史「…」
陳「」
史「…陳達が、気を断つほどのお叱りか」

・王母(おうぼ)…あれだけ言っていたのに…
・楊令(ようれい)…子午山に怒涛の嵐が訪れました…
・王進(おうしん)…嵐の中鍛錬していたら死域。

・史進(ししん)…肩を震わせて大泣きしながら謝罪の手紙を書いた。
・杜興(とこう)…脱がなくなったな、史進。
・陳達(ちんたつ)…手紙を開けた時、死を覚悟する何かが飛び出したのは覚えてる。
・鄒淵(すうえん)…ノリ悪くなったな。

・林冲(りんちゅう)…練兵場の木偶を108体はぶっ壊した。史進なら頑丈だからどうにでもかけられて便利だ。

18.
馬麟「楊令を、ずいぶんとかわいがっていた、と聞いたが、林冲」
林冲「打って打って、打ちのめして、心を裸にしてやった。俺も裸になった。楊令とは…」
史進「今なんと言った、林冲」
林「史進?」
史「質問に、答えろ」
林「…打って打って」
史「そこではない」
林「…心を裸にして」
史「違う」

林「…俺も裸になった」
史「…もう一度」
林「…俺も裸になった」
史「林冲」
林「…」
馬(史進が林冲を圧倒している…)
史「なぜ裸になったのだ?」
林「言葉のあやだ、史進」
史「裸になっていないのか?」
林「…例えだ」
史「ならばなぜ、裸という言葉を選んだ」
林「…そういう関係だったのだ」

史「楊令と裸の関係だと?」
林「水浴びをした」
史「水浴びの時に裸になるのは当然だろうが!」
林「!」
馬(キレた)
史「林冲」
林「…」
史「裸になる調練だ」
林「史進?」
史「梁山泊の裸を司るこの俺との裸の立合いは、貴様の死を意味する」
林「…」
史「脱ぐぞ、林冲」
林「…」
馬「♪〜鉄笛〜♪」

・史進(ししん)…馬麟の笛の音と月の光が俺たちの裸を彩った夜だな、林冲。
・林冲(りんちゅう)…股間を隠そうとすると竹の棒で打ってきやがった…
・馬麟(ばりん)…さすが史進。

19.
呼延灼「…」

鄒淵「良いではないか、良いではないか」
史進「あーれー」
兵「wwwww」
史「帯を解かれながら回転しつつ着物をはだけると自然に脱ぐことができるのだ」
杜興「また馬鹿なことをしているな、小僧」
兵「引っ込め爺!」
兵「史進殿のありがたいお言葉の途中だぞ!」

呼(これが遊撃隊…)

史「…」

呼「もう一度だ、郭盛」
郭盛「…フレッシュ!」
呼「今の一呼吸は余計だ」
郭「…」
呼「梁山泊フレッシュマンの衣装になれろ」
郭「…どうしても着なくてはダメですか?」
呼「聞くまでもない、郭盛」
郭「恥ずかしい」
呼「由緒正しきフレッシュマンの衣装に羞恥は不要!」

史(変態か?)

杜「馬同士ぶつかったら、人格が入れ替わっただと?」
郭「幸い、朝影も乱雲も怪我はないのですが」

史(呼)「…」
呼(史)「…」

鄒「もう一度ぶつかるのも危険だな」
陳「乱雲たちが気の毒だ」
呼(史)「俺たちは気の毒ではないのか、陳達」
陳「!」
鄒(中身が史進でも呼延灼殿に叱られると怖い…)

史(呼)「当面の調練はどうしよう?」
呼(史)「俺が呼延灼の兵を引き受ける」
史(呼)「なんだと?」
呼(史)「止むなしではないか」
史(呼)「確かに…」
呼(史)「この馬鹿どもの相手も疲れていたからな」
鄒「なにを!」
呼(史)「」
鄒(やっぱ怖え)
呼(史)「そのうち戻ってるだろう」
史(呼)「そうだな」

呼(史)「双鞭も面白い武器だな」
兵「呼延灼殿、本日もどうぞよろしくお願いいたします」
呼(史)(硬い雰囲気だな)
郭「今日は関勝殿との合同調練だ」
呼(史)「郭盛」
郭「なんだ、史進」
呼(史)「双鞭にその口の利き方はなんだ」
郭「!」
呼(史)「鞭の罰だ」
郭(野郎…)
呼(史)「尻を出せ」
郭「!?」

史(呼)「…」
兵「ういっす、史進殿」
史(呼)(なんといい加減な軍だ…)
兵「やべえ下着忘れた」
兵「俺も!」
史(呼)(具足はきちんと着ているのに、なぜ…)
杜「まあ、こんなバカどもの軍なのだ、呼延灼殿」
史(呼)「杜興」
杜「なんだ」
史(呼)「俺たちで軍の風紀を取り戻すぞ」
杜「…涙が」

呼(史)「人は産まれた時、服を着ていない」
関勝「…」
呼(史)「そこにパンツという蛇が絡みついた時、羞恥心という悪の心が芽生えた」
関「…」
呼(史)「人間の原罪は恥。羞恥心だ」
関「…」
呼(史)「その羞恥心を芽生えさせないために、人間ができることは何か…」
彭玘「呼延灼?」
郭(史進め…)

兵「史進殿はどうしちまったんだ」
兵「なんだ、この衣装は…」
兵「俺は好きだぞ」

杜「呼延灼殿、これは…」
史(呼)「宋国フレッシュマンの気風を取り入れて風紀を正すのだ」
杜「しかし、この衣装は…」
史(呼)「宋国の由緒正しい衣装だ、杜興」

陳(中身が呼延灼殿でも…)
鄒(露出度は変わらん…)

呼(史)「尻を出せ!」
兵「お願いします!」
呼(史)「!!」
兵「!」
彭「…のう、呼延灼」
呼(史)「なんだ、彭玘」
彭「なぜ尻なのだ?」
呼(史)「顔では痛いではないか」
彭「尻でも痛いだろ?」
呼(史)「ビジュアル的に顔の方が痛い」
彭「はあ」
呼(史)「尻だと気持ちコミカルだろう?」
彭「…」

史(呼)「フレッシュ!」
兵「フレッシュ!」
史(呼)「声が小さい!」
杜「…」
兵「爺がフレッシュもないでしょう、史進殿」
兵「身体は萎びたイチジクだもんな」
史(呼)「愚か者!」
兵「!」
史(呼)「貴様の見掛け倒しの鮮度なぞ、杜興の内に秘める味と比べ物にならんわ」
杜(フォローされたのか?)

彭「そんな理由が…」
杜「呼延灼も露出狂だったとは思わず…」
彭「道理で関勝が…」
杜「関勝?」
関「よう、杜興」
杜「!?」
彭「…着物はどうした、関勝殿」
関「羞恥心という原罪から逃れるために、服を捨てたのだ」
彭「…呼延灼か?」
関「あの教えは貴重だぞ、彭玘。お前も脱げ」
彭「断る」

史(呼)「史進!」
呼(史)「呼延灼!」

関「史進が史進と怒鳴って、呼延灼が呼延灼と怒鳴ってるぞ?」
杜「訳ありだ」
彭「解説する気にもなれん」

史(呼)「貴様よくも羞恥心を捨てる調練だの、鞭を尻に挟んだ立合いなどしてくれたな」
呼(史)「お前のフレッシュマンだって、ただの露出狂だ」

史(呼)「フレッシュマンを侮辱したな」
呼(史)「あんな淫らな衣装を纏うくらいなら裸の方がマシだ」
史(呼)「蛮族め、恥を知れ」
呼(史)「その言葉そのまま貴様に返してやる」

杜「お前はどっちが変だと思う、彭玘?」
彭「わしはもう考えるのを放棄したよ」
関「なんだか恥ずかしくなってきたぞ」

史(呼)「貴様、俺の鞭を取れ」
呼(史)「おう、望むところ」
史(呼)「間違っても貴様の尻に挿した方を渡すんじゃないぞ」
呼(史)「もう二本とも挿した後だが?」
史(呼)「なんだと…」

杜「わしはあと何回史進に幻滅すれば良いのだろうか…」
彭「帰ろう、杜興」
関「やはり着物は着るべきなのか?」

杜「戻ったのか?」
呼「史進の鞭と俺の鞭で相打ちになり、双方気絶したら戻っていたのだ」
史「鞭も悪くないな、呼延灼」
呼「貴様が尻に挿した鞭など二度と使わん」
史「お前の尻だ」
彭「…史進は落とし前をつけた方が良いのではないか?」
史「それは?」
関「俺を裸にさせたのは貴様か?」
史「」

・呼延灼(こえんしゃく)…尻に挿された鞭を泣く泣く廃棄したが、次の双鞭がなかなかしっくりこない。
・史進(ししん)…本気で怒る関勝は、生涯三本指に入る怖さだったとか。

・杜興(とこう)…そういえば李応殿が好きだったフレッシュマンというのは…
・陳達(ちんたつ)…史進の史進が出てるか出てないかの差だったな。
・鄒淵(すうえん)…誤差の範囲にすぎん。

・郭盛(かくせい)…尻に鞭を挿して戦う呼延灼殿なんて見たくなかった…
・彭玘(ほうき)…あれで技になっていたのが腹がたつ…

・関勝(かんしょう)…宣賛にコテンパンに論破されて目が覚めた。

20.
史進「…」
陳達「林冲殿の家にピンポンダッシュする罰ゲームなんてよく思いつくよな」
鄒淵「おまけに全裸で」
史「…」
陳「しかもそれをやるのが考案者という、底無しの馬鹿さ加減ときた」
鄒「あの時は俺たち死域に入ってたよな」
史「…!」
陳「腹を据えたらしいぞ」
鄒「結末や、いかに」

張藍「…」
史「!」
陳(こいつは)
鄒(完全に出鼻を挫かれた)
陳(どうする史進)
史「…」
張「…」
陳(両者全く目を逸らさない)
鄒(見応えのある、見事な立ち合いだ)
陳(武術ならな)
史「…」
張「…」
史「…」
陳(史進の気に乱れが)
鄒(張藍殿の気は澄み渡ってきたぞ)

張「史進殿」
史「…」
張「」
史「!!!」
陳(史進が膝をついた!)
鄒(今何を囁いたんだ)
史「」
張「…」
陳(あの史進が…)
鄒(肩を震わせて泣いている…)
史「」
張「…」
陳(家に招かれた)
鄒(天女様のような神々しさだったな)
陳(きっと中で優しく諭されるに違いないな)

林冲「よう」
史「」

・張藍(ちょうらん)…私が史進に何を囁いたかですって?本当に知りたいので?
・林冲(りんちゅう)…あいつには地獄すら生ぬるい。

・史進(ししん)…一ヶ月、一言も口を利けなかったという。
・陳達(ちんたつ)…張藍の話をするたびに史進の顔が引き攣るのが気になる。
・鄒淵(すうえん)…素敵な家庭なんだろうなぁ。林冲殿の家は。

21.
宋江「梁山泊お尻当てクイズ!」
呉用「史進以外の誰が出場したのですか?」
宋「答えを言うな!」
盧俊義「皆、もう帰っていいぞ」
宋「…史進!」
史進「!?」
宋「お前がいつも脱いでばかりだから、この様な企画倒れになるのだ」
史「…宋江殿?」
宋「もっと自分の尻を大切にせよ、史進」
史「?」

宋「そもそもなぜ脱ぐのだ、史進!」
史「…宋江殿?」
盧(皆、やはり帰るな)
呉(すげえ説教が始まりましたな)
宋「なぜ脱ぐのだと聞いた」
史「…今日はそういう企画だったので」
宋「今日の話をしているのではない!」
史「…」
盧(理不尽にもほどがあるとは思うが)
呉(史進だから見守りましょう)

史「私は脱ぎたくて脱いでるわけでは…」
宋「自然に脱いでいると言いたいのか」
史「…」
宋「動物ですら体毛で体を覆っているのに」
史「…申し訳ございません」
宋「謝れと言ったのではない」
史「…」
宋「なぜ脱いでいるのかを聞いた」
盧(着地点が分からん)
呉(一体何を怒っているのでしょうか)

・宋江(そうこう)…いかん。気がついたら朝になっていた。
・盧俊義(ろしゅんぎ)…史進が泣き始めた所から記憶がない…
・呉用(ごよう)…こんな事で徹夜するなんて…

・史進(ししん)…服を、着ます。

22.
史進「しまった」
扈三娘「そろそろ落とし前を、史進殿」
馬麟「どうした、扈三娘」
鮑旭「また遊撃隊の兵に覗きを?」
扈「これ以上遊撃隊の兵の腕を折るのも本意ではないので」
馬「…何本折った?」
扈「十指に余ります」
鮑「指ではなく、腕ですね」
扈「そろそろ史進殿の器量を試そうかと思って」

史「…すまなかった」
扈「それは、私に言っているのですか、私に腕を折られた兵に言っているのですか?」
史「」
鮑(史進が怯えている…)
馬(真顔が怖いんだ、扈三娘は)
扈「史進殿の腕を斬り落とすのもやぶさかではないのですが」
史「」
扈「それは、梁山泊にとって大きな損失になりますので…」

史「扈三娘様の言う事を、なんでも聞こう」
扈「…」
鮑(何か嫌だ)
馬(恥も外聞も無いとはこの事だ)
扈「私の奴隷になると?」
史「よろこんで!」
鮑「…」
馬(どう捌く、扈三娘)
扈「私の言う事をなんでも聞くならば」
史「」
扈「私と林冲殿の言う事を聞け、と言えば聞くのですね、史進?」
史「」

・扈三娘(こさんじょう)…自分で言った落とし前ですからね、史進?
・鮑旭(ほうきょく)…他人事ながら肝が冷えた。
・馬麟(ばりん)…今年で一番いい顔してたぞ、林冲殿。

・史進(ししん)…(この件の事は一言も話せぬのだ)

23.
史進「…」
陳達「…なんだ、それは?」
史「俺の実家からの届け物なんだが」
杜興「どこかで見た下品な面をした人形だの」
史「しばくぞ、爺」
鄒淵「まさかお前をモデルにした…」
史「土産物らしい」
杜「冥土の土産でも受け取り拒否される代物だぞ、これは」
史「貴様を冥土に送るぞ、老いぼれ」

史「俺をゆるキャラにして地域おこしに取り組むらしい」
杜「お前がゆるいのは股だけでも十分すぎるだろう」
陳「裸族が住み着く集落が出来かねんと思う」
鄒「人間的に退化するな」
史「貴様ら言わせておけば」
杜「着物は脱がせるのか?」
陳「剥いでみよう」
鄒「…えげつない再現度だ」
史「おい」

杜「尻のほくろの位置まで再現されとるぞ」
陳「乳首の位置まで完璧だ」
鄒「その割に竜の再現度がいい加減だな」
史「…さっきからなにを言っているのだ、お前ら」
杜「どう遊んでやろうか?」
陳「練兵場に顔だけ出して埋めてみようか?」
鄒「矢の的にするのは?」
史「…」
杜「どうした、史進?」

・杜興(とこう)…とりあえず、わしらと遊撃隊の兵全員分は発注しておいた。
・陳達(ちんたつ)…誰が一番面白く遊べるか競うぞ。
・鄒淵(すうえん)…やらないのか、史進?

・史進(ししん)…俺の人形だというのを忘れてないか?

24.
呉用「杜興」
杜興「はい」
呉「お前が発注したこの箱の数々はなんなのだ」
杜「…史進の実家の地域振興の助けになりたく」
呉用 「開けたら史進の首が四百も出てきた時は腰を抜かしたぞ」
杜「私もまさか組立式の人形だったとは思わず…」
陳達(ちゃんと数えてるのが呉用殿らしい)
鄒淵(暇なのか?)

呉「いくつ注文した?」
杜「遊撃隊の兵の数だけ…」
呉「二千はあるのか…」
陳(頭だけの箱があるってことはよ)
鄒(尻だけの箱もあるってことだよな)
呉「何のために?」
杜「史進の実家が、財政で苦労しているそうで…」
呉「…」
杜「身内が史進だからと、役人からも目の敵にされているそうです」

呉「遊撃隊の蓄えで賄えるのか?」
杜「聚義庁の経費として落としていただきたく」
呉「それだけの価値が…」
宣賛「あります、呉用殿」
呉「宣賛?」
宣「馬に乗せて兵の偽装にする」
陳「…」
宣「落し穴の罠の偵察に使う」
鄒「…」
宣「晒し刑にして相手の目を欺くこともできます」
呉「…ふむ」

・杜興(とこう)…まさか宣賛から助け舟が出るとは…
・陳達(ちんたつ)…尻だけの箱は見るもんじゃねえな。
・鄒淵(すうえん)…誰が組み立てるんだよ、これ…

・呉用(ごよう)…意外と面白いではないか…
・宣賛(せんさん)…いたずらや悪ふざけを真剣に考えるのは、人間の知能を高めますからね。

25.
李応「これはなんだ、杜興?」
杜興「これは、李応殿。御機嫌よう」
陳達(また露骨に態度を変えやがった)
鄒淵(死に損ないのエビみたいな背中がシャンとするのがいけ好かねえ)
杜「史進の実家と近隣を援助するため、人形を少々仕入れたのですよ」
陳(何が少々だ)
鄒(桁一つ間違えた耄碌爺の分際で…)

李「この顔は、史進か?」
杜「そう見えるだけです、李応殿」
李「そうか…」
陳(騙されるな、李応殿)
鄒(明らかに史進ではないか)
李「…いくつか、貰ってもいいかな?」
杜「それは喜んで!腐るほどありますので!」
陳(野晒しにされてるやつは?)
鄒(カビが生え始めた有様は、身の毛もよだつぞ)

李「これを見ろ、解宝」
解宝「…死に損なった史進のような木偶だな」
李「杜興の土産だ」
解「冥土の土産か、置き土産か?」
李「失礼な」
解「何に使うんだよ?」
李「それはな…」

李「行くぞ、解宝!」
解「どんと来い!」

!!

