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【脚本】はらいそ少女解脱教

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〈はらいそ少女解脱教〉

登場人物

ききょう  
ひかり   
いずみ   
あすか   
こゆき   
ラウル   

【1】
M

仄暗い。何かがじっとりと充満しているような世界の暗闇。ききょうたち子供が歩いている。
ききょう  眩暈、地震、止まらぬ咳。愛、終わる、惨め、悲しみ、慈しみ。終わる地球に生まれた私たちはかわいそう、かわいそう、
ひかり   そう。どうせここは、私たちは、終わりある者たちは悲惨なんだ、悲劇的。
あすか   逃げ続けないといけない。終わりから逃げて逃げて、逃げて、死ぬまでそれとは向き合えずに、結局は…

いずみ   怖い、気持ちに、名前がないから。だから、きっと、私たち、とても震えているんだ。くらやみ、そこから、手が伸びて、心臓をえぐって持ってった。怖い、気持ちに、名前が、ないから。ゆめ、ゆめ、ゆめ、浮かされる

M変化

こわい、きらい、くらい、いたい、だいじょうぶ、どうしよう、かわいそう

ラウル   ちかちかとランプが点滅する、12、という数字はただそれを終わりとして表示しているに過ぎない。終わった、終わった、終わった、とて、それが伝播するまでのラグで俺たちは真っ暗闇にぶち込まれて闇雲に歩いて躓いてひたひたひたひた何かが近づいてくる!腕を振り回せ!空を切る、じっとりと何かが巻き付いてくる!そうやって戦うのは己の恐怖とだ。大人だってそうなんだ、況や子供たちをや。ああ、なんてミゼラブル!かわいそうだ、かわいそうだ、そうだ、君たちは、何を見ている。

ひかり   先生!
ラウル   なんですか
あすか   世界が震えて壊れてすべて焼けたらこの星はどうなりますか
ききょう  この星は親になります
いずみ   親
ラウル   燃え上って燃え盛って静まった後に生まれるのは新しいいのちでしょう
ききょう  そうです、世界は一匹の雌なのです。私たちという種を絶やさず与えられている、雌なんです
いずみ   いやだ、きもちわるい!!
ききょう  だから!下ろしましょう、次の世界を。私たちは終わるんです。世界を去勢するんです。私たちは安らかに死んで、そしてはらいそにいくんだ!
全員    はらいそに!
ラウル   だからせめてさいごまで、やすらかに、安寧を。花瓶をなぞるような曲線に切りすぎた爪を。噛んでは膿んだ口の中、ぼろぼろになった指の先。締めた熱と、冷えた血管を。ただ忘れて、海に揺蕩う、ただ自分であって。最後の子供たちに、幸せあれ。

あすか   最後の子供?

あちらこちらで、最後の子供、と叫ぶ声がする。それはあすかを中心にぐるぐると渦まく。

全員    最後の子供!最後の子供!最後の子供!最後の子供!最後の子供!!

あすかは中心で祭り上げられている。と、入れ替わり、こゆきが祀られる。あすか、はじき出されたまま呆然としている。

こゆき   できた!!!

散っていく人々を呆然とあすかは見ている。

【2】
ききょう  どうしたんですか?あすか。
あすか   いや、ああ、いや
ききょう  だいじょうぶですか?
あすか   うん、大丈夫。いや、星がきれいだな~って。
ききょう  ならいいですけれど。長旅でしたからね。でも、もうすぐですよ。
あすか   そっか
ひかり   こゆきは?
いずみ   また?
ききょう  道中で止まってしまったのかもしれません
いずみ   だから嫌だったんだよこゆきと歩くの。あの子いるとまともに進まないじゃん
ひかり   いずみ
ききょう  仕方ありませんよ。人には人の速度がありますからね
ひかり   どこではぐれたのかな
ききょう  さっきの休憩のときまでは一緒にいましたから、そんなに遠いところにはいないと思いますけど
いずみ   世界の端まで行って落ちちゃったんじゃないの?あの子の親みたいに
ひかり   やめなさいって
ききょう  どうしましょう
ひかり   私見てこようか?
あすか   いや、私見てくるよ。ひかりは荷物重いでしょ
ききょう  お願いできますか
あすか   うん

あすかが走っていく。見送る三人。

ききょう  あすかはやっぱり足が速いですね。頼りになります
ひかり   そうだね。
いずみ   あ~~~もうちょっとで目的地だっていうのに、これで何回目?やっぱりこゆきの首に紐でもつけておいた方がいいよ
ひかり   それはなんか動物扱いっぽいじゃん。…あ、あれは?胴体につける奴。むか~しは小さい子につけていたって本で読んだよ
ききょう  どうでしょう。人権問題でだいぶ揉めたらしいですけどね
いずみ   ジンケンモンダイって、今更誰が気にするのさ。だれもいないのに
ききょう  人が人である…私が私であるという自覚を守るためにも、生きている限り気にすべきだと思いますよ
いずみ   ききょうの話は難しくてかなわないや。
ひかり   すごいよね、ききょうは
いずみ   …まだかな~。

あすか   こゆき
こゆき   …
あすか   こ~ゆ~き
こゆき   …
あすか   こゆき!
こゆき   …

あすか、こゆきを揺さぶる

こゆき   わ、わ
あすか   みんな待ってるよ
こゆき   ……
あすか   戻るよ
こゆき   …見て
あすか   なに?
こゆき   …(指をさす)
あすか   また描いてたの
こゆき   (うなずく)
あすか   描くのはいいけど、怒られるよ。
こゆき   …おこられるのはやだなぁ
あすか   だから、戻るよ
こゆき   うん

いずみ   なんでこの…ここ?を目的地にしたの?
ききょう  地盤が安定しているからです。ここは水はけもよく、川も近いですし、適度に土地も高い位置にあって、区画整備もかなりされていたそうですから、ひらけた土地があると予測できます
いずみ   つまり?
ひかり   住むのにちょうどいいってこと
いずみ   なるほどね~
あすか   ただいま
ひかり   おかえり。こゆきは何してたの?
あすか   地面に絵を描いてた。
ひかり   あはは、いつも通りだ
ききょう  そろそろ行きましょうか?といってもすぐですが
いずみ   いこいこ。眩暈が酷いもん、早く休みたい
ききょう  あ、もしかしてまた薬を飲んでないんですか?
いずみ   え、あ
ききょう  いい加減にしてくださいいずみ。薬は飲みなさいっていつも言っているでしょう。はらいそに行けなくなってもいいんですか?それ以前にあなたの体に良くないのですよ?
いずみ   …いいじゃん大人いないんだから、少しくらい教えを破ったって!
ききょう  そういう問題ではありません!第一…

M 地震が起きる。

ききょう  みなさんはやく、こっちに寄って…!
いずみ   いつもよりひどくない?
ひかり   震源が近いのかも
あすか   大人たちは大丈夫かな
ききょう  …大丈夫、きっと大丈夫ですよ。

地震に耐える

いずみ   おさまった?
ききょう  今のうちに行きましょう。ああ、余震があるかもしれませんから、気を付けて。
ひかり   こゆき、手をつなごっか
こゆき   (ボーっとしている、手を取られてビビるも従う)
いずみ   じゃああすかは私とつなぐ?
あすか   遠慮しときます
いずみ   ちぇ、つれないの

【3】
うなされているラウル。

ラウル   兄さん?
ラウル   兄さん…大丈夫?え、にいさ…

ラウル   兄さん…。

ラウル   あ………あ、あ、いや、ああ、駄目だよ兄さん、だめ、駄目、死んじゃだめ、嫌、駄目だよ置いていかないで、こんな端っこで、僕だけ置いて行かないで!嫌だ!どうしたらいいんだよ!兄さんが行こうっていうから!こんな世界の終わったところの端っこまで歩いてきたのに、ここで死んでいいの兄さん!

