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水滸噺 22年1月~6月【上半期総決算】

あらすじ
林冲公孫勝 罵り合うこと常に
青面獣楊令 不器用なこといつも
史進班光  下ネタしかできず
梁山泊面々 いつも馬鹿ばかり

すいこばなし 注意書き
北方謙三先生水滸伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
楊令伝編で出てくる好漢は、すなわち水滸伝を生き残った者ということですので、未読の方はその点ご留意いただいた上でお読みください。
・作者のtwitterにて連載しています。
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまで
 お寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

それでは行ってみましょう!

梁山泊

梁山泊…半年間何をやっていたのだ。

騎馬隊

騎馬隊…ろくなことを思いつかない隊長がいるのだ。

人物
林冲(りんちゅう)…致死軍をからかってやろう。
索超(さくちょう)…何をするつもりだ。
扈三娘(こさんじょう)…用事があるので帰ります。
馬麟(ばりん)…止めるぞ郁保四。
郁保四(いくほうし)…俺たちで止まるわけないですよ。

1.
索超「さすがに無茶だ、林冲殿」
林冲「黙れ!」
索「正気の沙汰とは思えんぞ」
林「俺は冷静だ!」
馬麟「ならば好きにすればいい」
林「言われるまでもない」
索「林冲殿!」
林「いくぞ!」
馬「観念しろ、索超」
索「…」
林「出てこい!ウスノロ!」
索「致死軍の夜営に奇襲とは」

公孫勝「…」

楊雄「敵襲!」
劉唐「散れ!」

林「もう逃げたか、木偶ども」
索「虎穴に入ってしまったか」
馬「凄まじい殺気だ」
林「旗!」
郁保四「!!」
索「闇夜で掲げてどうするのだ」
林「俺が来たぞ、ウスノロ!」

孔亮「何しに来たんだよ」
樊瑞「見当もつかん」
劉「どうしますか」
公「歓迎してやれ」

兵「!」
索「反撃が!」
林「撃退しろ!」
兵「!」
林「姿を見せろウスノロ!」
公「後ろの正面にいるが?」
林「そこか!」
公「我らに奇襲とは随分だな、林冲」
林「騎馬隊による奇襲の調練相手になってやったのだ」
公「誰も頼んでないが?」
林「頼まれたら奇襲ではない!」
孔「そんな理由?」

林冲…高笑いして去っていった。
索超…劉唐にお詫びの品を持っていった。
馬麟…鉄笛を吹いてお詫び。
郁保四…扈三娘も誘ったが断られた。

公孫勝…本物の馬鹿だ。
劉唐…騎馬隊への仕返しを検討中。
楊雄…寝不足で顔がさらに黄色く。
孔亮…激務明けだったから最悪。
樊瑞…林冲暗殺を検討中。

2.
林冲「…」
索超「顔色が優れんな、林冲殿」
林「なんでもない」
馬麟(嘘だ)
郁保四(俺でも分かります)
扈三娘「張藍ですか?」
林「違う!!」
索(また一目散に地雷を踏みに行く)
馬(無自覚にな)
扈「じゃあなんですか?」
林「誰がお前らに言うか!」
郁「おや?部屋の隅に紙袋が?」
索「紙袋?」

索「すごいぞ皆」
馬「なんだ?」
索「手作りのチョコレートが入っていた」
郁「なんと」
林「よこせ!索超!」
索「…林冲殿の分は入ってない」
林「馬鹿な!」
馬「紙切れが一枚だけだ」
林「そんな!」
扈「何が書いてあるのですか?」
索「地図が書いてある」
林「地図?」
馬「行ってこい林冲殿」

林「断金亭ではないか」
張藍「隙あり!」
林「!?」
張「まさか本当に隙をつけるとは」
林「俺が隙だらけになるのは、お前だけだ張藍」
張「ものすごい説得力…」
林「それでなんだ、手の込んだことをして!」
張「これをあげます」
林「俺のチョコ!」
張「上に上げます!」
林「そういうのはいい!」

林冲…チョコの美味しさに卒倒。
張藍…お返しを楽しみにしてますよ。

索超…今年は俺たちにもくれるとは。
馬麟…さすがの腕前だ。
扈三娘…甘さがほどよいですね。
郁保四…王英にはあげないんですか?扈三娘殿。

3.
林冲「たまには酔うのも悪くない」
張藍「飲みすぎです」
林「張藍ももっと飲もうではないか」
張「私が本気で飲んだら、明日調練になりませんよ」
林「そんなわけがあるか」
張「どうなっても知りませんからね」
林「面白い」
張「まさか勝つおつもりですか、林冲?」
林「俺が負けるわけない!」

安道全「一体何杯呑んだのだ、バカップルどもが!」
林「遅いぞ百里!俺を乗せて走れ!」
白勝「それは郁保四だ」
張「扈三娘の着物は今日も地味ね」
扈三娘「余計なお世話です、張藍」
林「いかん落馬する!」
張「危ない林冲様!」
林「落ちたぞ、張藍!」
張「落ちましたね、林冲様」
安「馬鹿が」

林「…」
張「…」
林「頭が痛いぞ」
張「私の方が痛いです」
林「いや、俺の方が痛い」
張「競ってもしょうがありません」
林「そうだな」
張「仕事に行かないと…」
林「俺も、調練に…」
張「…まっすぐ歩けない」
林「俺も今にも戻しそうだ」
張「もう林冲とお酒は飲みません!」
林「俺だって!」

林冲…黒騎兵の最後尾をさまよっていた。
張藍…ボロボロだったが意地でも休まなかった。

安道全…薛永の酔い覚ましはよく効くぞ。
白勝…俺たちもたまには飲もうぜ。
扈三娘…夜中に張藍に呼び出されて不機嫌。

致死軍&飛竜軍

致死軍&飛竜軍…健康診断の結果は真摯に受け止める。

人物
公孫勝(こうそんしょう)…痩せすぎの食べなさすぎなのに、この稼働量。
劉唐(りゅうとう)…健康体だけど、最近やつれ気味。
楊雄(ようゆう)…案の定の不健康体。さすが病関索。
孔亮(こうりょう)…睡眠不足が溜まるとキレやすくなる。
樊瑞(はんずい)…筋肉がすごすぎる。
鄧飛(とうひ)…目の赤さを治す気はない。
王英(おうえい)…身長が伸びなかった理由を知りたい。
楊林(ようりん)…身軽だけどもう少し食べたほうがいい。

4.
劉唐「また公孫勝殿が消えたぞ」
楊雄「今年こそ致死軍飛竜軍合同健康診断を受けさせないと」
孔亮「あの食事量であの活動量だもんな」
樊瑞「燃費が良すぎるにも程がある」
王英「…」
楊林「どうした、王英」
王「また背が縮んでた…」
林「どうでもいいな」
劉「公孫勝殿!今年は注射はありません」

公孫勝「…」
雄「あそこに!」
劉「公孫勝殿!」
公「…」
劉「あとは公孫勝殿だけですから受けてください」
雄「痩せ過ぎを心配して無理やり飯を食べさせるとかしませんから」
公「…断る」
劉「公孫勝殿!」
雄「安道全が、首を長くして待ってるんです」
孔(なんでだ?)
樊(代謝に興味があるらしい)

公「…心身の健康など、私には関係ない」
劉「それでも腹は減るではありませんか」
雄「良いにこしたことないですよ、公孫勝殿」
公「任務をこなせれば良いではないか」
劉「無理が祟ると高廉に敗れるかもしれません」
公「そんな事ある訳がない」
劉「私が刺し違えてでも、高廉の首を取りますけどね」

公孫勝…結局安道全の目が不気味で受けなかった。
劉唐…ちょっと痩せてた。
楊雄…顔の黄色さは変わらず。
孔亮…睡眠時間が足りない。
樊瑞…異様な筋肉量。
王英…年々縮む身長。
楊林…鎖鎌の打ち身の跡が目立つ。

安道全…致死軍用の栄養ドリンクを薛永と開発中。

5.
時遷「変装の仕方?」
公孫勝「…」
時「たしかに致死軍も変装ができた方がいいのは間違いない」
公「…」
時「農夫や商人は当たり前にできた方がいい」
公「…」
時「兵士や博徒もできるとなおいいな」
公「…」
時「他にもできるとしたら?」
公「…」
時「これはできる者とできない者が顕著だが…」

劉唐「公孫勝殿に女装の有効性を訴えたのは誰だ」
楊雄「俺じゃないです」
孔亮「時遷の口車に乗ったんじゃないですか?」
王英「綺麗な面になったじゃねえか、孔亮」
孔「殺すぞ」
鄧飛「赤目の女も需要がありそうだって時遷が言いやがった」
楊「赤毛の女も需要があるんじゃないか?」
劉「あん?」

公「何をもめている」
劉「公孫勝殿!」
楊(こう言ってはなんだが)
孔(可憐に見える)
鄧(化粧に力が入りすぎだ)
王「お嬢さん。俺とこの後どうだい?」
公「!」
王「!?」
劉(王英が公孫勝殿だと忘れる可憐さ…)
楊「この後どうしますか?」
公「任務で活用するように」
劉(公孫勝殿だけでいいと思う)

公孫勝…女装だろうが老人の変装だろうが関係ない。
劉唐…赤毛の女の需要はありそう。
楊雄…黄色い顔の女の需要はなさそう。
孔亮…綺麗な顔の需要はある!
鄧飛…赤目の女は局地的にウケそう。
王英…女装しても本人がすけべでは意味がない。

時遷…変装の名手は化粧の名手。公孫勝の化粧に本気。

6.
劉唐「公孫勝殿が随分とお前のことを買っていてな」
薛永「はあ」
劉「次の山中の調練に同行しないか?」
薛「私がついていけるわけないです」
劉「これを読んでも同じことが言えるかな?」
薛「それは?」
劉「山の猟師に生えている薬草のことを聞いたのだ」
薛「!」
劉「来るか?」
薛「死んでも」

劉(案の定、脚力自慢の兵を差し置いて先頭を歩いている)
薛「私は自由行動ですね」
公孫勝「無論」
薛「行くぞ馬雲!」
馬雲「ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3」
公「…惜しいな」
劉「向き不向きがありますから」
薛「馬雲!崖に生えている薬草はこれで全部か?」
馬「d( ̄  ̄)」
劉「もう崖を登り終えたのか!」

公「打ち込めるものがある男には敵わん」
薛「公孫勝殿もそうではないですか?」
公「私?」
薛「致死軍に全てを打ち込まれているように見えますよ」
公「…」
薛「私も薬草に全てを打ち込んでいるからなんとなく分かります」
公「…そうでないと致死軍を作ることなど許されんからな」
薛「すごいな」

公孫勝…嬉々として入手困難な薬草を採集しまくる薛永にびっくり。
劉唐…フルパワーの薛永には敵わん。
薛永…ほしい薬草をコンプリートして大満足。
馬雲…( ✌︎'ω')✌︎

騎馬隊&致死軍

騎馬隊&致死軍…みんな関係性を分かったうえで、口論のきっかけを与えているところが無きにしもあらず。

7.
公孫勝「林冲の軍人としての幅は狭いですな」
晁蓋「嫌いか、林冲が?」
公「…」
晁「…」
公「嫌い、です」
晁「ふむ」
公「致死軍と歩兵で苦戦していた戦場へ測ったかのように騎馬で突撃してくる林冲に好意を抱く指揮官などいません」
晁「そうか…」
呉用(騎馬隊がいなければ全滅していたのでは?)

