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【#才の祭】小説 アネモネ後編

《クリスマスまであと20日》

私は朝から夕方までコンビニでバイトをして、なんとか生計を立てていた
コンビニで働く人たちの中にも、自分の夢を叶えるために上京してきた人が大勢いる

私もその一人
の、はずだったけど

今はたくみさんと一緒にいる時間が
夢を追いかけるよりも
ずっと大切なものになっていた


バイトが終わり電車に乗ると
たくみさんからLINE

"お疲れ様!新しい曲作ってたんだけど、煮詰まっちゃてさー。今から会える?"

返信から1時間程して、たくみさんが私のアパートまで来てくれた

「えりな、バイトお疲れ様。はい!これ」

私はその袋から箱を取り出し開けてみる

「これ、あの美味しいお店のケーキ?!わぁ、最高に嬉しい!」

甘いケーキを食べながらも、頭の中では
将来について話しをいつ切りだそうかと考えていた

「そうだ、たくみさん!今年のクリスマスは何処に行く?この前話してたイルミネーション見に行こうよ。」

たくみさんはずっとノートパソコンの画面とにらめっこしている
家に来てからも曲を考えてた

「聞いてますかー?」

「ごめん、その日はライブやる事になったんだ!だから観に来てね!!チケット取っておくからさ。
この埋め合わせ必ずするから。
イルミネーションはまた別の日にしようね。」

「そっか。」 
私は一言で話しを終わらせた
たくみさんは目さえ合わせてくれない

そして本題に入る

「たくみさん、私との将来って考えてたりする?」

たくみさんは驚いた顔を見せた

「急にどうしたの!?将来って、俺達まだ付き合って1年だから、もっとゆっくりお互いを知ってからじゃない?

そ、それより!この歌詞どう思う?俺はなんか在り来たりかなと思うけど、、、」

将来の私達について聞いてるのに
話しをそらされた

たくみさんには、私との将来よりバンド活動が全てなんだ

イルミネーション、、クリスマスに行くって約束したのに。

期待していた答えも帰って来ない事に
ショックだった


《クリスマスまであと1週間》

街中がクリスマスムードで賑やか
すれ違うカップルはとてもキラキラと輝いていた

ファミレスでたくみさんを待っているんだけど、今日は伝えなきゃいけない事がある


「待たせてごめん!!いやぁ、外寒くて凍えそうだわ。何か頼んだ?」

私はニコッとしていつも通りの自分を演じる

「バイトお疲れ様。忙しいのにごめんね。私ハンバーグ頼んだよっ」

私は決まってハンバーグを頼む
これもいつも通りだけど、本当はそんな気分ではない
「おれはステーキにしようかなぁ!決まり。」

お互いの料理が揃い食べ始める
たくみさんは美味しそうにご飯を頬張る
その姿が愛しいんだよね、子供みたいで可愛いというか、、、

ダメダメ、言わなきゃ!!

「たくみさん、私、実家に戻る事にした。」

!?!ゴホッゴホッ
「え?!何で?!」
急すぎる展開に驚き、思い切りむせる

「あのね。就職する事にしたよ!上京して3年経って、ようやく私には才能が無いって分かった。好きな事で食べてくって、ほんの一握りなんだよね。
それに、実家に戻ったらおばぁちゃんの身の回りのお手伝いしたいからさ!」

たくみさんはうつ向いたままだ

店内に流れるクリスマスBGMと楽しそうに話している家族やカップル
私達の席だけが静かだった

「俺達、遠距離になるってこと?」
たくみさんが先に口を開く

少し時間を置いてから私は答えた
「たくみさんにはバンドを一番に頑張ってほしい。素敵な曲をたくさん作って、有名になってほしい!応援してるからね。」

――――――だから、別れよう――――――

「全部が急すぎて、、、。えりな本気で言ってるの?」

「うん、本気だよ。」

「ライブだけでも、来てくれない?」

「ごめんなさい。

チケットは誰かに譲ってあげてね、、、」





《クリスマス当日》

大きなキャリーケースを引きずり私は駅に向かう
クリスマス当日の街も相変わらずキラキラ輝いていた

もう私の居場所は、ここには無いんだ

****

「あれ?たくみの奴どこ行った?」
ライブハウスに続々と出演者が入っていく
バンドメンバーがたくみを探していた
「あいつ、駅に行くとかなんとか」
「え?!リハーサルどーすんの??」