ラウル   あ、ああ、ああ、

ワインを飲む。息を落ち着かせる。

ラウル   駄目だ、駄目だ、ずっとうなされてるようじゃ、

ラウル   兄さん、干上がった海を歩いたよ。もうここがどこかわからない。何もないよ。

ラウル   四角い。


【4】

ききょう  うん、ここがいいですね
ひかり   ちょうどいい感じに平らなところあるね
ききょう  このがれきの様子を見るに、元は公園だったのでしょう。
あすか   コウエン
ききょう  子供が遊んだりする広場ですよ
いずみ   あすかがいたところにはなかったの、公園
あすか   なかった…と思う。私はそういうところに行った覚えないや
ひかり   なんかあすかって謎めいてるよね
あすか   そう?
ひかり   過去とか!
いずみ   物語の読みすぎ
ひかり   え~そう?いずみはそう思わないの?
いずみ   単なる子供としか思えないな
ひかり   いずみも子供じゃん
いずみ   それはそうだけど
ききょう  ここら辺に幕を張りましょうか
いずみ   めんど
ききょう  もう!天幕をはることは私たちの生活のためだけではなく信仰心を表す(ことにもつながる大事な行動なんですよ)…
いずみ   げ、ききょうの弁論にはかなわないよ、助けてひかり
ひかり   え、私ぃ!?
あすか   あの~、やらないの
ききょう  あぁごめんなさい
ひかり   やるよー
あすか   じゃあ、こっち持つね

テントを立てる。こゆきは手伝わないで何かしてる

あすか   ちょっとこゆき
あすか   こゆきー
あすか   こゆき!
こゆき   ん?
あすか   ん?じゃなくて。そんなことしてないで手伝って
こゆき   えっと…(おろおろ)
いずみ   こゆきに言っても無駄だよ
あすか   そうやって甘やかすから、いつまでもできないんじゃないの?
いずみ   甘やかす?
あすか   ずっとお絵描きさせてて
いずみ   お絵描きやめさせたいの?
あすか   まあ、そういうことになるのかな
いずみ   こゆき!!!
こゆき   (びくっとする)
いずみ   ここの荷物見てて。
こゆき   あ、うん
いずみ   はい、万事解決
あすか   うーん

ききょう  よし、これでいいですかね
いずみ   やった、やっと休める
ききょう  あ、薬飲むんですよ?
いずみ   げ
ききょう  いずみ
いずみ   はいはい!
ひかり   ききょう、そういえば質問したいことがあって
ききょう  なんですか?
ひかり   浄水器のことなんだけど、ろ過装置の仕組みでこの部分に使う…

【5】
あすか   ……何かいてたの
こゆき   …
あすか   こゆき

あすか   なんで、そうやって無視できるの
あすか   …こゆきはいいよね。こゆきの世界は平和だよね。何かに責め立てられることも、ほかのだれかを気にすることも、なくて。

いずみ   何してるの!
あすか   わ、いずみ。薬は飲んだの
いずみ   飲んだよもう!みんなうるさいんだから
あすか   ちゃんと飲まないとはらいそに行けないよ
いずみ   それはわかってるって。てかさ
あすか   うん?
いずみ   何話してたの?
あすか   話してたっていうか、一方的に私が喋ってたみたいなもんだけど。なんだか平和だねって。
いずみ   本気で言ってる?
あすか   いや、災害の話じゃなくて、こゆきの話。こゆきは何にも気にしないでずっと絵を描き続けて、平和だねって。私が、私たちが大人たちにかけられてきた期待とか、そういうのをこゆきは感じないのいいなって。
いずみ   あ~、それはなんか、わかるかも
あすか   え?
いずみ   え?ってなによ
あすか   ああいや
いずみ   どうせ私は繊細さのかけらもない人間ですよ~だ
あすか   そういうことは言ってないじゃん
いずみ   …なんかさぁ、かわいそうって言われるじゃん私たち。どうせ地球はすぐに終わるっていうのに生まれてきてかわいそうって。こんな世界で生きていくなんてかわいそうって。こゆきはそんなの気にしないの、ずるいよね
あすか   うん
いずみ   まあ、そういうの押し付けてくるのは大人だからさ。私、そういう意味では大人より先に移動できてよかったなって思ってるんだよね。私たちの行動の意味を、私たちで決められるから。
あすか   そうだね。そういう意味で言えば私たちみんな平和だね
いずみ   ひかりだけ、心配かな
あすか   ひかり?
いずみ   あの子は親や集落のことが大好きだから
あすか   ああ、…親、ね。

無心に絵を描くこゆきを見る

いずみ   こゆきは気楽なものね
あすか   まぁ、そうだね。
いずみ   こんなのが最後の子供かぁ。でも、それでよかったのかもね?
あすか   …なんで?
いずみ   こゆきはそういうの、気にしないだろうから

あすか   そっか


【6】
ききょう  つまりこの場合の理想は布より紙です。でも紙だと複数回の利用はできませんよね?だから私たちの使うこの型の浄水器は布を採用しているわけです。資源不足の解決のためですね。
ひかり   なるほどね!紙でいいじゃんとはならないわけね。そしてこの部分が吸引することでろ過を速めていると。あ、減圧濾過か
ききょう  そう。ひかりは賢いですね。
ひかり   ききょうほどじゃないよ。
ききょう  ほめても何も出ませんよ
ひかり   あはは。すごいなぁ、これほんとうにききょうがつくったんだ
ききょう  まぁ。あ、性能は大人たちからのお墨付きですから、心配しないでください
ひかり   してないよ!それにききょうも大人っちゃ大人でしょ
ききょう  まぁそうですね
ひかり   それにしてもすごいなぁ、こんなの創れちゃうなんて
ききょう  私はただ親から教わっただけですよ
ひかり   そっか、親御さんか。私もききょうみたいにすごくなって、両親の役に立ちたいなぁ。
ききょう  なれますよ。私より賢くて、立派な人間になれますよ
ひかり   そうかな。だって二つしか変わらないのに、こんな浄水器作っちゃうし、私たちの代表だし、大人たちにも信頼されてるし
ききょう  私はすごくないんです。ひかりだっていずれわかります
ひかり   そうかなぁ
ききょう  ひかりは私を過大評価しすぎなんです
ひかり   過大評価なんかしてないよ。私いっぱいききょうのことみてきてあこがれてるの。私がききょうみたいになるには…時間が足りないけど。でも少しは近づきたいの。
ききょう  時間がないなんて、言わないでください。
ひかり   無いよ。さっきだってあんな地震あったし。無理なことはもう…受け入れなきゃ。
ききょう  頑張っているから、私も、大人も…がんばっているから、あきらめないで。あきらめなければ、いつか、はらいそにたどり着けるはずです。せめてあなたたちだけでも
ひかり   ききょう…?
ききょう  いえ。なんでもないです。お夕飯にしましょうか。これを片付けたらみんなを呼んできましょう。
ひかり   わかった

【7】
いずみが歌っている

ききょう  あら、寝てしまったのですね
いずみ   みてよ、すごい不細工な寝顔
ききょう  いずみは面倒見がいいですね
いずみ   やめてやめて。そーいうのむかつく
ひかり   あすかも寝ちゃったの?珍しいね
ききょう  二人ともまだ子供ですから仕方ありません
ひかり   そっか、二人ともまだ十五だもんね。
ききょう  特にあすかはしっかり者だから、たまに忘れてしまいそうになります
いずみ   逆にこゆきは愚図であんぽんたんだもん、五歳みたい
ひかり   いずみ
いずみ   事実じゃん!
ききょう  差別的な物言いは認められませんね。私たちは協力して、お互いを補い合って生きていかねばならないのですよ
いずみ   差別じゃなくて事実!区別なの!
ききょう  ではもっと語彙を増やすべきですね。適切な言葉が選べるようになるまで私が授業しましょうか?
いずみ   げ。えんりょしておきまーす
ひかり   どこいくの
いずみ   どこへでも。帰ってこないかもね~?
ひかり   いずみ!

ききょう  今日は…機嫌がいいかと思ったんですがね
ひかり   そうだね、割とご機嫌だね
ききょう  …そうですか


【8】
M

日常。おはようが飛び交う?