林冲「公孫勝など軍人ではありません」
晁「嫌いか、公孫勝が」
林「…」
晁「…」
林「嫌い、です」
晁「ふむ」
林「騎馬隊と歩兵では苦戦する戦場へ、測ったかのように致死軍で撹乱してくる公孫勝になぞ、好意を抱く指揮官などいません」
晁「そうか…」
呉(致死軍がいなければ戦にならないのでは?)

林「おいウスノロ」
公「なんだ馬鹿」
林「俺の邪魔をするな」
公「私の台詞だ」
林「俺の騎馬隊の突撃に、お前の不憫な部下を巻き込みたくない」
公「私も部下を貴様の突撃で妨害されたくないのだ」
林「ならば始めから戦をするな」
公「お前が馬に乗らなければ済むだろう」

晁「根は深い」
呉「…」

林冲…俺の邪魔ばかりする公孫勝がうっとおしい。
公孫勝…私のいいところばかり奪っていく林冲が邪魔。

晁蓋…由々しいな、呉用。
呉用…面倒な二人ですな。つくづくしみじみ。

8.
宋江「林冲、公孫勝」
林冲「…」
公孫勝「…」
宋「私の前では仲良く喧嘩せよ」
呉用(それは?)
林「…」
公「…」
林「公孫勝」
公「なんだ筋肉」
林「お前のガリガリさ加減はなんとかならんのか」
公「筋肉をつけすぎて知力を落としたくないのでな」
林「おのれ」
宋「うむ」
呉(これはいいのか?)

林「お前ほどガリガリだと春のそよ風にも吹き飛ばされちまいそうだ」
公「お前の頭の悪さは呉用殿の私塾の子どもたちも辟易するだろうな」
林「俺が触っただけで粉砕骨折しそうな身体しやがって」
公「人の話す言葉の意味を理解できるのか?」
宋「公孫勝」
公「…」
宋「人格否定はならん」
呉「?」

林「ガリガリ入雲竜」
公「アホアホ豹子頭」
呉(語彙力が地に落ちた)
林「公孫勝が昼寝?餓死してるんじゃないのか?」
公「林冲をおつかいに?数を数えられるのか?」
宋「…」
公「昼飯はもう食べた。索超に確認しなくていい」
林「飯の咀嚼の仕方を劉唐に聞くな」
宋「罵倒はならん。林冲」
呉(…)

林冲…どちらにしろ公孫勝は許さん。
公孫勝…どちらにしろ林冲が馬鹿なのには変わりない。

宋江…仲のいいケンカだったな。
呉用…宋江の基準が分からない。

本隊

本隊…兵のスタンダードな割には将校は意外と個性派揃い。

人物
関勝(かんしょう)…郝嬌に大刀のおもちゃを貸したら意外と使いこなしてた。
呼延灼(こえんしゃく)…鞭は使いこなせるが、双鞭を使いこなせる将校はどこにもいない。
穆弘(ぼくこう)…博打で切羽詰まったら自分の身体のパーツを賭けがち。
張清(ちょうせい)…戦の最中に良い礫を回収するのはすごく大変。
宋万(そうまん)…梁山泊の力自慢。さすが雲裏金剛。
杜遷(とせん)…彼も力自慢。最近甥っ子が遊びに来た。
焦挺(しょうてい)…彼もまた力自慢。組打の新技を開発中。
童威(どうい)…ひげを剃るのを横着すると童猛と間違われがち。
李袞(りこん)…飛天大聖の名に恥じぬ俊敏性。
韓滔(かんとう)…棗の枝を矛にしてみたら、本人的にものすごく使いやすかった。
彭玘(ほうき)…代州での顔の広さは随一。
丁得孫(ていとくそん)…あばた面を中箭虎と名付けられたのを根に持っている。

9.
呼延灼「…これはどういう事だ」
関勝「どうした呼延灼?」
穆弘「塞ぎ込んでいるではないか」
呼「…」
関「らしくないぞ」
穆「今日の始めの合図はお前だ」
呼「…笑わないでくれるか」
関「声が?」
穆「よく聞こえんぞ」
呼「…調練開始!」
関「この声は!」
穆「呉用殿!」
呼「…一体なぜだ」

兵「呼延灼殿の声が呉用殿になっちまった?」
兵「耳障りなのは気のせいかな」
呼「私語を慎め!」
兵(いつもより甲高い!)
呼「けしからん」
関「なあ呼延灼」
呼「なんだ」
穆「せっかく呉用殿の声になったのだから」
呼「何が言いたい」
関「あの台詞を聞かせてくれ」
呼「…断る」
穆「水臭いぞ」

呉用「報告書はまだか、呼延灼」
呼「待ってくれ」
呉「何日待たせるのだ」
呼「…」
呉「いい加減なのは困る」
呼「すぐに出来ることと出来ないことがあるのだ」
宋江「騒がしいな呉用」
呼「宋江殿」
宋「呼延灼が呉用の声に?」
呼「今朝からそうなりまして」
宋「しまったと言ってくれ」
呼「…」

呼延灼…言ったら宋江に大笑いされてモヤモヤ。
関勝…声真似してたのか?
穆弘…声の変わる妖術か?

呉用…私はそんなしまったを言いません!
宋江…三巻の天書を音読したせいかな?

10.
穆弘「今日の眼帯は猫の柄にしよう」
関勝「かわいいな」
穆「実家で飼っている猫をモチーフにしたのだ」
呼延灼「おや、猫が」
穆「おう、梁山泊にも猫が」
関「そこにも」
穆「お前を春と名付けよう」
呼「まだまだ出てくるぞ!」
関「もしや眼帯に引き付けられているのではないか?」
穆「それは」

穆「大変なことになった」
呼「当分猫の面倒は見なくていい」
穆「眼帯のデザインを変えてみる」
関「何にするんだ?」
穆「蝶にしてみよう」
呼「これで蝶が引き寄せられてきたら…」
穆「来たぞ」
関「なんと美しい」
呼「すっかり春になったな」
穆「眼帯に止まるな…」
関「乙女のようだぞ、穆弘」

顧大嫂「なんだいこれは!」
関「おう、顧大嫂」
顧「野郎どもの間に蝶が随分と!」
穆「俺の眼帯に引き寄せられているのだ」
顧「ちょっと私に貸しとくれよ」
穆「おう」
顧「これで私の周りにも蝶が」
関「来たぞ」
呼「なんだか飛び方が違う…」
穆「蛾だな」
関「これは蛾だ」
呼「蛾だ」
顧「…」

穆弘…機嫌を直せ!顧大嫂!
関勝…俺たちに当たらなくても良いではないか!
呼延灼…引くぞ!お前たち!

顧大嫂…キレた。

遊撃隊

遊撃隊…どいつもこいつも同レベルなのだ。

人物
史進(ししん)…隊長なのに全くリスペクトされていない。
杜興(とこう)…執事だったのに全くその経験が生きていない。
陳達(ちんたつ)…少華山の二番手だったのに、史進の扱いがぞんざい。
施恩(しおん)…替天行道が好きすぎる将校。他の本も読もうよ。
穆春(ぼくしゅん)…過保護すぎる穆弘からいつも逃げ切れない。
鄒淵(すうえん)…虎を捕まえてきた時はみんなで大騒ぎだった。

11.
鄒淵「雪が降ったぞ!」
陳達「史進を埋めろ!」
鄒「よしきた!」
史進「何をする、貴様ら!」
鄒「猟師時代に培った縄術を見ろ!」
史「!?」
陳「捕らえたな」
鄒「史進を埋めるぞ!」
杜興「わしもやらせてくれ」
史「おのれ!」

史「」
陳「史進が氷漬けになってしまった」
鄒「どうしたものか」

杜「解凍するか?」
陳「したら復讐されるのは目に見えている」
杜「聚義庁から出動要請が出ているぞ?」
鄒「弱ったな」
陳「なんとか俺たちが復讐されず史進を解凍する方法はないものか」
杜「身勝手な」
鄒「今回ばかりは史進を奇襲した俺たちに非があるのは否めん」
杜「潔く放置して出動しよう」

史「」

史「…」

史「…おのれ」

宋江「おや、史進?」
史「宋江殿」
宋「遊撃隊は出動したのではないのか?」
史「遊撃隊のクズどもに氷漬けにされていたのです」
宋「なんと」
史「許せん」
宋「ならば私も共に復讐するぞ」
史「宋江殿まで」
宋「恐ろしい罰を与えてやろう、史進」
史「はい!」

史進…遊撃隊の三人を晒者にした。
宋江…磔にせよ。

杜興…宋江殿を味方にするとは…
陳達…また俺たちで復讐しよう。
鄒淵…負の連鎖が始まったな。

12.
陳達「史進!俺と飲みに行くぞ!」
鄒淵「いや、史進は俺と狩りに行くのだ!」
史進「引っ張り合うな!」
陳「引っ張り合わなければ史進を取りあえんだろう」
鄒「その手を離せ、陳達!」
陳「なんの!」
史「腕が引きちぎれちまう!」
杜興「おう史進の取り合いか」
陳「離さんぞ!」
鄒「俺もだ!」

杜「史進の悲鳴に耐えかねて、思わず手を離した者に史進を渡すつもりだったが」
陳「…」
鄒「…」
杜「貴様らものの見事に史進の両肩を脱臼させるまで引っ張りあいおったな」
陳「鄒淵が離さんのが悪い」
鄒「陳達も同じことだ」
杜「幸い燕青が脱臼した両肩をはめる技を持っていたから良いものの…」

史「俺を脱臼させた馬鹿二匹はどこだ、爺」
杜「既に逃げた」
史「ならば貴様を代わりに冥土に送ってやろうか」
杜「わしは何もしとらん」
史「何もしなかったのが貴様の罪だ」
杜「分かった。二人の居場所を教えよう」
史「さっさと教えろ」
杜「李瑞蘭のいる妓楼だ」
史「罪に罪を重ねるつもりか!」

史進…妓楼で大暴れ。今度は着てたという。
杜興…名奉行になりたかったらしいがお前では無理だ。
陳達…史進の棒を喰らって全裸で悶絶。
鄒淵…史進の棒を喰らって全裸で失神。

水軍

水軍…水上を行きかうセクション。戦だけじゃ能がない。

人物
李俊(りしゅん)…こう見えて交易も結構得意。だてに闇塩商人やってない。
張順(ちょうじゅん)…甥っ子の張敬が潜りについてくるようになった。
阮小七(げんしょうしち)…阮小五の梁山湖マニュアルが凄く役立ってる。
童猛(どうもう)…湖底調査がやたら楽しくなってきた。
項充(こうじゅう)…飛刀を研ぐ時間を大事にしている。
阮小二(げんしょうじ)…趙林の腕が上がっているのが嬉しい。

13.
李俊「船以外の水で使う乗り物は作れないか?」
阮小二「意味が分からん」
李「船は水上を行くだろう?」
阮「ああ」
李「水中を行く乗り物は作れないか?」
阮「その発想はないな」
趙林「水中じゃ船は漕げませんよ」
李「工夫しろ」
趙「そんなこと言ったって…」
阮「何か考えてみよう」
趙「ええ」

趙「どうすんですか、隊長」
阮「水中で動くための策を考えるぞ」
趙「手で漕ぐ以外に?」
阮「足で漕ぐのはどうだ?」
趙「足があったか」
阮「白鳥は水面を凄い勢いでバタ足していると言う」
趙「ならば回す動力はどうでしょう」
阮「なるほどな」
趙「車輪を回せればいけそうですね」
阮「やるぞ」

