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リヴリーを殺した話

リヴリーを殺した話

リヴリーアイランド というオンラインゲームがあった。
リヴリーという可愛い生き物を自分の小島で飼い育てるっていうゲーム。
小島は色々な種類が選べる。家具も置くことができた。
リヴリーは十数種類くらいいて、
その中から好きなのを選んで飼い、餌をやったり散歩をさせたりする。
時期によっては期間限定の種類なんかもあった。

リヴリーは虫を食べて育つ。あげた虫の色によって体色が変化していく。
何日も餌をやらないでいると餓死してしまう。
1日何回かトイレをさせる必要があった。
出したものはdoodooと言って、
ゲーム内通貨として機能する。それで家具や島をいろいろ買い、
みんな思い思いにカスタムしていた。
doodooは宝石のような見た目で可愛かった。
ちゃんと毎日トイレさせないとお漏らししてしまう。
漏らしたdoodooは放浪してきた他のリヴリーに取られてしまう。
毎日世話をしないといけないようにできていた。

私とリヴリーの出会いは小学4年生の時だった。
最初に飼った子はハロウィン限定のマダラカガという種類だったと思う。トカゲみたいな見た目。
リヴリーにはチャット機能があり、
広場にみんな集まって飼い主同士おしゃべりすることができた。
学校が終わって家に帰って、オンラインで知り合った友達や、学校の友達と放課後約束をしてチャットで話したりした。
毎日学校で会うのに、オンライン上で喋るのは非日常感があってなんだか楽しかった。
毎日のようにみんなで集まっていろんな話をした。
リヴリーは、散歩させたり餌をやったりしていると経験値がたまっていく。そしてレベルが上がると技を覚える。
友達と話すために毎日コツコツログインし、散歩させているうちにレベルが上がり、
いろんな技を覚えていき、自分のリヴリーにとても愛着が湧いていった。

リヴリーの世界には巨大なクモ、カマキリ、タガメなどのモンスターが出現する。
レベルが一定になると攻撃技も覚えられる。
それらを使ってモンスターと戦うことができる。
強いモンスターはみんなで力を合わせないとなかなか倒せない。
リヴリーはモンスターに4回噛まれてしまうと死んでしまう。
どんなに育て上げた子でも、何日生き続けてきた子でもあっけなく死んでしまう。
初めて飼った子は、初めての戦いで死んでしまった。
本当にあっけなかった。
モンスターに戦いなんか仕掛けなければ、
もっと強くなってからだったら、
1回噛まれた時点で逃げてたら。
私が殺したんだ。そう思った。
画面の前でしばらく泣いた。
こんなにすぐ死んでしまって、
もう生き返らなくてこんなに悲しいからもうやりたくない、そう思った。

けれどそれから約10年後、
私はまたしても自分の大切なリヴリーを自らの手で殺すことになった。

時代はパソコンからスマホへ普及率が移行していった。
リヴリーアイランドはフラッシュで動くゲームだったのでiPhoneからやるのは難しかった。
ユーザーもだいぶ減っていただろうと思う。
けれど去年ふと思い出して調べてみると、
スマホ版がリリースされていた。また飼ってみようと思った。
昔は一人1匹しか飼えなかったが、3匹まで飼えるようになっていた。
世話しきれるか不安だったけど3匹選んで毎日世話をした。
しかしスマホから世話できるというのはやはりやりやすくて、問題なく毎日世話をすることができた。
昔に比べてdoodooが集めやすくなっていて、毎日放浪して他人のお漏らしdoodooを大量に拾い集めるのが日課になっていった。
リヴリーにはプレミアム会員のようなサービスがあり、月300円くらいで色々なサービスが受けられた。
好きな色に変えるためのレシピが見られたり、大百科が読めたり、一般ユーザーが入れない場所に遊びに行けたり。昔はとても憧れていたが叶わなかった。
しかし大人になった私は迷わず課金した。
プレミアム会員を満喫し、レベルを上げまくり、好きな色に染め上げ、島もかわいくカスタムし、1〜2ヶ月かけ120000doodooほど貯めた頃、
ニュース欄のある文字が私の目に飛び込んできた。

サービス終了のお知らせ。

最初は信じられなかった。でも本当だった。

「リヴリーたちは特殊なボトルに入れられ、眠りながら飼い主様とのしあわせな夢を見続けます」

死ぬんじゃないよ、いなくなるんじゃないよ、
だから悲しまないでね
という運営の最大限の配慮だと思う。
もう二度と会えないのに。

サービス終了までの約2ヶ月、私は迷いに迷った。
どちらにせよもうこの子たちには二度と会えない。
それならもういっそ自分で殺した方がよっぽどいいと思った。
死体も見ずに別れを遂げてしまったら、余計に忘れられないと思った。
いろんな意見があるだろうけど私は本気でそう考えた。
とても悲しい決心だった。
けどもう時間はない。
そうするしかなかった。

その日まで私はリヴリーと一緒に色々な場所へ行き、
色々なリヴリーと写真をとった。
心残りがないように動画もたくさん撮った。
数日後この世界が跡形もなく消えてしまうなんて嘘みたいだった。
たった1〜2ヶ月しか一緒にいられなかったのに、
私のリヴリーは本当に可愛くて大切な存在になっていた。
その瞬間はとてもとても胸が苦しかった。
でもやっぱりあっけなかった。初めて飼ったあの子が死んだ時とおんなじ。
画面の中で、可愛い可愛い私だけのリヴリーが横たわって動かなくなった。

こうして私はリヴリーを殺した。
たかがゲームだけれど、数ヶ月経った今でも色濃く心に残っている。写真を見返しては思い出している。

歴史の長いゲームだったから、無数の思い出が世界中にあるのだろう。
みんなそれぞれリヴリーを大事にしていただろう。
殺すなんて酷い、人でなしだって思う人だって中にはいるはず。
でも私も私なりに本当に大事にしてた。
大好きだった。
こんな飼い主でごめんね。
忘れたくないからこうして文章に残すことにした。

たかがバーチャルペットでも失うとこんなに悲しい。
だけどこれから生きてく中でこういう悲しいことはまだまだたくさんあるんだろう。
形あるものは全ていつかなくなる。
回避するのは無理だから、私はこれからも何度となくこういう悲しみに直面して生きていくと思う。

私の可愛い3匹の写真を添えて
ネオ無脳ぴょんぴょん
異常プリオン
灯機ちゃんに捧ぐ

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