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シ#がこぼれる【脚本】

本公演は、リモート練習に加えて舞台上の人数が4人以下になることを想定した短編群です。


シ# がこぼれる 



死体が落ちている。肢体が投げ出されている。身体が静かに横たわっている。

静かな空間にオーケストラの音合わせが流れ始める。

一つの死体がよみがえっていく。



もも :シ、詩、死。シが、こぼれている、落ちている。斃れている。し、死んでもいいわ、幸せのしわ寄せ。言葉遊びの手遊び、手あかのついた真鍮の錆。口寂しいのは生きている言葉を食べていないからです。ねえ、ねえ、詩人と死人はなんて近しいのでしょうか。詩人は「シ」から生まれ、私たちは「シ」で終わる。ドレミのようにくるくる繰り返してシからシへ向かいましょう。終点から始点へ。さ、始めましょう。



音声 :「上映中の飲食、途中退室、通話、私語、内職、旅行、帰宅、通勤、通学、結婚、離婚、出会い、別れ、誕生、死亡(誕生、死亡繰り返し)、葬式、超新星爆発、すべて大歓迎です。」


もも :それでは、よい人生をお過ごしください。





【総合的研究-愛-】



ちか :「好きなもの」というお題ほど、人間性の清濁が出るものも無いだろう。瑠璃も玻璃も照らせば光る。嘘も本当もまろく絵の具に混ぜる。わたし?私は…何を描こう。好きなもの。ネギたっぷりのラーメン、フリルの付いたブラウス、しろくまの抱き枕。美術の授業も好きだし、生物も楽しい。部活も楽しい。みいこもりつ先輩も好き。


ちか :「愛」というお題ほど、人生の明暗のコントラストが眺められるお題も無いだろう。両親は大好き。伊藤君も鈴木君も中村くんも愛してた。別れちゃったけど。化学の加藤先生、国語の国井先生も好き。八百屋の影山さんも好き。私は愛であふれて、縫い目からこぼれている。

ちか :いや、いや、嫌。愛というならば、それは…



ちか、スケッチブックを片手に悩んでいる。みいこが寄ってくる。



みいこ:どしたの?

ちか    :え、あぁちょっと感傷に浸ってた

みいこ:何それ

ちか :なーんかさ、こっからの眺めってすごくいいなって

みいこ:わかる。いっぱいに広がったお日様の光が窓に真四角に切り取られてる感じ、すごくエモいよね

ちか :ねー。



ちか :美術部員って美しさへの解像度高いと思うんだよね

みいこ:といいますと?

ちか :常に生活のどこを切り取ろうか考えちゃう

みいこ:あーね。信号変わる瞬間の人の動きとか、天気雨の後の地面とかね

ちか :そうそうそうそう。今の窓から見える夕日も、終電に乗ってる人々の脚も、団地に干されたジーパンも、全部絵になるなあって思っちゃう

みいこ:ちかちゃんってちょっと詩人っぽいところあるよね

ちか :そうかな?

みいこ:そうだよ

ちか :そうなのかなぁ

みいこ:そうだと思うよ

ちか :こういう、日常を切り取っちゃうのって他の部活の人でもあるのかな?

みいこ:写真部とか演劇部とかはあるんじゃない?なんで?

ちか :なんかさ、そういうほかの部活とうちらの違いって何だろうねって思ってさ。

みいこ:うーーん。表現の自由度とか?ある意味不自由度ともいえるけど。

ちか :なるほどね…?

みいこ:意外と窮屈だよね、美術。なんかだだっ広い草原にぽいってほっとかれてる気持ち。

ちか :みいこも詩人っぽいじゃん

みいこ:確かにwちかちゃんと一緒にいるからかな~

ちか :何それw

みいこ:でも思わない?こんなに表現したいこといっぱいあって、手段もたくさんあるのに、一歩も動けなくて何度も描き直してさ。窮屈だなって。技術があったらもっと自由なのかな~。

ちか :落合先生が「技術は翼だ」~って言ってたわ

みいこ:あ、言ってた言ってた。

ちか :今ならすごくわかる。

みいこ:詰んでるの?

ちか :ん?

みいこ:コンクールの絵。進まないの?

ちか :まあ、ねえ

みいこ:私も。



ちか :なに、話してたっけ?

みいこ:えっと、美術と技術について

ちか :わー、うちらって意識高い

みいこ:あはは

ちか :話変えていい?

みいこ:いいよ

ちか :腕んところの絆創膏、どうしたの?

みいこ:!



りつ :あれ、二人とも早いね

二人    :わ!?

りつ :何、どうしたの…。

みいこ:あ、ああいや、コンニチハりつ先輩…

ちか :先輩が遅いの珍しくありません?

りつ :帰りの会が長引いた上に掃除当番でさ

ちか :うわー最悪のコンボだ

りつ :でしょー?もうコンクールまで時間無いってのに…みいこ上手く描けてるじゃん、それダルメシアン?

みいこ:ありがとうございます~。そうですよ、うちのわんこなんです

りつ :え!?あ、自分ちの犬なの?

みいこ:はい

りつ :ダルメシアン二頭いるの?

ちか :こっちがビアンコくんでこっちがネラちゃんって言うらしいです

りつ :何語?

みいこ:イタリア語です

りつ :おしゃれだな~

みいこ:えへへへ

りつ :ちかは何描いてるの?