阮「できたぞ!」
趙「車輪を漕いで回して動く仕組みを考えました」
李「おう」
阮「試作で車輪を漕いで回す船を作った」
李「これは?」
趙「乗ってください、李俊殿」
李「この頭はなんだ?」
阮「混江竜に決まってる」
趙「梁山泊を一周してください」
李「俺は混湖竜ではない!」
阮「日和るな!」

李俊…途中で足を攣った。
阮小二…これはこれで使えそうだな。
趙林…カップルが喜びそうですね。

二竜山

二竜山…プライベートくらい隙だらけでもよいではないか。

人物
楊志(ようし)…済仁美と楊令の元に帰る前日から顔がにやけている。
秦明(しんめい)…公淑と秦容の所に帰ってからは良い父親の顔。
解珍(かいちん)…解宝とたまに飯を食うときは罵りあってばっかり。
郝思文(かくしぶん)…家族団欒の食事の時間が何よりの楽しみ。
石秀(せきしゅう)…曹正と罵り合いながら、楊志一家の団欒をのぞき見している。
周通(しゅうとう)…済仁美の幸せを遠くから願っているという噂が。
曹正(そうせい)…こいつはソーセージを作らずにはいられないのか。
蔣敬(しょうけい)…楊志から楊令の土産に買って帰るおもちゃの相談をうけた。
李立(りりつ)…李俊一味との飲み会は危機回避能力が試される。
黄信(こうしん)…一緒に飲んでくれる相手がいないと愚痴りたおしているが、そういうところだってば。
燕順(えんじゅん)…清風山にいた子分たちを可愛がっていた。
鄭天寿(ていてんじゅ)…清風山にいた子分たちから慕われていた。
郭盛(かくせい)…楊令との稽古中はいつも真剣勝負。
楊春(ようしゅん)…戦場に出たら頼りがいに満ち溢れ始める不思議な男。
鄒潤(すうじゅん)…おたふくかぜになったらほっぺに瘤ができたと笑われた。
龔旺(きょうおう)…張清夫婦の斜め上な関係性が不思議でならない。

14.
楊志「令!」
楊令「父上!」
志「合体だ!」
令「合体!」
済仁美「それは?」
令「父上と合体したのです!」
志「我らは無敵だ!」
済「私も合体したい」
令「母上も?」
志「仁美も合体だ!」
済「はい!」
志(位置が)

曹正「相変わらずぬるい」
石秀「何を覗いている」
曹「俺はスポンサーだぞ」

曹「楊志一家のぬるすぎる日常ほど、いい酒の肴はない」
石「楊志殿を豚の餌の足しにするな」
曹「また始まったぞ、石秀」
石「なにがだ」

令「父上の着物がかっこ悪い!」
志「令とお揃いにしたのだぞ!」
令「子どもが着る着物ではありませんか!」
志「大人だって着たいことはあるのだ!」

曹「こんな隙だらけの日常を晒しているとは、二竜山の兵たちも思うまいな」
石「ある意味周通よりだらしない」

志「腹ペコだ!仁美!」
済「曹正殿のソーセージを温めてます」
令「また曹正殿の?」
志「まだ二竜山にもしこたま残っているのだ」
令「もう飽きました」
志「私もだ」

曹「けしからん」

楊志…視線を感じるのは気のせいか。
済仁美…シャレになりませんから、石秀殿に相談しては?
楊令…白嵐に警備をお願いしました。

曹正…白嵐によりボロ雑巾にされた。
石秀…曹正を見殺しにして逃げた。

15.
楊志「誰が一番令を喜ばせることができるか競おう」
済仁美「審査員長は私が」
楊「まずは曹正!」
曹正「ソーセージをしこたま作ってきたぜ」
楊令「こんなにたくさん食べられません」
曹「好物ではないか」
令「もう飽きたって言ってるではないですか」
済「そこまで」
志「マンネリにもほどがある」

志「石秀!」
石秀「曹正を罵って遊ぶぞ」
令「…」
石「見ろ。脳が豚肉のミンチでできている豚がいるぞ」
令「添加物が心配ですね」
石「何が混入していようと元の肉が最悪なのだから気にするな」
令「レバーはどうですか?」
石「脂肪肝のレバーなど」
済「そこまで」
志「曹正の罰を受けろ、石秀」

志「私だ」
令「…」
志「新たな秘術を会得した」
令「どんな?」
志「…いかん口から何かが出てきそうだ」
令「父上?」
志「堪えきれん!」
令「父上!」
志「!」
令「!?」
志「鳩が出てきた」
令「すごい!」
済「そこまで」
志「完勝だな」
令「父上!」
周通(丸見えだったが)
蔣敬(楊令もぬるい)

楊志…手品を教える馬桂一座の部下はいつもイライラするらしい。
済仁美…令が元気ならそれでいいのです。
楊令…子供騙しに騙される子供。

曹正…ベーコン作りを始めた。
石秀…ラードを刻む罰を与えられた。
周通…タップダンスを披露したがイマイチ。
蔣敬…円周率を暗唱したがイマイチ。

双頭山

双頭山…梁山泊のBクラスという風評被害を払拭中。

人物
朱仝(しゅどう)…双頭山に赴任してから髭がパサパサして嫌。
雷横(らいおう)…双頭山に赴任してから馴染みの居酒屋ができた。
董平(とうへい)…双頭山に赴任してからバンド活動を始めた。
宋清(そうせい)…双頭山の兵站の仕事を一人で回し始めた。
孟康(もうこう)…塩の道への移籍作業中。書類の山に辟易。
李忠(りちゅう)…兵站担当に感謝して口にするようにしている。
孫立(そんりつ)…鞭は呼延灼といい勝負。
鮑旭(ほうきょく)…李逵の面倒を意外と見ることができたらしい。
単廷珪(たんていけい)… 水攻めするときのための積立貯金をしている。
楽和(がくわ)…バンドの曲が勝手に宋のサブスクに配信されていたのを発見した。

16.
雷横「お前はなぜ宋江殿の供に加わったのだ、陶宗旺?」
陶宗旺「宋江様が私の家に泊まられたのがきっかけでした」
雷「ほう」
陶「宋江様から字と計算を習って、武松殿に替天行道をいただき…」
雷「そういう縁か」
陶「そして、母上が私の背中を押してくださったおかげで、今私はここにいるのです」

雷「御母堂が?」
陶「はい。母上のためにも、私は梁山泊で力の限り戦います」
雷「なるほどな…」
陶「雷横殿は?」
雷「忘れられない部下がいる」
陶「…」
雷「いや、忘れてはいけない男がいる、だな」
陶「その人のために?」
雷「そいつらへの想いもあるが、やはり俺は自分のために戦っている」

陶「これから私は梁山泊で何ができるでしょうか…」
雷「石積みがあるだろう?」
陶「それはありますが…」
雷「お前は築くことと崩す事が出来るじゃないか」
陶「はい」
雷「石積みを築くためには、地の利にも精通せんとな」
陶「そうですね!」
雷「俺はお前を見ているぞ、陶宗旺」
陶「雷横殿は?」

陶宗旺…いつも雷横殿に見られていると思って、石積みを築いています。

雷横…最期の飛翔間際のことである。

流花寨

流花寨…水軍との連携も大事な重要拠点。

人物
花栄(かえい)…大将なのに一番最後に泳げるようになった。
朱武(しゅぶ)…石兵八陣を作るスペースがなくてがっかり。
孔明(こうめい)…落し穴を掘る時に孔明の罠ですねってよく言われる。
欧鵬(おうほう)…鉄槍を使った跳躍力が自慢。
呂方(りょほう)…方天戟を赤く塗った時、まだ乾いてないのに触ってしまった。
魏定国(ぎていこく)…瓢箪矢を飛ばすときの音マネするやつが現れた。
陶宗旺(とうそうおう)…鉄鍬を使って戦うと結構強い。

17.
花栄「!!」
朱武「…誰も引けない弓を引く力はあるというのに」

花「陶宗旺持ってくれ!重い!」
陶宗旺「一人二つがノルマですよ、花栄殿」

朱「石を持つ力が兵より無いのはなぜなんだ、孔明?」
孔明「不思議だよな」

花「弓より重いものを引いた事がないんだ!」
陶「引くじゃなくて持つです」

花「両腕が筋肉痛だ…」
陶「まったく」
朱「じゃあ弓も引けんな」
孔「仕方ない」
花「弓ならいくらでも引いてやろう!」
朱「勝手な男だな」
欧鵬「花栄殿!水練の調練の時間ですよ!」
花「今日は寒いから無しだな」
朱「ぬるいことを言うな!」
花「ぬるくない!寒い!」
孔「観念してください!」

花「冷たい…」
欧「唇が気の毒なほど紫ですぜ」
朱「水中から弓を射たらどうだ?」
花「それだ!」
孔「呂方の方天戟の先っぽに当ててください!」
花「容易い!」
欧(俄然元気に)
花「!!」
呂方「すごい!」
欧「すげえものを見た」
花「…」
欧「…」
花「じゃあ上がるぞ」
欧「始めてもない!」

花栄…弓以外の調練や仕事はごねがち。
朱武…秦明殿に叱ってもらおうか。
孔明…よく張り倒されてたぞ。
陶宗旺…花栄を腕相撲で瞬殺。
欧鵬…花栄を棒高跳びで瞬殺。
呂方…花栄をジャンケンで瞬殺。

聚義庁

聚義庁…大事な会議よりしょうもない会議のほうが白熱する。

人物
晁蓋(ちょうがい)…史進の罰は棒打ちでいいだろう。
宋江(そうこう)…いや、去勢だ。
盧俊義(ろしゅんぎ)…私も去勢に賛成だ。
呉用(ごよう)…塾の子どもたちが入山の挨拶に来た時にしんみりした。
柴進(さいしん)…頭上で槍を百回回す男のことなんて、とっくに覚えてない。
阮小五(げんしょうご)…呉用と相性がいいのが自分でも不思議。
宣賛(せんさん)…頭巾の素材をウールにしたらチクチクした。

18.
宋江「梁山泊最強の虎は誰だ!」

雷横「!」
燕順「!」
王英「!」
陳達「!」
薛永「!」
龔旺「!」
丁得孫「!」
李雲「!」
朱富「!」
顧大嫂「!!」

晁蓋「随分と多いな」
呉用「強者揃いだ」
宋「対するは!」

李忠「…」
武松「!」

呉「打虎将を名乗ったばかりに」
盧俊義「仕方ない」

呉「十頭もの虎を相手に何をさせるのですか?」
宋「立合いだけか?」
晁「青眼虎の建築や笑面虎の料理ではあの二人が勝てる気がせんぞ」
盧「やはり立合いか」
宋「幸い立合い自慢も多い事だし」
呉「そうしましょう」
晁「虎との立合い!」
盧「一人目!」