ひかり   おはよう
ききょう  おはようございます
あすか   おはよう
いずみ   おはよー

ラウル   一杯のワインにいっぱいの言葉。兄さん、俺の兄さんが終わる世界に残した言葉たち。「さあ、世界に挨拶してごらん!アースクエイク、アースクエイク、僕たちは卵に付着した塵に過ぎない。這い出た星に、顧みられることもなく、無く、泣く泣く。」

ききょう  …(はらいそポーズ)
ひかり   なにしてるのききょう~?
ききょう  あ、いえ
ひかり   今日の分のお水、天幕の中に入れておいたからね。ろ過も済んでるよ
ききょう  ありがとうございます
ひかり   川の水量がかなり増えてたよ。この前の雨のおかげかな
ききょう  だとしたらろ過はかなり慎重にやらないとですね。
ききょう  こゆき?どうしたんですか?
こゆき   …
ひかり   ちょっとちょっとどうしたの?喉でも乾いたの?
こゆき   こゆきもおてつだいできるよ
ききょう  いや、いいんですよ。私たちがやりますから
こゆき   こゆきもお手伝いできるよ!
ひかり   えっとねえ
ききょう  …わかりました。私といきましょう
ひかり   いいの?大丈夫?
ききょう  ええ。

ラウル   一杯のワインにいっぱいの言葉。

ひかり   おはよう
ききょう  おはようございます
あすか   おはよう
いずみ   おはよー

ききょう  なぜですか
いずみ   あーだる、だるい、むかつく
あすか   そっか
ひかり   ききょう

ラウル   「その星の誕生はありふれていた。普通、凡庸、特筆すべきこともなし。否、否、普通という言葉をどこから持ってきたのだ、塵どもよ。我々有象無象を支配するたいそうご立派な神様がマニュアルを手ずから書き上げ我々に示したというのか?そうでないとして、いったい何が普通を作った?…まさか、人間自身とでもいうつもりか?」あっはっは!「聖書、経典、コーラン、ネクロノミコン全部全部断層に沈んでいった。そうして生まれた星が神など、紙など、意に解するものか。」

いずみ   何してるの
あすか   あ、ひかりに、はらいそのこと教えてもらってて
ひかり   あすかのいたところにははらいその話知ってる人いなかったんだって。薬もなかったらしいよ
いずみ   え、ヤバくない?はらいそ無いんだったらなんのために生きてたの?
あすか   いずみってはらいそにたどり着く気あったんだ
いずみ   失礼な。こまごました教えはこりごりだけど、辿り着きたいとは思ってるよ
ひかり   はらいそにいつかたどり着けたら、そこでは地震もないし眩暈もないし、火山とかも噴火しないからもっと空がこんな色じゃなくて綺麗で、あたたかくて、せかせかと移動しなくてよくて、そういう便利な暮らしができるんだよ
あすか   具体的には、どういうところなの?
ひかり   具体的?
あすか   なんか…形というか、景色?とか。なんか、全く想像がつかなくて
いずみ   そんなん誰も行ったことないんだから知るわけないじゃん
あすか   誰も行ったことないのにあるってどうしてわかるの?
ひかり   なんでそんなこと聞くの?
あすか   あ、ごめん、そういうわけじゃ
ひかり   今の人は誰も行ったことはないけど、かつてすべての土地ははらいそで、ある時を境に世界は大きく変わってしまったんだって。でも、はらいそを忘れないために私たちは祈りのしるしを天幕で表したり、手でしるしを結んだり、あとは本を書いたり、舞を舞ったり…いろいろするの
あすか   そうなんだ…
いずみ   あすかって物分かりいいですって顔しておいて意外といろいろわかってないよね
あすか   あはは、そうかも
ひかり   早くはらいそに至って、みんなで安らかに暮らしたいな
いずみ   でもさぁ、最近全然動かないよね。本当に行く気あるのかな
ひかり   いずみまで
いずみ   こんなに動かなかったらいつつくのさ
ひかり   ここは、安全だから。死んだら元も子もないでしょ。だからだよ、多分
あすか   そっか

ラウル   一杯のワインにいっぱいの言葉。

ひかり   おはよう
ききょう  おはようございます
あすか   おはよう
いずみ   おはよー

ききょう  わからないよ、許せないよ
いずみ   おいていかないで、歌ってよ
あすか   なんで?疑って
ひかり   ごめんなさい、私なんか

ラウル   「星の理に断りを入れて、注釈という蛇足をつけて言葉を飾り立てるには割に合わない情報量。神秘には『簡潔な』名前が必要だ、ルンペルシュティルツヒェン現象。わからないものをわかる次元まで落とし貶める卑しき芸術、欠陥のシステム、最たるものの言葉を煮込んで出涸らしをひとたらし紙に書きつける、祈り、これは祈りだ。濁りだ。」

ひかりが不安定に踊っている。
いずみ   ひかりの踊り好きだよ
ひかり   えへへ、なにそれ
いずみ   私さ、ひかりのことはすごいって思ってるの
ひかり   そんなことないよ
いずみ   そんなことないよ!
ひかり   私よりききょうのほうがすごいよ
いずみ   そればっかりだ
ひかり   だって「そう」でしょ
いずみ   そうじゃないよ。ひかりがすごいって話をしてるの。
ひかり   ええ~?
いずみ   ん~、わかる?
ひかり   わかるような、わかんないような。
いずみ   むかむかするの。ひかりもききょうもあすかもこゆきも、わたしも、自分のために生きているはずなのにそれがすり替わって逆転してしまってそれが普通って顔をしている、それがたまらなく、ね。
ひかり   そうだね
いずみ   だから、そうじゃない
ひかり   え~、なんなのもう
いずみ   そうじゃない、そうだ、そうじゃないんだよ、ずっとそう言いたいの
ひかり   へんなの

ラウル   一杯のワインにいっぱいの言葉。

こゆき   おはよう!!!
こゆき   あか、あか、あか、あかい。しかくい。きっとえっとずっとつづくんだあかいあかいあかいみちおおおおおきなあお!そしたらしろしろしろい手、手!が、あ、あ、あ、つち、の、うえ、に、くろくろくろいそのさきずっとえっとすっといっぽんはしるまっすぐひかるひかるちかちかぴかぴかきゅうううううってそうしてすっておわるおわるおわったらねむる、それだけ、それだけ
地面に絵を描き、おどり、歌い、地図を見、本を読み、あすかは斜め上を見て呆然とする


ラウル   「繋がないほうの手の冷たさを知っているか。震えていることを悟られたくないのだと、言い訳をする。冷たさは体を蝕むのだから、僕たちは自ら手を結び、祈るのだろう。関係性という、糸、を、人間の間に引くことが怖いから、星と星をつなげたのだろう。」兄さん、俺たちにはどんな線が引かれていたのだろう。

ききょう  生きることをあきらめてはいけません。いつか私たちははらいそにたどり着くのだから。善く生きましょう。
ひかり   生きることはつらくて悲しいことだから、薬を飲みましょう。寒さは身を蝕むから、厚着をしましょう。こんな世界で争うことは悲しいから、お互いに支えあいましょう。
いずみ   いつかたどり着くその日のために、はらいそに思いを馳せよう。祈りを、私たちの形で世界に降ろそう。それは歩みを止めない意志であったり、不安定な大地を踏みしめる踊りであったり、か細く安眠を願う歌であったり、言葉で形どられない熱量を吐き出した絵であったり
あすか   だったり?
あ除く全員 ねえ、君は?
あすか   わたしは

あすか   わ た し

あすか   は?