ちか :あーだめだめ、見ないでください

みいこ:ちかちゃん全然見せてくれないんですよ

りつ :みせてよ
ちか    :嫌です
りつ    :みーせーてー
みいこ:私も見たい!
ちか    :えーやだってばー

りつちかみいこの攻防。

りつ    :あっ空飛ぶかまぼこ!
ちか    :えっ!?
みいこ:もーらいー!
ちか    :あーっ



りつ :だあれ…?
みいこ:もしかして、自画像?

ちか :姉です!!!!!

りつ ;お姉さん?仲いいんだね

ちか :普通です、多分。

みいこ:お姉ちゃん描いてたんだ。

ちか :うん

みいこ:いいじゃん、いいと思うよ

りつ :うん、愛を感じるね。あったかい感じがする

みいこ:ですね。ちかちゃんに似て、笑顔がかわいらしい
りつ    :本当に似てるね。会ってみたいなぁ

ちか :…今回のテーマって、愛じゃないですか。

りつ :え?ああ、そうだね
ちか    :愛するものを、みせなきゃいけないわけじゃないですか
みいこ:そうだね、どうしたの?



ちか、絵を破く



りつ/みいこ:えええええええ?!

みいこ:駄目だよもったいないよ

ちか :駄目なの、こんなの違うの

りつ :無理やり見てごめんってば、だからこんなことしないで



ふと我に返る



ちか :あ、いや、見られたからとかじゃないんで、全く…その、なんか恥ずかしくなって

りつ :いや、なんかその、ゴメン

みいこ:ごめんね

ちか :あ、違う違う、そういうことじゃなくて、うーんと、なんか、下手だし、なんか気持ち悪いかなって。いや二人がそう思うかもって考えたわけじゃなくて、何というかいきなり全部気持ち悪くなって、はい。過ぎたるは及ばざるがごとし、みたいな、はは。

りつ/みいこ:…。

ちか :こっちこそなんか、ごめんなさい

りつ :いや…

みいこ:うん…
ちか:え、えへへ…
みいこ:聞いていい?
ちか:何?
みいこ:なんでお姉ちゃんなの?

ちか :あ、えーへへ、なんというか。好きなんだよね、お姉ちゃん。
りつ:仲良い的な?
ちか:そうですね、仲良いです、はい
みいこ:いいねー、素敵なことじゃん。
りつ:ね
ちか:でも、愛ってテーマで姉を描くのって気持ち悪くないですか?
りつ:いや、別に…
みいこ:普通にいいと思うよ?
ちか:アレッ、私がおかしいのかな
りつ:恥ずかしいとかはまぁ、気持ちはわかるけどね。
ちか:……うーーーむ
みいこ:ちかちゃんにとってお姉ちゃんはとっても特別なの?
ちか:うん。え?
みいこ:そんな気がした〜
ちか:え、いや、いやはは、鋭いね…。参ったな
りつ:どういうこと?
ちか:…なんか、姉の事すごく好きで、仲良いんですけど、普通の姉妹っていうかソウルメイト?みたいな気がするんですよね。
みいこ:ソウルメイト!なんかそれすごい
りつ:かっこいいね

ちか:なんか照れちゃうな。
みいこ:素敵なことだと思うよ〜、お姉ちゃんとソウルメイト!どこでそう感じたの?
ちか:なんか、すごく以心伝心というか…お姉ちゃんに助けてもらうことも多くて、すごく好きで…ってなんてこんな恥ずかしい話してるんだろ?無し、無しで!
みいこ:えーもっと聞きたい!!

ちか :もういいの!そういえば先輩は何描いてるんでしたっけ

りつ :え僕!?…これ。フラクタル日除け

みいこ/ちか:ふら?

ちか :ふらふら日除け?

りつ :フラクタル日除け

ちか :ふらふらくたくた日よけ?

りつ :フ ラ ク タ ル 日除け

みいこ:その…何なんですかそれは

りつ :京都大学の庭にある綺麗な日除けだよ。
みいこ/ちか:へー
ちか:なんでその日除けに?
りつ:木漏れ日というか、日除けを通した光がきれいでね。いい写真撮れたから描きたくなっちゃって
ちか:へぇ、わざわざ写真撮りに行ったんですか
りつ:2年の修学旅行のときももが見に行きたいって聞かなかったもんだからさ
ちか    :あー、もも先輩たしかにこういうの好きそう

ちか :それが先輩の愛なんですか?

りつ :違うよ

ちか :違うんかい

りつ :違うよ

みいこ:じゃあなんで描いてるんですか?
りつ    :あー、なんでだろ?
ちか    :理由なく書いてるんですか?

りつ :うん。お題とか関係なしに、描きたかったからかな、今。なんか描いたら面白そうだったし。正直、お題に関するところは後からいくらでも説明できるし、こじつけでもいいし、嘘ついてもいいわけだし。見られるのは絵の良しあしだし。

みいこ:はえ~

ちか :なんか大人ってものを感じる

りつ :いや一つしか変わらないでしょ

ちか :そうなんですけどね、でもそうやって割り切れるのは大人っぽいじゃないですか

りつ :割り切ってはないよ

みいこ:そうなんですか?

りつ :…本当に好きなものを衆目にさらすのが苦手なんだよ、多分。

ちか:シュウモクに晒す?

