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好きな作家5人を語りたい(前半戦)

最近こんなハッシュタグが回ってきたので私もツイートした。

5人作家についてどんなところが好きなのか、どんな作品が好きなのか、どう出会ったのかを語るには、140字では足りない。ちょうどnoteもあるのでここで語ろうと思う。あまりに長くなりそうなので前半・後半に分けます。

佐藤友哉

高校生のとき、兄から『フリッカー式』と『エナメルを塗った魂の比重』の文庫をもらったことがきっかけだった。スーパーカーやナンバーガール、カウボーイ・ビバップやエヴァとさまざまなポップカルチャーが登場する作風は、片田舎で「とにかく面白いものに触れたい」と飢えていた私の心を満たしてくれた。『世界の終わりの終わり』なんて、冒頭でミッシェルの『世界の終わり』の歌詞が引用されてるし。

いろいろなポップカルチャーが引用されているけれど、佐藤友哉の根本には国内外のあらゆる文学が感じられる。作品には中上健次、サリンジャー、高橋源一郎のオマージュがあるし、野間宏、武田泰淳をはじめとする青春小説を解説している作品も書いている。

『世界の終わりの終わり』や『水没ピアノ』なんかは特に顕著なんだけど、佐藤友哉の描く“片田舎でフラストレーション溜まってた時代の生々しさ”も、共感していたのもあるのかもしれない。そういう点は太宰の『人間失格』みたいな、「自分以外にもこういう弱さを持ってる人はいる」という安心感に似たものがあった。『灰色のダイエットコカコーラ』の、周りと文化レベルが違うことを内心で小馬鹿にしながら鬱屈とした日々を送ってるあたり、まさに高校時代の自分だ。

佐藤友哉といえば、『1000の小説とバックベアード』が人生においてダントツで好きな小説だ。物語は依頼人のリクエストをもとに集団で小説を書く架空の職業、“片説家”を27歳の誕生日にクビになった主人公・木原は読み書きの能力を失ったことに気がつく。そんななか謎の女性から依頼を受けて小説を書こうとする木原が事件に巻き込まれていく……という物語。重要な場所として京王プラザホテルが出てくるが、上京当時は近くを通るたびに「ここがあの聖地か……」と感動していた。

『1000の小説とバッグベアード』には、日本文学に対する多大なリスペクトがある。純文学・ミステリーとさまざまな要素が渦のように絡み合った作品でもあり、「文章を書くとは?」という大きな目的に真正面から向き合っている。間違いなく私に多大な影響を与えた1冊。

最近では太宰が現代に転生する『転生!太宰治』も最高だった。

「だ、太宰治という作家なのですが、もしかして、有名なのですか?いえね、そんなことないとは思いますが、きざな顔をしていやがるし、どうせ、ろくなものを書いていないと……」
「太宰治は有名ですよ」
「有名!」
「教科書にも載っていますし」
「教科書!」
「今もたいへん売れていますし」
「売れている!」
「本を読む方にも、そうでない方にも、太宰治という名前は、強烈ですからね。ぜひとも、お買いもとめいただければと思います。あ、そういえば今日は太宰の命日でした」
「誕生日です!」
「はい?」
「い、いえ。ところで、太宰治というのは、その、おもしろいですか?」
「もちろんですよ。私も……ファンなんです」
「ファン!」
キッスをしてあげたくなりました。

太宰が意外とすんなり転生を受け入れて、なんやかんやエンジョイしながら生きてるのが面白過ぎる。自分が文ストをはじめイケメンに描かれてるのを見た反応、芥川賞のパーティーに乗り込んで恨み辛みをぶちまける展開などなど、太宰好きに読んで欲しい。ゲラゲラ笑えるので。

そういえば最近はclubhouseで音声入力で小説を書く様子を公開したり、シンエヴァについてYouTubeとclubhouseでいろいろな作家と解説したりと佐藤友哉を感じる瞬間が多くて嬉しい。

舞城王太郎

舞城王太郎は1行目から引きが強い作家だ。

​愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。
減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。
返せ。とか言ってもちろん佐野は返してくれないし、自尊心はそもそも返してもらうもんじゃなくて取り戻すもんだし、そもそも、別に好きじゃない相手とやるのはやっぱりどんな形であってもどんなふうであっても間違いなんだろう。

『好き好き大好き超愛してる』の書き出しほど美しい書き出しはないし、『阿修羅ガール』の書き出しほど生々しい書き出しはない。

舞城王太郎はまっすぐ過ぎる“愛”を凄まじい熱量で語る作品が多く、人によってはその熱量に振り落とされることも少なくない。大学時代に好きな作家を聞かれて「舞城王太郎が好き」って言ったら「狂人じゃん」って笑われたけど「理解できないだけでは?」と思った。

私は『阿修羅ガール』の主人公、アイコが思いを寄せる陽治みたいな男性が好きだ。陽治は修学旅行で鹿をバスに乗せようとして怒られたり、体育のサッカーで急に味方を裏切ってオウンゴールをきめたりとアホなことばかりしているんだけど、「愛」を理由に喧嘩を止める。そういうバカなことやってるわりに急に愛を説くギャップがたまらない。一時「好きなタイプは修学旅行で鹿をバスに乗せて怒られそうな人」みたいなヤバいことを言っていたくらい。

舞城王太郎、芥川賞に度々ノミネートされるわりになかなか受賞に至らない。候補作『ビッチマグネット』はわりと舞城王太郎のクセが前面に出ていない良作なので、『阿修羅ガール』や『好き好き大好き超愛してる』が合わなかった人にも読んでほしいところではある。

舞城王太郎の作品の舞台はほぼ調布で、今まさに私が住んでいるあたりだ。聖地に住んでいることを高校生の頃の自分に伝えたら嬉しさでワーとなるかもしれない。

舞城王太郎原作、大暮維人作画という神タッグで連載されていた『バイオーグ・トリニティ』も、恋心と青春が加速する凄まじい作品。これも調布のあらゆる場所が出てくるので、読んだらぜひ聖地巡礼を。

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