こゆき   あすかは、はらいそにたどりつくまでどうやってそのおもいをかたちにするの?
あすか   かたち

【9】
あすか   ねぇ!青の方角にいっとう光り輝く星をみたよ!すっと長く尾を引いてた。あれは吉兆だよ。今年はひもじい思いをしなくて済むね
ききょう  まあ、それは喜ばしいこと。あすかさまがよく空を見ていてくださるおかげで、わたくしたちは幸せを逃さずにいられますねえ
あすか   皆が星読みを教えてくれたからだよ。あ、そういえば今朝方に明星が銀の方角を示していたから、月の終わりの祀りは雪白色の着物にしよう!
ラウル   なんてすばらしい。ちょうど真っ白の反物を織り上げたところなんですよ。あすかさまの占いのおかげで、本年は絹の生産に力をいれましたから
ひかり   あすかさま、申の刻の星詠みが終わりましたら、日下部の家に算盤をとりにいかれたらどうです?ついでに採寸をしてきたらよろしいかと。また背がお伸びになったでしょう
あすか   そうだったね、そうする!
いずみ   あすかさま、わすれないでくださいましね。わたくしたちは本当にあなたさまを大事に思っているのです。われらが最後の星、最後の子供。あなたさまがいれば、わたくしたちは幸せなのです。
あすか   うん、そうか!

全員    最後の子供!


音響、あらそい?

ききょう  大丈夫ですか?
あすか   あ、

ききょう  この子がひかり。勉強家で面倒見がよく、朗らかでかわいい子です。この子がいずみ。はっきりとした物言いの子なので最初は怖く感じるかもしれませんが、本当は繊細でとても良い子なんですよ。この子がこゆき。この集落の最年少ですね。物静かですが、この子の描く絵は非常に雄弁です。

あすか   君が、この町の最後の子供なの?
こゆき   …
あすか   すごいんだね、こんな、こんなたくさんの人を導いているんだ!君は何ができるの?私、星詠みなら村で教わったけど、でももっと、もっと力があったならばって。だから、いろいろ教えて…
こゆき   (腕をつかまれびくっとし振り払う)
あすか   え

こゆきは何もかも無視して床に絵を描き始める。

あすか   …何が最後の子供だ。何が最後の子供だ。何が最後の子供だ!君は滅びだ。私がそうであったように、君だって滅びだ。無力だ。わかっているんだ、空なんて見上げても意味はなかった。違う、私は間違っている、君も間違っているんだよ。それを、なんで、なんで夢中に、君は、君は、君は、夢中に


ききょう  どうしたんですか、あすか
あすか   こゆきっていつも絵を描いているよね
ひかり   え、うん
あすか   …(空を見上げる)
いずみ   何かあるの?
あすか   ずっと見えているんだ、尾を引く星が。
ひかり   え?

あすかはこゆきの絵を消す

こゆき   え!!
ひ・い   え?
あすか   こんなもの無駄なんだよこゆき、ねえ
こゆき   (混乱で過呼吸気味になる)
いずみ   ちょっとどうして!
あすか   そうやって!うつむいてばかりいるから!何も見えないんだ!
ききょう  あすかやめなさい
ひかり   どうしたの、ねえ
こゆき   わーーーーーー!!
こゆきがあすかに殴りかかる。あすかも応戦しぼかすか殴る
ききょう  二人とも!!
ひかり   こゆきおちついて
あすか   ばか、ばか、ばか!!!
こゆき   うーーーー!
ききょう  やめなさいってば!!

引き離される

ききょう  あすか、らしくないですよ。どうしたんですか!
あすか   …
ひかり   怪我とかない?
ききょう  どうしてこんなことしたんですか
あすか   …

いずみ   ふふふ、あははは
ひかり   いずみ?
いずみ   いやごめん、久しぶりだねこんな大喧嘩。ひかりすぐ泣くから喧嘩になんなかったけどさ。あははは、こっども~、あははは
あすか   っ
ききょう  まあ、怪我がないのならよかったです
いずみ   こゆきにイラつく気持ちはめっちゃわかるけどね。愚図だし馬鹿だし、周り見えないし
ひかり   いずみ、ほんとそういうのやめなってば
あすか   そういうつもりじゃなくて…!
ききょう  どういう理由であれ、他人の創作物の破壊はよくないことです。あすか、わかりますね?
あすか   ……ごめんなさい
ききょう  こゆきに言うんですよ
あすか   ごめんなさい
ひかり   こゆきも
こゆき   …(どこかに駆け出して行ってしまう)
ひかり   こゆき!
あすか   …
いずみ   どうするの?
ききょう  私が追います。皆さんは夕飯の準備をしておいてください
ひかり   わかった。

【10】
ラウル   もう何日もワイン蔵で暮らしている。明日は俺のバースデーだけど、祝ってくれる人はもういない。兄の言葉で生きながらえている。俺は、ずっと、ずっと、この芸術に触れていないと、めまいで、倒れてしまいそうなんだ。精神をかろうじて世界に結ぶ、言葉の線、はかない縁。頭痛もひどい。明日、このワインを飲み干して、そして死ぬのを待とうと思う。

ラウル   まるい。

【11】
こゆきはたまたまワイン蔵を見つける。恐る恐る入り込み、何かに気を取られ絵を描く。

ラウルに気づかず地面に絵を描いている

ラウル   はっ
こゆき   …
ラウル   え?
こゆき   …
ラウル   え?ひと?
こゆき   …
ラウル   えと、おーーい
こゆき   …
ラウル   おーーーい
こゆき   …
ラウル   きみ?

こゆきの肩に手をかける
こゆきビクッとして振り払う

ラウル   え??

ラウル   あー夢か、また変な夢見てるんだ。え、いや

ワイン一気飲み

ラウル   ぷは、

ラウル一回寝てみる。もう一回がばっと起きる

ラウル   夢じゃないよね!!
ラウル   君、どこからきたの?迷子?おうちは?

ラウル   弱ったな…どうしよう…

【12】

いずみ   あすか、自分はわるくないって思ってるでしょ
あすか   …いや
いずみ   え~ほんと?
ひかり   いずみじゃないんだから
いずみ   納得いってない気がしたんだけど
あすか   人の絵を壊すのはよくなかったなって
いずみ   ほら、悪くないって思ってるじゃん!
ひかり   ええ?
いずみ   思ってることを伝えないのってよくないよ
あすか   いずみは言い過ぎ
いずみ   あすかは納得しているふりし過ぎ
あすか   そうかもね
いずみ   そういうとこ!
ひかり   みんな素直じゃないの。それだけでしょ。


【13】
こゆきが顔を上げたときラウルと目が合う。え!?

こゆき   !!
ラウル   あ、あ、あ、いや、怪しいものではないです!
こゆき   え、あ、あ
ラウル   あーーーえっと、本当に怪しいものじゃないから!
こゆき   びゃーーーーーーーー!!!
ラウル   えええええええ
ききょう  こゆき!!!こゆきいるんですか!?

探しに来たききょうがワイン蔵に入り込む

ラウル   えええええええ
ききょう  きゃーーーーー!?
ラウル   え、いや、ほんと怪しい人じゃないです、ほんと、ほんとだから
ききょう  こゆきから離れてください!!!
ラウル   は、はい!?
ききょう  ぴゃーーーーー!
ラウル   なになになになに!?
ききょう  こっち来ないでください!!
ラウル   じゃっ、じゃあ、どうしろと!?!?