李「先に行ってくれ」
武「そうはいかん」

宋「李忠は呆気なく討ち取られたが、武松は討ち取れなかったか」
晁「それは読めていた」
呉「虎同士の競い合いですね」
盧「バトルロイヤルにしよう」
宋「始め!」

宋「朱富と薛永の痺れ薬に龔旺と丁得孫がかかった」
盧「顧大嫂が王英を叩きのめした」
晁「燕順と李雲、雷横と陳達がいい勝負だ!」

雷横、燕順、王英、陳達、薛永、龔旺、丁得孫、李雲、朱富、顧大嫂…梁山泊の誇る虎の面々。バラエティー豊かな上に強い。

李忠…周通に励まされた。
武松…李逵と虎退治。

晁蓋…今年もよろしく頼む!
宋江…結局どうなった?
盧俊義…顧大嫂と朱富の飯には敵わん。
呉用…どんな年になるやら。

19.
呉用「…」
晁蓋「鬱々としているな、呉用」
呉「晁蓋殿」
晁「気晴らしをした方がいい」
呉「そうはいきません」
晁「いや、ついてこい!」
呉「そんな無茶な」
晁「気晴らしの達人たちの教えを受けて、テンションを上げるのだ、呉用」
呉「そんな必要ありません!」
晁「ある!」
呉「ありません!」

晁「気晴らしの達人の面々だ」
史進「…」
穆弘「…」
李逵「…」
呉「一体どんな気晴らしを?」
史「着物を脱ぎ、奇声をあげて走り回ります」
穆「弟の写真撮影に勤しみます」
李「香料になる野草を探すぜ」
晁「どれから試す?」
呉「李逵の」
晁「史進のやつから試してみようか」
呉「話を聞け!」

呉「…」
史「さあ呉用殿」
晁「気分転換のためだ、呉用」
呉「着物を脱がなくてもいいのでは?」
史「着物を脱ぐことで、外気と一体化し梁山泊の精霊の声が聞こえてくるのです」
呉「今思いついたな、史進」
史「共に走ろう、呉用殿」
晁「はじめ!」
史「!!」
呉「…」
晁「…李逵と山に行こうか」

呉用…山歩きで気分転換。
晁蓋…きのこを拾ったら毒キノコだった。
李逵…もっと外の空気をすった方がいいぜ。

史進…梁山泊の精霊から着物を着ろと言われた。
穆弘…穆春の写真撮影は穆春にとってのストレスと気づいていない。

20.
晁蓋「呉用」
呉用「なんですか」
晁「でんぐり返しをしないか」
呉「なぜ?」
晁「なぜでもだ」
呉「分かりました」
晁「阮小五もやるぞ」
阮小五「分かりました」
晁「いざ!」
呉「…」
阮「…」
晁「!」
呉「!」
阮「!」
晁「よし、調練に行くぞ」
呉「仕事に」
阮「私も…」
白勝「儀式か?」

晁蓋…元気が出た。
呉用…勢いが出た。
阮小五…ノリが良くなった。

白勝…やってみたら公孫勝に見られた。

21.
晁蓋「お前は嘘をついたことがあるか、呉用?」
呉用「私はそんな不誠実なことはしません」
晁「嘘一つつけなければ、軍師などできんぞ?」
呉「少なくとも晁蓋殿に対しては嘘をついたことはありません」
晁「本当か?」
呉「今まで私が晁蓋殿に嘘をついたことが?」
晁「…あるな」
呉「それは?」

晁「お前が塾の講師をしていた時」
呉「はい」
晁「しこたま酒を飲みせた翌日のことだ」
呉「そんなこともありましたな」
晁「私に無理やり飲まされたという嘘をついたぞ」
呉「間違いなく本当のことでしょう」
晁「いや、嘘だ」
呉「本当です」
晁「女に振られたとか言って勝手に飲み出しただろう!」

呉「それは晁蓋殿が嘘をついています」
晁「いや、本当だ」
呉「私にそんな浮いた話があったとお思いですか?」
晁「…思わん」
呉「じゃあ嘘ではないですか」
晁「呉用」
呉「なんですか」
晁「言ってて寂しくないのか?」
呉「…少し」
晁「…」
呉「…」
晁「今日は飲むか」
呉「飲みましょう」

晁蓋…お互い独り身だな。
呉用…晁蓋殿は大丈夫ですよ。

22.
柴進(会議が始まって早六刻)
呉用「〜」
宋江「zzz…」
盧俊義「ZZZ…」
宣賛「…」
柴(宣賛)
宣「…」
柴(寝ているな…)
宣「…」
柴(…)
呉「〜」
柴(頭巾の前後を入れ替えてやろう)
宣「…」
柴(よし)
呉「次、宣賛前へ」
宣「はい」
呉「…」
宣「何も見えん!」
呉「宣賛」
宣「なにが起きた!」

柴進…呉用と頭巾を脱いだ宣賛からキツめに怒られた。

宋江…聞いてると眠くなる寝息。
盧俊義…聞いてるとウンザリするいびき。
呉用…宋江と盧俊義が寝ててもなんとも思わなくなった。会議は意地でも続ける。
宣賛…前後不覚とはこのことだ!

23.
宋江「梁山泊をPRするために、女傑三人衆に集まってもらった」
扈三娘「…」
顧大嫂「…」
孫二娘「…」
呉用「この三人が何をPRするのですか?」
宋「梁山泊の自然の美しさだ」
呉「観光客でも増やすのですか?」
宋「それもあるな」
呉「青蓮寺の手の者が混ざっていたら?」
宋「その時はその時だ」

呉(一体何のためのPRなのだ)
宋「蝶をあしらった衣装がよく似合っている」
扈「…」
顧「…」
孫「…」
宋「顧大嫂は蝶というよりも、蛾だな」
顧「!」
呉「宋江殿!」
宋「この衣装で梁山湖のほとりを駆け巡ってくれ」
扈「宋江殿」
宋「どうした、扈三娘?」
扈「目的が全く分からないのですが」

宋「目的は梁山泊の自然のPRだと言った」
扈「私たちじゃなくても」
宋「海棠の花と呼ばれているではないか」
扈「それとこれとは」
顧「宋江殿と呉用殿がやってもいいじゃないか」
孫「そうだ」
呉「私が?」
宋「一理ある…」
顧「この衣装を着てください」
宋「どれどれ」
呉「私も!?」
孫「当然」

宋江…みずぼらしい蝶だな、呉用。
呉用…宋江殿だって、綺麗とは言えません。

扈三娘…衣装は綺麗だけど表情が死んでる。
顧大嫂…蛾と呼ばれたのを根に持っている。
孫二娘…結局何だったんだい?この企画。

24.
宋江「梁山泊試験の合格発表を行う」
晁蓋「安道全!穆弘!」
安道全「…」
穆弘「…」
晁「合格!」
宋「見事だ!」
晁「馬麟!鮑旭!」
馬麟「…」
鮑旭「…」
晁「合格!」
宋「おめでとう!」
晁「劉唐!呉用!」
劉唐「…」
呉用「…」
晁「合格!」
宋「よくやった!」
晁「皆に春が訪れたな!」

晁蓋…それでは宴を始めようか!
宋江…我らも全力で応援しているぞ!

安道全…医者になり始めの頃を思い出した。
穆弘…顔役になりたての頃を思い出した。

馬麟…鉄笛の吹き始めを思い出す。
鮑旭…子午山を思い出す。

劉唐…公孫勝との出会いを思い出す。
呉用…晁蓋との出会いを思い出す。

25.
呉用「今日は呉用の日です」
晁蓋「…」
宋江「…」
呉「三万とか十万とかそんな議論をするのはやめにしましょう」
晁「…」
宋「…」
呉「呉用の日は、私を崇め奉ってください」
晁「それは構わんが…」
宋「どうなっても知らんぞ、呉用」
呉「今日という日だけは、私は強気になれるのです、宋江殿」

阮小二「神輿が降りてくるぞ」
阮小七「担いでいるのは晁蓋殿と宋江殿だ」
李俊「担がれてるのは?」
童猛「呉用殿だ、兄貴」
李「正気か?」
呉「今日は呉用の日だから私の言うことを聞くのだ」
七「ふざけんな!」
晁「静まれ阮小七」
宋「呉用殿の前だぞ」
ニ「何か悪いものでも食ったのですか?」

呉「今日一日くらい、私を大事にしても罰は当たらんぞ?」
李「だったら水軍の兵をもっと増やしてくれ」
ニ「船ばっかりできても漕ぎ手がいないんじゃ単なる木材だ」
七「呉用殿が漕げ!」
呉「黙れ!」
李「なんだってんだ、今日は」
ニ「俺たちだったら、毎月ニか七のつく日は俺たちの日じゃないか」

呉用…翌朝はまた人が変わったようにちっちゃくなった。
晁蓋…極端だな呉用。
宋江…もっと太々しくなれ。

李俊…気分と機嫌が悪いったらない。
阮小二…二月が誕生日らしい。
阮小七…七月が誕生日らしい。
童猛…毎年童威と誕生日ケーキのトッピングを奪い合うらしい。

26.
柴進「済州の銭の流れが芳しくないぞ、呉用殿」
盧俊義「梁山泊内でも銭が滞留している」
呉用「原因は分かっています、盧俊義殿」
盧「それは?」
呉「我らが銭を使わないからです」
柴「?」
呉「盧俊義殿も柴進も大金持ち故か、銭を消費するという概念を持たれていない」
盧「貯まる一方だからな」

柴「梁中書の生辰綱なんか鼻くそみたいなものだ」
呉「名札を持っている者も銭を使わなくて…」
史進「それは違うぞ、呉用殿!」
呉「史進?」
史「銭を使わないのではない。使うところがないのだ!」
盧「盲点だった」
史「今月も朱富の店と済州の妓楼でしか使えなかったのだ」
呉「また行ったのか」

柴「だが私たちが銭を使うところがないのは由々しい問題だ」
呉「そういえば私も使わなくて久しい」
史「これでは何のために遊撃隊を率いているのか分からないぞ、呉用殿」
呉「志のためではないのか?」
盧「志と銭の使い場所の話は別だ、呉用」
史「さすが盧俊義殿」
盧「私が使い場所を用意しよう」

盧俊義…我らの手で大々的な博打場を作るのだ!
呉用…裴宣が卒倒します。
柴進…実家の預金がまだまだ唸るほどある。
史進…妓楼だって月に1回行ければいい方なのだぞ!

調練場

調練場…みんな元気に外遊び!

人物
徐寧(じょねい)…自慢の鎧の音がクソうるさい調練教官。

27.
李逵「板斧を二本?」
韓滔「呼延灼といい勝負ができるのではないか?」
武松「双鞭と呼ばれていたな」
李「試してみるか」
韓「おい、呼延灼。李逵の二丁斧と立合ってみろ」
呼延灼「なんだと?」
李「双鞭と勝負だ!」
呼「面白い」
武「俺がやめと言ったら終わりだ」
韓「どっちが勝つかのう」

李「…」
呼「…」
李「!!」
呼「!!」
李「!?」
武「さすが双鞭」
韓「李逵の二丁斧を弾き飛ばしおった」
李「やっぱり一本の方が使いやすいぜ」
呼「もう一度やるか」
李「!」
呼「!!」
李「!」
呼「!!」
武「やめ」
韓「動きが大胆になったな、李逵」
呼「俺は一本というわけにはいかん」

李「双鞭は重いのか?」
呼「並の兵では一本も使いこなせんぞ」
李「中々の重さだ」
武「貸してくれ」
韓「武松も武器を使うのか?」
李「持ち手を粉砕するなよ」
呼「俺の鞭はそんな柔ではない」
武「振ってみていいか」
呼「おう」
武「!!」
李「危ねえ!」
湯隆「」
韓「木が粉々だぞ」
武「…」

武松…拳でもたたき折れるけど、鞭でもたたき折れるとは。
李逵…力加減をわきまえろよ、兄貴。
呼延灼…双鞭は両手で構えるだけで大変な武器。
韓滔…飛んだ災難だったな、湯隆。
湯隆…怪物に殺されかけたぜ…

三兄弟

三兄弟…久しぶりの再開である。

人物
魯達(ろたつ)…なんだかんだで会えるのは嬉しい。
武松(ぶしょう)…いつもより歩調がだいぶ早くなった。
李逵(りき)…武松兄貴の兄貴だって?