りつ :これが好きなんです、って人に見せびらかしたくない、僕はね。

みいこ:ちょっとわかります、それ。うちのわんこはもちろん大好きで愛してるけど、見せても良い好きというか…世間一般からしたら当たり障りないんです、こういう好きって。なんか、こういうのばかり選んでしまうんです、えへへへ

ちか :みいこってそういう所あるよね
みいこ:素直に生きたいなぁって思ってはいるんだけどね〜。
ちか    :素直、素直、素直で思ったんだけどさ、愛を表現するって、好きを表現するってもう、意地悪じゃない?私たちまだ技術も未熟で、評価されるほどの経験もなくて、つまりは芸術の道が不自由かつ困難なのに、素直に好きを表現出来るわけないじゃん。自分の表現の範囲内で当たり障りない好きを探すしかないじゃん。
みいこ:なるほどね、私そうなってるのかなぁ。技術を磨けばもっと素直になれる?
ちか    :のかなぁ?
みいこ:なんだかさっき話してたことみたいだね。
りつ    :何話してたの?
ちか    :落合先生が「技術は翼だ」ーって言ってた話してたんですよ
りつ    :あの先生が言うと…なんかすごく説得力あるね…。
みいこ:噂によると歴代校長の全部の肖像画描いたの落合先生らしいよ?
ちか    :そうなの?29年分も?ヤバ
りつ    :さすがにそれは嘘でしょ
みいこ:でも、そうだと言われるとなんか納得できそうなレベルで先生絵が上手いですよね〜。
りつ    :まぁ、確かに。
みいこ:自由に表現したいなぁ、好きな物。
ちか    :先輩も絵がめちゃくちゃ上手ですけど、やっぱり愛を表現するのは苦しいですか?
りつ    :…どうだろ。僕にとって描くことがもう愛を叫んでるみたいな事だし…
ちか    :なんかキザだ!
りつ    :え、じゃあやっぱ無かったことに
ちか    :言質は取りました
りつ    :ひどい…
みいこ:あはははは
ちか    :で、真面目に言うと? 
りつ    :うーん、自分が描くってことがもう愛に直結してるから、結局、当たり障りないもので誤魔化してるのかな。照れ隠し、みたいな。愛をこめて愛を表現しましたって見せたくない、すげぇ恥ずかしい。だから、テーマは深く考えてない、いつも。うん、何を言ってるのかわかんなくなってきた。



りつ、おもむろにちかの破いた絵に手を伸ばす



りつ :すごく、いい絵だね

ちか :ひゃい?

りつ :うん、



りつ、自分の絵に大きくバツをつける



みいこ/ちか:ええええええええええ!?



りつ :僕、もっとテーマ考えるわ

ちか :え、え?

りつ :なんか、あほみたいに体裁気にしてたって今喋って思った。テーマに対して悩める時に悩むわ。
ちか    :悩める時に悩む…。
りつ    :まだ2ヶ月あるし、誰かに僕の好きなもの好きなことを評価できるもんじゃないし、そう思ったら隠したいとか恥ずかしいとか気にしてんのダサいなあって思っちゃった。あと、もう高校生最後だし、思い詰めたいよね。
みいこ:思い詰めたい?
りつ:うん。好きだなとか、惹かれるものを描きたい。しばらくずっとこの絵に向き合うのに、なんとなく選んだものじゃつまらないでしょ。
ちか:たしかに、はい
りつ:しっかし、愛かぁ。愛なぁ。わかんないよなぁ
ちか:愛と恋じゃ何が違うんですかね
みいこ:ちかちゃんお姉ちゃんに恋してはないんでしょ?
ちか:どうだろ
りつ:え?
ちか:あいや、恋なのか愛なのか、いやはや、わかんないですよ、違いが。恋だと言われればなんかそういう気もするし…。
りつ:なるほど?
ちか:みいこは彼氏いるじゃん、恋なの?愛なの?
みいこ:んーーー…。
りつ:この歳で愛か恋か分かったらもう苦労しないよ
ちか:たしかに?
りつ:ちかこそ恋愛は百戦錬磨ってイメージある
ちか:それは過去の話ですよ
りつ:過去の話かぁ
ちか:先輩こそどうなんですか?もも先輩とは上手くいってます?
りつ:だからそういうんじゃないってば
ちか:えー、まことに〜?
りつ:少なくとも恋はしてない、確実に
ちか:じゃあ愛かもしれないですよね?
りつ:愛が分からないんだってば
みいこ:愛、愛ってテーマ、愛、あい、アイあい…あ、あ、アイ…。あ、愛?うーん、愛
りつ:え、どうした?
ちか:みいこが壊れちゃった

みいこ:私も考えよっと!



みいこ、絵を丁寧にスケブから破りとって折りたたむ


ちか/りつ:えっ

みいこ:こっちはお家用にします

ちか :二人とも、ノリ良すぎません…?