ききょうは警戒しながらこゆきに駆け寄る

ききょう  大丈夫ですか、ケガは!?
こゆき   …
ききょう  うん、大丈夫かな…

ききょう  あなた、何者ですか。どうしてこんなところに?
ラウル   それは俺が聞きたいよ、君たちは
ききょう  私が質問しています
ラウル   そりゃ失礼。えっと…俺はラウル。レイモンド・ラナキラ・マクスウェル。みんなラウルって呼ぶんだけどね。あ、みんなっていうか主に家族が、なんだけど。兄がママのルーツをたどる旅がしたいと言ってね。ラウパホエホエを出て、ずっと北に来たんだけど…あ、今のはジョークじゃないよ?まぁそんなこんなで兄の執筆の旅に頼れるアシスタント!としてついてきた優秀なこの俺が…あ、ごめん。喋りすぎるのは俺の悪い癖。あはははは
ききょう  (警戒心)
ラウル   弱ったな。なにかこう、安全な人間ですよって証拠でも見せられたら良かったんだけど。兄さんが書いた本でも読む?
ききょう  いえ、いいです。それよりその、ニイさんというのは
ラウル   ああ、ここにはいないよ。遠くにいるんだ、ここには俺一人
ききょう  では
こゆき   あ、とかげ!
き・ラ   え?
こゆき   かわいいねえ
ラウル   見してみ。ああ、それはヒョウモントカゲモドキだね…
ききょう  こゆきから はなれて ください!
こゆき   わ、わ
ラウル   ああごめん
ききょう  あなたの出自等はわかりました。今ここでは何をしているんですか?
ラウル   ここでは?えっと、俺は旅人で…たまたまここにいるというか
ききょう  たびびと…旅人さんですか。
ラウル   うん
ききょう  熊の耳は羅針の氷を南に弾く。獅子の尾は?
ラウル   え?
ききょう  熊の耳は羅針の氷を南に弾く。獅子の尾は?
ラウル   答えは「ねずみがじゃれて幾重にも降る」
ききょう  なるほど、旅人さんというのは本当のようですね。
ラウル   ははは、試されていたのか。ずいぶん古い言い回しを知ってるね
ききょう  親が
ラウル   なるほどね。少しは信じててくれた?
ききょう  まあ
ラウル   そんなに気張らなくていいよ、リラックスリラックス。敬語もいいから。俺のことはラウルって呼んで。あ、(なんかすごく面白いギャグパート)
ききょう  ふふふふふ、あなたは気を抜きすぎですよラウルさん。私たちが盗賊だったらどうするんですか
ラウル   こんな可愛い盗賊一味だったら大歓迎だな。それに盗賊はそんなに隙だらけじゃない。喋る前に襲ってくるし、
ききょう  なるほど…
ラウル   こう見えてもいくつものスリルを潜り抜けてきたってわけ。【野盗につかまってさ、崩壊するビルから走って逃げたこともあったっけな。】あっはっは(笑いすぎて咳をする)
ききょう  だいじょうぶですか
ラウル   大丈夫大丈夫、あー思い出すたびにわらけてくる
ききょう  笑い事じゃないでしょうそれ
ラウル   笑った方がいいんだよ。理不尽と戦うときは笑った方がいい。
ききょう  …そうでしょうか
ラウル   うん?
ききょう  私は、理不尽に対して怒ってほしいなと思います。悲しんでほしいなと思います。感情を隠されたら癒すことも一緒に戦うこともできないんです、誰も。
ラウル   そっか。
こゆき   ねえ、これなあに
ききょう  あ、勝手に触っては
ラウル   それは刷毛と絵具だね。絵を描く道具。なんか落ちてたんだよね
こゆき   え!
ききょう  こゆきは絵が好きですもんね
ラウル   へえ?つかう?こうやって…これでいいかな。に、これ出して…どこに描こう。ここでいっか。こんな感じ、で、ほら絵が描ける
こゆき   わ
ラウル   君も描いてみる?
こゆき   
ラウル   お、思い切りがいいねえ
ききょう  こんなに生き生きしてるこゆきを初めて見たかもしれません
ラウル   そうなの?
ききょう  このこは…集落でも子供の間でもうまくなじめなかったんです。それに加え、最後の子供ですから…
ラウル   最後の子供?
ききょう  集落で最年少なんです。
ラウル   そんなに子供少ないのかい君の集落!?
ききょう  ええ
ラウル   ええ、今はどこもそんなもんなのなぁ。ラウパホエホエは俺より小さな子たっくさんいたけどな。十年近く前の話だけど
ききょう  そうなんですか?
ラウル   まあ地域性はあるだろうね。
ききょう  地域性…そう、ですね。

ききょう  そろそろ帰らなくてはみんな心配してしまいます
ラウル   あ、それは大変だね。帰りな帰りな
ききょう  ありがとうございました
ラウル   いやいや

ききょう  もう帰りますよ
こゆき   え、まだー
ききょう  おそくなっちゃいますから、ね
こゆき   ……ん

ききょうとこゆきは出口へ向かう

こゆき   ねえ
ラウル   うん?
こゆき   またくるね!
ききょう  こゆき?

ラウル   …うん、またおいで

【14】
ラウル   くどい、くどいくどいと言葉を遠ざけようとしていないか?眉を上げる、瞳孔が縮まる、まる、まあるい目。熱い指。体温、子供の体温。こゆきの体温。

こゆきがワイン蔵を訪ね、壁画を描き始める

いずみ   こゆきは?
ひかり   そういえば朝から見てないね
あすか   夕方には戻ってくるでしょ
いずみ   どうかなー、あのおバカさんは。周りが暗くなったの気づかないんじゃない?
ききょう  あまりにも遅くなったら迎えに行きますよ
いずみ   どこにいるか知ってるの?
ききょう  検討はついてます
ひかり   ききょうがわかってるなら安心だね
いずみ   なーんだかなー

ラウル   「ソドムか、カナンか。なんか、七日あれば作れる世界になんなのか何十年も生きて難儀する。なに、なに、生ぬるい、ような、ナイトメア。ことばを記号の羅列というならば人間は記号に波乗りしているだけの、散らばった点。」

ラウル   ん?何?
こゆき   それ
ラウル   本?読む?
こゆき   …
ラウル   はい
こゆき   …
ラウル   逆だねぇ
こゆき   ?
ラウル   もしかして文字読めない?
こゆき   もじね、わからない
ラウル   そっか
こゆき   …(熟読中)
ラウル   …読めなくても楽しいもんなの?
こゆき   絵みたい
ラウル   へえ、絵か、いいね、あながちまちがってない。文字もまた物事を描写する方法の一つだ。
こゆき   …
ラウル   あはは、絵のほうが好き?
こゆき   あかーいの。ずっと、つめたいの。そういうのを、ここに、…。
ラウル   しかくい

▼1
ききょう  しかくい、いのちを、つなぐもの。
あすか   ねえ、納得がいかないよ。どうしたって君はずっと絵を描かなきゃならないことが納得がいかないよ。星を見たって何も変わらなかった、祈りが何かを救ったことはない。
こゆき   これは血糊だ、濁りだ

ひかり   あすかはさ、もっといろいろ…はらいそに思いを馳せられるような、そういうことを探してみるのがいいんじゃない?
あすか   思いを、馳せられるような
ひかり   両親がね。舞を舞っていたのを見て、私こんなに美しくて、感情を言葉に、音に任せない方法があるんだって、すごく、なんか泣きたくなるほど、世界がいとおしく思えたの。だから、私は踊るの。
あすか   そっか
こゆき   重いよ、感情を、課せられるような
ひかり   あすかにだってあるよ、そういう、この世界を自分の内にしまう方法。見つけたらきっと、すごく楽になる
あすか   ひかりは楽になるために踊るの?
ひかり   え、あ、うん。なんか自分で言っててびっくりしちゃった。…踊りは場所を選ばないから。だからこんな地面でも、きっと世界の端っこでも!踊っていればそれは祈りの空間になるんだ。って、私は思うから。それは、何かを探していることなんだって。
あすか   さすがに世界の端で踊るのは危ないと思うよ
ひかり   えへへ、そうだね。…そうだね?

ラウル   躁だね。言葉というドラッグは感情を降ろして三枚に開くためのナイフに過ぎない、ことを、過大評価して早口に並べている。そうだね、上ずっている。上、うえ、飢え、る、ように。真上。

▼2
いずみ   なにしてんの
あすか   ああ、星を
いずみ   星?
あすか   見てると落ち着くから
いずみ   単なる点々じゃん
こゆき   てん、てん、てん、てん
あすか   意味があるんだよ、星の位置は
いずみ   あったって知らないね
あすか   …
いずみ   夜は嫌い。だから星は嫌いだよ
あすか   そうなの?
いずみ   特に明けの明星はなんか、なんかすごく、不快
あすか   不快って
いずみ   変わらずにそこにあるから、なんか気持ち悪いの
あすか   星空は変わるよ。
いずみ   変わんないよ。星が爆発でもしない限り
あすか   読み方があるの
いずみ   読んでどうするの、遠い遠いところで光ってるだけなのに、勝手にその位置に意味を与えられて。そんなのただ、今生きているだけなのに生きる意味を明文化させられてそのために生きながらえさせてる私たちとなにも変わらない
あすか   いずみは死にたいの?
いずみ   なにそれ、愚問じゃん
ラウル   グッドモーニング
こゆき   ふっと、もう二度と、この線を引くことはない
あすか   愚問?どういうこと?
いずみ   意思なんてないよ、生きていることにも死んでいることにも。状態ってだけ。
あすか   いずみにしては難しいこと言うね
いずみ   なんかその物言いムカつくな。
あすか   そういえば上着どうしたの
いずみ   暑いからぬいだ
あすか   教えを破ってばっかり
いずみ   教えなんて知らないよー。
あすか   はらいそ
いずみ   はらいそは…ねぇ。