****

私のポケットに入ってるスマホが震えた
画面にはたくみさんからのLINEが表示されていた

"今駅向かってるから待って!もういちど話そう"

待てる分けないよ、私は決めたんだから

またLINEだ

"もうすぐつくから"

たくみさんそろそろリハーサルのはずなのに、、私なんかの為に
今更やめてよ、、

****
3番線まもなく電車到着いたしまーす

ホームに電車が入ってくる
これに乗るんだ、早く乗らなきゃ
電車が定位置へと止まり、扉が開く
私はキャリーを持ち上げそそくさと席に座る

またLINE

"ついた!!どこにいる?"

もしここで降りて彼に会ったら
私の決心はどうなる?
彼が私の為に来てくれて
もう一度話すべき?
出発まであと30秒、、

****
発車しまーす

ドアが閉まり少しずつ電車は走り出す
私はやっと彼のLINEに返信をする
"出発したよ"

"そっか、、。えりな、 頑張れよ!"

これで良かったんだって何度も自分に言い聞かせた
自分で決めた事なのに、、涙が止まらない

"今までありがとう"


送信ボタンを押し、スマホをポケットにしまった

私達、終わったんだ

たくみさん、今までありがとう
大好きでした

****

《1年後のクリスマス当日》

私はなんとか無事就職できた
毎日覚えることばかりでクタクタ

そんな時、友達から連絡があって急遽地元のライブハウスに行くことになった

クリスマスだってゆうのに、彼氏無しの二人はライブ行ってストレス発散しようって計画

最初のバンドの演奏が始まるギリギリに入ったので、人をかき分けて客席中央まで行く

こんなに人入ってるなんてよっぽど人気なバンドが出るのかな?
そう思っているとステージ袖からバンドのメンバーが出てくる
最後に出てきたのは

見覚えがあるぞ、、あれ?!

たくみさん!?!

なんで私の地元にいるの?!

「皆さん初めまして、V(ヴイ)です。」
ドラムやギターが音を鳴らして挨拶する

たくみさんがマイクを持つ

「今日の為にずっと温めていた曲があります。頑張ってる、不器用なあなたに届くように歌います。聞いて下さい、"アネモネ"」

ここから見るたくみさんは、とても眩しいくらいに輝いてた

この声も、あの笑った顔も、あの時のまま

私は嬉しくて涙を堪えていた

こんなにたくさんの人たちが、たくみさんの歌を聞いている

一年前のクリスマス、本当だったらこうして
あなたの歌声を聞いていたんだよね


――――――――――――――――――――

《現在 クリスマス前日》

「ママ、お花キレイ!」
私がぼーっと昔を思い出していたら、娘がCDジャケットにプリントされている花に気づいた
「これはね、アネモネのお花だよ!ママも昔育ててたんだけど、下手くそで枯らしちゃったお花なんだよねー、、(笑)」

そう言いながらも、なぜCDジャケットがアネモネなのか気になった

「ただいまー。」
「パパ来たー!見てお花ー!」
玄関へ走っていき、娘は嬉しそうにCDを見せていた

「えぇ?!よく見つけたね!!懐かしいなぁー!
さーて、片付けは進んで、、無いね。そんな君達に、はい!これ。」

娘がガサガサと袋からケーキの箱を取り出し中を開ける

「ケーキ、だぁーーいすっき!!!パパありがとう」

美味しそうにケーキを頬張る姿は
誰さんにそっくりだ

「ねぇ、なんでこのCDジャケットアネモネの花にしたの?曲名もアネモネだし」

「なんでって、、。付き合ってる時にママの為に作った曲だったからだよ。ちゃんと咲いてるアネモネだろ?(笑)
だからライブに呼んだのに、本当に帰っちゃうからショックだったよなぁ。

さーて片付け片付け」

だって、たくみさんはバンドばっかりで、私の事なんて考えてもくれてないから、、

私が帰ってしまったあのクリスマスのライブ
本当は私の為に歌うつもりだったの?

"アネモネ"
これは私への贈り物だった


娘と仲良く並んでケーキを食べて
楽しそうに笑う声が聞こえてくる


今やっと気付いた

たくみさんはずっと私の事を思ってくれていたんだね


「たくみさん、ありがとう。」



―――――――――――――――――――――――――

終わり


最後まで読んで頂きありがとうございました(*^^*)


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