28.
武松「…」
李逵「兄貴」
武「なんだ?」
李「嬉しそうじゃねえか」
武「そうか?」
李「これから会う兄貴の兄貴のことか?」
武「…まあな」
李「どんな兄貴なんだ?」
武「会えば分かるさ」
李「愉しみだ!」
武「俺もお前を兄者に会わせたかった」
李「早く行こうぜ!兄貴!」
武「駆けるぞ、李逵」

武「!」
魯達「武松!」
武「…兄者」
魯「…」
武「よかった…」
魯「ああ」
李「あんたが兄貴の兄貴か?」
魯「おう。魯達という」
李「俺は李逵だ!黒旋風ってあだ名もあるぜ!」
魯「宋江殿と武松から聞いているぞ」
李「兄貴の兄貴だから大兄貴って呼んでいいか?」
魯「構わんぞ。よろしくな」

李「大兄貴の腕はどうしちまったんだい?」
魯「使い物にならなくなってな」
武「…」
魯「林冲と鄧飛と一緒に食ってしまった」
李「腕食っちまったのかよ!」
魯「林冲は腹を壊したがな」
李「俺が料理すれば、そんなこともなかったのによ」
魯「料理が上手いそうだな、李逵」
李「飯は任せてくれ!」

魯達…お前らが俺の片腕になってくれよ。
武松…涙をなんとか堪えきった。
李逵…新しい兄貴分ができて大喜び。

養生所&薬方所

養生所&薬方所…林冲を腑分けする会が発足した。

人物
安道全(あんどうぜん)…あの筋肉を切り裂くだけできっとひと仕事だ
薛永(せつえい)…治験役としても活用させてください!
白勝(はくしょう)…新しい治療法を発見できそうだな。

29.
魯達「傑作だったな、白勝」
白勝「何がだよ」
魯「ひとりはわがまま勝手で?」
白「もうひとりはきわめつけの馬鹿さ」
魯「どっちがどっちだ?」
白「どっちも言えるな」
魯「そういうお前は?」
白「そんな二人だから友達なんだ」
魯「なるほどな」
白「まったく、何してやがる」
魯「馬鹿だろ?」

白「生きて帰ってきたらどうしてやろうか」
魯「二度と逆らわせなければいい」
白「本当に生きて帰ってくるかな」
魯「分からん」
白「…」
魯「だから俺たちがいる」
白「…そうだな」
魯「もう一人いるからな」
白「誰が?」
魯「わがまま勝手で、きわめつけの馬鹿を大好きな奴がさ」
白「あいつな」

白「あいつの嫁ってどんな人だったんだ?」
魯「俺は遠くからしか見たことないが」
白「どうだった?」
魯「お似合いだったよ」
白「お似合いか」
魯「あの馬鹿に惚れる女だからな」
白「きっと同じくらい馬鹿だったんだろうな」
魯「馬鹿だった。賭けてもいい」
白「会わせてやりてえ」
魯「俺もだ」

白勝…屋敷はどこだ。
魯達…索超と呂方は同志にできそうだ。

30.
安道全「腑分けされに来たのか、林冲?」
林冲「少し身体が疲れてな」
安「珍しい」
林「身体を揉んでくれ」
安「私はお前の小間使いじゃない」
林「鍼とかいう代物もあるんだろう?」
安「試してやろうか」
林「よろしく頼む」
安「…相変わらず岩のような身体だ」
林「当然だ」
安「私も本気で…」

林「むっ!」
安「ここが林冲の弱点か」
林「待て安道全」
安「待たん」
林「おのれ!」
白勝「何をいちゃついてやがる」
安「林冲の身体を縛り付けておけ、白勝」
林「そのツボはやめてくれ、安道全」
安「やめてくださいと言え」
林「何をヤブ医者が」
安「!」
林「いかん!」
白「仲良いなぁ」

安「身体をほぐしにほぐしたところで鍼を打とう」
林「…」
白(林冲がふやけてやがる)
安「疲労を取る鍼もあるが、人間の可能性を引き出す鍼を試していいか」
林「なんだそれは」
安「書物で読んだのだ」
林「そんな怪しい鍼を打たれてたまるか!」
安「そこ!」
林「!!」
白「すげえものを見た」

林冲…着物が破れるほど筋肉が盛り上がってしまった。
安道全…元に戻す方法?知ってるわけないだろう。
白勝…筋肉を萎ませる薬はないか、薛永。

塩の道

塩の道…過酷すぎる労働量で憎まれ口が減らないセクション。

人物
燕青(えんせい)…淡々とハイクオリティーな仕事をこなす完璧超人。ストレスはどこへ?
蔡福(さいふく)…憎まれ口が減らないデブ。
蔡慶(さいけい)…憎まれ口が減らないのっぽ。

31.
蔡福「労働はクソだ」
蔡慶「兄貴が言ってもな」
福「我らも賽の河原に塩の柱を築き続けて久しいではないか」
慶「塩の柱で家を建てられるくらいには積み重ねたな」
福「その塩の富は全て梁山泊に持っていかれ、我らといえば冷や飯に塩もかけられん」
慶「まあ銭があったとしても使う気力がねえや」

福「盧俊義様、見てください」
盧俊義「なんだ?」
福「働きアリが菓子を運んでいく行列です」
盧「それが?」
福「何か思うところはありませぬか?」
盧「全く」
福「女王アリと巣の繁栄のため、身を粉にして食物を運ぶ働きアリの姿に」
盧「働きアリに思い入れがあるのか?」
福「無いとお思いで?」

燕青「はっきり言え、蔡福」
福「キリギリスめ」
盧「アリとキリギリスがどうした?」
福「働きアリの過酷な労働環境に思いを馳せ、キリギリスの適当なその日暮らしを儚んでいるのです」
盧「今宵は塩の道で働く者の慰労会があるのだが」
燕「蔡福は出席せず身を粉にして働きたいそうです」
福「おい」

盧俊義…それでは新しい塩の道の開拓と燕青の仕事の引き継ぎを頼もうか。
燕青…蔡福もたまには黙らせないとな。
蔡福…憎まれ口の名手。燕青の尻拭いで干からびそうになった。
蔡慶…黙ってりゃいい事もあるのによ。

朱貴・朱富のお店

朱貴・朱富のお店…常連のお残しは決して許さない。

人物
朱貴(しゅき)…野菜をもっと食ってもらわんとな。
朱富(しゅふう)…魚肉饅頭ばかりが売れていく日々。

32.
林冲「食ったぞ」
朱貴「…林冲殿」
林「なんだ」
朱「野菜が随分と残っているように見受けられるのだが」
林「…」
朱「奥方に言われているのだろう?」
林「なぜそれを!」
朱「我らも厳命を受けているのだ」
陳麗「林冲殿に野菜を食べさせるようにと」
林「いつの間に…」
朱「自分の健康のためだ」

林「俺は肉だけで健康ではないか!」
朱「しかし張藍殿は迷惑されているというぞ」
林「なににだ!」
陳「…体臭がキツくなったと」
林「!!」
朱「観念しろ、林冲殿」
陳「美味しく食べましょう」
林「やむなしか…」
朱(子どもの躾だな)
陳(男の躾はそんなもんです)
林「この苦味が堪らんのだ…」

朱「素材の味だぞ」
陳「人にも味があるではありませんか」
林「食ったことあるのか!」
朱「違う」
陳「そうではなく、人柄や個性を活かすのも将の仕事ではないですか」
林「うむ」
陳「食材の味を生かすのが料理人の仕事というわけです」
林「しかしどうしても相容れない奴というのはいるだろう?」

林冲…ほうれん草がどうしても食べれず持久戦。

朱貴…いつまで座っているのだ。
陳麗…こちらも腹を据えましょう。

間者

間者…それぞれが潜入で役に立つ芸をもっているのだ。

人物
時遷(じせん)…変装や軟体芸からあらゆる潜入芸の達人。
石勇(せきゆう)…そこそこ身体が大きいのがネックで、隙間にはさまることもしばしば。
侯健(こうけん)…裁縫の達人。梁山泊でも彼にオーダーメイドの着物を頼むものが多い。
孫新(そんしん)…人の懐に入り込むのがうまい。
顧大嫂(こだいそう)…料理と人殺しの名手。
張青(ちょうせい)…人の心の隙間に入り込む匠。
孫二娘(そんじじょう)…事務職に専念しているが、本当はギリギリの潜入ミッションがしたい。

33.
時遷「侯真」
侯真「はい、師匠」
侯健「…」
時「特訓の成果を見せてやれ」
真「はい!」
健「…」
真「今から母上の買物袋に入ります」
健「…」
真「!!」
健(なんという音だ)
真「!!」
健「ちゃんと身体は元通りになるんだろうな、時遷」
真「師匠!」
時「おう!」
真「見事に入りました!」

時「俺の全盛期でもここまで身体を収納できたか…」
健「もういいから出てこい」
真「…ちょっとひっかかって」
母「あなた、私の袋を…」
真「母上!」
母「真!?」
健「これはだな、お前…」
時「すぐに元通りにいたします!」
母「早く!」
時「それ!」
真「師匠、向きが逆です!」
時「はまれ!」

母「二度と真に近づかないでください!」
時「…」
真「…父上、師匠が」
健「やむなしだ」
時「侯真、お前の母上のご意向でもうこの姿では会えなくなってしまった」
真「師匠!」
健「この姿では会えないんだな」
時「そういうことだ」
真「?」

時「来たぞ侯真」
真「師匠!」
健「何という変装だ」

時遷…軟体芸の達人でもあるが、変装の達人でもあるのだ。
侯健…相変わらずろくなことを教えんな。
侯真…この修行の成果が花開くのは青年期になってから。

…胡散臭い時遷はなんか嫌。蚤みたい。

牢屋

牢屋…医療担当の囚人たち三人がいい名物になっている。

34.
安道全「林冲」
林冲「…」
安「これはなんだ」
林「…お前に言われて作った薬だ」
安「私は粉にしろと言った。ヘドロを作れなどと言っていない」
林「…」
安「お前の脳は筋肉であって、ヘドロではないだろう」
林「…」
安「脳が筋肉でも、ヘドロよりはマシな物を作るだろうと思った私が愚かだった」

林「そこまで言わなくても」
安「それに引きかえ白勝の薬のきめ細やかさを見ろ、林冲」
白勝「どうだ」
安「やはり薬作りは白勝に任せるしかない」
林「俺が極寒の中採集してきたことを忘れるな!」
安「ほとんど雑草の中のごくごく一握りしか取ってこないではないか」
林「足枷をして探してるのだが」

安「どちらにしろ、ほんの一握りしかない薬草で作った薬がヘドロになっては敵わんのだ」
林「飲めば一緒だ」
安「誰が飲むものか」
白「安先生!足元!」
安「いかん!」
林「白勝の薬が!」
安「…」
白「できが良くてもひっくり返されたら世話ねえや…」
安「…」
林「俺の薬使うか?」
安「使わん」

林冲…採集プロセスをガン無視されるのが釈然としない。
安道全…粉にする作業を命じたのにヘドロが出来上がるのが釈然としない。
白勝…結局一から作り直すことになるのが釈然としない。

