見出し画像

森絵都「風に舞い上がるビニールシート」

2024/05/29読了。
 すごく面白かった、全部の短編で引き込まれた。最後に位置する表題作がやっぱり一番印象に残っていて、家族などの通常何より優先して大事にするものよりも、さらに別の大切な何かに人生を捧げる人の切実さが描かれていた。
 私も高校生くらいの頃、自分が子供を産む必要はなくて、世の中には既に沢山の不幸な子供がいるのだから、将来的には里親とかになれたらと思っていたことを思い出す。今はそう思わなくなり、結婚し、自然と夫との子供が欲しいと思うようになってしまったけど。
 ただ幸せになるために生まれてきたわけではないんだと、もっと他の大切な何かがあるはずなんだと、かつて長らく私はそう考えていた。
 当時の私は、不幸せで不機嫌なままでも良いと思っていた。仏像に心を奪われた青年の物語があったが、彼程に過剰ではなくても少しだけ重なる部分もある。
 大学後半から、幸せであること、余裕があることは、大切な何かを守るための前提条件なのかもしれない、と薄ら思うようになった。
 そしてそのまま、忘れてしまっていた。
 大切なものは変わり行くかもしれないが、この小説にはその、かつての青さを思い出させる全てが詰まっていた。