李「衝車と卵鉄の良い試しになる」
解「違いない」

史進「…」

・杜興(とこう)…二千でも二万でも大差ないだろう?
・陳達(ちんたつ)…そのうち悪霊が乗り移って、お前を叩き殺しにくるぞ、爺。
・鄒淵(すうえん)…最近気管支を悪くする兵が増えているらしいが、まさか…

・李応(りおう)…これで攻城兵器の試験運用も進むぞ。
・解宝(かいほう)…関節の作りが巧みで良く出来てますな。

・史進(ししん)…そろそろお灸を据えてやらんと

26.
史進「お前ら」
陳達「…」
鄒淵「…」
史「今寝返るなら、今までの事をなかったことにしてやってもいい」
陳「…」
鄒「…」
史「それでもお前らが、あの糞爺に付くと言うのなら止めはせんが、この棒が何をするかの保証はせん」
陳「史進に付く」
鄒「終生の友ではないか、俺らは」
史(こいつら…)

史「このカビの生えた人形を全部糞爺の部屋に運び込め」
陳「肺疾患で死にかねんぞ」
史「あの口汚さならカビの方が先に死ぬから問題ない」
鄒「根拠はないが説得力はあるな」
史「それから…」

陳「まだ杜興は帰ってこねえのか?」
史「李応に頼んで、しこたま酒を飲まさせている」
鄒「抜かりねえ」

杜興「良い夜だった…」

杜「?」

杜「!!」

杜「…本当にすまなかった、史進」
史「…」
陳(鄒淵が途中から呼吸困難で搬送されたってのに、ピンピンしてら)
史「どう落とし前つけるんだ、杜興?」
杜「野晒しの人形は、防水加工されていなかったのだ…」
史「は?」
杜「…その事ではないのか?」

・史進(ししん)…梁山泊の兵の数よりも多い自分の人形の数に絶句。
・陳達(ちんたつ)…防水加工に、ゼンマイ式に、ブリキの人形だって?
・鄒淵(すうえん)…喉と肺をカビにやられて闘病中。口から凄い史進の匂いがするらしい。

・杜興(とこう)…単品を二千頼んだはずが、全種類二万発注してしまったのだ…

27.
史進「おい、杜興」
杜興「どうした」
史「お前と話して復帰した兵がいただろう?」
杜「おったな」
史「董進というんだが、めきめきと頭角を現し始めた」
杜「そうか」
史「嬉しくないのか?」
杜「わしは何もしとらん」
史「よく言う」
杜「復活して頭角を現したなら、全てあいつの実力だ」
史「…」

史「今、陳達の下でしごかれているよ」
杜「陳達は、やると決めたらどんなことがあろうともやり通す奴だな」
史「…本当にそういう奴だよ」
杜「そんなことがあったのか?」
史「…前にな」
杜「鄒淵はお前らと違って粘り強く、守りに強い男だ。使い所を誤るなよ」
史「…これが年の功ってやつか」

杜「呉用殿は人を見る目がない」
史「いきなり何を?」
杜「わしが遊撃隊の副官だぞ、信じられるか?」
史「よくもまあ俺の前で…」
杜「馬鹿で恥知らずな兵どものお守りを見る身になってみろ」
史「やれやれ…」
杜「なんだ、史進」
史「…自分のことは、自分が一番分からんのかもしれんと思ってな」

・史進(ししん)…口うるさい爺だが、今の遊撃隊に間違いなく必要な男だよ。
・杜興(とこう)…自分が思っている倍以上に慕われていて、戸惑いを隠せない。

28.
史進「乾布摩擦をするぞ」
陳達「おもむろに始めるな」
鄒淵「飯食ってんだぞ、俺らは」
杜興「…今、なんと言った史進」
史「乾布摩擦だ、老いぼれ」
杜「…それは毎年の冬場、1日も欠かさず継続している、このわしに言っているのか?」
史進 「老いぼれ…」
陳「絵が見えるな」
鄒「勝負しろよ」

史「…」
杜「…」

陳「既に史進が寒さに腰を抜かしているぞ」
鄒「杜興は眉ひとつ動かさず、泰然としている」

史「…」
杜「…」

陳「杜興の下帯が赤いな」
鄒「健康番組で見たんじゃないか?」

史「!」
杜「!」

陳「始まった」
鄒「杜興の隙もない摩擦を見ろよ」
陳「美しいとすら思うぜ」

史「!」

陳「史進は荒々しいな」
鄒「皮膚を摩擦しているだけで、動きになっていない」

杜「やめろ、史進」
史「…勝負はまだ」
杜「竜が、泣いている」
史「!」

陳「それらしいこと言いやがって」
鄒「…俺は、聞こえたぞ」

杜「正しい乾布摩擦を、わしが教えてやろう」
史「ありがとう、杜興」

・史進(ししん)…会得したら見事なもので、寒さに強くなった。
・杜興(とこう)…毎年冬場の日課。かつて李応にもやらせようとしたが、全力で拒否された。
・陳達(ちんたつ)…飯食いながら、何てもん見せられてんだよ俺たちは。
・鄒淵(すうえん)…俺は、杜興に習いに行くぞ、陳達。

29.
史進「おい爺」
杜興「なんだ、小僧」
史「いたずらかお菓子か選べ」
杜「ふむ…」
史「…」

陳達(思いの外乗り気だぞ)
鄒淵(想定外だ)

杜「そうだな…」
史「…」
杜「もしお前のいたずらが卑猥なものだとしたら、去勢して…」
史「!」

陳(やべえことになった)
鄒(尻の穴が縮みやがった…)

杜「菓子が卑猥なものだったら、断種するぞ」
史「…」

陳(菓子は確か曹正のソーセージに)
鄒(下品な細工した代物だ)

史「いかん!風が!」
杜「…」

陳(さらば九紋竜)
鄒(そもそもなぜこんな真似を)

杜「史進」
史「…」
杜「去勢か断種か選べ」
史「同じことではないか!」

陳(究極の選択だ…)

杜「わしの堪忍袋はとうに尾が切れ、胡散霧散して久しいが、もう許さん」
史「…」
杜「史進」
史「…」
杜「去勢か断種のどちらがいい?」
史「なにを言っている」
杜「ならば両方してやろうか!」
史「!!」

陳(鬼瞼児がついにキレた)
鄒(どうなる史進!)

杜「いかん風が!」
史「糞爺、お前もか」

・史進(ししん)…まさか杜興が俺と同じ意匠で責めてきたとは…
・杜興(とこう)…鬼瞼児だからハロウィンはつい羽目を外してしまった。
・陳達(ちんたつ)…すげえものを見た。
・鄒淵(すうえん)…死んでも見たくねえもんだがな。

30.
陳達「史進は?」
鄒淵「まだだ」
杜興「調練の時間だが」
陳「部屋行くぞ」
杜「示しがつかん」
鄒「何をしているんだ」

陳「史進!」
杜「何をサボっておるのだ!小僧!」
鄒「宋江殿に腐刑にされるぞ」
史「…本当にされかねんことになってしまった」
杜「では早速頼みに行こうか」
陳「よし来た」

史「待て!」
鄒「…じゃあなんで出て来ねえんだよ、史進」
史「…恥を忍んで面に出るぞ」
陳「何を今更」
杜「貴様に羞恥がないのは、周知の事実ではないか」
鄒「黙れ、杜興」
史「!」
陳「…素っ裸なだけじゃねえか」
杜「それがどうした?」
鄒「もはや日常風景と化している俺たちも大概だがな」

史「…着物が」
陳「さっさと着ろ」
杜「まさか素っ裸で調練に行くつもりか?」
史「…そうせざるを得ない」
鄒「なに言ってやがる?」
史「朝起きて驚いた」
陳「…」
史「着物が一着もない」
杜「…」
史「盗まれたのではない」
鄒「…」
史「梁山泊のあちこちに脱ぎ捨てたのが、災いしたようだ…」

・杜興(とこう)…じゃあ調練に行くぞ、史進。
・陳達(ちんたつ)…今日は宋江殿が折よく巡回しに来られるとか。
・鄒淵(すうえん)…お前の肉体美を魅せてやれよ。

・史進(ししん)…梁山泊各地の着物を集めてきてくれ!お前たち!

31.
鄒淵「双頭山と合同調練とは珍しいな」
史進「鮑旭が打診したという」
杜興「鮑旭が?」
陳達「子午山で一緒だったからか?」
史「そんなところではないか?」

董平「よう」
鮑旭「待っていたぞ、史進!」
史(妙にテンションが高いな)
鮑「今宵の調練が終わった後で、宴があるからな!」
史「おう…」

史「そんなに酒を注ぐな、鮑旭」
鮑「久しぶりだから良いではないか!」
陳(らしくねえな)
杜(お前たち)
鄒(どうした、爺?)
杜(鮑旭の密書が)
陳(読んでくれ)
杜(…)
鄒(乗るか?)
杜(鮑旭たっての依頼だそうだ)
陳(なら仕方ねえ)
鄒(全部鮑旭のせいにしよう)
史「もう勘弁しろ、鮑旭」
鮑「飲め!」

史「」
鮑「…ご協力感謝します、皆さん」
陳(史進を酔い潰すとは)
杜(伊達に喪門神を名乗っとらんわい)
董「なにを始めるのだ、鮑旭?」
鮑「杜興殿、棒はありませんか?」
杜「細くてよくしなる棒ならあるが」
鮑「最高です!」
鄒(いつもの棒か)
鮑「いざ!」
史「!?」
董「何と澄んだ音だ、史進」

・杜興(とこう)…心が洗われる音だ。
・陳達(ちんたつ)…そんだけ穢されてんだよ、俺らは。
・鄒淵(すうえん)…もはや打楽器だな、史進。

・董平(とうへい)…この音をドラムに取り入れられないか…
・鮑旭(ほうきょく)…声を出すな、史進!

・史進(ししん)…助けろ!お前たち!

32.
史進「…」
陳達「始めるぞ」
鄒淵「歩兵は駆けさせる」
史「…」

史「…」
関勝「いい湯だ」
史「!」
関「地震か!?」
史「出るぞ!」
関「…止んだ」
史「やれやれ」
宣賛「関勝殿!すっ裸で外に出るな!」
関「いかん!」
史「…」

史「俺は馬鹿には見えない着物を…」
杜興「相手にせんだけだ」

・史進(ししん)…すっ裸ではない。馬鹿には見えない着物を着ているのだ。
・陳達(ちんたつ)…今日は騎兵の調練だぞ。
・鄒淵(すうえん)…裸馬を乗りこなす調練だ。
・杜興(とこう)…史進と裸馬か…

・関勝(かんしょう)…うっかりしていたのだ!
・宣賛(せんさん)…やれやれ。

33.
史進「すごく馬鹿なことをしたい」
陳達「なぜ俺らに?」
史「馬鹿同士ではないか、俺らは」
鄒淵「失礼な」
史「だが好きなんだろう?」
陳「…否定はできん」
鄒「…同じく」
史「標的は杜興」
陳「俺たち三人。馬鹿の粋を尽くして」
鄒「杜興の爺に馬鹿をする事を誓う!」
史「桃が咲いているな…」

杜興「…」
史(来た!)
鄒(先鋒陳達!)
陳「!」
杜「…また馬鹿な真似を」
陳「この礫を三歩歩いてから投擲するのだ」
杜「李応殿直伝の技で返り討ちにしてくれる」
鄒(ノリいいな)
杜「一つ…」
陳「!」
杜「!?」
鄒(見事な)
史(リアクション芸人の鑑だ)
杜「卑怯な!」
陳「退け!」
杜「逃さん」

陳「次鋒鄒淵!」
杜「!」
鄒「出林竜の山にようこそ、爺」
杜「しまった!罠が!」
鄒「生きて出たければ、我らの立合いに勝つのだ」
杜「身動きが取れん!」
陳「大将!出番だ!」
史「…」
杜「…お前か」
史「サービスだ。見ておけ」
杜「…」
史「…好きなんだろう?」
杜「大好きだ」
史「!?」

・史進(ししん)…桃園の桃が尻に見えてきた。
・陳達(ちんたつ)…死ぬ時一緒なのはお前らじゃねえぞ!
・鄒淵(すうえん)…史進が敗れた…

・杜興(とこう)…その後の顛末を聞いた呉用が珍しく酒に溺れた。

34.
陳達「おや、史進?」
史進「どうした、陳達」
陳「なぜ今日は着物を着ているのだ?」
史「…逆になぜ日常で着物を脱がなければならぬのだ?」
鄒淵「おい、史進!なんで着物を着てるんだよ!」
史「貴様ら、俺の着物をなんだと思っている」
陳「恥の上塗り」
鄒「急ごしらえのメッキだな」
史「野郎」

杜興「おや、史進が着物を着ているとは、世も末だな」
陳「道理で宋の反乱のために梁山泊が結成された訳だ」
鄒「違いない…」
史「…そんなにおかしいのか?」
陳「おかしい」
鄒「俺たちの史進は着物など着ない!」
杜「これ以上わしらの常識から外れんでくれ、史進」
史「何がどうなってやがる…」

史「貴様ら、俺を腐刑にしようと企てているのではあるまいな」
杜「何を言っている、史進」
陳「着物を着ているお前は実質宦官だ」
鄒「恥を知れ!」
史「俺は着物を着ていると恥なのか?」
陳「俺たちからすれば、着ているお前の方が許せん」
鄒「とっとと脱げ」
史「ならば…」
杜「前言を撤回する」

・史進(ししん)…いじめか?
・陳達(ちんたつ)…脱いだら脱いだでやっぱり見たくねえもんだな。
・鄒淵(すうえん)…史進の最適解を皆で見つけよう。
・杜興(とこう)…半裸も違うの。

35.
裴宣「これより、史進の着物に関する裁判を行う」

史進「…」

杜興「…」
陳達「…」
鄒淵「…」

呉用「また昼間から調練もしないで何をしているのだ、遊撃隊は」
柴進「面白そうだからいいではないか」

裴「九紋竜!」

史「俺は着物を着ても脱いでも被告人から非難を浴びた事で穢れてしまった」

史「この穢れを拭うためにも、この被告人どもから謝罪と賠償に加え、済州の糞尿処理をさせることを要求する」

裴「鬼臉児!」

杜「わしらは常日頃、史進による破廉恥で度重なる風評被害をあちらこちらで受けた経緯がございます。その点を鑑みて、公平なる裁きをお願いしたい」

呉「どうする、裴宣」

裴「両者の言い分はよく分かった」

史「…」

杜「…」

裴「史進が受けた理不尽な扱いも、杜興たちが受けた理不尽な風評被害も、双方が被害者であり加害者である」

呉「…」

裴「したがって、遊撃隊隊長及び将校両者の言い分を加味し、遊撃隊はお揃いの着物を身に纏うこととする!」

柴「天晴れ」

・史進(ししん)…ならば隊長権限でデザインを一任してもらうぞ。
・杜興(とこう)…侯健に頼まんか!
・陳達(ちんたつ)…ろくな着物にならんのが目に見えている!
・鄒淵(すうえん)…控訴するぞ!史進!

・裴宣(はいせん)…こんな事で呼ばれるとは…

・呉用(ごよう)…梁山泊法規の判例集に加えておこう。
・柴進(さいしん)…この前例を使う日が来るとお思いか、呉用殿?

36.
陳達「まさか史進が裴宣の力を借りてくるとは…」
杜興「あのバカが真っ当な司法手続きを踏んでわしらに挑んでくるとは夢にも思わんかった…」
鄒淵「あいつはバカをする時ほど頭と知恵を使うからな」
杜「それは賢いのか?バカなのか?」
陳「俺らでは手に負えんことには間違いない」
杜「そうだの」

史進「出来たぞ!」
杜「ついにこの日が来てしまったか…」
陳「俺たちが侯健に依頼する間も無く、すでに鄆城の仕立て屋に話を通していたとは…」
鄒「伊達に赤騎兵を率いてない」
史「裴宣の判決だからな」
杜「まさか尻が半分出ている意匠ではあるまいな、史進」
史「よく分かったな、爺」
杜「…」

陳「どうやって着るんだよ、これは」
史「蕭譲監修のマニュアルも付けてある」
鄒「どこまで抜かりがねえんだ」
杜「誂えたみたいにぴったり入る自分が嫌になる」
史「お前らの寸法も既に石勇の部下から仕入れているぞ」
陳「俺たちにプライバシーはないのか」
史「これで文句はあるまい!」
鄒「…」

・史進(ししん)…判決は五分でも、その後は完全勝利。
・杜興(とこう)…李応殿にどんな顔をされるやら…
・陳達(ちんたつ)…呼延灼殿の衣装と同じくらい恥ずかしい…
・鄒淵(すうえん)…センスってもんがねえのか、史進!

37.
史進「…」

陳達「どうした爺」
杜興「厠はないか…」
鄒淵「すっかり老いぼれたな」
杜「でかい方ではない」
陳「しかしこんな所に厠など…」
鄒「あるぞ」
杜「どこに?」
鄒「これだ!」
陳「なんだこりゃ?」
杜「竜の彫り物の筒?」
鄒「題して」

史「…」

鄒「苦悶竜尿瓶」
杜「貸してくれ」

・史進(ししん)…まず貴様らの頭から叩き毀してやろう。

・杜興(とこう)…だから止めろと言うたろうが!
・陳達(ちんたつ)…やるんじゃなかった!
・鄒淵(すうえん)…深夜テンションで商品開発なんてするもんじゃねえな!