りつ :まぁ、その方が面白いでしょ。


りつ :新しい題材探さないとね

みいこ:どうします?
ちか:うーーーん。
りつ:題材落ちてたらいいのに
ちか:そう簡単に愛が落ちてたら苦労しませんよ
りつ:そうだけども
みいこ:ちかちゃんも新しい題材探すの?
ちか:あ、私はお姉ちゃん描くって決めたから。技術の方を磨く予定💪🏻
みいこ:素敵だね〜(にこにこ)
ちか:どうやったら技術って磨けます?
りつ:手当り次第描くしかないね
ちか:いやーめんどくさい!
りつ:頑張れ、みんな通る道だから
ちか:めーんどーくさーい😭
みいこ:あ、私思ったんだけど、学校探検しない?
ちか/りつ:学校探検?
みいこ:ほら、いつも通ってるとはいえ意外なところに素敵なものが転がってるかもしれないじゃないですか。ちかちゃんの言葉を借りるならば「美術部員は美しさへの解像度が高い」ので!
りつ:そんなかっこいいこと言ってたの?
ちか:えへへ
みいこ:どうでしょう…?
りつ:いいんじゃない?学校探検っていつぶりかな
ちか:今1年生修学旅行だし、1年の教室行ってみたいな〜、懐かしそう
りつ:それはたしかに面白そう
ちか:よし、スケブ持って行きましょ!!!
みいこ:おー!
ちか:〜🎶(鼻歌を歌いながら先行する)

りつ:あ、みいこ。

みいこ:はい?

りつ :酷い打撲や切り傷は皮膚科行った方がいいよ。



みいこ、傷口を抑える



みいこ:えへへ、二人はお見通しですね

ちか :せんぱーい、みいこー、はーやくー



りつ/みいこ:はーい

【コープスエデン】



アオイ:具体的な美しさってどんなものだと思う?私は昔、1番あおいビー玉とか、お母さんのネックレスとか、産まれたばかりの妹のほっぺとか、電車の横から見える複雑な機械の入り組んだところとか、そういうものが大好きだった。美しいと思っていた。そうして、好きな美しいものを集めて集めて集めて、どうして私は今、美しいを探究した先に、亡骸(なきがら)や欠損を愛するようになったんだろう。静かに終わるものが、その身体を地球の上に丸出しで乗せている。私はその美を切り取ろうとしている。



タダ :リリアさん、もうすぐ来るらしいです

アオイ:おっ、そろそろなのね

アオイ:緊張してる〜?

タダ :そっそそそりゃリリアさんのファンですから!!

アオイ:だよねぇ、誘って正解だった

タダ :ほんとありがとうございます、アオイ様様ですねぇ

アオイ:あはは、もっと褒めていーよ

タダ :ははーっ!アオイさまーっ!

アオイ:もっともっと褒めていいよー!!

タダ :あぁあおいさまあああ!!!

アオイ:もっともっともっと!!

タダ :アオイ女神様!!アオイ女神様!!慈悲と美しさの女神様!!!

アオイ:もっともっともっともーっと!

タダ :あぁああああああおおぉぉぉぉおおおごほごほげほうげっ…無茶言わんでください!!!

アオイ:あははははいいねいいね



リリア:すいませんちょっと遅れちゃって!!家にパスモ忘れちゃって、えへへ。これお詫びの差し入れです!

アオイ:あー全然気にしないで、大丈夫ですよ〜。それはタダに渡しといて下さい。

ものを置いたりなんなり

リリア:本当に遅れてすみません!

アオイ:大丈夫ですって。私はアーティストでカメラマンの森岡アオイ。今回の写真集企画よろしくお願いします。

タダ :普段はカメラマンで今回はカメアシのタダ将吾です。よろしくお願いします。

リリア:モデルのリリアです。こちらこそよろしくお願いします。

アオイ:この人、リリアさんの大ファンなんだよ〜。

タダ :いやぁあはは、リリアさんに会えるなんて光栄です。俺あのCMが大好きなんですよ、

タダ/アオイ「自然の恵みはあなたの恵み!へいせーい乳業の〜🎶美味しい!牛乳!!」

リリア:え、そう言っていただけると嬉しいです〜、あのCM好きってお声がすごく多くて。

タダ   :リリアさんの美貌とフレッシュな牛乳の雰囲気が、相性バッチリですもんね

リリア:いやあはは…。

アオイ:清廉で清純で、なおかつ少し野生のエキゾチックさもあるその雰囲気を見込んで今回の私の企画にオファーしたんだもん!

リリア:照れちゃいます…えへへ。

タダ :照れてる姿も可愛いしつやつやの髪がより清純さを引き立てて、くりっとした目が魅力的で、立てば芍薬座れば牡丹、あるく姿はまるで、(百合の花)

アオイ:おー、そろそろ撮影に移らないと時間押すねえ。はじめよっか!マネージャーさんから企画主旨は聞いてる?または私の作品を見たことはある?

リリア:少しだけ…ですけど。欠損の美とか…死体の美しさ、ですよね?

アオイ:そ。死んだからだが残した熱やみずみずしさを、しんとした冷たい空間で見つめたいんだよね。それをモデルと対話しながら、どんどん体を冷たく終わらせていく。そして、撮る。だからまぁ、リリアさんは気楽に質問に答えてくれながらポーズとってくれたらいいよ。

リリア:はい。

アオイ:じゃあ準備しようか

リリア:向こうに手荷物以外まとめてきますね


ガチャガチャ準備するアオイとタダ。リリア、荷物を置きに捌ける

アオイ:どうよ生リリアさん
タダ:ヤバいっす
アオイ:ねー、綺麗すぎかよ
タダ:あー緊張で死にそう
アオイ:お、寿命?
タダ:どっちかと言うとショック死です
アオイ:葬儀には参列するね
タダ:香典は100万くらい下さいね、葬儀代控えめにして竜大や姪っ子になるべくお金遺したいので
アオイ:香典はアホみたいな数字なのに死後のプランは堅実すぎでしょ
タダ:俺真面目だから〜
アオイ:あはははは、面白い冗談
タダ:冗談じゃないんだけどなぁ

リリア:お待たせしましたー!
アオイ:あ、はいはい

リリア、戻ってくる

たまにタダが話しかける。「ここまで来るの大変じゃなかったですかー?」「そうでもないですよ、京王線で20分でした」「そこそこ近いっすね!」みたいな



アオイ:じゃ撮影入りまーす

リリア:はい

アオイ:お仕事のガチな撮影と比べて私ラフにやるタイプだから。きらーくにのーんびりやりましょうね。

リリア:ふふ、はい



ポーズを指示する。撮る。



アオイ:身近な人、亡くしたことある?