▼3
ききょう  …本当に、大きな絵ですね
ラウル   聞いたんだ、何かいてるんだいって。
ききょう  …
ラウル   はらいそ、だそうだ
ききょう  …
ラウル   俺ははらいそを知らないけど、自分の持ちうる限りのすべての表現を叩きつけられるテーマがあるなんて、それだけで素晴らしいじゃないか。得難いものだ。おれはこうやって全身全霊を芸術に傾けられる人間を知っている。彼らはなんて、輝いているんだろう、なんて、まぶしいんだろう。星のようだな。
ききょう  そう、かもしれません

ききょう  こゆき
ききょう  こゆき
こゆき   …!
ききょう  …(ゆっくり抱きしめる)


▼4
ひかり   こゆき、最近日中はすぐどこかに行っちゃうね。
いずみ   いつも通りじゃない?
ひかり   なんか、違うんだよね。
いずみ   違うって、そう?
ひかり   私はそう思う。
いずみ   こゆきは何するかわかんないからさ、違いってものが見いだせない。
ひかり   …なんか、もしかして違いを見出そうとするのは無粋かな
いずみ   ぶすい?悪口?
ひかり   野暮って意味。
いずみ   なんだ。
ひかり   悪口なんか言わないよ。思ってもないし
いずみ   ひかりはもっと素直に言葉を選んでもいい気がする。なんかすごく、もう一人ききょうがいるみたいで、気持ち悪い
ひかり   ひどいな。私はききょうとは別の人間だよ
いずみ   なら。なら、もっとひかりの気持ちを聞きたいよ
ひかり   気持ち?こんなに素直に言ってるのに?
いずみ   素直?

いずみ   「ひかりが、みえない。」くらやみ、そこから、手が伸びて、心臓えぐって持ってった。
ひかり   怖い、気持ちに、名前がないから、ゆめ、ゆめ、ゆめ、浮かされる

▼5
ラウル   へえ、じゃあ、はらいそというのは君たちの目指しているところなんだね
ききょう  ええ。
ラウル   はらいそ、かあ。パライソ、天国、楽園。死後の世界という認識であってる?
ききょう  いいえ。かつてはすべての土地がはらいそだったのです。揺れもせず、空も明るく、めまいもない。そんな土地だったと聞いています。私たちはそんな場所に至るために、教えを守って、助け合って移動しているのです。
ラウル   なるほどね。かつて、昔。昔話って好き?
ききょう  なんですか藪から棒に
ラウル   いやなんか、俺の兄さんが昔の文化が好きでね。その、はらいそを目指すうえで参考になったらなって。
ききょう  まあ…聞きましょう。
ラウル   昔の話。ママや兄さんから聞いた、ママのママやその親の生きていたころの話。摩天楼がそびえたち、きれいに引かれた線と規則的な自然、たくさんの子供があふれ、それらが希望と呼ばれていた。その様子を、そうだ、未来とか多様性と呼ばれていたそのぐちゃぐちゃと濁った色のいろいろを、俺たちは未だ見ていない。

ラウルの声→ラジオの声になっていく
【15】
照明変化 過去

いずみ   どこいくの、どこいくの、どこいくの、なんでいずみはいっしょにいっちゃだめなの?ねえ、ねえ、つれてってよ。うみといっしょにいたいよ。うみはわたしのことすきなんでしょ。わたしもうみのことだいすきなんだよ。なんで、なんでいずみもいっちゃだめなの、うみ、うみ、うみ!

ひかり   いずみ!

ひかり   いずみ!
いずみ   どうしたのー、まだお外くらいよ
ひかり   あのね、今からこっそり、世界の端っこに行くんだ!
いずみ   ええ…なんで?
ひかり   だって気になるじゃん、端っこって何があるんだろうね
いずみ   私もいく
ひかり   いずみは危ないからお留守番!
いずみ   ええ~
ひかり   じゃ、行ってきます!
いずみ   怒られちゃうよ
ひかり   いずみが告げ口しなきゃばれないよ。じゃね!
いずみ   あ、ひかり!

いずみ   いっちゃった

大人    いずみ、ひかりをしらない?
いずみ   え、し、しらないよ
大人    ひかりが朝からいないの。ご両親も探し回ってるんだけど、見つからなくて
いずみ   …
大人    本当に知らない?
いずみ   知らないよ!

大人    ひかり~~
大人    ひかり~~~~
大人    ひかり、しっかりつかまるんだ
大人    手を放しちゃだめだからね
大人    きゃあ!/わあ!
ひかり   あ、あ、
大人    いいから!

ひかり   (泣いている)
いずみ   ひかり
ひかり   私のせいだ!!(泣いている)(大人たちに慰められている)

大人たち  かわいそうだ、かわいそうだ、かわいそうだ、かわいそうだ

いずみ   ぐちゃぐちゃだ。全部、ぐっちゃぐちゃ、に、なっていく

現実、照明戻り

M 地震 火砕流

【16】

こゆき   あか、あか、あか、あかい。しかくい。きっとえっとずっとつづくんだあかいあかいあかいみちおおおおおきなあお!そしたらしろしろしろい手、手!が、あ、あ、あ、つち、の、うえ、に、くろくろくろいそのさきずっとえっとすっといっぽんはしるまっすぐひかるひかるちかちかぴかぴかきゅうううううってそうしてすっておわるおわるおわったらねむる、それだけ、それだけ

ききょう  だいじょうぶですか!?
ひかり   ほらこっちちゃんと寄って
いずみ   もう、やだなあ

【17】

ひかり   おさまった?
いずみ   なにあれ
ききょう  火砕流ですね。山頂から溶岩が噴出して、山の裾野まで燃えてしまっていま  す。
こゆき   もえる、もえる、もえる、みたいに、ひろがる!
ラウル   大丈夫?余震も怖いし、しばらくは壁から離れておいたほうがいい
こゆき   …
ラウル   死んだら元も子もないんだよ
こゆき   …
ラウル   ねえ

ラウル   ねえ兄さん、そうするしかなかったの?

ききょう  軽石が飛んできたり、しばらくは降灰がひどいでしょうから、荷物を片付けましょう。私は周囲を確認したり、こゆきの様子を確認してきますから、いずみとあすかは水を汲んできてください。…濁ってしまう前に。ひかりは地震で天幕のなかの荷物が壊れていないか、確認してくれませんか?
子供たち  はい

【18】
ひかり   うん、よし。

ひかり   うん?

ひかり   …これは、手紙?