38.
陳達「暇だな」
鄒淵「調練も終わるとな」
史進「…」
陳「史進が脱いだところで暇な事には変わりない」
史「…」
鄒「史進が着たところで暇な事には変わりない」
史「…」
陳「何を着ようとしている、史進」
史「!?」
鄒「俺たちは暇なのだから、何もしてはならぬに決まっているだろうが」
史「…?」

陳「お揃いの衣装は宋江殿によって厳しく禁じられて本当に良かった」
鄒「あんなのをデザインして発注する魂胆が分からん」
史「…」
杜興「お前たち」
陳「なんだ爺」
杜「明日の騎馬隊との連携について話したいと思ってな」
陳「ちょうどいい」
鄒「暇してた所だ」
史「…」
杜「史進が裸なだけか」

杜「史進の赤騎兵を上手く使えないだろうか」
陳「林冲殿の黒騎兵とは別に動いてくれた方が助かるよな」
鄒「歩兵の援護もしやすいはずだ」
史「…」
宣賛「失礼」
杜「宣賛か」
史「…」
宣「…何をしているのですか?」
陳「軍議だが?」
史「…」
宣「本当に?」
鄒「騎馬隊との連携を考えている」

・史進(ししん)…脱ぐことも着ることも許されなくなった。
・杜興(とこう)…宣賛の意見も聞こう。
・陳達(ちんたつ)…赤騎兵の使い方についてどう考える?
・鄒淵(すうえん)…歩兵にも睨みをきかせたいのだ。

・宣賛(せんさん)…遊撃隊の中で何かが起こっている…

39.
杜興「わしらを集めて何をする気だ、安道全?」
安道全「私もよく分からないが、聚義庁から検査の依頼が入ってな」
陳達「なんの?」
安「今から人の写真を見せる」
鄒淵「…」
安「その者が着物を着ているか着ていないかを答えてくれ」
杜「…その検査の意味は?」
安「私にも分からなくなってきた」

安「一枚目」
杜「…着ている」
安「二枚目」
陳「着ているな」
安「三枚目」
鄒「史進!」
安(…これは?)
白勝「着物を着ているか着ていないかを答えてくれ」
鄒「そう言ったってよ」
陳「史進は史進じゃねえか」
杜「早くこんな検査終わらせてくれ!」
安(意図が分かってきた)
白(どういうことだ?)

安「四枚目」
杜「史進!」
安「五枚目」
陳「史進!」
安「六枚目」
鄒「史進!」
白(ポーズに一工夫加えてあるのが腹立つ)
安「以上だ」
杜「結果は?」
安「全員異常だ」
陳「そんな馬鹿な!」
鄒「説明しろ!」
安「お前たちは史進の着物に対する感受性を損なったか、失われていることが分かった」

・安道全(あんどうぜん)…遊撃隊リハビリプログラムを組むぞ、白勝。
・白勝(はくしょう)…どうやって?

・杜興(とこう)…なんという事だ…
・陳達(ちんたつ)…史進は史進にしか見えなくなっていたのは確かだが…
・鄒淵(すうえん)…俺たちにも異常をきたすほどの感染力とは思わなかったぜ…

40.
安道全「遊撃隊リハビリプログラムを始める」
杜興「…よろしく頼む」
陳達「何が始まるのだ」
鄒淵「とんだ病にかかっちまった」
安「今から出てくる史進を凝視して、史進も着物を着ていることを思い出すのだ」
杜「…分かった」

白勝「…」
薛永「どんなプログラムなんだ、白勝?」
白「…見てろ」

史進「!」
安「ステージ1。絹を着た史進」
杜「馬鹿な!」
陳「幻覚か…」
鄒「何かを纏っているように見える…」

薛「…すげえものを見てる」
白「洗脳解いてるはずなんだがな」

史「絹とは凄いな!」
杜「史進、お前…」
陳「着物を纏って…」
史「まるで着ていないかのようだ!」
安「いかん!」

杜「やはり着ていないではないか!史進!」
陳「これ以上俺たちを穢すな!」
鄒「頭痛が…」

安「今の表現はいかんだろう、史進!」
史「すまん…」
白「ステージ1が絹ってのが早すぎんだよ!」
安「確かに」
史「具足にしよう」
安「そうだな」
史「しかしこれは…」
安「…」
史「俺が悪いのか?」

・史進(ししん)…しかし絹とは見事な肌触りなのだな。
・安道全(あんどうぜん)…李巧奴の仕立てさ。
・白勝(はくしょう)…言ってる場合じゃねえだろ。
・薛永(せつえい)…気付け薬を大慌てで処方中。

・杜興(とこう)…史進と着物が掛け合うと、失心して立ち尽くしてしまう。
・陳達(ちんたつ)…史進と着物が掛け合うと、湿疹が出る。
・鄒淵(すうえん)…史進と着物が掛け合うと、失神する。

41.
史進「遊撃隊の将校が使い物にならなくなってしまうとは…」
?「それはあなたの羞恥がなした所業のせいです!」
史「何奴!?」
綺麗「綺麗な史進です!穢らわ史進!」
穢「貴様生きていたのか!美し史進!」
綺「梁山湖の湖畔であなた方の羞恥を知らぬ所業にずっと心を痛めていたのです」
穢「息が長い」

綺「あなたはなぜ人が見に纏うべき着物を蛇蝎の如く嫌うのですか?」
穢「嫌っているわけではない!俺は人間のありのままを体現しているだけだ!」
綺「それは即ち、あなたの頭まで赤子のままということになりませんか?」
穢「なんだと!」
綺「羞恥を知らぬ人間は獣物と何が違うのです?」
穢「…」

綺「羞恥を、恥を知るのです、穢らわ史進」
穢「それを知りつくしたからこそ、俺は…」
綺「あなたは何も知らない」
穢「何を言う!」
綺「羞恥を知りつくしたならば、なぜ遊撃隊の方々は心を痛めているのですか?」
穢「それは」
綺「恥を知りなさい、穢らわ史進」
穢「俺は、恥知らずだったのか…」

穢らわしい史進…恥を知る調練を始めた。
綺麗な史進…梁山湖にいた綺麗な史進。色々綺麗。

42.
綺麗な史進「あなたは恥を知らない」
穢らわしい史進「今、恥じている…」
綺「あなたに足りないものは何か、教えて差し上げましょう」
穢「それは?」
綺「えっちです」
穢「…何を卑猥なこと言ってやがる!」
綺「えっちと卑猥。その言葉に宿る意味は、驚くほど違います」
穢「何を言ってやがる…」

綺「えっち。と言われて何を想像しますか?」
穢「…見えそうで見えない扈三娘」
綺「卑猥は?」
穢「…遊撃隊の兵どもの乱痴気騒ぎ」
綺「その差は?」
穢「歴然だ…」
綺「つまりそういう事です。穢らわ史進」
穢「俺は、何という過ちを!」
綺「涙を流すのはおよしなさい、穢らわ史進…」
穢「…」

綺「あなたに足りない恥の一欠片。それはえっちなのです」
穢「よく分かったぞ、美し史進」
綺「あなたにえっちを伝授する調練を施します」
穢「よろしく頼む」
綺「これで遊撃隊の皆さんも回復されることでしょう」
穢「えっち、か…」
綺「身体の逆鱗に、刻みますか?」
穢「心の逆鱗に刻みつけたよ」

綺麗な史進…みるみるえっちを会得していく史進に刮目。
穢らわしい史進…みるみるえっちを会得している自分に驚き。

43.
安道全「史進?」
史進「遊撃隊の皆を集めてくれ」
白勝「まだリハビリプログラムをやるには早えって」
史「案ずるな、白勝」
白「…史進?」
安「どうした、白勝?」
白「!?」
史「集めてくれ、安道全」
安「…分かった」
白「…」
薛永「白勝?」
白「今、史進からかつてない気を感じた…」
薛「?」

杜興「ししんはだか」
陳達「ししんぬぐ」
鄒淵「ししんすっぱだか」
白「エラいことになってやがる…」
史「おいたわしいことをしてしまった…」
白「…史進?」
史「ステージ1は具足から行くぞ、安道全!」
安「始めるぞ、白勝」
史「乱雲!」
乱雲「!」
白(室内なんだが)
史「九紋竜史進、見参!」

杜「ししん、具足?」
安「効果が!」
白「ステージ2!普段着」
史「!」
安(これは!?)
白(なんとえっちな着替えを…)
史「見よ!諸君!」
陳「ししん、着物?」
鄒「着てる?」
安「進めるぞ!白勝!」
白「ステージ3!絹の薄寝巻着!」
薛(なぜ?)
史「!」
杜「史進…」
陳「見事」
鄒「えっち…」

・史進(ししん)…厳しい調練の末えっちを会得し、無事遊撃隊将校を復帰させ、梁山湖に欠かさず寄進を始めた。

・安道全(あんどうぜん)…見惚れてしまった…
・白勝(はくしょう)…いつもの破廉恥と訳が違う…
・薛永(せつえい)…まだドキドキしてます…

・杜興(とこう)…史進は着物。
・陳達(ちんたつ)…史進は脱がない。
・鄒淵(すうえん)…史進はえっち。

44.
史進「林冲殿との稽古前に対策を教えてくれないか?」
馬麟「対策とは?」
史「お前は巧みに林冲殿を御しているではないか、馬麟」
馬「張藍殿に聞け、史進」
史「…それは二度とできない事情がある」
馬「…」
史「また武術の稽古の実験台にされるのだけは嫌なのだ、馬麟」
馬「…そうだな」
史「…」

林冲「よし。体術の稽古だ、皆!」
兵「今日はどんな技を?」
林「アルゼンチンバックブリーカーという技を書物で読んだから、それを試してみよう」
兵「アルゼンチンってなんだ?」
兵「我らには及びもつかない国の名ではないか?」
林「木偶!」
史「…はい」
林「いざ!」
史(頼む馬麟!)
馬「…」

馬「♪〜鉄笛〜♪」
林「!」
史(林冲殿が?)
林「!!」
史「!?」
兵「ジャーマンスープレックス!」
林「!!」
史「!?」
兵「二回目!」
林「!!!」
兵「跳んだ!」
林「!!!」
史「!?」
兵「マッスルバスター…」
林「…」
史「」
兵「KO…」
馬「…これは林冲殿投げ技コンボの曲だった」

・林冲(りんちゅう)…史進の骸にアルゼンチンバックブリーカーもかける外道ムーブ。
・史進(ししん)…痛覚がキャパオーバーを起こし、痛みすら感じない。
・馬麟(ばりん)…他に林冲投げ技コンボの曲はあるか模索中。

45.
林冲「おい、史進」
史進「なんだ、林冲殿」
林「…今なんと言った?」
史「林冲?」
林「今言った言葉を聞いている」
史「!」
林「林冲?」
史「…」
林「…」
史「…殿」
林「言ったことを忘れるな」
史「一生の不覚だ…」
林「二度と言わんからな」
史「…」

馬麟「嬉しそうな顔を」
扈三娘「?」

・林冲…殿をつけろよ、デコ助野郎!
・史進…陳達と話す時だけ呼び捨てにしまくっている。

・馬麟…大事なことなのだ、扈三娘。
・扈三娘…男は分かりません…

46.
史進「四天王にならないか?」
陳達「どういう意味だ?」
史「梁山泊には五虎将がいるという」
杜興「関勝、林冲、秦明、呼延灼、董平らしいの」
鄒淵「董平?」
史「俺たち遊撃隊もそんなユニットを組もうではないか」
陳「九紋竜、跳澗虎、出林竜、鬼瞼児…」
鄒「鬼臉児に一貫性がねえな」
杜「!」

史「すると遊撃隊三銃士の方が良いのか」
杜「待て史進」
陳「なんだ爺」
鄒「まさか俺たちと並び立とうとしてるんじゃなかろうな」
杜「…誰がお前たちなどと!」
陳「じゃあいいじゃねえか」
鄒「引っ込め鬼瞼児!」
杜「くそっ」
史「待て杜興」
杜「史進?」
史「四天王入りするチャンスをやろう」

杜「何をやらせる気だ」
史「次の騎馬隊との調練の時に…」
杜「…分かった」
陳「正気か?」
鄒「ほっとけ陳達」

林冲「突撃!」
杜「勝負だ!豹子頭!」
林「杜興?」
杜「覚悟!」
林「引っ込んでろ!」
杜「鬼瞼児!」
林「!?」
索超「杜興が毒霧を噴いた!」

杜「…これで良いか?」
史「よし」

・史進…これからは鬼瞼児らしい化粧をしろ。
・杜興…この歳になって初めての悪さにときめいているという。
・陳達…あのキャラ付けは史進が?
・鄒淵…自発的らしい。

・林冲…杜興の毒霧がかぶれた。
・索超…あれは鬼瞼児だ…

47.
杜興「鬼瞼児ミスト!」
兵「臭え!」
兵「汚ねえぞ!爺!」

扈三娘「…」

扈「李応殿」
李応「あの杜興が…」
解宝「すっかり史進に毒されやがった」
鄒淵「あの歳で初めてのやんちゃだからな」
李「それは?」
解「若い頃に娯楽を禁じられた奴が、爺になって味をしめちまったのさ」
李「痛いな…」

杜「鬼瞼児ファイア!」
兵「燃える!」
兵「やりすぎだぞ爺!」
李「楽しそうだな、杜興」
杜「李応殿!」
兵「助けてくれ、李応殿!」
兵「俺たちでも手に負えなくなっちまった!」
杜「何を!遊撃隊のクズどもが!」
兵「いい歳して弾けすぎなんだよ、爺!」
李「私もそう思うぞ、杜興」
杜「!!」

李「父上や援に英が今のお前を見たらなんと言うか…」
杜「それだけは辞めてくだされ…」
李「我に帰ったか、杜興」
杜「はい…」
李「お前が遊撃隊のストッパーにならねば誰がなるのだ?」
杜「…おっしゃる通りです」
李「史進を頼むぞ杜興」
杜「…はい」

史進「杜興を叱責すると呉用殿が」
杜「」

・李応…独竜岡の面々とはたまに集まる。杜興抜きで。
・扈三娘…あの折り目正しい杜興殿が…
・解宝…史進の毒は杜興にも効くんだな。
・鄒淵…俺も手遅れなんだろうな。

・杜興…試してない化粧のパターンは泣く泣くお蔵入り。
・史進…俺もひくレベルではっちゃけやがったから堪らねえよ…

48.
宋江「梁山泊三十人三十一脚隊別対抗戦の決勝だ」
呉用「まさか遊撃隊と致死軍の一騎討ちになるとは」
盧俊義「優勝候補筆頭の騎馬隊が、ここ一番で扈三娘が転んだか」
宋「番狂わせだ」
呉「まずは致死軍です」

公孫勝「…」

盧「兵の表情も体型も全く同じだ」
呉「準備運動までシンクロしてます」

宋「用意…」

公「…」

宋「始め!」

致死軍「!!!!!!!!!!!!!!公!!!!!!!!!!!!!!!」

盧「この統率力…」
呉「速いなんてものではない…」
宋「ゴール!」

公「…」

盧「タイムは?」
呉「文句なしで今大会最速です」
宋「見事な団結力だ」

史進「行くぞ」
陳達「おう」
鄒淵「任せろ」
杜興「…」

宋「遊撃隊も速かったが…」
呉「宋江殿」
盧「史進がこの大舞台で何もしないとお思いか?」
宋「…」

史「…」

宋「用意…」

史「…」

宋「始め!」

遊撃隊「陳!!!!!!!!!!!!!!史!!!!!!!!!!!!!!鄒」

宋「さすが速いな」
呉「練習中は杜興の怒声が鳴りやまなかったとか」
盧「これは!」
宋「!」

「陳!!!!!!!!!!!!!!裸!!!!!!!!!!!!!!鄒」

宋「…」

「裸!!!!!!!!!!!!!!裸!!!!!!!!!!!!!!裸」

盧「なんと」
呉「次々に」

「裸!裸!裸!裸!裸!裸!裸裸裸裸!裸!裸!裸!裸!裸!裸!裸」

盧「乗って来た!」
呉「三十人が一頭の獣に」

「裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸裸」

盧「悪夢のようだ」
宋「…」
公「…」
呉「ゴール!」
盧「タイムは?」
呉「…致死軍より速いです」
盧「…ルールブックに着物に関する規定は、書かれていないな」
呉「宋江殿?」
宋「…」
盧「あまりの馬鹿馬鹿しさに、声も出せなくなられている」
史「…」
呉(なんだこのやり切った感溢れる顔は)

・宋江(そうこう)…実はめっちゃツボっていた。
・盧俊義(ろしゅんぎ)…実に理にかなった着脱だ。
・呉用(ごよう)…入念に計算され尽くしたキャストオフですね。

・公孫勝(こうそんしょう)…表彰式を見るまでもなく任務に帰った。

・史進(ししん)…優勝の美酒かけで大はしゃぎ。
・杜興(とこう)…李応に呆れられた。
・陳達(ちんたつ)…朱武に冷たくされた。
・鄒淵(すうえん)…解宝に突っ込まれた。

・扈三娘(こさんじょう)…めちゃくちゃ落ち込んでる。
・馬麟(ばりん)…気にするな、扈三娘。

49.
宋江「正月だ」
晁蓋「新春隠し芸大会を始める」
呉用「1番。遊撃隊将校による、これが本当の隠し芸」
晁(察した)
宋(ウキウキ)
呉(察した)

史進「おめでとうございます!」
晁(やっぱり)
宋(!?)
呉(隠しきれてない)
林冲「出てるぞ」

張順(俺たちセーフですよね)
李俊(ふんどしはセーフだ)

史「この竜の面を下腹部に付けて…」
晁(雑だな)
宋(…)
呉(若さなのか)
宋「史進!」
史「︎」
晁(このトーンは…)
宋「他の者も芸を止めよ」
呉(マジギレの宋江殿の声だ)
晁(しかし)
宋「一列に並べ」
呉(裸で説教受けるのか?)