リリア:あ、はい

アオイ:聞いてもいい?その話。

リリア:結構家族が多いので、昨年は進藤のおばあさんが、一昨年おじいちゃんのお兄さんが亡くなったし…この前ひいばあちゃんが亡くなりました。

アオイ:そっか、じゃあ同じ年代の人の葬式には出たことない感じなのね。じゃあちょっと私の表現したいもののイメージわかんないかもなぁー。

リリア:あの……。

アオイ:ん?

リリア:……12歳の時に妹を、肺炎で。

アオイ:……そう…そう、なのね。ごめんなさい。

タダ :お辛かったですね、それは

リリア:まともに覚えてはないんですけど、今でも…そこに置いてあるバッグの中に、お守りがあるんです。妹の遺骨が入った、大事なお守り

アオイ:リリアさんが嫌でなければ…一緒にお撮りしてもいい?

リリア:いいですよ。なんか、妹と撮影するみたいでワクワクしちゃいますね。



アオイ、なんまいか撮る



アオイ:妹との思い出とか、聞いていい?

リリア:(頷く)すごく、小さかったんです、妹。年下だからとかじゃなくて身長が低くて、ちっちゃくて可愛かった。だから体も弱かったんですけど、それでも頑張って7歳まで生きて。踊るのが好きで、おしりをフリフリしてからこっちみたり、お姉ちゃん抱っこって全身を伸ばしてオネダリしてくるの可愛かったなぁ。

アオイ:うんうん

リリア:死ぬ前に、おきにいりの雑誌の最新号を買ってきて欲しいって頼まれて、走ってコンビニ行って、帰ってきたら危篤で。手をずっと握ってたけど、プツンと何かが切れる感覚がして、そのまま、冷えて行って…。

アオイ:辛い話をさせてごめんね

リリア:いえいえ、もう過ぎたことですので。アオイさんにはごきょうだい、いらっしゃるんですか?

アオイ:いるよー、妹2人。上の妹がリリアさんのファンなんだよね!下の妹とは結構歳離れてるから、もう可愛くってね。あ、タダも妹いるんでしょ?

タダ:いますいます。もう結婚してるんだけど、姪っ子が可愛くてねぇ。

リリア:可愛いですよねぇちっちゃい子

アオイ:リリアさんは妹さんだけ?

リリア:兄もいます。実家の牧場は兄が継ぐんです。

アオイ:実家牧場なの?

タダ :あ、wikiに載ってた。とんやま牧場ですよね、ご実家。

アオイ:え、それ聞いたことある!有名なところじゃん

リリア:えへへ…さっき差し入れに持ってきた牛丼、うちのお肉使ってるんですよ。

アオイ:あれあんな贅沢品だったの!?食べるのもったいないじゃん!

リリア:そんなにぜいたくでは…

タダ :推しと同じ家で育ったお肉を食べるなんて…罪深い…最高

アオイ:タダ気持ち悪い

タダ :あ、すんません

リリア:ふふふふ

アオイ:じゃあもっと無になって転がってみようか

リリア:無、ですか

アオイ:無。死ぬときって無でしょ

リリア:……はい



何枚か撮っている。、ふと、アオイが顔を上げる。


タダ:どうしたんすか?

アオイ:違うなって思ってるでしょ

リリア:え

アオイ:無になって死ぬの、なんか違うなって思ってるでしょ

リリア:あぁ…わかるもんなんですか

アオイ:こう見えても鋭いからね。

リリア:…死ぬ時が無に見えるのは、無になる様に整えられるからだと思うのです。死に装束やお体を整たりするからそうなるのであって、本当に死んだ直後ってどちらかというとお祭りの後みたいな、残り火のような、ふり絞ったエネルギーの残滓がちらつくような、そういうものだと思うんです。それが隠されるから無になるんです。死体の美しさは、その生きていた温かさだと思います、私は。
タダ:なるほど…?

アオイ:リリアさんはよく考えてるね。

リリア:あ、ごめんなさい

アオイ:いいのいいの、ねぇタダ、タダの死生観ってどんなもん?

タダ :え!?いきなりっすね!?俺すか?…なんだろ…俺、家族もピンピンしてるし、だからあんまり具体的な死生観とか無いですけど…あ!葬式は残された人のためにやるとか言いますよね。

アオイ:いいこと言うじゃん、そう、無の状態っていうのは残された人々が思いを投影してそれぞれが死体と対話するためにあるんだと思うの。今から撮りたい一枚は私の中で表紙候補の構図なんだけど、この写真集を見た読者たちが『思い思いに死体と対話してもらうため』の一枚なんだよね。

リリア:そうだったん…ですね、ごめんなさい

アオイ:いいのいいの、説明しなかった私が悪いの。
リリア:聞けてよかったです。その、私本当はこのオファー断るかもしれなかったんです。 
タダ:えっ

アオイ:そうだったの?良かった来てくれて
リリア:えへへ
タダ:なんで断るかもしれなかったんすか?

