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新千歳空港でネクタイを買う

タイトルから容易に推測できるだろう。臆面もなく言えば忘れたのだ、ネクタイを。

一分一秒も惜しく、値段や柄なんてどうでもよい方向けに結果のみを伝えるのであれば、2階センタープラザの「エアー・マミー」でそれは手に入る。ただ、他にもネクタイの取り扱いがある店はあるかもしれない。いや、おそらくある。

ここからはほとんど日記のようなものなので、必要な情報が手に入ったのであれば今すぐ店に向かうことを勧める。

8時ちょうど伊丹空港発の飛行機に乗る為に、5時20分に家を出た。当然起床は4時台ということになる。週初めの午後に打合せを入れた上司の面目を保つために言えば、寝坊して慌ててネクタイを忘れたわけではない。空模様は明け方ですらない暗闇の中、マウントレーニアを片手に星を眺めるほどの余裕はあった。しかし、慣れ・余裕・油断というものは、往々にして事故を巻き起こす。

「まぁ自信過剰だと集中力なんて、たいがい散漫になっちゃうからね」

そして、伊丹空港行のバスの中で事に気づく。とりあえず伊丹空港で取り扱いがありそうな店舗を調べるが、軒並み8時開店である。搭乗ゲートの締め切りなんて加味する必要もない。

幸い移動は一人の為、新千歳で手に入れることができれば何の問題もないが、事前に調べてみたところ、これが思ったより見つからない。

新千歳空港へ到着すると、とりあえずユニクロへ向かう。なさそうな雰囲気を感じながら店員さんに尋ねるとやはり答えはノーであった。急激に面倒くさくなり、今思えば不躾だが「無印にはありますか?」と尋ねる。「わからない」との答えに、そりゃそうだと納得し、お礼とお詫びを告げて退店。

店を出ると目の前はインフォメーションではないか。これは幸いと直行しお世話になることにした。

「ネクタイはどこに売ってますか?」
「普通のネクタイですか?」
「普通のネクタイです」
「普通のネクタイはエアー・マミーにあります」
見れば普通のネクタイを売っているエアー・マミーも目と鼻の先である。

エアー・マミーはどこからどう見ても婦人服店である。ざっと見渡したところ男性向けの商品は存在しない。

普通のネクタイを買いに来たことを伝えると、関係のない商品棚の下にある引き出しが開けられた。おおよそ在庫が収納されていそうな引き出しにそれはあった。

シルクで作られた日本産のアイヌ柄のネクタイ(7150円)

「普通のネクタイ…?」
日本語とはやはり難しいものだと実感しながら、奇抜過ぎないネクタイを選ぶ。

尋ねなければ見つけることのできない引き出しの中にあるのに、まるで最初から表に陳列されていたかのように値札が添えられている。おそらくお土産ではなく、急な入用を想定しての商品なのだろう。であれば、無難な柄の無難な価格帯のネクタイが最適解だと考えてしまうが、あくまでそれは弱者の意見。需要があれば値段は上がって然るべきだ。

レジに表示される7150円を眺めながら、私はまた一つ大人になったのである。

ネクタイそのものは悪いものではないし、押し売りされたわけでもない。チープなネクタイを買ってその後使わないことを考えると、後悔していないので、誤解のないようにしていただきたたい。

将来この記事が誰かの目に留まって、ネクタイ一つに振り回される時代があったんだと感じてもらえればと思う。

ただ、今の時点でも似たような感情を持つ人は多いのではないか。ほとんどの大人は忘れ物をしないのだから。

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