張「宋江殿がキレた」
李「なんで?」

宋「この正月というのにお前らときたら」
史「すみませんでした」
林(史進が裸で宋江殿に謝ってるwww)
晁(これ笑ったらダメなんだよなwww)
呉(ダメですwww)
宋「これだけ立派な体躯をしているのに、亡くなった父上に申し訳なくないのか!」
史「…申し訳…ないです」

李(wwwww)
張(wwwww)

宋「施恩」
施恩「申し訳ございません、宋江様」
晁(泣くな、施恩。裸で)
呉(きついな)
宋「お前ら、また来年出直してこい」
史「はい…」
晁(やっと終わった)
呉(二刻はやってましたね)
宋「やれやれ」
晁「…」
呉「…」

張「俺ら出た方がいいですかね」
李「辞退しよう。腹が痛くてたまらん」

・晁蓋(ちょうがい)…水軍が辞退を申し出ているが。
・宋江(そうこう)…良い口直しになるだろう。
・呉用(ごよう)…大差ないと思いますが…

・李俊(りしゅん)…しまった!緩くなってる!
・張順(ちょうじゅん)…もう出番だぞ!李俊殿!

・史進(ししん)…遊撃隊将校一同、リベンジを誓った。
・施恩(しおん)…私の穢れは、替天行道でも落とせないかもしれない…

50.
晁蓋「中秋の隠し芸大会を行う」
宋江「おおむね察したが、私からはもう言うことは何もない」
晁「それでは行ってみよう」
呉用「一番。遊撃隊将校による…」
宋「この順番を見直すべきではないのか?」
呉「天恥無用」

史進「…」
晁(着ているな)

史「…原始、裸は実に太陽であった。真正の太陽であった…」
陳達「!」
穆春「!」
宋(雷と鳥が!)
呉(どういう趣旨なんだ)
史「今、裸は月である。着物に依って脱ぎ、林冲によって輝く、公孫勝のような蒼白い顔の月である」
林冲「…」
公孫勝「…」
呉(とんだとばっちりだ…)
施恩「!」
宋(灯を消した…)

施「史進は言われた」
史「光あれ」
晁「!」
施「こうして、光があった」
宋(跡形もなく着物が消えている…)
施「史進は光を見て、良しとされた。史進は光を裸と呼び、闇を着物と呼ばれた。裸があり、着物があった。第一の日である」
呉(なんとスケールの大きな話だ)
史「第二部に続く」

・史進(ししん)…調練そっちのけで脚本書いてた。
・陳達(ちんたつ)…字は読めないが演技力は中々。
・穆春(ぼくしゅん)…台詞覚えるのが苦手。
・施恩(しおん)…演出と朗読の名手。

・晁蓋(ちょうがい)…不覚にも見入ってしまった。
・宋江(そうこう)…不覚にも続きが気になってしまった。
・呉用(ごよう)…不覚にも演出の妙に唸ってしまった。

・林冲(りんちゅう)…あとで首を捩じ切ってやろう。
・公孫勝(こうそんしょう)…あとで遊撃隊に嫌がらせをしよう。

呉用「第二部史進の園」
宋江(楊春が蛇に)
楊春「園のどの木からも食べてはいけない、などと史進は言われたのか」
穆春「わたしたちは園の木の果実を食べてもよいのです。でも、園の中央に生えている木の果実だけは、食べてはいけない、触れてもいけない、死んではいけないから、と史進はおっしゃいました」

楊「決して死ぬことはない。それを食べると、目が開け、史進のように裸を知るものとなることを史進はご存知なのだ」
穆「…もし私が死んでも、あなたの中に生き続けますか?」
楊「勿論だ、女よ」
晁蓋(女だったのか)
穆「…美味しい。あなたも食べて、男」
陳達「…美味い」
楊「…」
穆「!」
陳「!」

穆「…なぜ裸なの!?」
陳「何か隠すものを…」
史進「どこにいるのか」
穆「!」
陳(…軸が喉に引っかかっちまった)
穆「…あなたの足音が園の中に聞こえてきたので、恐ろしくなり、隠れております。わたしは裸ですから」
史「お前が裸であることを誰が告げたのか」
陳「…女です」
穆「…蛇です」
楊「…」

史「このようなことをしたお前は、あらゆる将校、あらゆる兵の中で呪われるものとなった。お前は、生涯這いまわり、調練を受ける」
楊「…」
史「男と女」
陳「…」
穆「…」
史「男の調練の苦しみを大きなものにする。男は、苦しんで調練をする。女は男に求められ、したたかに精を放たれる」

史「お前らが食べた果実は恥を知る果実だ」
陳「…」
穆「…」
史「恥さえ知らなければ、お前らは裸という光を浴び続けることができた」
陳「…」
史「だが、恥を知ったが故、着物という闇に己が光を閉じ込めることになったのだ」
穆「…」
史「楽園から去れ」
陳「そんな!」
穆「死んでしまいます」

史「嘆く者は死ね!」
陳「!」
穆「!」
史「死してなお、私の中に生き続ける、光を探す旅に出よ」
陳「…?」
史「この書が、おまえらの心に光を当てる」
穆「替天行道?」
宋(こんな使い方を…)
呉(どこから出したのでしょう?)
史「死ねぬぞ、その書を持つかぎり」
陳「死にません」
穆「もっと、苦しんでみせます」
晁(凄い…)

史「ひとつだけ、頼みたいことがある」
陳「なんですか?」
史「私に、止めを刺せるか?」
穆「!」
陳「史進様!」
史「蛇の毒に、やられたようだ…」
楊「…」
陳「いつの間に…」
史「止めを、刺せるか?」
穆「史進様…」
史「できるかできないか、訊いているだけだ」
穆「…できます」

史「史進だと思って、止めを刺せるのだな」
陳「この書に誓って」
史「よし、止めを刺してくれ」
穆「…」
史「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地を這う生き物をすべて支配せよ」

施恩「天地万物は完成された。史進は御自分の仕事を完成されたが、蛇の毒に、斃れた」

陳「史進様」
穆「おさらばです」
史「!」
陳「…なにが見えますか?」
史「裸が」

施「史進は御自分の命を離れ、安息なさった。これが天地創造の由来である」

晁(私は、泣きそうだ)
呉(酒を、飲みましょう)
宋(まるで、自分が成した事のようだ…)

・史進(ししん)…裸であることを忘れさせる完成度。最優秀賞の授賞式も、無論裸。
・陳達(ちんたつ)…訳が分からなかったが、役に入り込んでいた。
・穆春(ぼくしゅん)…穆弘に号泣されながら熱演を讃えられた。
・施恩(しおん)…さすがの朗読力。
・楊春(ようしゅん)…緊急招集されたが、その場でも呼吸が合うさすがの付き合い。

・晁蓋(ちょうがい)…人は裸である必然性を感じた。
・宋江(そうこう)…いつかこんな事をする機会があるかもしれんな。
・呉用(ごよう)…史進にここまで感動させられるとは…

51.
晁蓋「秋の夜長の隠し芸大会を行う」
宋江「…」
呉用「一番、遊撃隊将校による…」
宋「恣意的にもほどがないか?」
呉「北風と太陽」

穆春「やい、太陽」
陳達「なんだ。北風」
穆「俺とお前のどちらが強いか勝負をしないか?」
陳「ならば、あの旅人の着物を脱がせた方が勝ちだ」

史進「…」

穆「その勝負にはのらん」
陳「臆したか、北風」
穆「お前の熱さで、あの旅人は間違いなく着物を脱ぐ」
陳「ならばお前は、着物を吹き飛ばせば良いではないか」
穆「ならそういうお前は、旅人に着物を着せる事ができるのか?」
陳「それは」
穆「するならば、もっと公正な勝負を選べ、太陽」
陳「…」

史進「!」

陳「!?」
穆「なぜ脱いだ、旅人」

史「…」

陳「我らの勝負に水を差すとは許せぬ」
穆「懲らしめてやろう」
李雲「何を揉めている、太陽、北風」

晁蓋(新キャラが)

穆「おう、雲ではないか」
陳「雲も力を貸してくれ」
穆「あの旅人を懲らしめるのだ」
李「任せろ」

史「…」

・史進(ししん)…第二部に続く。
・陳達(ちんたつ)…太陽。ノリで決まった。
・穆春(ぼくしゅん)…北風。言動が寒いから。
・李雲(りうん)…雲。キャストの増員に伴い出演。

・晁蓋(ちょうがい)…何が始まるのだ…
・宋江(そうこう)…施恩がいない…
・呉用(ごよう)…確かに、太陽だけが有利な戦いはおかしいですね。

施恩「…」

宋江(施恩が)

李雲「!」
史「…」
施「雨ニモ負ケズ」
穆春「!」
史「…」
施「風ニモ負ケズ」
李「!」
陳達「!」
史「…」
施「雪ニモ夏ノ暑サニモ負ケヌ」
史「…」
施「丈夫ナ体ヲ持チ」

呉用(ほどがある…)
晁(凄いセットだ)

施「欲ハ無ク決シテ怒ラズイツモ静カニ笑ッテイル」

史「!」
施「一日ニ麦四合ト饅頭ト多クノ肉ヲタベ」

晁(これでこそ史進)

史「…」
施「ジブンヲカンジョウニ入レズニヨクミキキシワカリソシテワスレズ」

呉(施恩の朗読はさすがだな)

史「…」
施「野原ノ松ノ林ノ蔭ノ小サナ萱ブキノ小屋ニイテ」

鮑旭(…)
武松(子午山が見える…)

史「!」

晁(客席に)

施「東ニ病気ノチシグンアレバ行ッテ看病シテヤリ」

史「…」
楊雄「…」

施「西ニツカレタ母アレバ行ッテソノキノコノ籠ヲ負ヒ」

史「…」
馬麟「…」

施「南ニ死ニサウナ人アレバ行ッテ」

史「コハガラナクテモイヽ」
施「トイヒ」
金大堅「…」

施「北ニケンクヮヤソショウガアレバ」
史「ツマラナイカラヤメロ」
施「トイヒ」
林冲「…」
公孫勝「…」

陳「!」
史「…」
施「ヒドリノトキハナミダヲナガシ」

穆「!」
史「…」
施「サムサノナツハオロオロアルキ」

史「!」
施「ミンナニ」
陳・穆・李「スッパダカ」
施「トヨバレ」

史「…」
施「ホメラレモセズ」

宋(誰もほめん)

施「クニモサレズ」

晁(いい加減尻がクドイ)

史「サウイフモノニオレハナリタイ」

・史進(ししん)…子午山の麓の童歌が元ネタ。
・陳達(ちんたつ)…この設備投資は大変だったぞ。
・穆春(ぼくしゅん)…俺も寒かった。
・李雲(りうん)…味のある歌だな。
・施恩(しおん)…一行一行噛みしめながら読んでた。

・晁蓋(ちょうがい)…史進の生き様だな。
・宋江(そうこう)…今回裸になる必要性は感じられなかった。
・呉用(ごよう)…また新しい方向性を打ち出しましたな。

・鮑旭(ほうきょく)…子午山の唄をこう使うとは…
・武松(ぶしょう)…酒が進んだ。
・楊雄(ようゆう)…上手く使われた気がした。
・馬麟(ばりん)…なぜ知っている、史進。
・金大堅(きんだいけん)…まだまだ現役だ!
・林冲(りんちゅう)…お前のことだな、ウスノロ。
・公孫勝(こうそんしょう)…おまえのことだ、馬鹿。

52.
晁蓋「冬の盛りの隠し芸大会を行う」
宋江「事と次第によっては、屋外追放するからな」
呉用「一番、遊撃隊将校による…」
宋「…」
呉「大きな下部」

施恩「昔々、お爺さんとお婆さんがおりました」
陳達「!」
施「お爺さんは山で獣を狩りに」
穆春「…」
施「お婆さんは川で魚を釣っておりました」

〜尻〜
施「どんぶらこっこ。どんぶらこっこ。と、大きなお尻が流れてきました」

宋「警告」
晁(あと二回で、屋外追放だ)
呉(羞恥心とは…)

穆「なんとおぞましい…」
施「見るに見かねたお婆さんは、そのお尻を見なかった事にしました。文字通り、水に流したのです」

宋「上手いこと言ったつもりか」

〜〜尻
施「大きなお尻は、みるみる川を下っていきます」
穆「…この急流を下るとは、あの大きなお尻の持ち主は、剛の者に違いない」
施「水連が巧みなお婆さんは、激流をものともせず、大きなお尻の剛の者を、川から引き上げました」
穆「大丈夫か?」
史「ここは?」
穆「東渓村」

晁(私の実家!?)

陳「おう。なんだその小僧は」
穆「この激流を尻だけで下ってきた、バカな小僧だよ」
陳「くだらねえ…」
史「下ってきたと言っただろう、爺!」

宋「警告」
呉(本当にくだらない…)

史「爺」
陳「なんだ、小僧」
史「今、尻と尻が触れたな」
陳「それがどうした?」
史「これが本当の」

宋「退場」

・宋江(そうこう)…見なかった事にしよう。
・晁蓋(ちょうがい)…次の演目は?
・呉用(ごよう)…本隊将校による組体操です。

・史進(ししん)…何がいけなかったんだ!
・陳達(ちんたつ)…全てだ!
・穆春(ぼくしゅん)…寒い!兄者!
・施恩(しおん)…宋江様の哀しい目が忘れられない…

53.
晁蓋「中秋の隠し芸大会を行う」
呉用「一番。遊撃隊将校による」
宋江「…」
呉「月とすっぽんぽん」

陳達「良い月が出ているな、穆春」
穆春「全くだ、陳達」
陳「満月になると獣に豹変する男の話を知っているか?」
穆「知っているか、史進?」
史進「!」
陳「史進?」
史「満月を見ると俺は!」

史「九紋竜男になってしまうのだ」
陳「なんと」

晁(見事な早着替えだ、史進)

史「今宵の九紋竜男も血に飢えている」
陳「…ならば俺も跳澗虎男になって血を奪うことにしよう」
穆「陳達?」
陳「!」

呉(史進に劣らぬ早着替えの技!)

穆「その声は我が友陳達ではないのか?」
陳「血が欲しい…」

史「四知を知っているか?」
穆「四知?」
史「天、地、我、人が知る知のことを四知と言う」
陳「穆春」
史「我らの知の生贄となれ」
穆「!」
史「血祭りだ、陳達!」
陳「心得た!」
穆「助けて!兄者!」

宋(堪えろ穆弘)

穆「…」
史「これで貴様も恥に飢える」

宋(行け穆弘!)
晁(没遮攔だ…)

・史進…ちを全て恥に置き換えて味わってくれ。
・陳達…早着替えは天井の施恩と阿吽の呼吸。
・穆春…穆家の操を守りきれなかった。

・晁蓋…会場セットが大変なことに…
・宋江…目から火が噴いていたな。
・呉用…史進と陳達が木っ端微塵に…

54.
杜興「我らの世界の創造主の生誕祭を取り仕切れと、宋江殿が」
史進「なんだかんだで頼りにされているな、俺たちは」
陳達「だが粗相があったら存在そのものを抹消されるかもしれんぞ」
鄒淵「さすがにいつものはやめろよ、史進」
史「お前ら、この名言を知らんのか」
陳「?」
史「したたかへ行け!」

陳「なんだそれは」
史「この世界の創造主の名言だ」
鄒「そんなことを言ったのか」
史「俺たちのノリが合うのも必然」
杜「どうかのう」
史「俺たちの技量の粋を尽くし、神をお出迎えするのだ」
穆春「よし来た」
施恩「朗読は任せてくれ」
班光「私たちも招聘されました…」
史「遊撃隊勢揃いだな」

晁蓋「創造主生誕祭かくし芸大会を行う」
宋江「結局そうなるのか」
呉用「一番遊撃隊オールスターによる」
神「…」
呉「試みの地平線」

史「したたかへ行け!班光」
班「恥ずかしい…」
穆「聞き捨てならねえぞ小僧」
陳「童貞は濡れた着物だ!」
鄒「俺がしたたかに連れて行く」
班「いいです!」

班「」
李瑞蘭「お楽しみね」
班「…」
李「…」

施「したたか、したたか」

晁「影絵か」
宋「施恩の意味は?」
神「…」

施「したたか、したたか」

班「死ぬ…」
李「まだまだ」

施「したたか、したたか」

史「したたか改めである」
穆「したたか組だ!」
班「したたか組!」
李「なんてこと」

史「みだりに淫らなしたたかなす者を斬り捨てに参った」
班「おのれしたたか組」
陳「縛につけ」
班「無念…」

鄒「班光が囚われた」
鄭応「なんということだ」
葉敬「我らも逃れなければ」

呉(班光の縛られ方が嫌らしい)

鄒「どうしますか、御隠居」
杜「したたか隊の弱点を突く」
鄭「それは?」

杜「したたか隊は羽織を脱ぐとヘタレになるのだ」
鄒「よし行け!」
鄭「したたか隊!」
史「不貞浪士か!」
葉「脱ぎ捨て御免!」
穆「しまった!」

晁(酷いな)
宋(収拾はつくのか?)
神「…」

鄭「脱ぎ捨て御免!」
陳「いかん!」
杜「脱ぎ捨て御免!」
史「返り討ちだ!」
杜「おのれ九紋竜!」

呉「結果収拾がつかず、神の説教を受けている」

神「…」
史「すみませんでした」
杜「存在抹消だけはご寛恕を…」
神「!」
杜「身体が消える!」
史「爺!」
鄒「いいのか、李応!」
李応「遊撃隊の下ネタにノリノリで与する執事など知らん」
杜「李応殿!」
陳「無理ねえ」
班「…我々もですか?」

宋「創造主様」
晁「ここは梁山泊頭領二人の顔に免じて、遊撃隊の面々を許していただけませぬか」
神「…」
史「晁蓋殿!宋江殿!」
宋「腐刑にされたくなければ黙っていろ、史進」
史「」
神「…」
宋「ありがとうございます、創造主様」
晁「改めまして、御生誕誠におめでとうございます」
神「…」

・杜興…素面になって羞恥が追いかけてきた。
・史進…腐刑を受ける夢を見た。
・陳達…朱武と楊春に哀しい目で見られた。
・鄒淵…鄒潤に頭突かれた。
・穆春…穆弘に叱られた方が怖かった。
・施恩…宋江の気に打たれた。
・班光…楊令伝に強制送還。
・鄭応…何しに来たんだ。
・葉敬…俺もな。
・李瑞蘭…先に帰った。

・晁蓋…隠し芸大会が好きなんだが…
・宋江…いい加減一番手を変えろ。
・呉用…結構笑ってた。
・李応…杜興のノリが信じられない。

・神…御年七三歳。これからも素敵な物語を紡いでください!