リリア:死に直面するの嫌なことばっかりだったし、それを美化するとかを…私はすごく嫌ってて。むき出しの死がどれほど苦しくて見るに堪えないものかとか、それがどれほどただそうであるだけで美しいのかとか、そういう事の理解?とか、飛ばして、ただ死を写しているだけの方だったらどうしようって思って。
タダ:なるほど、それは確かに、リリアさんの事情を鑑みても、辛いことですよね。
リリア:あはは…辛いというか、なんというか。

アオイ:わたしは「ただ写している人」で間違いないよ、多分。冷たく斃れている、終わったからだが美しいと思えるようになって、ただそれを収めてるだけ。でもね、その先を知りたいとも常に思ってるよ。
リリア:その先…。
アオイ:うん。先の先まで、知りたいんだ。見たいんだ。抽象的な言い方だけど。そう、いつか戦場カメラマンにも挑戦したくってね。死と密接した空間で、死を撮る。無惨で悲しくて、それでも直前まで足掻いて生きて、その熱を、撮る。不謹慎かもしれないけど、私にとって死があるところにカメラあり、なんだよね。

リリア:なるほど、なるほど!いや、聞けてよかったです、本当。素敵です、素敵だと思います。
アオイ:にゃはは、照れるなぁ。
リリア:テーマに真正面に向き合って言語化することって、なかなか恥ずかしかったり難しかったりで出来ないじゃないですか。概念は説明できるものでもないし。そういうものを、聞いたらしっかり答えてくれる。それだけでなんというか、モデルとして、その言葉に含まれるモノに参加出来る喜びというか…なんというか。アオイさんの写真の魅力がどこから来ているのかわかった気がします。
タダ:ですよね。俺もアオイさんのそういうところ好きです。
アオイ:お、好きって言ったね?竜大くんに告げ口しちゃうよ?
タダ:あ、それだけはご勘弁を
リリア:りゅうだいくん?
アオイ:タダの同居人。そうそう、タダもさ、こう見えて結構いろいろ経験してるから。特に愛については一家言あるだろうから、色々聞いてみると面白いよ。
タダ:こう見えてって失礼な
リリア:あはははは
アオイ:それ!!(写真を撮る)
リリア:え!?
アオイ:今の顔、すごく可愛かった…!ほら
リリア:あ…こういう写真も撮られるんですね
アオイ:そだよー、美しいものはなんでも好きだからね。
タダ:アオイさん、こう見えて美しさの守備範囲広いんですよ
アオイ:守備範囲がヒロイン?(決めポーズ)
タダ:ひ、ろ、い
アオイ:ピ、ロ、リ、菌!(ピロリ菌のポーズ)
タダ:突然ふざけ始めないでくださいよ…
リリア:ふふふふ、あはははは
タダ:ほらリリアさんツボっちゃった
アオイ:やっぱり笑顔のリリアさん可愛いねぇ

リリア:あはは、だって、なんか、こう、作品からは想像つかなかったですし、ふふ、話してることから、めっちゃオトナだなって思ってたら、ふふふ、いきなりヒロイン…ピロリ菌…ばり面白い…あははは
タダ:あはははは
アオイ:あはははは、あはははは、なんか真面目な話してたのに…ふふふふふ
リリア:ふふふ、スッキリしました、なんか。気になってたことちゃんと聞けたし!
アオイ:わかって頂けたところで、撮っていい?
リリア:…!はい!

パシャリ

アオイ:良い…、凄くいい!最高にいいよ!
タダ:これはなんというか、迫力ありますねぇ
リリア:良かったぁ
アオイ:よし!(時間を見て)、次の場所行ってもいい?
リリア:はい、もちろん!
タダ:足場悪いんで気をつけてくださいね
リリア:あはい


アオイ:美しさが綻んで、空気が華やぐように、死が綻んで灯る焔を私は写真を撮る。はいチーズ。キュイキュイ!スマーイル。あまたのシャッターを切ってきたけど、美しさにはたどり着けない。……いや、
(カメラを見て)少しは近づいているのかも。丸出しの美を、死を、手のひらに乗せてここにある。私の手のひらが地球なの。

タダ:あ、アオイさーん、こっちでしたっけ?
アオイ:ちがーうこっちこっち!いまいく!着いてきて!





はけ

【竜大】

竜大    :りゅうだい。俺の名前。それを、「You Die」と聞き間違えられることが、少しはある。俺は死んでいるようなものだから、はいと答えるのだ。自分が死んだようなやつだってことを肯定する、頷く間だけ世界に呼吸を許される。息継ぎのように自分を否定して、それで慢心する。乱心する。ここにいていいんだって、安心する。


みいこ:竜大、聞いてるの?
アオイ:聞いてるんならちゃんとこっちみなさい。

竜大    :…母、さん。

みいこ:なんだ、ちゃんと聞いてるじゃないの。ほんとうにいつもボケーッとしてるんだから。ボケボケなんだから。
アオイ:もっとシャッキリしてよね。お父さんは若い頃からシャキッとしたかっこいい人だったのよ?とってもかっこいい人だったのよ?

