大晦日、もしも自分に息子がいたのなら

今日は大晦日。

僕が毎日通っている地元の日帰り温泉施設は、大勢の帰省客やスノーリゾートの観光客でごった返していた。

芋洗い場という言葉がぴったりくるように、芋のように泥臭く日焼けした子供たちが洗い場を占領していた。

この温泉施設で子供たちを見るのは、とても珍しい。どれくらい珍しいかというと、その辺の野山に行ってキジを見つけるくらい。つまり、ゼロではないけれど、まあまあ見つからないというレベル。

普段は、だいたい顔なじみのおじさん、お爺さんたちが98%、残りの2%くらいの割合で、彼らの孫や息子の息子がやって来る。子供がいないということが自然なことであり、いつもなら、なんの違和感も持たないのだが、今日は違った。

年のころにして、25から40くらいの青年男性たちが大勢入って来て、その誰もが、2人ないし、3人の子供たちを引き連れていた。子供たちは好き放題に若いエナジーを発散させて、迷惑の限りを尽くそうと企んでいるように見えた。

その場にた父親たちは、子供たちの面倒を見るという責務に、とてもうんざりしているようだった。苦労している人は顔に出るというが、まさにそんな感じ。必要以上に老けているというか、何か言いたくても口に出来ないイチモツを心のなかにため込んでいるのが透けて見えた。

そんな彼らの姿を、浴槽に浸かりながら眺めると、以前、芸人の大久保佳代子さんが、地元が同じ名古屋のアイドルSKE48との共演番組のミニコーナーでポツリとこぼした言葉を思い起こした。

私にも、こんな未来があったのかな。

大久保さんも子なしの未婚。自分の子供のような年齢のアイドルたちと、茶番のなかで親子の役を演じたときに、ポロっと出た本音だったのかもしれない。

僕も、大久保さんと同じく、子供がいない。世をときめく、キャリアウーマンたちが、人生の選択の結果として子供を作らなかったというのとは違って、どちらかと言えば、子供が欲しかったけれど、作れなかった。

実際には、病院で検査をしたわけではないので、作れなかった、と過去形にするのは、30代後半という年齢を考慮すると、正しくないかもしれない。女性と機会が無かった、機会があってもうまくいかなかった、機会があっても既に遅かった、だけだ。

出会ったときには、既に生殖能力を失っていた妻に対して、どうこう言える事もないが、僕らが夫婦でいる限り、この先、子供が生まれることは一切ないという確定事実が存在している。

20代だったころ、子供だとか結婚だとか、まったく気にもしなかった。同年代の知人、友人たちが結婚と子育てにより、次々と疎遠になっていき、気が付けば、身の回りは働き盛りをとうに過ぎた初老の人々、あるいは体の半分以上が棺桶のなかに入ったような人たちばかりになっていた。

僕自身、思い返してみると、絶対に彼女が欲しいとか、結婚したいとか、子供が欲しいとか、そういった創造は著しく乏しかった。

実家では親や親せきたちが、いつになったら彼女を連れてくるのか、やきもきして楽しんでいる素振りを見せていたが、いつになっても彼女を連れてくることもなく、父親は病で他界、ようやく連れてきた彼女は一回り以上年上。

それでも、母親は喜んでいた。というか、母親は一切孫を求めていなかった。父親は孫の顔が見たいと嘆きながら死んでいったが、母親は自分の子供以外に注ぐ愛情は、一切ないと断言している。

なので、生き残った母親から孫についてどうこう言われたことは全くないし、妻子を養って一人前の人間になれ、と言う事も全くない。自殺しない程度に楽しく生きてくれれば、それでいい。それが母親の口癖になっている。

とは言っても、子供がまったくいない人生で、自分は一体何ができるのだろうか?社会貢献には色々なやり方があると思うし、考え方も人それぞれだと思う。でも、この田舎社会において、子供のいない人間というのは、自分自身の居場所を探すことが容易ではない。

移住者に対する手厚い保護、というのは主に子連れの夫婦や、小作り可能な若い夫婦に向けられたものだし、小作り不能な中年以降の人間たちは、どの田舎地域も欲していない。

移住者が増加しているとか、地域おこしとか、だいたいクローズアップされているのは、ほぼ100%若い夫婦か、子育てを終えて資金的にゆとりのある老夫婦のどちらかでしかない。

そういった意味で、子供のいない低収入な夫婦が田舎暮らしをするということは、あまり居心地が良いものではない。

こればかりは、時の運とか、めぐりあわせとか、色々なことがあるので、文句を言ってもしょうがないことなのだけれど、でも、このやるせない、行き場のない圧迫感は一体どこからやって来るのだろう。

今年も、今日で一年が終わる。
このもやもやは、来年晴れるのだろうか。


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