55.
郁保四「…いかん。寝ていた」
史進「のこった!のこった!」
陳達「のこった!のこった!」
杜興「!!」
鄒淵「!?」
史「杜興の粘り勝ちだ!」
杜「小僧には負けんわい」
鄒「李応に言いつけてやる」
陳「次の取り組みは?」
史「俺と郁保四だ」
郁「これは何をしているんだ?」
史「乳首相撲だが?」
鄒「汁が出た」

郁「なぜ俺がやるんだ?」
史「そこにいたからな」
郁「林冲殿たちは?」
陳「お前が寝てる間に先に帰った」
鄒「遊撃隊の時間にいたのがお前の不運だ」
杜「観念してやらんか、郁保四」
郁「…仕方ない」
史「…随分と位置が低いな、郁保四」
陳「陥没してないか?」
郁「気にしてるからもう言うな」

陳「双方構え!」
郁「…」
陳「はっけよい」
史「…」
陳「のこった!」
郁「!」
史「!」
鄒「のこった!のこった!」
郁「痛い…」
史「笑わせるな、郁保四」
陳「のこった!のこった!」
扈三娘「忘れ物が…」
馬麟「一緒に探そう」
郁「扈三娘殿!」
史「!」
扈「…」
馬「…」
郁「白旗です」

・郁保四…誤解です。扈三娘殿。
・史進…朱富の店の割箸使用禁止令が出た。
・杜興…李応にすれ違いざま、乳首って言われた。
・陳達…遊撃隊乳首相撲西の大関。横綱は史進。
・鄒淵…遊撃隊乳首相撲東の大関。汁が止まらない。

・扈三娘…郁保四と口を聞かないことにした。
・馬麟…林冲殿には内緒にしてやる。

56.
陳達「史進を誑かすなど容易い」
鄒淵「さすが付き合いの長いことはあるな」
陳「しかしその後の報復を受けるのはごめん被るぞ」
杜興「宋江殿の厳命書を蕭譲に偽造して貰えば良いではないか」
陳「ならばよし」
鄒「最近の史進の所業は目に余る」
杜「我らで懲らしめようぞ」
陳「蕭譲に頼んでくる」

蕭譲「宋江殿の字は真似できん」
陳「早速つまずいてしまった」
蕭「いくら真似をしても真似できんのだ、宋江殿の字は」
陳「俺には何一つ分からん」
蕭「呉用殿の字ならば目をつぶっても書けるぞ?」
陳「呉用殿が史進を腐刑にする厳命を出すかな?」
蕭「盧俊義殿は?」
陳「呉用殿より出しそうだ」

杜「待て史進」
鄒「一体どうして燕青の逆鱗にも触れちまったんだ、陳達」
陳「皆目見当がつかん!」
杜「わしを腐刑にした所で誰も得をしないだろう」
陳「誰を腐刑にしても誰も得はせん」
燕青「…」
鄒「なぜお前が史進の腐刑にそこまで怒るのだ、燕青」
燕青「言えんよ」
史「一人を生贄に捧げろ」

・陳達…杜興を生贄に捧げようとして失敗。
・杜興…鄒淵を生贄に捧げようとして失敗。
・鄒淵…陳達を生贄に捧げようとして失敗。

・蕭譲…最近盧俊義殿からの依頼がキツいな?

・史進…ならば三人とも引き摺り回してやろう。
・燕青…私も立ち合おう。史進。

57.
杜興「なぜ史進の奴ばかり出番が多いのだと思う?」
鄒淵「随分と含みのある話題じゃねえか、爺」
陳達「なんだかんだで、史進が一番初めだからじゃねえか?」
杜「一番初めに出ておきながら、その後はパッとしないではないか」
陳「それは知らねえ」
鄒「そんな漫画キャラクターを見たことがあるな」

杜「わしらだってもっと出番があって良いではないか」
陳「地煞星の真ん中から下の俺たちが?」
鄒「どんな出番が欲しいんだよ、爺?」
杜「李応殿の傍で補佐に尽力するわし」
陳「行間でやれ」
杜「李応殿のお嬢様の執事として甲斐甲斐しく尽すわし」
鄒「崖から突き落とされろ」
杜「何を無礼な!」

陳「李応殿には娘と息子がいるのか?」
杜「李媛お嬢様と李英お坊ちゃんだ」
鄒「そういえば俺は、解珍殿たちと一緒に遠目で見た記憶があるな」
陳「どんな面してた?」
鄒「…苦労しそうな面してたな」
陳「あばた面の爺のせいじゃねえか?」
杜「なんじゃと!」
鄒「面倒見てやれよ」
杜「無論だ!」

・杜興…しょっちゅう二人の飛刀の稽古台になってあげてた。
・陳達…俺が史進に勝つ世界軸があってもいいよな。
・鄒淵…俺と潤はどうやったら目立てるんだろう…

新遊撃隊

新遊撃隊…悲運の副官班光の受難が始まる…

人物
班光(はんこう)…楊令伝遊撃隊のエース。なんだかんだで史進に毒される感受性の持ち主。
鄭応(ていおう)…ずぼらな遊撃隊隊長。頭が悪い。
穆凌(ぼくりょう)…呼延灼の息子。今では遊撃隊にいたことをひた隠しにしているらしい。
葉敬(しょうけい)…史進二世になることを目標にしている隊長。史進にインスパイアされすぎたきらいがある。

58.
史進「…」
班光「史進殿の衣類に…」
史「…」
班「なぜ下に履くものが一枚もないのですか?」
史「…風通しの良い環境だからな、梁山泊は」
班「…だから履かないんですか?」
史「履かないのでも、履いていないのでもない。履くことを潔しとしなかった」
班「潔すぎます」
史「お前も履くな、班光」

班「お断りします」
史「なに!」
班「恥ずかしいじゃないですか」
史「恥ずかしいだと!恥を知れ、班光!」
班「知らないのは史進殿です」
史「どうやら俺の恥とお前の恥に、大きな隔たりがあるようだな」
班「埋める気はさらさらありませんよ」
史「貴様!」
班「履かないと馬にも乗れませんって」

史「吐くほどの調練を課してやろうか」
班「史進殿が履くならいくらでも」
史「俺は履かん」
班「なら私もお断りします」
史「なぜ履く、班光?」
班「なぜ履かないのですか、史進殿」
史「…班光の反抗期め」
班「史進殿も着衣の反抗期ではないですか」
史「人は皆裸だ」
班「生まれた時の話です」

・史進(ししん)…ノリが悪くてやりにくい副官だが、色々と小回りがきくから手放せんのが忌々しい…
・班光(はんこう)…下を履かない以外は憧れてるんですが、その一点が致命的なんですよね。

59.
班光「…ここは?」
史進「班光」
班「なぜ着物を着ていないのですか、史進殿」
史「着ている俺もいるぞ、班光」
班「史進殿が、二人?」
全裸「貴様は俺がただ着物を着ない蛮族であるかのように見下しているかもしれんが」
着物「そうではないことを伝授する調練を行う」
班「何だこの世界は…」

裸「まず俺は最初から着ていない」
着「一番潔いと言えるだろう」
班「…」
着「しかし、俺も今でこそ着物を着ているが、ここから二つに分割される」
班「…どういう意味ですか?」
自発「自分で脱ぐか」
他力「他の者に脱がされるかだ」
班「分裂した…」
自「俺も二つに分かれる」
班「…それは?」

自己「自分で脱ぐか」
自然「自然に脱げるかだ」
裸「よいか、班光」
他「裸になるだけでもこれだけのレパートリーがあるのだ」
発「侮るなよ」
己「お前が考えている以上に」
然「俺たちは知恵を使っているのだからな」
班「助けて!」

班「…夢か」
史「班光」
班「…どの史進殿ですか!」
史「?」

・史進(ししん)…今日の班光の視線は助平だな…
・班光(はんこう)…今日はどんな脱ぎ方をするのやら…副官として厳しく戒めないと。

60.
史進「…」
班光「…」

楊令「あれは?」
張平「絶対に着物を着ない史進殿と、絶対に着物を脱がない班光の冷戦です」

史「…」
班「…」

楊「…これは俺たちに、何か大切なものを示唆しているのかもしれないぞ、張平」
張「…なにを言っているのですか、楊令殿?」
楊「二人の佇まいをよく見るんだ」

史「…」

楊「史進は着物を着ていない一点のみ目をつぶれば、所作からなにから完璧だ」
張「目を潰したのですか、楊令殿?」

班「…」

楊「対して班光は着物を着ている一点のみ抑え、他をあえて疎かにしている」
張「だからあんなに汚い食べ方を…」

史「…」
班「…」

楊「見事な立合いだ」
張「…」

史(冬は寒い…)
班「耶律越里から分けてもらった毛皮の温もりは堪らんですな」
史「笑止だ」

班(身体を洗うのだから…)
史「脱衣所で脱ぐのか?」
班「そんなわけありません!」

楊「どうなった?」
張「史進殿は半裸。班光は厠で脱ぐことで妥協したそうです」
楊「五分だな」
張「何言ってんの?」

・史進(ししん)…半裸を妥協したら、冬はいっそ全部着たくなってきた。
・班光(はんこう)…厠で脱ぐことまで禁じられるのは盲点だった。

・楊令(ようれい)…俺たちの忘れてしまった何かを見せてくれたような気がしたのだが…
・張平(ちょうへい)…たんなるガキの意地の張り合いです。

61.
班光「史進殿」
史進「なんだ」
班「どうしてそこまで頑なに着物を着ることを拒むのですか」
史「お前こそ、なぜ頑なに着物を脱がぬのだ」
班「体を洗う時と厠の時と調練の時だけで良いではありませんか」
史「妓楼を忘れるな、班光」
班「…」
史「…すまぬ、班光」
班「史進殿?」

史「実は引き際が分からなくなってしまったのだ」
班「!」
史「俺も公衆の面前にも関わらず、なぜ全裸で一分の隙もなく食事をしていたのか、分からなくなっていたよ」
班「史進殿…」
史「班光」
班「はい」
史「…着物を着てもいいかな?」
班「勿論!」

楊令「…感動的な和解だ」
張平「どこが?」

史「冬の寒さは堪えた」
班「史進殿は風邪をひきません」
史「貴様、俺を馬鹿だと言ったな」
班「そんな肉体をしていたら、風邪の菌だってひとたまりもないですよ」
史「…そうかもな」
班「さあ、早速調練に…」
史「む、風が」
班「やっぱり履いてない!」

楊「詰めが甘かったか」
張「馬鹿なの?」

・史進(ししん)…これだけは履かんぞ、班光。
・班光(はんこう)…履いてください!

・楊令(ようれい)…また新たな火種が…
・張平(ちょうへい)…どうしてそこまで真面目に見られるのですか、楊令殿?

62.
班光「…」

兵「班光、まだお前は下を隠さねえと体を洗えねえのか」
兵「史進殿の遊撃隊の風上にも置けない野郎が副官とは」

兵「なにを言っているのですか!」
兵「あなた達がもっと大人の立ち居振る舞いをするべきです」
兵「班光殿の姿勢を模範とするべきだ!」

兵「若僧が、だらしねえ…」

?「…」

兵「!」
兵「!」

班(なんだ?)

花飛麟「…」

兵「なんと神々しい身体を…」
兵「彫刻でもここまで美しい身体を見たことねえ…」

花「…」

兵「あの尻を見ろ!」
兵「天から桃を盗んできた男の話を聞いた事があるが…」
兵「もしやその桃が梁山泊に降臨したのではないか…」

班「…」

花「…」

兵「…俺たちは間違っていた」
兵「史進殿の尻を思い出したら、吐き気がしてきたよ」
兵「液状化して土に捨てたら、金輪際作物が育たなくなりそうな桃だ…」
兵「班光殿」
班「はい」
兵「俺たちが間違っていた」
兵「心を清められたよ」
兵「羞恥心を心に刻み付けることを約束する」

・班光(はんこう)…古参の兵の方々が、花飛麟殿を奉り始めた…
・花飛麟(かひりん)…ただ身体を洗っていただけ。

63.
史進「おい、鄭応」
鄭応「なんですか?」
史「最近古参の兵の連中がどうもおかしい」
鄭「それは?」
史「俺が身体を洗う時、尻を蛇蝎を見る様な目で見る様になりやがったし」
鄭(そりゃな)
史「脱がなくなった」
鄭「脱いでるでしょう」
史「違う。奴らに羞恥心が芽生え始めているのだ」
鄭「…」

史「班光の取り巻き小僧兵はともかく、俺たちの時代を生きぬいた古参兵どもに羞恥心が根付くのはおかしい」
鄭(なんの話だよ…)
史「何があったのか確かめてくれ」
鄭「はあ」
史「鄭応」
鄭「!」
史「…」
鄭(…何という気を)
史「お前は、脱げよ」
鄭「…はい」
史「よし、行け」
鄭(どこに?)

鄭「身体を洗おう」
兵「鄭応殿、なぜ下腹部を丸出しにしている!」
鄭「お前は九紋竜裸族、ら組の頭領ではないか」
兵「…辞めてください。俺の恥です」
鄭「…何があった」
兵「鄭応殿も見れば分かります」
兵「時間だ!」
兵「道を開けろ!」
花飛麟「…」
鄭「!」
兵「ありがたや、ありがたや…」

・史進(ししん)…班光め、一体何をしやがった…
・鄭応(ていおう)…遊撃隊将校。林冲騎馬隊から移籍。ガサツで良い加減な性格が史進にぴったり。

・花飛麟(かひりん)…視線が気になる…

64.
史進「…」

兵「うわ、史進殿だ」
兵「目を合わせるな」
兵「尻だけは見たらいかん」

史(兵が露骨に俺を無視しやがる)

兵「!」
兵「来た!」

花飛麟「…」
史(…ほう)

兵「心が浄化されていく」
兵「男の身体も、かくも美しいものなのだな…」
兵「それに比べて…」

史(そういう事だったのか…)

史「花飛麟」
花「これは、史進殿」
史「貴様に浴場での一切の身体の露出を禁ずる」
花「はい?」

兵「何を言っている、史進殿!」
兵「我らの目の保養を奪うつもりですか!」

史「尻でもくらえ」

兵「目が!」
兵「吐き気が!」

史「お前が浴場で着用する着物を用意しておこう」
花「…何故?」

花「これはなんだ、班光?」
班光「史進殿が用意されたウエットスーツです」
花「私はこれを浴場で着なくてはならないのか?」
班「史進殿の厳命です…」
花「…私が何をしたというのだ?」
班「さあ…」
花「これでは身体を洗えぬではないか」
班「工夫しろと、史進殿が…」
花「…私も、手を打とう」

・史進(ししん)…これで兵どもも羞恥心を失うはずだ。

・花飛麟(かひりん)…私もお前につくぞ、班光。
・班光(はんこう)…花飛麟殿がいれば百人力です。

65.
史進「昨日は良い尻の日だったという」
班光「はあ…」
史「班光の尻は普通の尻だ。良い尻とは言えん」
鄭応「…」
史「鄭応の尻は窪みがえぐい。汚い尻だ」
班「…それでは史進殿の尻は?」
史「無論、良い尻だ」
鄭「…なぜそう思われているので?」
史「腰を据えて話そうか」
班(そんな話題かよ)

史「乱雲と長年共に走ってきた、この大臀筋の力強さ」
鄭(やっぱ汚え)
史「!」
班「!?」
史「この年季の入った鼓のような、尻鼓の音色」
鄭(舌鼓みたいに言うんじゃねえよ…)
史「そして何より、尻を覆う竜の刺青だ」
班(何でそこにいれちゃったかなぁ…)
史「良い尻とは、俺の尻だ」
班(知りません)