竜大   :うちに父さんはいないんです。母さんは死んだと言っていましたが、他の人からは、父は母から逃げたという噂も聞いた事もあります。それをうっかり口にした時は酷いものでした。

みいこ:何を言ってるの、このクソガキが!!あの人は、「竜大さん」はそんなことするわけないでしょう!!あんたまでそんなこと言うの!!あんたまでそんなこと言うの!!
竜大    :そう、父と俺は同じ名前なんです。
アオイ:あんたのお父さんはすごい人だったんだから。とてもすごい人だったんだから!社会人になってすぐ起業して、会社をふたつも経営して、高校生の時は体育祭で応援団長だったのよ。死ぬ間際には月の土地を買ってお母さんにプレゼントしてくれたわ!今も私たちが自由な暮らしをしているのは、お父さんのおかげなのよ。お父さんのおかげなのよ!同じ名前なんだから、あなたも立派になれるはず。なりなさい!

竜大:母の期待を一身に受けることは別に悪いことでは無いのです。よくある話、ほんとうによくある話です。そして、俺の体に沢山着いた汚い泥のような跡も、ほんとうにたわいない、たわいない理由なんです。

みいこ:竜大、私のかわいい子ちゃん。竜大さんそっくりの、竜大。竜大!今日はわたし、お仕事早く終わるからね。お風呂、先入っておいてね。
竜大:母の、何の変哲もない「仕事が早く終わる」という言葉は、ある合図でした。ある合図でした。人間の生肉を食べたようなツンとした酸っぱさが胃を満たします。胃を満たして、口まで込み上げます。だって、父の代わりに、生きなければならない。
アオイ:ね、いい子で待っていてね。竜大。

竜大:いやだ、気持ち悪い。いやだ、吐き気がする。だから僕は持てるもの全てを持って、この街に出てきたんです。この街に出てきたんです。この街に出てきて、そして。


タダ:りゅうだーいただーいま
竜大:将吾さん!
タダ:今日なー、差し入れでいい牛丼貰ってきたからそれ夕飯にしよう。あっためて来る。

竜大:俺は親切な男の人に拾われました。どうしていいか分からず往生し、母を思い出して過呼吸を起こしているところを助けてもらったんです。それいらい、将吾さんは命の恩人です。将吾さんは命の恩人です。それ以上に、大事な人になりました。大事な、大事な、大事な、大事な人なんです。
タダ:どうしたん?
竜大:あ、ぼーっとしてしまって。ごめんなさい
タダ:いいけど、お前思い詰めやすいんだから少しは話せよー?
竜大:ごめんなさい
タダ:ごめんなさいは禁止だってば
竜大:あ、そうでした。ごめんなさい。あ
タダ:はは、はい、竜大の分。
竜大:ごめ…じゃなくて、ありがとうございます

パクパクタイム

タダ:うっま!!
竜大:これは、美味しいですね!ほんとに美味しいですね!
タダ:いやー、さすが牧場の牛は違うなぁ
竜大:牛って牧場にいるもんじゃないんですか?
タダ:あ、まーそうなんだけど。この牛丼はとんやま牧場って所の牛肉を使ってるんだと。知ってる?とんやま牧場
竜大:名前だけは
タダ:そのとんやま牧場ってさ、リリアさんのご実家なんだよ!
竜大:あ、リリアさんって将吾さんが好きなモデルさんでしたっけ?そういえば今ご一緒に仕事してるって言ってた
タダ:そうそうそうそう、もうねぇ、やばいよ生リリアさん。目パチーって大きくて肌スベスベーってしてて髪の毛サラサラサラ〜ってしてていい匂いがふわっふわふわふわふわここがエデンか楽園かってね
竜大:あはは…(若干引いてる)
タダ:やっぱり推しと仕事できるの楽しいわ
竜大:良かった、です
タダ:竜大も、仕事は妥協しないで選んだ方がいいよ。俺脱サラして結果的に好きな仕事つけて良かったけど、最初からキャリア積みたかったなってたまに思うし。
竜大:なんか大人っぽいですね、それ
タダ:お前に比べると遥かに大人だぞ〜?
竜大:はしゃいでる姿が全然そうは見えないんですー
タダ:あっははは、酷いな

着信音

タダ:お、悪いなお袋からだ
竜大:あはい

タダ:もしもし?(もしもししょーちゃんお久しぶり)あーおふくろ、なんだよ。(お米は届いた?)米?届いた届いた。助かるよ。(そっか。仕事はどうなの?)仕事は順調だってば。(でも転職したでしょ)そう、転職して天職に着いたってね!あはははは(…)あれー、あー、あーおふくろ?(ごめんちょっと電波が悪かったみたい)マジかよ。で、なんの用?(あんたの友達ののぞみちゃん、今度結婚するって。式の招待状届いてたわよ)え、のぞみ結婚するの!?やっば、あいつも結婚かー(そうよー。お母さんあんたの結婚式も楽しみにしてるんだからね)。俺の結婚は…いやどうでもいいだろ。今は仕事で充実してるから。(はいはい。あ、式に出るかだけ決めときなさいよー)はーい。(じゃ、それだけだから。じゃあね)はーい、じゃねー。
竜大:お母さん?
タダ:うん。知り合いが結婚するんだとさ
竜大:ふーん…。

