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【天金のひみつ】「100年ドラえもん」のこだわりを訊きます。

 てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版 全45巻セット「100年ドラえもん」の制作現場から情報をお届けしています。「印刷編」「インキ編」「紙編」「布クロス編」に引き続き、「100年ドラえもん」のブックデザインを担当する名久井直子さんにお話を伺っています。
 今回のテーマは「天金(てんきん)」です! (聞き手:佐藤譲)


「金色」が似合う『ドラえもん』

ーードラえもんルーム編集長の徳山さんが「金色」って『ドラえもん』に似合うんです、と力説していました。ドラえもんには・・・・・・

名久井:
 ネコあつめすずがありますもんね。

200625総扉


ーー今回は、「100年ドラえもん」の「天金」についてお話を伺いたいと思います!

名久井:
 まず、天金をほどこすことは、見た目に良いだけでなく、しっかりと意味があります

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「天」とは、本の上側のことを指します。写真は金色が光る「100年ドラえもん」の束見本(制作中のもの)です。

ーーどんな意味があるのでしょうか?

名久井:
 中世から近世のヨーロッパでは、主に虫除けとして使われていたそうです。天金が、ページとページの隙間を塞ぐ役目を果たし、それは紙の劣化を抑えることに繋がりました。のちに、特装本や豪華本の装飾として用いられるようにもなります。


ーー天金は、どんな風な作業でできあがるものなのでしょう?

名久井:
 長らくずっと、すべて手作業だったそうです。
 以前、図書製本さんに、天金の職人さんにお話を聴いたことがあります。その方は、手作業の道具のことを「キンコロ」という名で呼んでいました。真鍮製の玉をころころ転がして、天金用の金箔を、圧着させるのです。そうやって金箔を貼っていたそうです。今ではある程度オートメーション化されています。

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ほこりから守る「天金」

ーー天金がほどこされた本を見るのが初めてです。名久井さんが初めて見たのはいつですか?

名久井:
 初めて見たのは、小学生のときです。
『昭和文学全集』(小学館)という本が、毎月、家に配本されてきました。のちに知ることになりますが、菊地信義さんが装幀をされた全集です。


ーー子どもの頃、初めて天金を目にしたときって、どんな気持ちになりましたか?

名久井:
 天金の本って、最初にめくるときが特別なんです。金がくっついているので、ぱらっぱらっと音がするんです。この本を、自分が初めて開いている、という深い実感があります。
 天金の本に出会ったとき、「この本は、すごく美しい」と初めて思いました。


ーーのちにブックデザイナーとなる名久井さんにとって、重要な体験だったでしょうね。「100年ドラえもん」の天金を、手にした方々がどんな風に受け取るのか、すごく楽しみです。

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現在、制作中の「100年ドラえもん」。現場で写真を撮影してみました。「天金」が光ります。
ちなみに、本の上側のことは「天」と呼びますが、本の下側は「地」と言います。そして、本文を開いたときの、本の外側のことを「小口」と呼びます。

ーーちなみに、天にだけ金があるのは、歴史的に理由があるのでしょうか?

名久井:
 これは推測ですが、本棚に入ることを考えると、「小口」と「地」は、しっかりと棚に付きますよね。天だけは、どうしても隙間ができるので、ホコリや虫が入ってしまう。そこで、金の加工をほどこしたのだと思います。


ーーたしかに、天を守れば、三方守れますもんね。

名久井:
 本棚に入れておくと、いつの間にか、天にはほこりが溜まっていきます。そして、ほこりが湿気を吸い込むと、汚れの原因となって、中に染みていきます
「100年ドラえもん」は、「より良いものを、より長く」という方針ですので、天金をほどこすのは自然な流れでした。
 徳山さんがおっしゃるように、ドラちゃんがもともと持っている色なので、ピッタリですし。


ーー「100年ドラえもん」で天金がほどこされることは、必然だったように思いました。
 まだまだ名久井さんには、引き続き、「100年ドラえもん」のこだわりを聞いていきたいと思います。

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ドラえもんルームより

 金付けには3つの種類があり、本の天に金箔を押すのが「天金」、小口に押すのが「小口金」、本の裁断面すべてに押すのが「三方金」と呼びます。三方金は、たまに高価な手帳で見かけますよね。天金は、伝統的に、聖書や全集といった、特別な本にほどこされてきました。
「100年ドラえもん」で天金を選んだのは、ただ華美にしたいというわけでなく、「長く愛されて欲しい」という願いからです。お手元に届いたら、是非、天金もじっくりと見てみてください。
 そして、まんがで「天金」をほどこしたのは「100年ドラえもん」が初めてかもしれない?、と思っています。「引くえもん」の編集作業が終わったら、調べたいと思います。