花飛麟「…」
兵「花飛麟殿!」
兵「湯浴みですか?」
花「…そうだが」
兵「是非ともご相伴を!」
花「…」

史「あの野郎め…」
班「花飛麟殿のお尻は綺麗ですよね、鄭応殿」
鄭「正直驚いた」
史「あんな柔な尻のどこが良い尻だ」

兵「花飛麟殿、そのウエットスーツは!?」
花「…今は何も言えん」

・史進(ししん)…花飛麟の露出だけは断固許さん。
・班光(はんこう)…ウエットスーツの工夫が上手く行けば…
・鄭応(ていおう)…史進の尻鼓の音は確かに良い音だと思った。

・花飛麟(かひりん)…ウエットスーツに工夫を凝らしている最中。

66.
花飛麟「…」
兵「なぜウエットスーツを着るのですか!」
兵「ここは浴場ですぞ!」
史進「貴様らがこの小僧に欲情しているのではないか!」
兵「史進殿!」
兵「よもやあなたが…」
兵「なんてこった」
兵「杜興殿がいたら…」
史「梁山泊の風紀の乱れは、この俺が正す」
班光(どの口が言ってるんだ)

花「…」
兵「着替えの合間に覗くことはできたが…」
兵「物足りんにも程がある」
史「貴様ら!下の布を取らんか!」
兵「嫌です!恥ずかしい!」
史「貴様それでも遊撃隊の古参か!恥を知れ!」
兵「…!」
班(あんただよ)
兵「これが、羞恥心…」
史「貴様が恥を知ったがゆえに芽生えた悪しき心よ」

兵「おい!あれを見ろ!」
兵「これは!」
史「!?」

花「…」

兵「湯船に浸かることでウエットスーツが透けて見えるぞ!」
兵「まるで聖衣に身を包んだ天からの使いのようだ…」
史「貴様、この着物に何をした!」
花「何もしていませんが?」
史「班光!」
班「花飛麟殿の逞しさが勝ったのですよ」

・史進(ししん)…小僧どもが舐め腐りやがって…

・班光(はんこう)…杜興殿に密使を送ります。
・花飛麟(かひりん)…過去に何かあったようだな。

67.
史進「遊撃隊お尻を出した漢、一等賞選手権を行う」
班光「…」
鄭応「…」
穆凌「…」
史「初めにお尻を出した者に、次の戦の先鋒を一任する事を約束する」
班「…」
史「遊撃隊の先鋒に、羞恥は不要」
鄭「…」
史「羞恥を感じるならば、先鋒を他の者に譲ることを恥と思え」
穆「…」
史「始め!」

史「なぜお尻を出さぬ!」
班「既に史進殿が出しているからです」
史「ほう」
班「ならば、史進殿が先鋒ということでよろしいのでは?」
史「班光」
班「…」
史「俺はお尻を出した漢に、先鋒を任せると言った」
班「だからもう、史進殿はお尻が出ているではありませんか」
史「愚か者!」
班「!?」

史「貴様は既に出ているお尻と、これから出すお尻の違いすら分からぬ愚か者だ」
班「!?」
史「己の過ちに気づいたか、班光」
班「つまり、史進殿のお尻は、今既にここにあり…」
史「…」
班「我らのお尻はこれから出る、未来のお尻という事ですね」
史「だから一番最初に出すことに、価値があるのだ」

・史進(ししん)…まさか穆凌が出すとは。

・班光(はんこう)…史進に完全論破されてすごく悔しい。
・鄭応(ていおう)…なんで完全に理解してるんだよ、班光。
・穆凌(ぼくりょう)…二人の会話を聞いていたら、つい…

68.
班光「おかしいな…」
花飛麟「どうした?」
班「私の筆がないんです」
花「卓の上は?」
班「そこにあるはずなのですが…」
花「その紙は?」
班「…」
花「何が書いてあった?」
班「宝の地図が」
花「この筆圧は史進殿だな」
班「今度は何をするつもりだ…」
花(ちょっと顔が綻ぶんだよな、班光)

班「史進殿のことだからどうせ…」
花「どうせ?」

班「…見つけた」
花「何を?」
班「史進殿です」
花「私には見るも無残な岩が二つあるようにしか見えないが」
班「…」
花「…嘘だろ」
班「私の筆が」
花「この谷間は、まさか」
班「…抜き差しならないとはこのことですな」
花「刺すのはまずい」

班「刺される危険性を考えなかったのか、この人は」
花「呼吸はどうしているのだ?」
班「抜いて差し上げよう」
花「ほっとけ」
班「抜けない…」
花「そんな馬鹿な…」
班「試してください」
花「触るのもおぞましい…」
班「…」
花「抜けない」
史進「まだ貴様らに、この伝説の筆を抜く資格はない」

・史進(ししん)…いかん。抜けない。
・班光(はんこう)…尻の筋肉が硬直してしまったのでは?
・花飛麟(かひりん)…なんだかんだで同じレベルじゃないか、班光。

69.
史進「班光」
班光「はい」
史「お前は、命と尻のどちらが先だと思う?」
班「…命ですね」
史「なぜそう思う?」
班「だって、史進殿がしたたかに放たれた精が受精して、命になるではありませんか」
史「!」
班「したがって私は、尻よりも先に命が宿ると考えました」
史「…」
鄭応(乗るなよ、班光)

史「そう考えるとすごいな、班光」
班「何がですか?」
史「この地に宿った命の数だけ、尻があるのだからな」
班「確かに…」
鄭(だから乗るなよ、班光)
史「俺たちが友とする馬。空を飛ぶ鳥や、秋の夜に鳴く虫にも、尻があるのだからな」
班「なんだか、尻が豊かなものに思えてきました」
鄭(いかん)

史「俺たち人間のみならず、命に優劣はない」
班「おっしゃる通りです」
史「ならば、尻にも優劣はないということにならんか、班光?」
班「おっしゃる通りです!」
鄭(さらば、班光)
史「なんだか、生きとし生ける全ての尻に感謝を捧げたくなった」
班「そうですね!」
史「脱げ。班こ」
班「嫌です」

・史進(ししん)…ここまで話についてきて、なぜ寝返るのだ!
・班光(はんこう)…それとこれとは話が別です!

・鄭応(ていおう)…分からねえな…さっぱり。

70.
班光「史進殿の不着衣による下腹部露出及び我々への理不尽な着衣の禁止、下腹部露出の強制反対!」
兵「史進殿ハラスメント反対!」
兵「シシハラと呼ぼう!」

史進「…」

呉用「あれはなんだ、楊令殿」
楊令「班光が史進に反抗しているな」
張平「プラカードの主張が痛々しいですね」

史「…」

班「シシハラ被害者の会会長のお言葉です」
杜興「…」

史「…」

杜「私は元々李家荘の執事として、李応殿に仕えておりました」
班「…」
杜「それが梁山泊人事による理不尽な配属により、遊撃隊副官に配属されたのです…」

楊「それは酷い」
呉「矛先が私に向かってきた」
張「そうなのですか?」

杜「以来私はシシハラ被害で心を穢され、李応殿人形に話しかける日が増えたのです…」
班「…」

呉「余計だ」

史「…」

楊「史進?」

史「一言だけ、言わせてくれ」

杜「…」
班「…」

史「人は自ら穢れるのであって、他人に穢されるのではない」

杜「!?」
班「!?」

宣賛「」
呉「おう、宣賛」

・史進(ししん)…泰然と帰っていった。

・班光(はんこう)…膝をつき肩を震わせて泣いた。
・杜興(とこう)…天を仰いで放心した。

・楊令(ようれい)…これが言葉のもつ力だ、張平。
・呉用(ごよう)…機嫌が悪いな、宣賛。
・張平(ちょうへい)…史進がちょっとかっこいいと思った自分がすごく悔しい。
・宣賛(せんさん)…とても聞き覚えのある言葉を、妄りに汚く利用された気がしたので

71.
史進「たるんでいるぞ!貴様ら!」
兵「シシハラではありませんか、史進殿!」
史「…」

史「棒の振りが弱い!」
兵「どっちの棒の事ですか!?」
兵「シシハラです!」
史「…」

史「班光め…」
鄭応「どうされました?」
史「シシハラに悩んでいるのだ」
鄭「…史進殿は我らを悩ませる側ですよね?」

史「班光の小僧は懲らしめたが、奴は最期に一矢報いた」
鄭「それは?」
史「奴はシシハラという言葉を生み出した」
鄭「はあ」
史「その結果、今まで問題視されなかった俺のやることなす事が、全てシシハラ扱いされるようになってしまったのだ」
鄭(今まで問題視されなかった方が、アレだと思うがな)

史「そしたら今月は、シシハラ撲滅月間とされたもんだ」
鄭(酷えポスターだ)
史「文治省のどこに相談すれば良いのだ…」
鄭(シシハラ諸悪の根源が、シシハラ相談窓口に行ったらどんな顔されるんだろう)
史「ポスターも引きちぎりたい所だが、来月まで掲示せんといかんのが口惜しい」
鄭「律儀ですね」

・史進(ししん)…シシハラ被害者の会による被害者の会を発足させるのはどうだろう?
・鄭応(ていおう)…いたちごっこってやつになりませんか?

・班光(はんこう)…史進による最後の一言で大ダメージを受けたが、シシハラ撲滅月間ポスターの素案を杜興と一緒に予め作成しておいてよかった…

72.
班光「やっと史進殿の悪夢から覚めた」
杜興「わしもだ、班光」
班「私たちは、遊撃隊に希望の光を見出す魁になれたでしょうか」
杜「これからだ、班光」
班「!?」
杜「班光?」
班「なんだ、この有り様は…」
杜「!?」

兵「厳しい調練などやってられんな」
兵「我らは充分強い」
兵「調練もいらん」

班「お前たち、調練はどうした!」
兵「おお!班光殿!」
兵「復帰おめでとうございます!」
班「そんな事はどうでもいい!調練はどうしたのかと聞いている!」
兵「厳しい調練など、シシハラではありませんか」
兵「我らはシシハラに真っ向から異を唱えた、班光殿と杜興殿に敬意を評しているのです」

班「なんという事だ」
杜「シシハラとは下品な史進の振る舞いに迷惑を被った者の救済で、調練をサボる口実ではないぞ、屑ども」
兵「今のは聞き捨てなりませんな、杜興殿!」
兵「シシハラ反対運動の急先鋒、班光殿と杜興殿がシシハラとは一体どういうわけですか!」
班「何を言っている、お前たち!」

・班光(はんこう)…私たちのこれまでの戦いの本質が忘れられているなんて…
・杜興(とこう)…これは大変なことになったぞ、班光…

73.
班光「楊令殿」
杜興「お話ししたいことが…」
楊令「どうした、二人とも」
班「実は、我らの掲げたシシハラ被害者の会が…」
杜「遊撃隊の兵に、予期せぬ事態を招いてしまったのだ」
楊「聴こう」

楊「調練すらシシハラだと?」
班「私たちの言葉で都合の良い解釈をし始めたのです」
杜「屑ですな」

楊「どう思う、呉用、張平?」
呉用「次の戦の死に兵にしよう」
班「」
杜「…もう少し穏便に」
張平「黒騎兵と青騎兵の調練に加えれば、シシハラではなくなるのでは?」
班「なるほど…」
杜「史進直属の命令でなければ、シシハラではなくなりますな」
楊「だが、遊撃隊は、史進あってこそだろう?」

杜「そうですな…」
班「しかし、私たちは、史進殿の破廉恥を止めるため決起したのに、なぜこのような誤解を招いたのでしょうか?」
呉「調練をしたくないだけさ」
張「堕落する口実を与えたら、普通そうなります」
楊「だが本来は、俺たちに相談するよりも先にすることがあるよな」
班「…」
杜「…」

・班光(はんこう)…ここは肚を据えるところですな、杜興殿。
・杜興(とこう)…この落とし前はともにつけるぞ、班光。

・楊令(ようれい)…これも言葉の持つ力だな。
・呉用(ごよう)…戦況次第では、死に兵にするのも有効だからな。
・張平(ちょうへい)…最悪そうなった時の状況は考えておきましょうか。

74.
史進「…ここは?」
班光「史進殿!」
史「おお!班光!」
鄭応「調練の時間ですぜ、史進殿」
史「…鄭応まで」
穆凌「本日もよろしくお願いいたします」
史「皆が。皆が裸になっている…」
班「何を言われているのですか?」
鄭「裸とは?」
穆「…我らはいつもの調練の格好ですよ」
史「…それは?」

史「楊令殿や兵どころか、扈三娘まで裸だったとは…」
班「それでは湯浴みに行きましょうか!」
史(なにか違和感が)
鄭「史進殿!なにをしている!」
史「なんだ?」
穆「湯浴みの時は着物を着ないと…」
班「これだから史進殿は…」
史「湯船で着物を着るのか?」
班「湯船で着ないでいつ着るので?」

史「班光」
班「なんですか?」
史「貴様に常時着物の着用を命ずる」
班「!?」
史「命令だ、班光」
班「着物を着るくらいなら、死んだ方がましです!」
史「…言質はとったぞ。班光」

史「という世界だ」
班「…」
史「羞恥が逆転した世界も楽じゃない」
班「…」
史「言質はとってあ」
班「嫌です」

・史進(ししん)…全裸の世界に異世界転生する夢だ。
・班光(はんこう)…一人だけ羞恥の概念が逆転した世界に行くのは恐ろしいですね。
・鄭応(ていおう)…扈三娘殿まで裸だったんで?
・穆凌(ぼくりょう)…史進の話は笑い話として聞いている。

75.
班光「…」
杜興「…」
史進「何の用だ、シシハラ発起人ども」
班「…私たちの言葉が、兵にあのような影響を与えるとは思わず」
杜「その点については、我らの責任を全面的に認める」
史「精々頑張ってくれ」
班「史進殿にお願いが」
史「兵のことはお前らが何とかするんだろう?」
班「我らと共に…」

史「ふざけるな、班光」
班「遊撃隊には史進殿が必要なのです!」
史「知らん」
杜「わしも兵に関することなら何でも言う事を聞く所存だ」
史「老いぼれは黙れ」
班「…私と立合ってください」
史「殺されたいか、班光」
班「私も史進殿を殺すつもりで…」
史「!」
班「!?」
史「もう死んだな、班光」

班「!」
史「まだ死なないか、班光」
班「史進殿を殺すまで…」
史「口数が多い!」
班「!」
史「黙って死ね」

杜(何刻立合っているのだ…)
史「…」
班「」
杜(班光の動きが)
史(やれやれ)
班「」
杜(死域か!)
史(いつもこれくらいの力を出せればな…)
班「」
史「!」

史「行くぞ、老いぼれ」

・史進(ししん)…甘ったれた兵どもを締め上げるぞ。
・班光(はんこう)…さっきの事は何も覚えてません…
・杜興(とこう)…よくやったぞ、班光。

76.
鄭応「どうした、お前たち」
兵「あの厳しすぎる史進殿の調練を受けて以来…」
兵「史進殿を見ると湿疹が…」
兵「我らの間では、史進湿疹と呼んでいます」
鄭「くだらねえ…」
兵「失神させられる者は、史進失神と呼んでいます」
鄭「ややこしくてくだらねえ…」

・鄭応(ていおう)…史進の裸哲学の講釈を受ける時は失心して受け流している。

77.
史進「班光」
班光「はい」
史「…」
班「?」
史「恥を忍んで、相談したいことがある」
班(史進殿が恥などと口にする度に湿疹が…)
史「今までのことを、なかったことにできぬだろうか」
班「無理です」
史「なぜだ!」
班「自明でしょう?」
史「お前は事の発端を知らんからそんな事を言えるのだ!」

班「李瑞蘭殿の一件ですよね?」
史「それだけだ」
班「それだけ?」
史「戦でも度々死線を潜り抜けては、大活躍し」
班「確かに」
史「調練は厳しくも的確」
班「はい」
史「人気投票も上位の常連だ」
班「人気投票?」
史「ランク外に発言権はない」
班「苦労人投票ならベスト3は堅いですよ、私は」

史「それがなぜ瑞蘭の一件だけで、ここまで悪評が立ってしまったのか、不思議でならん」
班「何者かが暗躍しているのでしょうか?」
史「分からん。全く分からん」
班「確かに史進殿の破廉恥は限度がない…」
史「…」
班「まるで史進殿を依代にして破廉恥をやらせているかのようですな」
史「変態だ」

・史進(ししん)…たまに我に帰るんだ、俺は。
・班光(はんこう)…戦と調練の時は滅多に脱ぎませんもんね。

78.
花飛麟「…」

班光「律儀にウエットスーツを着用されて湯船に来られている」
鄭応「いつもながら、史進殿の意味が分からねえ」
史進「分からぬなら教えてやろう」
鄭「!」
史「顔だけはいいのは認めている」
班「ならばなぜ美しい身体まで覆われてしまうのですか!」
史「美醜に囚われているからだ」

鄭「美醜?」
史「貴様らは俺の尻を蛇蝎のように嫌っているが」
班「汚い!」
史「花飛麟に遊撃隊、ひいては赤騎兵の指揮はとれぬだろう?」
班「たしかに」
史「たとえ尻が綺麗だろうが醜かろうが、戦に全く関係はない」
班「人は死んだら皆土に帰りますからね」
史「形あるものは誰もが滅びるのだ」

史「花飛麟の見掛け倒しの顔や身体の美しさも現世で多少の利がある程度で、人間や戦の本質とは全く関係がない」
班「なるほど」
史「しかし兵どもはその本質に気づかず、花飛麟の身体に淫らな煩悩を抱き始めた」
班「はい」
史「だから俺はその危うさに目をつけ、花飛麟の露出を禁じたのだ」
鄭「…」

・史進(ししん)…分かったら貴様らも俺の尻への先入観を取り払え。
・班光(はんこう)…そう言われると、だんだん慣れてきました。
・鄭応(ていおう)…やはり分からねえ…