ひかり   ききょうのかな。…読んじゃだめだよね。

ひかり   …

ラウル   「天才が芸術をむさぼるように、天災は自然を蝕んでいく。その意思に我々はどれだけ介入できるんだろうか」

ひかり   「ききょうへ。あなたにたくさんの責任を背負わせてごめんなさい。さらに重荷を背負わせてしまう大人をどうか許してください。」

ラウル   「許してくれ」

ひかり   「近いうちに大規模な火砕流が起きるのではないか、という観測結果が出ています。私たちも脱出を試みますが、知っての通り、私たちの集落はお年を召した方が多い。全員を安全に移動させるには何か月も必要でしょう」

ラウル   「時間、だけが、人を救う、というのはうそに過ぎない。痛みを忘れるために人は苦心する。心を薄い鈍感の膜で覆う。それしか救いが、ないのならば。どうして心を持ってしまったのだろう。どうして心があるのだろうか」

ひかり  「だからせめて子供たちだけでも安全に逃げてください。逃げて逃げて、安全な所へ。私たちは、ご老人方を見捨ててはいけません。あなたたちの信仰心に付け込んで、はらいそに至る旅なんて、そんな嘘をついてごめんなさい」


ひかり   「でも、大人はせめてあなたたちだけでも、生き延びて世界をたくさん見て行ってほしいと思うのです。かわいい、かわいそうな私たちの最後の子供たち。どうか私たちの思いをわかってください」

ラウル   「かわいそうだ」

ひかり   …
ひかり   …
ひかり   …

【19】
ラウル   兄さんが生きていたら、こゆきに挿絵を描いてって言っただろうね。

ラウル   そんな世界が見てみたかったな。

ラウル   揺れた後はいつも、世界は寒いのだと兄さんは笑った。世界は番ではないから、一匹だけだから、寂しいのだと。俺はそんな兄さんに、誰かとともに過ごすことが救いではない、のではないかと聞いた。でも、俺が聞いてもそんなのは説得力がない。兄さんと寄り添わないと生きていけなかった、おれは
こゆき   くらーいの、ずっと、つめたいの。あしおとがするの。おわれるようにおわる、おわる、おわっていく

【20】
いずみ   ひかり?どこ行くの。まだ日が昇ってないよ
ひかり   移動集落まで戻るの
いずみ   なんで
ひかり   さっきの火砕流、集落が巻き込まれたかもしれなくて
いずみ   そんなことはないんじゃない?移動してるわけなんだから可能性は低いと思うけど
ひかり   じゃあいずみはそう思っとけば
いずみ   どういうこと?
ひかり   どういうことって、そのままだよ
いずみ   馬鹿にしてる?
ひかり   馬鹿にしてるのはいずみじゃん!
いずみ   は?
ひかり   とにかく私は行くからね
いずみ   は?なにそれ、意味わかんない、じゃあ私もついてく
ひかり   いずみが来る意味はないよ
いずみ   だからさっきから何それ!
ひかり   言ったってしょうがないじゃん!集落には親だっているんだよ、大人たちだって、わかるでしょ。心配だから戻るの!それだけだよ
いずみ   なにそれ、親とか、大人とか…
ひかり   ねえ、いずみ、私たちははらいそに行くんだよ。みんなで幸せになるためにはらいそへ行くんだ。みんなでなんだよ
いずみ   さっきから会話になってない!
ひかり   なってるよ!いままでいずみが、教えも人の考えも感情も馬鹿にして無視し続けたから行間が読めてないだけ、だよ。そうやって、真っ向から向き合ってこなかったからわからないだけよ!
いずみ   そんなのひかりだって同じじゃん!へらへらと、ききょうの真似ばっかりして、自分で何かしようとはしないで。ずっとそうだ、
ひかり   だから今度は私が動くんだよ。集落に、帰らなきゃ、大人が、親が、私は


いずみ   ひかり、ひかり、ひかり、ひかり置いていかないで。なんでいずみはいっしょにいっちゃだめなの?ねえ、ねえ、つれてってよ。ひかりといっしょにいたいよ。ひかりはわたしのことすきだったでしょ。わたしはひかりのことがすきなんだよ。ねえ、ひかり、ひかり、ひかり、ひかり

いずみ、ひかりを連れ戻そうとしてぐいとひっぱる。もみ合いに

ききょう  なにしてるんですか!
いずみ   ききょうには関係ない!
あすか   どうしたの…え?
いずみ   ひかりのわからずや、なんにもわからないくせに、わかってないくせに、受け入れられていないくせに、笑ってばっかりのわからずや!
ききょう  それ以上はやめなさい、いずみ
ひかり   わからずやはそっちだ!いずみはゆりかごの中から世界を斜めに見ているだけだ、いつも安全圏から人を殴って、そうやってひとから強い感情を引き出そうとする、あかちゃんだ!
ききょう  ほんとうにやめなさい、なんで私たちが争わなきゃいけないんですか
いずみ   安全圏から人を見ているのはひかりだってそうだ、自分の心を守るためって、言って、なんだっていいほうに捻じ曲げて、ききょうの後を追っていれば安全って思いこませて、矢面はいつも別の人!自分の選んだものなんてないくせに
ひかり   あんたみたいに子供じゃないの!
いずみ   こどもこども子供ってそういうやつが、いっちばん、ムカつく!
あすか   もうやめてよ
いずみ   あんたが言うの?こゆきをぐっちゃぐちゃに、怒鳴りつけて。あんたも大概ね
ききょう  これ以上言うなら私にも考えがありますよいずみ
いずみ   そう、やって、権力とか、教えとか、偉そうな、やつも、みんなみんなムカつく!!!!
ひかり   いずみは赤ちゃんだからね、子供と大人っていう対立構造でしかものを見られないんだよ、かわいそうに
いずみ   かわいそうに?かわいそうに?かわいそうに?かわいそうに?かわいそうにって言った?
ひかり   いいました!
ききょう  二人とも!!
いずみ   かわいそうなのはひかりだ!親だって死んだのにそんなの受け入れられませんってすっかり幻ばっか見て、ほかの人の背中ばかり見て顧みないなにもあんたの中に響いてなんかいない幻幻覚嘘嘘ばかりで固めて憧れなんて言うゆりかごでずっと寝てるのはあんたのほうだ!!!
き・あ   いずみ!
ひかり   わたしは…っ!!!!!!!!

ひかり   あ、

ひかり   あ


ひかり   あ

父     ひかり、手を伸ばすんだ
母     あと少しだからね
ひかり   はあ、はあ、はあ
父     ほら、帰ったらひかりの好きなよもぎ餅を食べよう、だからゆっくりと…


ひかり   あ


ひかり   あ


ひかり   わたし、なーにやってんだろ

ききょう  ひかり?

ラウル   赤、赤、赤、赤い、四角い。ニューロンが焼き切れるようなシナプスがぶちぶちぶちと音を立てて破壊されるように、身体は徐々に心から離れていく。違う、違う、心が魂ではない。とにもかくにもとっかかり、の、ない、色や景色だけが流れていくとき、人はいくらそれを記憶と感じているのだろう、か。

ひかり   朝ごはん、何にしよっか
ききょう  え
ひかり   干した魚残ってるかな
いずみ   ひかり?
ひかり   そろそろ移動しようよ、けっこう長い間ここ留まってるしさ。安全なのはわかるけど、私もっといろいろ世界が見たいな。それに、はらいそを早く見つけて、大人にも親にも、安息を見出してあげたい
ききょう  移動、することは、異論はないですが…
ひかり   あすかもこゆきも、早く安心できるところに連れて行ってあげたいしさ。はらいそにたどり着けば、私たち本当に幸せになれるんだよ。ね?
いずみ   なにどうしたの?集落に戻るってさっきまで言ってたのに
ひかり   ああ、日が出てきちゃった。ちょっと早いけどこゆきを起こそっか。
いずみ   え、なにそれ無視?
ききょう  ひかり、さすがにやりすぎですよ
ひかり   え
ききょう  え?
ひかり   確かにいつもよりは早い時刻だけど、早起きすぎではないでしょ?
いずみ   は?
ききょう  え?
あすか   どういうこと…?
ひかり   え、こわ。みんな寝ぼけてるの?
いずみ   ちょっとひかり!!!
ひかり   …
いずみ掴みかかる、ひかり無抵抗、なにもなかったよう
あすか   ちょっと大丈夫!?
ひかり   え、ああ、まだ薬飲んでないからかな~。久しぶりにめまいで転んじゃった。薬飲まなきゃ
いずみ   どういうこと、どういうこと、どういう
ききょう  いずみ、落ち着いてください
ひかり   え、私は落ち着いてるよ?
いずみ   どういうことなのねえ、ききょう、ひかりはどうしちゃったの
ひかり   …、よし。今日も頑張ろうね!

