男子校生が夢見た100ハイ

3代目漣幹事長の坂下大知だ。3代目にして初の男幹事長だ。漣は早稲田唯一の書道パフォーマンスサークルで女子が多い。しかし、甘く見てもらっては困る。漣は単なるパフォーマンスサークルにあらず。早稲田文化、早稲田精神を愛してやまないサークルだ(自称)。幹事長である俺は父の影響で小学生のころから早稲田の校歌を聞くと自然と腕を振るくらいには早稲田精神を植え付けられてきた。そして、昨年の早稲田王決定戦には漣から『富士山麓の益荒男』梅澤知己が出場した。また、去年の春叫びには杉江隼が漣を代表して新入生たちに熱いメッセージを送った。漣は女子の華やかさと男の暑苦しさ、泥臭さを兼ね備えた新進気鋭のサークルなのだ。先日の第60回100キロハイク予選会では、数々の歴史ある早稲田のサークルとしのぎを削った。水2Lを飲み、歯磨き粉を飲み、ローション相撲をとり、2位になりあがった。決勝戦の神田明神階段ダッシュ対決では三大サークルの一角である広告研究会をあと一歩のところまで追いつめながらも惜敗を喫した。

早稲田祭2022 漣史上初の男子ステージ

ところで俺が100キロハイクの存在を知ったのは高校時代だ。早稲田大学高等学院の硬式野球部に所属していた俺は、その日もいち高校球児として、炎天下で練習に慎んでいた。するとどこからともなく奇声を発するコスプレ男集団が現れた。奴らは意味の分からないゼッケンをつけていた。人が真剣に部活に打ち込んでいるときに、ふざけた野郎どもだ。しばらく眺めていると奴らが早大本庄から歩いてきて、俺たちの高校は休憩所になっていることを理解した。なんだ男だらけのふざけたイベントかと思った。しかし、次に姿を現したのは可愛らしいコスプレをした女子大生だった。突然のサプライズに、男子校の俺は胸が高まり、気が動転した。とっさに「お疲れ様です」と声をかけ、できる限りのかっこつけで、力いっぱいグラウンドにかけていった。その時俺は心に誓った。いつか必ずこのイベントに女子と出場し、完歩すると。

そうして念願叶って、第59回早稲田本庄100kmハイクに漣として初出場を果たした。長年夢見た舞台、ただ出場するだけでは満足できない。そう思って、誰よりも目立てるように仮装に力を入れた。しかし、計画性のない俺は前日の夜まで何も用意せずに過ごしてしまった。さて何のコスプレをしようか。流行りのブレイキングダウンの瓜田か、T.M. Revolutionか、世界一になったサトシか、しばらく思案を巡らせた。こうして絞り出したのがイナズマイレブンだ。決め手となったのは、イナズマイレブンのゲームでは街中でミニゲームをするが、同様に、サッカーボールを運びながら歩き、他の集団にミニゲームを仕掛けた絶対に楽しく完歩できると思ったのだ。そうして始まったコスチュームづくりは簡単なものではなかった。偉大なる杉江隼の祖父が画家だったこともあり、そのアトリエで作業を開始した。睡魔と戦い、100ハイ当日の朝5時半まで作業を続けた。一時間の仮眠しか取れなかったが、雷門中のユニフォームをまとった俺たちは試合前の高揚感に包まれ、力がみなぎった。誰一人、睡魔に屈する者はいなかった。

ユニフォーム作成中

雷門中の掛け声とともに、所沢キャンパスに到着した俺たちの姿を見て、他の参加者は少年のように目を輝かせていた。ホールに入るとどよめきが起こり、勝ちを確信した。仮装大賞は逃したものの俺は実行委員長に輝き、円堂守として舞台に立った。あまりに気持ちのいい瞬間であった。雷門中のチームメイトたちとお互いをたたえ合った。そして始まった100ハイ。序盤は元気のある限り、サッカーを楽しんだ。見事なパスワークで軽快に進んでいたが、このペースでは閉会式に間に合わないと知らされた。一旦サッカーボールをしまい、「ライモンチューファイ!オー!ファイ!オー!」の掛け声をしながらランニングを始めた。やっとの思いで母校早大学院に到着した。ようやく休憩できると思ったのも束の間、男たちによる運動会が始まった。運動会とは楽しいイメージだが、さすがは昂揚会。スクワット、バービー、プランクといった疲労した足腰を痛めつける性格の悪い種目ばかり。何とかプランクを切り抜けたが、次なる種目は20mシャトルラン。円堂の足は限界を迎え、両足をつり、無念のリタイア。優勝はお預けとなったが、優勝賞品はZONEを1箱。早大学院から早稲田キャンパスまではまだ10km以上ある。正気の沙汰ではない。母校と別れを告げ、いよいよラストスパート。つってしまった両足が悲鳴を上げながらも無我夢中で進んだ。むろん、ミニゲームを仕掛ける余裕など全くない。疲れと痛みに苦しんだが、俺たちをさらに苦しめたのは雨だ。気温は一桁の雨の中では、雷門中のユニフォームはあまりにも無防備であった。それでも西武新宿線を横目に、着実に足を進め、やっとの思いで、早稲田の街にたどり着いた。楽しむ余裕もなく、寒さに凍え、痛みに耐え、10号館にゴールした。こうしてイナズマイレブンは完歩した。

男子校時代に夢見た100ハイを終えてみて、一番感じたのは達成感、ではなかった。痛みだ。足の爪は完全にはがれ、足首が安定せず、ふくらはぎはパンパンに腫れ、終わってからも苦しんだ。そんな痛みと引き換えに、少なからず達成感、楽しさは感じた。そして何より、屈強な早稲田精神が宿った。完歩して、俺は早稲田をより一層好きになった。完歩しなければ早稲田精神は磨かれない。俺たち現役早大生は歴史ある早稲田文化をこれからも継承していく義務がある。だからこそ、早大生は100ハイに出るべきだ。いい思い出にもなるが、そんなのものは付属品だ。早稲田精神を磨きたい早大生は是が非でも完歩しなければならないのである。

漣はもちろん今年の第60回に早稲田本庄100kmハイクに出場する。仮装大賞を取り、どのサークルよりも目立ってみせる。そして、これを読んで、100ハイに興味を持ってくれた人は全力でコスプレから楽しんでほしい。去年は100ハイとはいえ、コロナの影響で半分の50kmのみであった。だから今年の100ハイが本当の意味での復活だ。出場すればより一層早稲田を好きになることは間違いない。さて今年は何のコスプレをしようか。

左からマックス、栗松、円堂、豪炎寺、鬼道。筆者は真ん中。

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