・花飛麟(かひりん)…身体を洗いたい…

79.
史進「花飛麟」
花飛麟「…なんでしょうか」
史「ひどく臭うな」
班光(それは史進殿が湯船でウエットスーツを着用させているからでしょう)
花「…私も身体を洗いたいたくて仕方ないのですが」
史「なぜ洗わない」
花「ウエットスーツを着ているからです」
史「脱がずに洗え」
花「…どうやってですか」

史「葉敬」
葉敬「はい」
史「お前はウエットスーツを着用していても、身体を洗えるよな」
葉「無論です。史進殿」
班(史進殿にインスパイアされすぎた所があるからな、葉敬…)
花「ならば頼むから教えてくれ、葉敬」
葉「一度だけ見せてやろうか」
史「調練の成果を見せろ、葉敬」
班(何が始まるんだ)

葉「…」
班(ピチピチだ)
花「これでどうやって身体を洗うのだ」
葉「いざ!」
花「!?」
班(密になっているウエットスーツで摩擦をするとは!)
葉「!」
班(驚くほど身体を洗えていることが分かる)
葉「!」
班(しかし動きがえっちだ…)
葉「…以上」
史「早く洗え、花飛麟」
花「…いざ」
史「!!」

・花飛麟(かひりん)…イケメンと肉体美と相まって、兵を恍惚とさせるえっちを超越したエロスを体現して見せた。

・史進(ししん)…しまった!野郎のポテンシャルを忘れていた!
・班光(はんこう)…開き直ると強いですからね、花飛麟殿。
・葉敬(しょうけい)…遊撃隊新将校。史進との厳しい調練の末、実質史進の後継者筆頭。これからの扱いは察してくれ。

80.
史進「花飛麟のエロスを失墜させる作戦会議を行う」
班光(会議嫌いのくせに、こういう事には異様に真面目なんだよな)
鄭応「…いかんともしがたいんじゃないですか?」
葉敬「顔に落書きをするのはどうでしょう?」
史「顔に刺青をいれさせるのか!」
班「呪い使えるようになったらどうするんですか」

史「花飛麟に自堕落な生活をおくらせて、顔も体型もだらしなくさせる策はどうだ」
葉「なるほど!」
班「ストイックですよ、花飛麟殿?」
史「その反動を利用するのだ」
班「それは?」
史「粗末な物ばかり食べていた者がある日美食に目覚めたら、そればかり食うようになるだろう?」
鄭「ありますな」

史「花飛麟をでっぷりと肥らせて、見るに耐えない姿にしてやるのだ!」
葉「その策でいきましょう!」
鄭「それで何をするんで?」
史「葉敬は食堂の者に花飛麟のメニューを高カロリーにする密使」
葉「了解!」
史「鄭応は花飛麟の食事の監視」
鄭「はい」
史「班光は共に飯を食え」
班「…やれやれ」

・史進(ししん)…花飛麟に大量の揚げ物や穀物を食わせるのだ。
・班光(はんこう)…揚げ物大好き、野菜は嫌い。
・鄭応(ていおう)…花飛麟の代わりに班光が食ってないか?
・葉敬(しょうけい)…史進殿よりもえっちな花飛麟は許せん!

81.
花飛麟「…こんなに麦と揚げ物をてんこ盛りにされても食い切れないぞ」
班光「ならば揚げ物は私がいただきます。花飛麟殿」
花「頼む、班光」
班「美味い!」
鄭応「…?」

史進「お前がでっぷりと肥ってどうする、班光」
班「最近の食事が妙に美味いと思ったら、つい…」
葉敬「腐った軍人の体型だ」

史「顔も身体も吹き出物だらけではないか」
班「…面目ないです」
葉「全くだ」
鄭「遊撃隊の調練を上回るカロリーを摂り続けていたのか?」
班「Mサイズだった具足が、XLになりました…」
史「兵からやり直しだ班光」
班「そんな!」
葉「お前が副官だと遊撃隊の品格が問われる」
鄭(それは手遅れだ)

班「いつの間にこんな脂肪を蓄えてしまったのだ…」
史「花飛麟を上回るシックスパックになるまで兵卒だ、班光!」
葉「当然ですな」
鄭(それは難易度高いぞ…)
班「…分かりました。花飛麟殿すら超越した肉体になって帰ってきます、史進殿」
史「よし」

班「だが揚げ物は美味い」
花「痩せろ、班光」

・史進(ししん)…小僧はこれだから仕方がない…
・班光(はんこう)…花飛麟監修の減量プログラムを組んでもらった。
・鄭応(ていおう)…花飛麟は全く変わってないぞ?
・葉敬(しょうけい)…遊撃隊副官代理に就任。

・花飛麟(かひりん)…私だけ食事の内容がおかしいな。

82.
班光「…疲れた」
花飛麟「息をあげるには早すぎるぞ、班光」
班「…私は花飛麟殿をも上回る肉体にならなければ、遊撃隊の兵のままなのです」
花「当たり前だ」
班「ですからなるべき身体の将来図を描きたいので、脱いで見せていただけませんか、花飛麟殿?」
花「…言ってることが史進殿だぞ、班光」

花「…私の身体はそんなに美しいのか?」
班「花飛麟殿の肉体の花石綱があったら、帝は国庫の銭を全て使い切りますよ」
花「自分では分からん」
班「梁山泊の美の化身です、花飛麟殿は」
花「何を言っている?」
班「金大堅殿でも完璧に再現するのに5年かかったと言っていました」
花「いつの間に!」

班「早く脱いで見せてくだされ、花飛麟殿」
花「…途端に恥ずかしくなってきた」
班「美の化身が羞恥に身を宿すだけで、何というエロスの気が…」
花「班光?」
班「辛抱たまりません、花飛麟殿!」
花「お前まで史進殿のような真似を、班光!」
班「美の化身を遮る鎧を破壊してくれよう!」
花「!?」

・班光(はんこう)…陰で見ていた史進がドン引きするレベルで花飛麟にがっつき、美しさに失神。
・花飛麟(かひりん)…陰で見ていた史進の顔が忘れられない。

83.
史進「班光」
班光「…」
史「花飛麟のエロスの気に当てられたのか?」
班「…あの時は、我を忘れて突撃してしまいました」
史「そうか」
班「自分の醜い身体が憎い!」
史「…」
班「私が花飛麟殿の代わりに食べすぎたばかりに…」
史「…」
班「無念です、史進殿」
史「…俺でも、花飛麟のエロスは」

楊令「何をしている、二人とも?」
張平「…肥りに肥ったな、班光」
班「…」
史「楊令殿!」
楊「史進?」
史「班光を、黒騎兵の調練で鍛え抜いてくれ!」
楊「それは構わんが…」
張「そのだらしない身体でついて来れるのか?」
班「…私は花飛麟殿を超越した肉体になりたいのです」
張「花飛麟?」

班「あの美しい身体に、私もなりたい!」
張「…たしかに子午山で見たときはすごいと思ったが」
班「張平」
張「?」
班「お前は花飛麟殿の肢体を目の当たりにしてその程度の語彙しか発揮できぬのか」
張「班光?」
班「立合え、張平」
張「…なぜだ?」
班「花飛麟殿の美を理解せぬ貴様を叩きのめす」

・史進(ししん)…強くなったな、班光…
・班光(はんこう)…身体を見て油断した張平を追い詰める底力を発揮してみせた。

・楊令(ようれい)…黒騎兵で鍛え直してやる、班光。
・張平(ちょうへい)…班光まで史進殿化したら、どうすれば良いのだ…

84.
蘇琪「突撃!」
班光「!!」

楊令「さすが赤騎兵にいただけのことはある…」
張平「そういえば遊撃隊の調練をこなしながら、激太りしていたんですよね」
楊「あの貪欲さは班光の大きな武器になるぞ、張平」
張「…懸念を申し上げてもよろしいですか、楊令殿?」
楊「懸念?」
張「班光が」
楊「…」

張「史進殿化してしまう危険性を懸念しています」
楊「よく分からんぞ、張平?」
張「ですから、班光が史進殿のようになってしまったら…」
楊「遊撃隊が精強になるだろうな」
張「そうかもしれませんが…」
楊「良いことではないか」
張「…」
楊「はっきり言え、張平」
張「…」
楊「らしくないぞ」

張「もともと班光は遊撃隊の良識派筆頭でした」
楊「シシハラ被害者の会発足の実績もあるからな」
張「しかし最近の班光は、史進殿の破廉恥のような事をするのです」
楊「それは?」
張「あれを」

班「暑いぜ!」

楊「具足を脱いだ!」
張「脱ぐならば死を選ぶような奴がです」

班「贅肉は去ね!」

・班光(はんこう)…黒騎兵の調練と花飛麟の食事制限と相まってみるみるたくましくなっている…が?

・楊令(ようれい)…獣のようだぞ、班光。
・張平(ちょうへい)…賢い史進殿みたいになったらどうしましょう?
・蘇琪(そき)…今の言葉を史進殿に言いつけるぞ、張平。

85.
班光「御礼申し上げます、楊令殿!」
楊令「もう一度身体を見せてくれ、班光」
班「頼まれなくても!」
張平(すっかり脱ぐようになったな、班光…)
班「この大胸筋を!」
楊「!」
班「僧帽筋を!」
楊「昇竜かと思ったぞ」
班「そして自慢の」
楊「!」
班「大臀筋を!」
張(ついに史進殿が二人に…)

班「この肉体美を史進殿に魅せれば!」
史進「班光…」
班「おう、史進殿!」
葉敬「…なんという肉体に!」
班「この肉体ならば、私を副官に…」
史「だめだ…」
班「なぜです!?」
史「…己の瞳を見るのだ、班光」
班「瞳?」
史「…」
班「…私には見るも美しい肉体しか瞳に映りませぬが」
史「…」

班「…なぜそんな哀しい瞳をしているのですか、史進殿?」
史「お前の瞳を見て、俺は過ちを犯したことに気づいた」
班「史進殿の、過ち?」
史「俺が、花飛麟に嫉妬したばかりに…」
班「だから私もエロスを」
史「お前にエロスは無い、班光!」
班「馬鹿な!」
史「…ただの、スケベ小僧だ」
班「!?」

・史進(ししん)…何も言わず、泣き崩れた班光の肩に手をやった。
・班光(はんこう)…己の過ちに気がつき、肩を震わせて涙を流した。
・葉敬(しょうけい)…班光の肉体に圧倒されながらも違和感を感じていた。

・楊令(ようれい)…七つの大罪か、史進。
・張平(ちょうへい)…私たちは明確に線を引きましょうね、楊令殿。

86.
史進「班光。俺とお前の過ちを教えよう」
班光「…はい」
史「事は全て花飛麟のエロスに嫉妬した俺に起因する」
班「史進殿も嫉妬を?」
史「七つの大罪の一つだ」
班「七つの大罪?」
史「嫉妬、傲慢、強欲、憤怒、色欲、暴食、怠惰だ」
班「そんな言い伝えが?」
史「西洋の言い伝えだという」

班「すると私が犯した罪は、傲慢、強欲、憤怒、暴食…」
史「俺は嫉妬と色欲…」
班「そして、かつて兵は怠惰になりました」
史「俺の嫉妬から遊撃隊に七つの大罪を呼び込んでしまうとは…」
班「そんな!史進殿の責任ではありません!」
史「花飛麟のエロスを赦そう」
班「本当ですか!」
史「ああ」

史「花飛麟!」
花飛麟「史進殿?」
呼延凌「こんにちは!史進殿」
史「お前のエロスを許可する」
花「!?」
呼「史進殿?」
史「浴場でウエットスーツを着る必要は、もうない…」
花「…大勢の前で言わないでください」
史「お前のエロスを解き放て!」
花「だから!」

楊令「よかった…」
張平「…」

・史進(ししん)…花飛麟のエロスにない良さを模索中。
・班光(はんこう)…花飛麟のいるタイミングに絶対に浴場にいる。

・花飛麟(かひりん)…かえって浴場に行きづらくなった。
・呼延凌(こえんりょう)…そうか。花飛麟はエロスなのか。

・楊令(ようれい)…これで遊撃隊のわだかまりは無くなったな。
・張平(ちょうへい)…どうなることやら。

87.
史進「実質全裸と名目全裸について話そう」
班光「はい」
鄭応(止めてくれ、班光)
史「実質全裸とは生まれた時の姿だ」
葉敬「名目全裸とは?」
史「相手をパッと見て、生まれた時の姿のように映る印象、直感だ」
班「つまり、ありのままであると感じさせるほど、名目全裸は高いのですね」
史「然り」

史「しかし名目全裸が高そうに見えても実質全裸が高いとは限らない」
葉「どういう場合ですか?」
史「裸になれ、鄭応」
鄭「嫌ですよ!」
史「しかし、浴場だと脱ぐだろう?」
鄭「そりゃ…」
史「この状態だ」
班「つまり鄭応殿は浴場で全裸になりますが、他では全裸にならない…」
史「実質着衣だ」

葉「実質着衣?」
史「鄭応は全裸になってもありのままではない。全裸でも着物を着ているも同然」
班「確かに」
鄭「…」
史「そもそも全裸とは着物を脱いでいる状態だけだと俺は定義していない」
班「…」
史「心身共にありのままをさらけ出す状態を全裸と定義しているのだ!」
葉「分かりました!」

・史進(ししん)…次は浴場で身体の全裸と心の全裸について話そうか。
・班光(はんこう)…身体を鍛えに鍛えると、史進殿の言わんとすることの理解度が違いますな。
・鄭応(ていおう)…こっちに帰ってきてくれ、班光…
・葉敬(しょうけい)…稽古の時は半裸が基本。史進の教えである。

88.
史進「身体の全裸について議論しよう」
班光「浴場で話すのにぴったりです!」
鄭応「…」
葉敬「今我々の身体は全裸ですな」
史「なぜ浴場では着物を脱いでよくて、公共の場で着物を脱いではいけないかを考えたことはあるか?」
鄭(ねえよ)
班「公共の場では全員着物を着ているからではないですか?」

史「しかしここは公衆浴場だ。公という字が入っている」
班「…」
葉「浴場の目的は身体を洗うことだから、効率よくするために着物を脱ぐのでは?」
史「効率に着目するならば、着たままでも身体を洗える着物があれば、脱ぐ時間を短縮できる。そちらの方が、よほど効率的ではないか?」
葉「確かに…」

史「ここで鍵になるのが羞恥だ」
班「!」
史「俺は一度だけ公共の場で全裸になった」
葉「その時に羞恥を?」
史「逃げながら羞恥について考えていた」
鄭(死ぬぞ)
史「公共の場で脱ぐ事に羞恥を感じるのが人」
班「ですな」
史「そして浴場で着ている事に羞恥を感じるのが人の羞恥の持つ特質なのだ」

・史進(ししん)…心の全裸の話に進もう。
・班光(はんこう)…羞恥という感情も深掘りすると興味深いですな。
・鄭応(ていおう)…のぼせてきた。
・葉敬(しょうけい)…瞑目して史進の話について咀嚼している。

89.
史進「心の全裸」
班光「お願いします」
鄭応(もう出てえ)
葉敬「心も着物を纏うのですか?」
史「では葉敬。誰にも言ったことのない秘密を一つあげろ」
葉「それは!」
史「今お前は心の恥部を衣で覆ったな」
葉「…面目ございません」
史「それが正しい」
葉「史進殿も?」
史「数えきれないほどな」

史「誰しもが心の恥部を持っている」
班「覚えがあります」
史「それを全て他人に露出する必要があるのかと問われたら、それは違う」
葉「…」
史「それを恥部と言うにはあまりに酷。傷であったり、触れられたくない自分だけの大切な宝であったりするのが人間だ」
班「心の全裸ならぬ心の臓器ですね」

史「言い得て妙だな、班光」
班「私の想いの丈を全て史進殿にぶつけようとするならば、腸を見せつける程の覚悟が必要だと思ったので」
史「日常で臓器を見ることは少ない」
葉「そうですな」
史「だが他人に本当の思いの丈をぶつけるとは、自分の腹を裂いて腸を投げつけるようなものなのかもしれんな」

・史進(ししん)…心の全裸について遅くまで語りあった。
・班光(はんこう)…花飛麟が来たらソワソワし始めた。
・鄭応(ていおう)…のぼせた。
・葉敬(しょうけい)…この日の学びを遊撃隊の兵に伝えるテキストを作っている。

90.
班光「史進殿!」
史進「おう」
班「えっちと卑猥の違いは分かったのですが」
史「うむ」
葉敬「えっちとスケベの違いについて教えてください!」
鄭応(心底どうでもいい)
史「えっちとは自ずから発する性的魅力」
班「…」
史「スケベとは他人のえっちを盗むこそ泥だな」
葉「なるほど」
班「史進殿」

史「どうした、班光」
班「…私は、花飛麟殿のエロスを会得できないのでしょうか?」
史「いまいましいが、野郎の面と身体は天からの恵みだ。諦めたほうがいい」
班「エロスとは天からの恵みなのですか?」
史「天は不公平だな」
班「私は、もっとエロくなりたい!」
史「…班光?」
葉「語弊がある」

班「粗相しました」
鄭(粗相なんてもんじゃねえ)
史「他人のエロスへの執着を強めれば強めるほど、お前の望むエロスは遠ざかる」
班「史進殿」
史「お前の筋肉がエロスへの執着の塊ならば、全て落とした方がマシだ班光!」
班「一体どうすれば…」
史「…」

史「俺にも分からん、楊令殿」
楊令「…」

・史進(ししん)…俺が頭を悩ませるほどになるとは…
・班光(はんこう)…エロスに取り憑かれたようだ。どうしたものか…
・鄭応(ていおう)…ほっとけよ、史進殿。
・葉敬(しょうけい)…そうはいかん。遊撃隊が回らなくなる。