【21】
こゆき   はらからはらへ。わたしのはらから、うまれくぐもった声で泣いたおと。はらいそにいきましょう。そうすればにどとこんなくるしみには遭わないで済むんだ。みちすじは簡単、まっすぐまっすぐ、光のさすほうへ。そのうち端が見えるから、それをまっすぐあゆむそしてねむくなったらねむる。それだけ、それだけ。

【22】
いずみはなにかつぶやきながらうつむいている。ひかりは意気揚々とテントを片付け荷物を整理している。
ひかり   ききょうー、これなんだっけ。予備?
ききょう  それはいずみの上着ですね
ひかり   なんの上着?
ききょう  えっと
ひかり   まあ、まだ使えるからいっか。
いずみ   …
あすか   どうしちゃったのかな、ひかり
ききょう  ……わたしにも、さっぱり
あすか   こんな時にもいないなんて
ききょう  こゆきがいたところで、どうしようもないでしょう
あすか   こゆきはずっと何をしているの
ききょう  壁画を描いています
あすか   …壁画
ききょう  完成を見たかったけど。壁画は動かせませんからね…。

ひかり   ききょう、どこに移動しよっか
ききょう  その前にこゆきを呼んでこなくては
ひかり   あ、そうだね

ききょう  あすか、二人の様子を見ていてください。
あすか   頑張る
ききょう  …

【23】
ラウル   やあ
ききょう  あの、こゆきは
ラウル   来てるよ
ききょう  実は私たち、そろそろ移動しようかという話になっていて
ラウル   え!?ああ、そうか、君たちは移動しているんだったね…
ききょう  会えなくなることが心苦しいですが
ラウル   ……
ききょう  ……
ラウル   ……俺は、平気
ききょう  …
ラウル   ほんとに大丈夫だってば。こゆきの絵の完成が見られないのは残念だけど、移動のほうが大事だろう?
ききょう  …まだすぐに発たないので、私ここで待ってるので、その
ラウル   ああ、ありがとう

ラウル   こゆき。
ラウル   こゆき。
ラウル   君はすごく、温かいね。君は芯からポカポカしている。ずっとエネルギッシュで、燃えている。君が君らしくあれば、それはいつか周りの人にも伝わるよ。
ラウル   人の在り方に善悪はない。だから人は自由にあり方を変えていけるし、そのままでいることだってできる。君は君の在り方を貫いてほしいと俺は思うよ。最初は兄さんを思い出していたけど、それだけじゃないんだ、俺が君を、君をずっと見ていたのはね、

ラウル   こゆき、こっちを見て。

【24】
ひかり   よし、これでよし!ちょっと荷物が多いかな
あすか   一人で全部持たなくてもいいんだよ、私も持つし
ひかり   ききょうまだかなー。早く出発したいんだけどな
あすか   そんなに急がなくても大丈夫だよ
ひかり   これはいらないかな。おいてこ
あすか   え?
ひかり   これも…いいかな
あすか   ひかり?
ひかり   …
あすか   ねえ、ひかり?
ひかり   …

あすか   …ひかり
あすか   いずみ、ひかりわたしのこともわかんなくなっちゃったよ!
いずみ   …
あすか   いずみってば!
いずみ   あ、ああ?
あすか   ひかり、私のこともわかんなくなっちゃった
いずみ   私がひどいこと言っちゃったから、
あすか   たしかにいずみは酷かったけど、そんなのいつも通りじゃん。私たちはらいそにみんなで至るんでしょう。だったら、いずみがひかりをこっちに引っ張り戻さなきゃ
いずみ   言うようになったね。
あすか   えへへ、いずみを見習ったの

あすか   あ、
いずみ   どうしたの
あすか   流れ星
いずみ   こんなときに
あすか   ねえ、こんな流れ星、たくさんなの初めて見たよ。
いずみ   私も
あすか   …
いずみ   あすか?
あすか   あの星は、追わなきゃ
いずみ   え?
あすか   こっちの話。いずみはひかりをよろしくね
いずみ   え、ああ、うん

あすか   まぶしい、まぶしい、まぶしい、星が、尾を引いている!!!

あすか、流れ星を追いかける。

いずみ   あれ、ひかり?

【25】
ひかり   あれ
ひかり   あれ

ひかり   いらない、いらない、いらない、いらない、いらない
ひかり   あれ?

ひかり   なんだ…っけ

いずみ   ひかり?ひかりどこ行ったの?
いずみ   ひかり!

【26】
M 超巨大地震、隕石、もう想像する限りたくさんの災害
ききょう  !!!!
ラウル   こっち
ききょう  いえ、戻らなくては!!
ラウル   今動くのは危ない!
ききょう  私は!私は、私は、行かなきゃならないんですっ!!!!!!
ラウル   …
ききょう  こゆきを、任せましたよ
ラウル   うん


ひかり   あ、あ、なにも、いらないよ、ねえ、へんじして、さむいよ、いたいよ、あ、


あすか   ききょう!!
ききょう  あすか!!ふたりは
あすか   ひかりが私のことも分からなくなっちゃって、だからいずみに、もう一度話すように言って
ききょう  ええ
炸裂音
き・あ   わああ!!
あすか   こゆきは
ききょう  安全なところにいます
あすか   よかった
ききょう  あすか
あすか   許せなかったんだよ、こゆき。いまこんなこと言ってる場合じゃないけど。でも、本当に、こゆきが
炸裂音
き・あ   わ!!!
あすか   星に、追われているみたいだ
ききょう  はやく屋根のある所へ!

あすか   あ、あ、あの星、星、すっと尾を引いている、星、が、散る、散る、!!!
ききょう  あすか!
あすか、ききょうをかばう

星を追いかける
あすか   ねえ、あの星は吉兆だよ。きっと私たちはらいそにたどり着けるんだ!ねえみんな、みんな、ねえ、こんな、
あすか   星が、きれいだよ
M すごい炸裂音。 あすかは流れ星にあたって砕け散る。
ききょう   あすか!!!!!!!!

いずみ   ひかり!!!

ひかり   !!!
いずみ   ひかり!!!!!!!
ひかり   …え、あ
いずみ   ばか!!!!ばかばか!!
ひかり   …
地震
いずみ   わ!!!
ひかり   …
いずみ   しっかりつかまって!わたしのこと、もうわかんなくてもいいから!いいから、つかまって!
地震
いずみ   あ、あ、あ、
ひかり   いずみ?
いずみ   ひかり!!
ひかり   いずみ、もういいよ。離していいよ。私世界の端に行ってみたかったんだ。もういいよ、もういいよ、もういいよ、私先に
いずみ   おいてかないで!!いやだもう、置いていかないでよ、置いていかないでよ。ねえ、私もいっしょに行くよ。ひかり
ひかり   …いずみ
いずみ   もう誰にもおいていかれたくないよ。ねえ
ひかり   きっとさ、はらいそはこの先にあるよ。ねえ、冒険だ。いずみ、今度は一緒に、世界の端まで行こうね
いずみ   うん


地響き


ききょう  皆?
ききょう  あ、え、え

ききょう  あすか、よく耐えましたね。あなたの苦しみは想像を絶するものだったでしょう。あなたがほしをみているとき、手を差し伸べてあげたかった

ききょう  ひかり、ああ、あなたは誰より弱いのに、誰より賢かった。うまく自分をだますことができた。その笑顔を、泣き顔を、抱きしめたかった

ききょう  いずみ、あなたが素直じゃない言葉を吐くたびに、なんてかわいいのだろうと思っていました。誰より愛されたがりだった。かわいい、なでてあげたかった

ききょう  こゆき、あなたはもう大丈夫です

ききょう  ねえ、ねえ、

ききょう  はらいそに!
ききょう  はらいそに!
子供たち  はらいそに!
子供たち  はらいそに!!
子供たち  はらいそに!!

ききょう  今行きます


ラウル   危ない!!!
ラウル   大丈夫?
ラウル   ねえ、やっぱり壁のちかくはあぶないねえ。下敷きにならなくてよかった。
こゆき   
ラウル   兄さんはさー。やっぱりもっと周りに気を配ったほうがいいよ。俺がいるからいいけどさ。でも兄さんはあまりにも世界を深く見すぎているから、自分のことをもっと省みてほしいよ。ああ、でも、兄さんが描く話とっても大好きだ。とってもとっても、大好きだ


こゆき   …(歌っている)
こゆき   …
こゆき   …
こゆき   …

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