青州軍

青州軍…黄信自慢の喪門剣の行方は…

35.
秦明「黄信が?」
花栄「喪門剣を無くしたそうです」
孔明「なんでそんなことが?」
孔亮「誰が好き好んであんな中途半端な長さの剣を」
黄信「なんだと、孔亮」
秦「盗まれたのか?」
黄「そんな不届き者が青州軍にいるのですか?」
花「私たちはあんな微妙な剣を間違えたりしないぞ、黄信」
黄「…」

明「何かの代わりに使われてるんじゃないですか?」
黄「なんの代わりにするんだ」
亮「そうだぞ、兄貴」
黄「…」
亮「杖にも物干し竿にするにも中途半端な剣じゃないか」
黄「お前は喪門剣に恨みでもあるのか、孔亮?」
秦「しかしな黄信」
黄「なんですか?」
秦「本当にあの長さで良かったのか?」

黄「秦明殿まで」
秦「長さを活かすならばもっと長く、キレを活かすならばもっと鋭くするべきだったと、私は思うぞ」
黄「あれが私の最適な長さと切れ味なのです、秦明殿」
花「あの鞘は喪門剣じゃないか、黄信?」
黄「どれだ?」
花「兵が靴べらの代わりに使っていた!」
黄「今すぐ斬り捨ててやる」

秦明…狼牙棒の使い手だから、重くて長い剣が好き。
花栄…弓矢の使い手だから、しなやかな剣が好き。
黄信…喪門剣というとっておきの剣を使っているが、すごく中途半端な長さという評判。
孔明…俺は朴刀が使いやすいな。
孔亮…俺は短剣が使いやすい。

雄州

雄州…天真爛漫でのびのびできるのは将軍だけ。部下はたまったもんじゃない。

36.
関勝「ストレスとは何か知りたい」
郝思文「それは常日頃私たちが感じている…」
魏定国「天真爛漫な関勝殿でしたら、お昼寝するだけで解消されますよ」
単廷珪「その間の我らのストレスは天井知らずですがね」
関「午後はお昼寝をしてもいいのか?」
郝「だめです!」
魏「知府との仕事がありますよ」

関「…」
単「昼寝をしたらダメと言ったらこのむくれっぷり」
郝「間違っても寝ないでくださいね、関勝殿」
関「今日は宣賛から借りた頭巾を着用してもいいか?」
魏「いけません」
単「我らの給与査定にも関わる仕事なのですから」
関「お前らを養う金ならあるが?」
魏「それは」
郝「籠絡するな!」

関「会議に飽きましたので、遠駆けをしてもよいですかな、知府殿」
知府「それは」
郝「関勝殿!」
関「知府殿が決断すると言えば、半刻もかからぬ会議ではないですか」
知「…」
関「あとは知府殿のご決断次第」
郝「…」
関「私も郝嬌様との大事な約束があるので、これで」
郝「…」
知「郝嬌様?」

関勝…郝嬌様とお人形遊びをしなくてはならない約束があるのだ。
郝思文…その夜は知府に酒を奢ってもらったという。
魏定国…瓢箪矢の予算を回してもらいたい。
単廷珪…水攻めをするための土木工事の予算を回してもらいたい。

梁山泊の嫁

梁山泊の嫁…旦那衆がどんな手を使ってもかなわない面々である。

37.
張藍「それで林冲様が最後にこう言ったんです」
瓊英「…」
金翠蓮「…」
張「…なんだっけ?」
瓊「」
金「」
張「そんなことより、最近扈三娘がね」
金「ちょっと待って、張藍」
張「何か?」
金「最後に林冲殿はなんて言ったの?」
張「忘れちゃった」
金「あなたはそれでいいかもしれないけど!」

瓊「私たちからすれば、最後の林冲殿の一言を聞きたくて、ここまで我慢して話を聴いていたのですよ」
張「まあ」
金「だから思い出して、張藍!」
張「そんなに面白かった?」
金「面白い、面白くないじゃなくて、単純にオチが気になるだけ」
瓊「いつもの惚気なのは変わりありませんから」
張「おい」

金「林冲殿は拗ねてなんて言ったの?」
瓊「もう張藍の飯など食わん!ですか?」
金「張藍の名前なんて忘れてやる!じゃない?」
張「そんなこと言いません!」
瓊「ではもっとレベルの低いことを言ったのですね」
金「張藍のデベソ!とか」
張「失礼ね!」
瓊「張清様も言いません」
金「宣賛様も!」

張藍…言われてみれば、張藍のブス!とか、そんなことを言われた気がしてきた。
瓊英…張清から褒め言葉を浴びる一方。
金翠蓮…宣賛から優しい言葉を浴びる一方。

子午山

子午山…武術を習う者はもれなく死域を体験できるというが、そこまでのガッツのある強者はそうそういない。

人物
王母(おうぼ)…演奏している時は共演者も死域に巻き込む。
王進(おうしん)…死域が日常化している師範。

38.
馬麟「また王進先生が死域に」
鮑旭「馬麟は死域に入ったことはあるか?」
馬「ないな」
鮑「私も稽古こそ積んでいるが、未だに入ったことはない」
馬「ライブの時はどうだ?」
鮑「母上のソロは明らかに死域だと思うが」
馬「俺たちは夢中で演奏しているだけだものな」
鮑「とても死域とは言えん…」

馬「死域に入るまで演奏してみようか」
鮑「なるほど」
馬「俺たちで一日耐久ライブでもやれば死域に入れるかもしれん」
鮑「母上に無理はさせられんぞ、馬麟」
王母「聞き捨てなりません、鮑旭」
鮑「母上!」
王「そんな素敵な企画に私を招かないとは」
鮑「しかし」
王「死ぬならそこまでの命です」

馬(さすが王進先生の御母堂)
王「思い出しますね、昔のことを」
鮑「母上にもそんな過去が?」
王「二人が一日を耐え抜いたら教えてあげましょう」
馬「しかし、死域は達人でも四刻で死に至ると…」
王「死域の使い所です、馬麟」
鮑「我らは入ったことすらないのですが…」
王「そのための調練です」

王母…曲の中の心を掴み取るのです!
鮑旭…ギターソロの死域が垣間見えた。
馬麟…鉄笛の死域がぼやけて見えた。

王進…土を捏ねていて死域。

禁軍

禁軍…たまに帝の気まぐれで、スポーツ大会が催されることがあるという。

人物
童貫(どうかん)…スポーツ万能でないと禁軍元帥は務まらない。
趙安(ちょうあん)…フレッシュ!

39.
童貫「…」
鄷美(元帥が九回ツーアウトまでパーフェクトピッチング)
畢勝(ここで迎えるのが高俅とは…)
李明(どんな汚い手を使って出塁を試みるか分からんぞ…)
馬万里(とりあえず俺のところに球が来なければなんでもいい)
高俅「…」
童「!」
高「…」
徽宗「ボール!」
鄷(ここで陛下が主審とは…)

徽「ボール!」
童「…」
畢(明らかなストライクだが…)
李(ここにきて恣意的なジャッジが目立つ)
馬(元帥は顔色ひとつ変えていない)
童「!」
高「…」
徽「ボール!」
鄷(そんな!)
畢(高俅め…)
童「…」
鄷(しかし元帥なら)
畢(元帥なら逆境を跳ね除けてくれるはずだ!)
李(我らも死域に入ります)

鄷(さすがの陛下も文句のつけようのないストライクを二つとった)
畢(空振り三振で完全試合だ!)
童「…」
高「…」
童「!」
高「!」
鄷「ピッチャーゴロ!」
畢「ボテボテだ!」
童「!」
高「!」
馬「!」
李(アウトだ!)
袁明「セーフ」
馬「そんな!」
李「リクエストを元帥!」
童「…不要だ」

童貫…さすが逃げ足だけは速いな。
鄷美…後続は手も足も出なかったが…
畢勝…完全試合を逃したのは事実。
李明…袁明殿が誤ったとは思わんが。
馬万里…釈然としないな。

高俅…なりふり構わない出塁はさすが。
徽宗…ノリで主審を買って出る厄介者。

袁明…高俅の足の方が半歩速かった。

40.
趙安「私は、あなたを好きでした、呼延灼将軍」
呼延灼「俺も、趙安という男は好きだったよ」

公順「…」
何信「…」
公「高俅がドローンで撮影していたという趙安殿の動画が投稿されています」
何「何という再生数だ」
公「音MADも数えきれないほど投稿されています」
何「趙安殿は知っているのか」

公「しかし、不穏だと思いませんか、何信殿?」
何「なにがだ?」
公「趙安殿は、好きでした」
何「…」
公「呼延灼も、好きだった」
何「…」
公「果たしてこれは両想いだったのでしょうか?」
何「それは」
公「なぜ二人とも過去形なのでしょう」
何「たしかに…」

李師師「…」
郝元「李師師様?」

趙安「公順!何信!」
公「趙安殿!」
趙「調練もしないで何を油を売っている!」
何「趙安殿と呼延灼の動画が」
趙「これは!」
公「なぜ過去形なのですか、趙安殿?」
趙「過去形ではない」
何「それは?」
趙「現在進行形だ」
何「…」
公「しかし趙安殿」
趙「なんだ」
公「呼延灼は過去形ですね」

趙安…痛いところを突かれて公順の尻を蹴飛ばした。
公順…困らせようと言ったのではない。
何信…呼延灼はなぜそう言ったのだろう…

李師師…次の夏の祭典の題材が決まった。
郝元…フレッシュマンの資料を揃え始めた。

楊令伝

黒騎兵

黒騎兵…不器用なリーダーをどうやってからかってやろうか。

人物
楊令(ようれい)…不器用極まりないけど、武術と戦は半端ない。
郝瑾(かくきん)…彼もどっちかというと器用な方ではない。
張平(ちょうへい)…めちゃくちゃ器用だが、楊令シンパになってしまったのは不器用極まりない。
蘇端(そたん)…ひょうきん者。なんだかんだ不器用。
蘇琪(そき)…コミュ障なので不器用。
耶律越里(やりつえつり)…でかすぎるので、手先も不器用。

41.
郝瑾「黒騎兵餅つき大会を行う」
張平「楊令殿に臼も杵も持たせるんじゃないぞ」
蘇端「だめだ!もう杵を持っている!」
蘇琪「貸してください、楊令殿」
楊令「嫌だ」
耶律越里「俺たちに任せて座っててくださいよ」
張「最後に座って餅食うのが天下人でしょう?」
楊「俺は、餅をつく男でありたい」

楊「…」
郝「寸分違わぬ吹毛剣の構えだ」
張「しょうがない」
琪「張平がこねるのか」
張「俺たちの連携を見せてやりましょう」
楊「おう」
張「楊令殿、ついて」
楊「!」
張「!?」
楊「…」
張「って言ったらついてくださいって言おうとしたのに…」
楊「そういうのはいい」
郝「七転八倒九転虎だ」

郝「楊令殿がこねてください」
楊「分かった」
耶「杵は俺が」
楊「こい。耶律越里」
耶「!」
楊「…いかん」
耶「!」
楊「間が合わん」
張「こねてください、楊令殿」
楊「早すぎるのだ、張平」
張「こねるのは駄々ではなく、餅です!」
楊「くそっ!」
郝「楊令殿こねて!」
端「駄々ではなく!」