・楊令(ようれい)…張平も呼んで班光の今後の方向性について話し合った。

91.
史進「花飛麟」
花飛麟「はい」
史「班光を魔道から連れて帰ってきてくれないか」
花「…私のせいなのですか?」
史「遠因であることは違いない」
花「私が何をしたというのですか?」
史「ナチュラルエロスは自覚がないのがたちが悪い…」
花「史進殿の方がたち悪いです」
史「否定はせん」
花「…」

花「班光」
班光「花飛麟殿!」
花「もう私と史進殿を困らせないでくれ」
班「…申し訳ございません」
花「一体どうしてここまでふしだらになってしまったのだ、班光」
班「…いつの間にかに」
花「御竜子が羞恥をかなぐり捨てたら皆困るのだぞ」
班「そうですね」
花「また史進殿を止めてくれ、班光」

班「しかし私は史進殿のエロスの教えを完全に理解してしまったのです」
花「そのエロスと言うのをやめないか」
班「私にエロスは無いにしても、それに近づくことはできないかと日々励んでおり…」
花「話を聞け、班光」
班「私にとって花飛麟殿のエロスはさながら陽炎…」
花「結局そうなのか、班光」

・史進…遠目で見守っていた。
・花飛麟…班光の相手がめんどくさくなってきた。
・班光…エロスと口にすると豹変する。

92.
史進「王様は裸だ」
班光「史進殿も裸です」
史「すると俺は王なのか、班光?」
班「裸の王様ですね」
史「それは裸で街を歩いても問題ないほど統治に成功した名君か?」
班「…」
史「それとも家臣を堅く信じる事一切揺るがぬ名君か?」
班「違います」
史「ほう」
班「破廉恥王のことです、史進殿」

史「破廉恥王!」
班「淫ら王とも言います」
史「淫ら王…」
班「私ももう花飛麟殿で暴走しませんからやめてください」
史「ふん、スケベ王班光め」
班「史進殿!」
史「…すると花飛麟はエロス王か?」
班「エロス王花飛麟殿!」
史「奴に相応しいな」
班「否定はしません」
史「やはりスケベ王だな」

班「シシハラはやめてください!」
史「ならばむっつり王か!」
班「許しません!」
史「やるのか、班光!」
班「楊令殿に史進殿を去勢してもらいます!」
史「何を言っている、班光!」
班「このシシハラポイントカードを百八枚集めたら、問答無用で去勢ですよ!」
史「いつの間にそんなカードが!」

・史進…本当に抜け目のない野郎だ…
・班光…シシハラポイントカードを破ったら、二倍の効力です!

93.
班光「史進殿が巨大化しました!」
葉敬「なんということだ」
楊令「どうしてこんなに大きくなったのだ、史進」
史進「なんでだろうか」
班「真面目にがんばったからですよ!」
史「握り潰すぞ、班光」
楊「縮めないのか、史進?」
史「試みている」
班「それにしても着物も一緒に巨大化してよかった」

・史進…縮みすぎた。
・班光…ポッケに入りそうな小ささです。
・葉敬…オチはないのか?
・楊令…ただの出落ちの思いつきさ。

94.
史進「調子が悪い」
班光「どう調子が悪いのですか?」
史「何かしっくりこんのだ」
班「確かに今日の調練もあまり乗り気ではありませんでしたね」
史「迷いがあるのだ…」
班「史進殿が?」
史「着物を着るべきか、脱ぐべきかの…」
班「迷うまでもありません」
史「すけべ小僧め」
班「違います!」

史「脱ぐ一択とは。潔いまでのすけべだな、班光は」
班「私を口実にしないでください!」
史「葉敬!」
葉敬「は!」
史「着脱パターンCだ」
葉「了解!」
班「…」
史「決まった」
葉「見事です、史進殿」
班「…」
史「…」
葉「…」
史「寒いな…」
葉「冬ですし」
史「…着よう」
葉「そうですな」

史「やはり調子が悪いぞ、班光」
班「脱ぐ時は溌剌としていたのに…」
史「貴様が脱がんから調子が悪いのか?」
班「シシハラです!」
史「その言葉を聞くだけで湿疹が…」
班「史進殿の湿疹?」
史「何が言いたい、班光」
班「湿疹が史進殿の調子を乱しているのでは?」
史「お前のせいではないか!」

・史進…ここ一番で湿疹が痒くて力が抜けるのだ。
・班光…失神するまで厳しい稽古を課された。
・葉敬…着脱パターンは108通りある。

95..
鄭応「史進殿の棒が年々細くなっているな…」
班光「ついに去勢されたのですか!」
鄭「…武器の棒のことだ、班光」
班「」
鄭「聞いたのが俺だけでよかったな、班光」
班「…くれぐれも内密に」
鄭「チクる気もねえよ」
班「なぜこんなリアクションをしてしまったのだ…」
鄭「やはり毒されているな」

班「鄭応殿に弱みを握られてしまって…」
花飛麟「どんな?」
班「とても口に出しては言えません…」
花「また史進殿でつまらない事を言ったのだな」
班「…否定はしません」
花「そういえば、史進殿が棒に代わる新しい武器を模索されていたな」
班「棒ではないなら、竿ですか?」
花「班光」
班「…」

班「いつから私はこんな破廉恥になってしまったのだ…」
史進「元からだ、むっつり班光」
班「史進殿!」
史「己の卑猥さを直視できず苦しんでいるな」
班「私は卑猥ではありません!」
史「そういう奴に限って、すけべな事で頭がいっぱいなのだ」
班「!」
史「しかし俺は卑猥な事で悩みはしないぞ」

・班光…えっちな妄想で頭がいっぱい。もうダメかもしれない。
・鄭応…班光の下ネタはエグいんだよな。
・花飛麟…私の裸体を眺める視線が嫌らしすぎるんだ。
・史進…やれやれ。後進を導くのは結局俺か。

96.
史進「やはり調子が悪い」
班光「湿疹のせいですね」
史「塗るものはないか、班光」
班「ハンドクリームなら」
史「なぜそんなものを携帯しているのだ」
班「ささくれたくないんで」
史「貴様はささくれどころか、もう来るところまで来ちまった尻のイボだ」
班「いちいち言い方が嫌です!」
史「笑止」

史「ハンドクリームではない。湿疹に塗る薬だ、班光」
班「キンカンなら持ってるんですが」
史「貴様の巾着袋には何が入っているんだ?」
班「リップクリームや絆創膏などが」
史「女みたいな周到さだな」
班「褒めてるんですか?」
史「結局持ってないのか、班光!」
班「皮膚科で処方してください」

史「そういう中途半端さが副官止まりである理由だぞ、班光」
班「史進殿にマッチした塗り薬なんて持ってません!」
史「使えん」
班「葉敬なら持っているのでは?」
史「持っているか、葉敬?」
葉「水虫の薬なら持ち歩いてますけど」
班「史進殿が御立腹だぞ!」
葉「これでいいなら」
史「…助かる」

・史進…冬になって湿疹やら水虫やら刺青の跡やら色々痒いところが増えた。
・班光…エグいですね…
・葉敬…使い切らないでください!史進殿!

97.
史進「カット!」
班光「もうやめてください史進殿!」
史「ならば俺の納得のいく演技を見せろ!」
班「どうしてこんなことに…」
史「俺の伝説を実写で放映することになったからだ」
班「なぜ史進殿が史進殿を演じないのですか?」
史「俺の人生の戯曲を俺が演じてどうする!」
班「監督したいのか」

班「…ついにこの場面が」
史「これは戦だぞ、班光」
班「戦の方がまだましです」
史「配置につけ!」
班「…」
李瑞蘭「班光ちゃんが史進なの?」
班「ご足労ありがとうございます」
史「葉敬!」
葉敬「鄒淵殿を演じきってみせます!」
史「鄭応!」
鄭応「班光を殺す勢いで奇襲します」
史「よし」

葉「敵だ!史進!」

班「したたか」李

鄭「奇襲!」
班「いかん!」
李「史進!」

史「カット!」
班「なぜです!」
史「なぜ着物を片手に飛び降りてきた」
班「!」
史「一からやり直しだ」
班「…本当に、すっ裸で?」
史「言うまでもない」
李「抜き差ししてたけど、抜き差しならなかったから」

・史進…実写版の自分の場面のできに期待している。
・班光…私たちが実写化する時は来るのでしょうか。
・葉敬…期待薄だな。
・鄭応…出たらかえって驚くぞ。
・李瑞蘭…したたか場面もどこまでやるのかしら。

98.
班光「史進殿!」
史進「どうした班光。そんな絶望したかのような声を出して」
班「なぜ脱ぐのですか!」
史「おっと」
班「シシハラカードを!」
史「落ち着け班光」
班「もう史進殿の尻を見るのも限界なんです!」
史「分かった。それではなぜ俺が脱ぎ始めたのかを聞かせてやろう」
班「いいです!」

史「それは九紋竜を彫ったからだ」
班「…でしょうね」
史「九紋竜の史進だ!と名乗っておきながら、着物を纏っていたら全く分からんだろう?」
班「最悪竜のアップリケを自慢していると思われそうです」
史「だから最低でも半裸にならないと九紋竜を名乗れんのだ」
班「それでは…」
史「分かったな」

班「史進殿が九紋竜を彫る前はどうだったのですか?」
史「鋭いな、班光」
班「なぜ九紋竜を彫ろうと思ったので?」
史「…昔はよく脱ぐ子どもだったのだ」
班「今もです」
史「だから裸小僧とか脱ぎ捨て坊やとか不名誉なあだ名で呼ばれていた」
班「…」
史「そこで閃いた」
班「竜を彫れば良いと…」

・史進…子どもの頃から着物がまどろっこしくてな。渾名の由来を身体に彫ればいいと考えたのだ。
・班光…脱ぎたいがために身体を張りすぎでは?

99.
班光「史進殿の着物に触れるのも嫌になって…」
花飛麟「そうだろうな」
班「何をどうすれば人体からあんな臭気を発することができるのかという匂いがするんですよ」
花「絶対に同じ川で洗いたくないな」
班「花飛麟殿、失敬」
花「班光?」
班「!?」
花「私の着物になにを」
班「フローラルな香り…」

花「何をしている班光!」
班「この着物も違う意味で人体から発しえない香りがします!」
花「気持ち悪いぞ班光!」
班「花飛麟殿の美は視覚だけでなく嗅覚までも翻弄するのですな!」
兵「なんだって!」
兵「俺にも嗅がせろ班光!」
花「失せろ!」
班「芳香剤で花飛麟殿の香りを販売しましょう!」

花「いい加減に着物を返せ班光!」
班「あと一回キメさせてください!」
花「言い方が嫌だ!」
班「…花飛麟殿。汗をかかれていますな」
花「貴様らが暑苦しくしたせいだ」
班「…妙にムラムラしてきました」
兵「もしや花飛麟殿の汗からフェロモンが発せられているのでは」
班「それだ!」
花「!?」

花飛麟…梁山泊美の化身。着物の残り香に蝶が寄ってくるらしい。
班光…花飛麟のフェロモンにやられてしまった。

100.
史進。着物を着てくれ。頼むから、着物を着てくれ。杜興はそう言って、泣いていた。鬼瞼児の目にも涙か。そう言い捨てた史進は、また着物を近くの木にかけて、裸で走り出した。
春の風はスケベだな、班光。史進は爽やかに笑う。スケベもなにも、すっ裸ではないですか、史進殿。お前もスケベだな班光。

101.
史進殿が梁山泊の春の妖精ですって?
笑わせないでください。
梁山泊の妖精とは、花飛麟殿のことを言うのです。
湖畔に映るあのキリリとしたお美しい顔。彫刻のように無駄のない整った筋骨。そして何より、天から盗んで来たと言っても信じるであろう、桃と見間違う尻…
花飛麟の矢は、容赦を知らない。

無法地帯

無法地帯…色々好き勝手やる場所。ネタバレ注意!

102.
史進「今日からは好き勝手やらせてもらう」
班光「今まで好き勝手やってなかったつもりですか!」
杜興「引っ込め小僧!」
史「ダイバーシティという言葉を聞いたことがあるか?」
陳達「北宋の世にそんな言葉はないだろう」
鄒淵「多様性という意味らしいがそんなもん俺たちは知らん」
班(知ってる…)

史「もはや俺を制限するものはない」
穆春「まあそうだろうな」
史「だからやりたい放題やっても構わんのだ」
施恩「限度はあるぞ、史進」
史「着物を着る自由があるならば」
班「脱ぐ自由は認めません!」
史「差別だ!」
班「いい加減に恥を知ってください、史進殿!」
史「知る、とはなんだ班光?」

班「…また詭弁を」
史「四知という言葉がある」
班「…」
史「俺が何をしても天と地と己とお前が知っている、という意味だ」
班「だからなんですか」
史「俺が裸なのも天と地と己とお前が知っているのだ!」
班「だからなんですか!」
史「ここを着物解放府とする」
班「東京開封府みたいに言うな!」

史進…これからは好き勝手にやらせてもらう!よろしくな!
班光…私が秩序を守ります!
杜興…意外と早い復帰だったの。
陳達…まあどうせこうなるだろうと思ったよ。
鄒淵…それにしても早いな。
穆春…どうなることやら。
施恩…またこれからよろしくお願いします!

103.
史進「いでよ!九紋竜!」
九紋竜「!!!!!!!!!」
鄒淵「来い!出林竜!」
出林竜「!」
史「九紋竜!逆鱗だ!」
九「変態死すべし!」
史「俺を攻撃するな!」
九「羞恥を知れ」
史「助けろ班光!」
班光「…御竜子」
九「班光様の仰せのままに」
史「やれやれ」
鄒「馬鹿め」
班「…史進殿」

史「なんだ班光」
班「今九紋竜を御竜子の私が制御しているのですが」
史「さっさと返せ!」
班「そういう訳にはいきません、史進殿」
史「貴様!何を企んでいる!」
班「羞恥を知らない史進殿に九紋竜を焚き付けてお灸を据えます!」
史「おのれ班光!」
鄒「…」
史「鄒淵!何をしている」
鄒「…」

鄒「俺は班光につく」
班「鄒淵殿!」
史「陳達!」
陳「俺も跳澗虎と共に班光につく」
跳澗虎「!」
史「貴様らそれでも遊撃隊か!」
陳「九紋竜のいない史進なんぞ単なるすっ裸だ」
鄒「史進を燃やせ!班光」
班「九紋竜!」
九「汝らは三人で卑怯な真似をするか」
班「しまった!」
九「滅ぶべし」

九紋竜…史進の竜。九つの逆鱗に触れる者を燃やし尽くす。
史進…全裸で燃やされた。
出林竜…鄒淵の竜。特に特徴はない。
鄒淵…とばっちりで燃やされた。
班光御竜子の通り、竜を御す事ができるが、九紋竜の逆鱗に触れてしまった。
跳澗虎…陳達の虎。すごいジャンプ力。
陳達…一緒に燃えてた。

104.
史進「俺たちの名を融合させて遊ぼう」
班光「どういう意味ですか?」
史「たとえば俺と林冲殿を融合させる」
班「はい」
史「林進」
班「はあ」
史「史冲」
班「美味しそうな名前ですね」
史「お前もやってみろ」
班「…史光」
史「ふむ」
班「班進」
史「あだ名は九紋虎だな」
班「面白いですな!」

史「遊撃隊には姓の部最強の男がいる」
班「誰ですか?」
陳達「俺だ」
班「陳達殿…」
史「陳進などつまらん」
班「陳光…」
史「すけべ小僧め!」
班「!?」
陳「杜興もできるな」
班「鬼瞼児陳興…」
史「最低だ班光!」
班「全国の陳殿に謝ってください!」
陳「陳小五」
史「陳飛麟」
班「酷いw」

史「名の部最強は解珍だ」
班「ちんと言いたいだけではないですか!」
陳「言ってみろ班光」
班「陳珍…」
史「ツーアウトだ班光」
班「鎮三山という方がいます」
史「鎮三山陳珍…」
班「卑猥な!」
燕青「…私の友に」
史「燕青?」
燕「李固という者がいるが」
班「陳…」
史「班光」
陳「懲罰を」

史進…下腹部に打撃を与える技をかけた。
陳達…股間を直撃する技をかけた。
班光…宦官になるところだった。

燕青…商人の宴でそんないじられ方をしてたな…

105.
史進「ビジネス書を書こうと思う」
班光「ツッコミ待ちですか史進殿?」
史「字が読めなくても分かる風紀の正し方」
班「史進殿を追放すればいいのでは」
史「知らなかったと言わせない!軍規の守り方」
班「着物を着ましょう」
施恩「胡散臭いタイトルばかりだな史進」
史「替天行道よりも売れるぞ」

史「売れなかった」
施「言わずもがなだ」
班「何を書かれたのですか?」
史「俺の軍での経験を生かしたハウツー本だが…」
班「そんなセコい話ではなく、史進殿の人生を振り返る伝記にすれば良いのでは?」
史「しかしな、班光」
班「ダメなのですか?」
史「そしたら全五十一巻の大長編になるぞ?」

史進…全五十一巻の三部作で売るつもりだ。
班光…なぜ私が第二部しかでないのですか!
施恩…俺なんてほんの少ししか出てないぞ!

ろくなはなしがありゃしない…

これからも選り抜き集を作りますので、これからもすいこばなしをよろしくお願いします!

中学生の頃から大好きだった、北方謙三先生大水滸シリーズのなんでもあり二次創作です!