楊令…良いようにおちょくられてご機嫌斜め。
張平…楊令の杵を食らっても、急所を外す身のこなし。
郝瑾…結局私たちが無難にやるのか。
蘇端…そういうもんです。
蘇琪…皇甫端直伝、餅を喉に詰めた男の演技が上手い。
耶律越里…臼も叩き壊す勢いの杵。

42.
武松「楊令殿」
楊令「…」
武「李逵の飯を食っておきながら、吐きそうなものしか作れないとか、俺の料理を馬鹿にしてくれたが」
楊「…」
武「楊令殿だって、王母様の食事をあれだけ食べておきながら、どうしてこんなものしか作れないのだ?」
楊「…武松のよりマシだ」
武「楊令殿に言われたくない」

楊「俺の料理は美味くないかもしれないが、食える」
武「随分と肉が生々しいように見えるが?」
楊「武松の肉は黒々としすぎて、光も当たらん」
武「火が通っていないよりはマシだ」
楊「いや、焦げているよりマシだ」
郝瑾「どちらにしろ誰も食べません」
蘇端「観念して食堂に食べ行きましょうよ」

楊「焼かれない肉が悪いのだ」
郝「珍しく他責志向ですね」
武「焼けすぎる炎が悪いとも言える」
蘇「炎は一定です」
郝「肉を程よい大きさに捌いてから焼けばいいのでは?」
楊「捌くのは任せろ」
郝「包丁が吹毛剣の握りです」
武「肉を叩いて柔らかくするのは任せろ」
蘇「ミンチになります」

楊令…包丁は吹毛剣のようにはいかなかった。
武松…肉が粉になってしまった。

郝瑾…張平がいない時の料理当番をやったら不評だった。
蘇端…言うほどこいつらも料理上手ではないぞ。

43.
張平「あがり!」
耶律越里「さすが張平」
郝瑾「ババ抜きでも如才がない」
楊令「…」
蘇端「今ババを持っているのは誰だ?」
蘇琪「言うまでもない、蘇端」
楊「…」
郝「早く取ってください、楊令殿」
楊「…」
郝「…」
楊「!」
郝「よし!」
楊「!」
端「声出しちゃうからな、郝瑾殿」
郝「!」

琪「今ババを持っているのは、楊令殿ですね」
楊「…違う」
端「とんだ巻き込み事故ですよ、郝瑾殿」
郝「申し訳ございません…」
張「そこで謝るから、楊令殿の嘘が明るみに出てしまうのが分かりませんか?」
郝「!」
耶「謝れ!郝瑾!」
端「叩頭蟲!」
楊「…」
琪「あがりです」
端「あがった!」

楊「…」
郝「…」
張「案の定、嘘をつくのが下手くそな二人の一騎討ちか」
端「早く引いてください、郝瑾殿」
郝「…」
楊「…」
琪(楊令殿の気が…)
耶(郝瑾の汗がすごい)
郝「…」
楊「…」
郝「!」
楊「!」
郝「これを引かせてください、楊令殿」
楊「引けばいい」
郝「指の力を抜いてください」

楊令…俺は生涯嘘はつかん。
郝瑾…今不正をしているではありませんか。
張平…往生際が悪いな。
蘇琪…頭領になってもババばっかり引いてるもんな。
蘇端…それは笑えねえぞ、蘇琪。
耶律越里…俺もそうなりそうだ。

44.
張平「楊令殿の機嫌がわるい」
郝瑾「お前のいたずらが原因ではないのか?」
張「失礼な。あれは戯れです」
郝「お前はそう思うかもしれんが、楊令殿がそう思うとは限らん」
張「子午山ではあれくらいの戯れは日常茶飯事でしたから」
郝「子どもの頃はそうだったかもしれんが、今はどう思うだろうか」

張「郝瑾殿はいたずらしたことないのですか?」
郝「私は関勝将軍の頃の雄州で生まれ育ったのだぞ?」
張「!」
郝「関勝殿仕込みのいたずらから、宣賛殿の頭を使ったいたずらまで叩き込まれた」
張「すごい」
郝「魏定国殿の火計に単廷珪殿の水計も」
張「…」
郝「結局しなかったが」
張「なんで?」

郝「楊令殿の戦は小細工をする必要がないからな」
張「使わないのは惜しい」
郝「お前のように楊令殿に仕掛けるつもりはないぞ」
張「だから副官止まりなんですよ、郝瑾殿」
郝「!」
張「私は郝瑾殿の秘めた力を見てみたい」
郝「私のいたずらは…」
張「…」
郝「死人がでるぞ?」
張「そんなに?」

郝瑾…案の定蘇端が死にかかった。
張平…すげえものを見た。

楊令…顔にされた張平のいたずら書きが消えなくてイライラ。

45.
郭盛「稽古をするぞ、楊令!」
楊令「…」
郭「俺は方天戟を使う」
楊「…」
郭「方天戟の旗はなんだって?」
楊「…」
郭「付けてると、自分が見える気がするのだ」
楊「?」
郭「立ち合いの時も己を見失わないでいられるということだ」
楊「…」
郭「秦明殿に教えられたことだ。お前も自分を失うな」

張平「郭盛殿も楊令殿の相棒を務められたそうですな」
郭「二竜山にいた頃はな」
張「どちらが楊令殿のことを把握しているか勝負しましょう」
郭「なぜそこまで執着するのだ?」
張「執着?」
郭「俺は楊令が達者ならそれでいいと思う」
張「…」
郭「楊令殿に今以上の負担を強いるな、張平」
張「…」

楊「どうした、張平?」
張「郭盛殿に…」
楊「郭盛がどうした?」
張「…楊令殿に負担をかけるなと」
楊「俺はお前らが負担だと思ったことはないぞ?」
張「!」
楊「なぜそう思った?」
張「楊令殿!」
楊「…」
張「私は楊令殿の負担となる者を消してやります!」
楊「ああ」
張「…」
楊(やれやれ)

楊令…これが自分の運命なのだろうな。
郭盛…楊令とは友達以上相棒未満。
張平…楊令とは相棒以上を望んでならない。

遊撃隊

遊撃隊…永遠の下ネタセクション。

人物
班光(はんこう)…常識人ぶりたくても手遅れ。
鄭応(ていおう)…頭が悪い分、スケベにはなりにくかったという。
葉敬(しょうけい)…史進の教えに忠実だが、最近嫌になってきた。

46.
史進「寒いな」
班光「三つの首を冷やさないようにすると良いと言われました」
史「ほう」
班「首と」
史「乳首が二つか」
班「手首と足首です!」
史「乳首も冷やさないに越したことはないだろう、班光」
班「なぜです!」
史「赤子に乳をやる時、赤子を凍えさせずにすむ」
班「まだやるつもりか!」

史進…出る兆しがあったのだ。
班光…出てたまるか!

47.
史進「エルフになってしまった」
班光「耳が鋭利に…」
史「俺の美しさに磨きがかかってしまったか」
班「史進殿の美しさなど、花飛麟殿に比べたら…」
史「黙れグレムリン」
班「違います!」
史「経験値稼ぎにもなりはせん」
班「花飛麟殿は、さぞ美しいエルフに…」
花飛麟「…」
史「トロールか」

班「そんな!明らかに史進殿の方がトロールにふさわしいのに!」
史「叩き潰すぞ、グレムリン」
花「なぜこんな姿に…」
史「お似合いだ」
班「…」
花「班光?」
班「これはこれで」
史「握りつぶせ、トロール」
班「そんな!」
楊令「待て、お前たち」
史「楊令殿」
花「そのお姿は?」
楊「妖精だ」

史進(エルフ)…弓は対して得意じゃない。
班光(グレムリン)…相変わらず小ざかしい。
花飛麟(トロール)…纏ってる布がえっち。
楊令(フェアリー)…一体どういうことだ。

48.
史進「班光」
班光「はい」
史「俺の描いたえっちな絵を見てくれ」
班「はあ」
史「良くて十のいいねだ」
班「そんなものですよ」
史「しかし、匠のえっち絵師の絵は」
班「万単位はいきますな」
史「お前がえっちな絵に精通しているのはよく分かったが」
班「!?」
史「俺ももっといいねがほしいのだ」

班「画力の問題では?」
史「無論絵の調練は重ねていく所存ではあるが」
班「はあ」
史「もっと世間的なPRも必要ではないかと考えたのだ」
班「なるほど」
史「だから俺はえっちな絵を描く仕事依頼をプロフィールに掲載してみたのだが、どうだろうか?」
班「遊撃隊の指揮とどちらが大事なのですか!」

史「ややっ!俺にえっちな絵を描く仕事依頼が!」
班「そんな馬鹿な」
史「宋も終わりに近づいているとはいえ、そういう仕事は残っているらしいぞ、班光」
班「誰が史進殿に依頼を?」
史「…徽宗だ」
班「きそう、というと?」
史「頭が悪いな。今生の帝に決まっているだろう!」
班「そんな馬鹿な」

史進…史進へのえっちな勅命とはいかに!
班光…なんだこの国。

49.
班光「わ!」
史進「班光!」
班「申し訳ございません、史進殿…」
史「馬との呼吸が全くあってないぞ!」
班「今までそういうことはなかったのですが…」
史「班光に林冲殿や徐寧ら禁軍師範伝統の調練を命じる」
班「それは?」
史「後ろ手に縛って裸馬に乗る調練だ」
班「鄭応殿から聞いたことが…」

史「始め!」
班「待ってください史進殿!」
史「戦に待てはない!」
班「後ろ手に縛られるならば望むところなのですが」
史「なんだ!」
班「なぜえっちな縛られ方をされなければならないのですか!」
史「それは林冲殿や徐寧への侮辱だぞ班光!」
班「!」
史「林冲殿もこの縛られ方で乗馬したのだ」

班「ですが!」
史「戦を言葉でするな!」
班「なぜ乳首と股間を強調する縛りなのですか!」
史「父性と母性を強調していることが分からぬか、班光!」
班「!?」
史「裸馬と心を通わせろ」
班「はい!」
史「…」
班「股が擦れる…」
史「…」
班「暴れるな!」
史「…」
鄭応「なに笑ってるんですか」

史進…亀甲縛りというらしいぞ、鄭応。
鄭応…行きつけの妓楼でしょっちゅうやられてるとは口が裂けても言えない。

班光…汚い上官たちにより順調に穢されている。

50.
史進「…」
班光「どうしたのですか、史進殿?」
史「班光か…」
班「随分と表情が暗いですね」
史「ちょっとな」
班「何があったのです?」
史「ここ数日のことだ」
班「はい」
史「夢を見るのだ」
班「どんな夢を?」
史「…」
班「…」
史「えっちな夢を」
班「はい?」
史「驚くほどえっちな夢を」

班「…」
史「なぜだろうか、班光」
班「知りません」
史「覚えがないのだ」
班「妓楼に行けばいいじゃないですか」
史「そういうことではない!」
班「何を思春期の子供のようなことを」
史「お前もみるぞ」
班「みません!」
史「むっつり班光め、どうなっても知らんぞ」
班「そんな夢みませんよ!」

班「…」
史「みたな、班光」
班「なぜ分かるのですか」
史「昨日の俺と同じ顔をしている」
班「私にあんな欲求はありません」
史「認めてしまえ、班光!」
班「嫌です!」
史「お前はえっちだ!」
班「違います!」
史「ややっ、花飛麟」
班「どこですか!」
史「浅ましいまでのスケベ面よ」
班「!」

史進…李瑞蘭に蹂躙される夢だった。
班光…花飛麟を良いようにする夢だった。

51.
史進「班光の破廉恥が止まらないだと?」
班光「誰ですか、そんな愚かなことを言っているのは!」
花飛麟「私だ」
班「花飛麟殿!」
史「またお前は花飛麟のエロスに当てられて…」
花「そのエロスと言うのもやめてください」
史「やめるもなにも」
班「花飛麟殿はエロスではありませんか!」
花「…」

史「俺は史進でこいつが班光、そしてお前が花飛麟であるのと同じように」
班「花飛麟殿はエロスです!」
花「…」
史「俺は棒。班光は馬術。そして」
班「花飛麟殿はエロスです!」
花「…」
史「今宵の月も綺麗だな」
班「花飛麟殿はエロスです!」
花「いい加減にしろ!」
史「弓か!」
班「!?」

班「急所に…」
史「屍は置いて行く!」
花「やれやれ」
班「ご慈悲を花飛麟殿」
花「情け無用」
班「花飛麟殿に殺されるなら本望です」
花「…なぜ顔がにやけ始めるのだ、班光」
班「にやけてません!」
花「この期に及んでお前はふしだらなことを」
班「花飛麟殿だからしょうがないです!」
花「…」

花飛麟…シシハラハンハラ被害書類を提出した。

史進…花飛麟の弓矢の調練の的として縛り付けられた。
班光…花飛麟の騎射の調練の的として縛り付けられた。

52.
史進「班光の助平!」
班光「誤解です!史進殿!」
史「助平でなければ卑猥か!」
班「違います!」
史「じゃあえっちか!」
班「違うと言っているでしょう!」
史「ならばなぜ俺の裸体を舐めるように見ている!」
班「見てません!」
史「その嫌らしい目はなんだ!」
班「嫌らしいのは史進殿です!」

史「もともと嫌らしい目つきが、俺の裸体を見たらさらに嫌らしくなったぞ」
班「嫌らしいとはなんですか!」
史「遊撃隊嫌らしい目つきランキング第一位はお前だぞ、班光」
班「そんな馬鹿な」
兵「班光は嫌らしい!」
兵「花飛麟のケツを見る目で見られたくないな」
史「ほら見たことか!」
班「…」

史「身体のパーツを交換することが出来るならどうする?」
班「花飛麟殿とお尻を交換します!」
史「俺でも閉口するぞ班光」
班「しまった」
史「それに、お前のお尻が花飛麟のお尻になったら、見て愛でることができなくなるではないか」
班「それは一大事」
史「俺のお尻と交換だな」
班「やめろ!」

史進…俺の尻が花飛麟より汚いと言うのか!
班光…花飛麟殿のお尻は聖域です!

53.
班光「史進殿による風評被害を払拭したいんだ」
呼延凌「相変わらず仲がいい」
班「死活問題なのだぞ、呼延凌」
呼「どっちもどっちにしか見えん」
班「史進殿と一緒にするな!」
呼「俺にはこんな悪ふざけをする相手がいないから羨ましいくらいだ」
班「羨ましいと言っていられるのも部外者だからだ」

呼「それは?」
班「史進殿による私のネガティブキャンペーン広告の数々を見ても同じことが言えるか?」
呼「スケベ班光を遊撃隊から追放せよ」
班「…」
呼「ハンハラ被害者は決起して班光を血祭りにあげよ」
班「…」
呼「花飛麟に淫らな熱視線を送る班光を去勢せよ」
班「面白がってないか呼延凌」

呼「すごく手の込んだ広告ではないか!」
班「感心するな!」
呼「史進殿がお前のことを大好きでなかったら、ここまでのクオリティは発揮せんぞ」
班「馬鹿を言うな!」
呼「かく言うお前の史進殿をディスる広告の出来栄えも見事ではないか」
班「!」
呼「俺もこんな広告を本気で作ってもらいたいよ」

班光…なんだかんだで仲良く喧嘩している名コンビなのは否めない。
呼延凌…ネガキャンをする隙がないいい奴。

54.
史進「色気ある遊撃隊」
班光「…」
史「妖艶な遊撃隊」
鄭応「…」
史「そして、下品な遊撃隊」
葉敬「…」
史「その差は紙一重なのが分かるか、お前たち」
班「分かりません」
鄭「脱がなければいい話なのでは?」
葉「まずは花飛麟の尻を封印しましょう、史進殿」
史「貴様らは何も分かってない…」

史「色気。それは梁山泊でいう花飛麟の上半身」
班「たしかに色気があふれ出ています!」
史「乳首から醸し出されるフェロモンにやられない者はいない」
鄭「一体なにを」
史「妖艶。それは花飛麟のお尻」
葉「花飛麟のお尻は我らを誘っています!」
史「春の盛りの花々に吸い寄せられない蜂はいない」

史「下品。それは我ら遊撃隊の兵」
班「たしかに醜いお尻を剥き出しにして恥を知りません」
葉「俺たちが遊撃隊の風紀を正し足りなかったのやもしれません!」
史「下品はお尻だけか?」
葉「!」
史「日頃の淫らな振る舞いの数々。全て踏まえて下品というのだ」
班「分かりました!」
鄭(史進殿は?)

史進…今までの破廉恥な振る舞いなど知ったことではない。
班光…史進の数々の無法を見て見ぬ振りして遊撃隊を取り締まり始めた。
鄭応…思うだけで何も言えない臆病者。
葉敬…史進をインスパイアして、潔い裸の男は褒め称える所存。

55.
史進「シシハラという言葉で特許を取ってやった」
班光「何という無法を!」
史「貴様は金輪際シシハラなどというなめ腐った言葉を使うことはできん!」
班「この世に正義は残されていないのか!」
史「力こそが正義よ」

楊令「誰が特許をおろしたんだ?」
張平「気にするのやめましょう、楊令殿」

史「今までシシハラという言葉によって穢された俺の痛みを思い知らせてやろう」
班「シシハラで穢されたのは我らです!」
史「貴様らにシシハラを訴える資格はない」
班「何ということだ」
史「今宵の遊撃隊の宴を楽しみにしていろ、班光」
班「どうせ私を脱がすつもりなのでしょう!」
史「腑抜けめ」

班「私は死んでもシシハラには屈しない!」
史「お前の部屋で見つけた花飛麟像がどうなってもいいのか?」
班「それは!」
史「花飛麟像を踏むか、磔にされるか選べ」
班「…申し訳ございません」
鄭応(踏むのかよ…)
史「貴様はここ一番で命を惜しむ男なのだな、班光」
班「それは」
史「磔にしろ!」

史進…ここ一番で心の弱さを見せつけた班光には容赦しない。
班光…花飛麟を裏切ってしまった後悔を抱えたまま磔にされた。
鄭応…結局史進殿にいいようにしれてやがる。

楊令…班光の花飛麟像はよくできているな。
張平…ブロンズでできますよ。

本隊

本隊…梁山泊の二世が集まったが、諸々の行く末は互い違いになりがち。

人物
花飛麟(かひりん)…二世のエロス筆頭。そう呼んだ奴の頭蓋をぶち抜く。
呼延凌(こえんりょう)…二世のいい奴筆頭。そう呼ばれると軽くはにかむ。
李英(りえい)…二世の破天荒筆頭。そう呼ばれる境遇に不満あり。
秦容(しんよう)…二世最強筆頭。育った環境が良すぎた。

56.
穆凌「…今日は混んでるな」
男「相席なら空いてるよ!」
穆「大丈夫です。一人だから」
男「こちらへ」
穆「!」
呼延灼「!」
男「ご注文は?」
穆「…野菜を煮たものと饅頭を下さい」
男「へい!」
呼「…」
穆(まさか相席相手が父上とは…)
呼「…」
穆(意外と若者っぽいもの食べるんだな、父上…)

男「お待ちどう」
穆「ありがとうございます」
呼「…」
穆「いただきます」
呼「…」
穆「…」
呼「…」
穆(父上の視線と気が気になるな)
呼「…」
穆(父上の飲物がない…)
呼「…」
穆「水を取ってきます」
呼「不要」
穆「…失礼いたしました」
呼「おい!」
男「へい」
呼「水を二つ」
穆(父上?)

呼「…」
穆(できることなら、一緒に酒を飲んでみたいな)
呼「穆凌」
穆「はい!」
呼「…将校はもっと肉を食え」
穆「肉を?」
呼「おい!」
男「へい!」
呼「この男に肉を食えるだけ持ってこい」
男「へい!」
穆「そんな…」
呼「残すことは禁ずる」
穆「…承知しました」
呼「…」
穆(食えるかな)

呼延灼…穆凌に肉を奢ってやってホッと一息。
穆凌…野菜をあまり食べない父親が心配。

57.
杜興「お坊ちゃま!」
李英「…その呼び方はやめてくれ、杜興殿」
杜「失礼いたしました…」
李「呼び捨てにしてくれないか」
杜「しかし、李応殿のご子息を呼び捨てなど…」
李「私は気にしない」
杜「李英」
李「はい」
杜「殿」
李「殿もいらん」
杜「李英殿は若い頃の李応殿によく似ているもので」

李「父上は父上で、私は私だろう」
杜「分かってはいるのですが」
史進「おや、老いぼれが一匹」
杜「なんじゃ、すっ裸」
李「…」
史「口汚い老いぼれが李応の伜に執事面とはな」
杜「貴様なんぞに尽くす義理も甲斐性もないわ、動く猥褻物が」
李「…」
史「李英。こんな老いぼれ捨て置いて構わんぞ」

杜「何を小僧。班光と共に貴様を腐刑に処してくれようか」
史「あんな餓鬼とつるまないと俺に歯向かえもしないのか、老いぼれ!」
杜「とっとと失せろ!」
史「言うまでもねえ」
李「…」
杜「…」
李「…」
杜「それで先ほどの話ですがな、李英殿」
李「今の史進殿への口の利き方はなんだったんだ?」

李英…こんな執事だったんですよ、父上。

杜興…李応一家と史進への対応の乖離が酷すぎる。
史進…また班光の下着を隠して憂さ晴らし。

聚義庁

聚義庁…この世代になり雰囲気が変わってきた。

58.
楊令「なんとなく思ったのだが」
呉用「どうした?」
楊「最近李俊と仲が良くなったのではないか?」
呉「それは」
李俊「何を言いだすんだ、楊令殿」
楊「梁山泊での童貫との戦の時の呉用は大変だったではないか」
呉「あまり思い出したくない、楊令殿」
楊「俺はいたたまれなかった」
李「だろうな」

楊「あの時の軍人の皆の険しさときたら」
呉「余裕がまるでなかったものな」
李「俺も何度呉用殿を殺そうとしたことか」
楊「今やこの息の合い様だからな」
李「それはない、楊令殿」
楊「そうだろうか」
呉「お互いに分かり合えないことを分かり合えたところはあるな」
李「…まあな」
楊「なるほど」

呉「楊令殿は苦手な者はいないのか?」
楊「俺か?」
李「頭領でも好き嫌いはあるだろう?」
楊「…俺が料理をしようとする時の黒騎兵の皆は苦手だ」
呉「これでもかというほど罵られるらしいな」
楊「あとは期限切れの書類を持っていく時の陳娥殿」
李「そうなのか?」
呉「目が凍てついてるからな」

楊令…また溜めている書類を見つけてしまった…
呉用…陳娥殿は私も怖い。
李俊…俺が苦手な野郎?酔っぱらった狄成だな。

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中学生の頃から大好きだった、北方謙三先生大水滸シリーズのなんでもあり二次創作です!