竜大:将吾さんも、結婚したいですか?
タダ:え、俺?うーん、今は考えてないけど
竜大:前は考えてたんですか?
タダ:前もそんなに考えてたわけじゃないけど。子供の頃は人並みの結婚願望はあったよ。
竜大:人並み
タダ:ほら、具体的じゃないけど、子供の頃に、将来は結婚して子供が生まれるもんだーって勝手に思ってるみたいな、そういうの。
竜大:そうですか…。
タダ:ま、今は気にしてないけどな。竜大はどうだったの。あ、言いたくなけりゃ言わなくていいけど。

みいこ:竜大に彼女?ふふ、まさかね!まさかね!
アオイ:騙されているのよ、あなたを愛するのは私だけで十分なのよ。
みいこ:私だけで十分なのよ。ねぇ、竜大。ずっとずっとずっと私と一緒に暮らすんだからね。

タダ:…竜大?

竜大:あぁ、俺は…考えたこと無かったかも。
タダ:ほう?
竜大:家族は欲しい、欲しいけど…うーん、お母さんが欲しいです。普通の、お母さん。それは欲しい。あとは、…分からない、父親ずっといないし。
タダ:そっか
竜大:まぁ、家族と言うなら、将吾さんと家族になりたいな!なんて
タダ:まだ早いでしょ。大学出てからも気が変わらなかったらパートナーシップ結ぼうな
竜大:大学…はやく卒業したいです
タダ:いや俺はさ、いいんだけどさ、竜大はもっといろいろ恋してみたら?とは思うよ。大学にも色んな人いるでしょ。別にかっこいい男もかわいい女も、まぁそれ以外の性別の人も、沢山いるでしょ。そういう人と触れて、もしかしたらそっちの方が幸せかもしれないじゃん?
竜大:うーん?
タダ:ちょっと意地悪な質問だけどさ、竜大は俺に何を求めてるの?
竜大:仕事してるのがかっこいいし料理も上手くて尊敬してるし、えっとだから、親っぽさ?
タダ:親かーー
竜大:ダメでしょうか
タダ:ダメじゃないけど、いろんな愛があるし。うん、親かぁ。いや、まぁそうだよね。
竜大:なんかダメなこと言っちゃいました?
タダ:ううんううん、そういうのじゃなくて。いや、パートナーシップっていわば結婚じゃん。親だったら養子縁組でも良いわけだし
竜大:たしかに?
タダ:前からちょっとは考えてたんだけどさ。一昔前の同性同士の恋人って、養子縁組が普通だったみたいなんだよね。
竜大:あー、そういえばパートナーシップって最近聞くようになったかも。でも、なんで養子縁組なんですかね…?
タダ:ほら、俺もよくわかってないんだけど、手術の同意書とかは家族じゃないと書けないらしくて。でも法的な結婚が出来ないから養子縁組がスタンダードだったんだと。聞きかじりだけど。
竜大:へえ…
タダ:今は結構そこら辺の改革が進んでるみたいだけどね。パートナーシップ制度もその一例だし。
竜大:なんか社会科の授業みたいですね。
タダ:たしかに。あーやめやめ、俺こういう考えること向いてないや。
竜大:なんでこんな話になったんでしたっけ
タダ:えっと?家族になりたいって話から、パートナーシップの話になって、竜大は俺に何を求めてるの?ってなって、親らしさの話になって、そういえば昔は養子縁組が普通だったみたいな話になった
竜大:そうでした
タダ:うーん、親かぁ。俺そんなに親っぽい?
竜大:親っぽいの基準が分からないですけど、年上で頼りになるところは、親っぽいかもです。
タダ:まぁ、少なからずそういう風に見えるよう振舞ってるところはあると思う。今考えると。
竜大:なるほど…?
タダ:同性で一応付き合ってるとはいえ、いわゆるBLの世界から俺たちはかけ離れてるし、竜大の事情が事情だから性的な関係がある訳でもないし、傍から見りゃ仲がいい同居人なんだよな、俺たちは。そうなると近い関係性は擬似親子なのかもしれないね。
竜大:…なんかごめんなさい
タダ:え?竜大が謝る要素なくない?
竜大:あいや、なんか、ごめんなさいって思ったので
タダ:関係性に対して悩んでないよ俺は
竜大:じゃあ、ありがとうございます…?
タダ:なんかそれも違くない?
竜大:たしかに?
タダ:まぁいいけど。じゃあ竜大的には、養子縁組でもいいのかな
竜大:えっ、あっ、それはなんか違うと思います。思いました。
タダ:え?
竜大:たしかに将吾さんは俺の親みたいな、そういう人ですけど…えっと、うーん。
タダ:…?
竜大:あの。好きです、ちゃんと好きです。えへへ。
タダ:うん
竜大:多分、あの日の俺を助けてくれたからって言うのもあるけど、そうじゃなくて、人として、好きだと思ってるから…はい
タダ:なんかそういうの…照れるな
竜大:てっ、照れるのは俺ですよ!!将吾さんこそどう思ってるんですか!
タダ:うーん、まぁなんというか。好きであることは確実。でも俺、竜大のお父さんとかお母さんには求められてもなれないよ
竜大:…はい
タダ:竜大がさ、親が欲しいのわかるよ。俺のお袋、厳しいけど優しくてさ、普通のいい人でさ。だから俺は幸せに育ったし、そういうことで不安になることなんて少ない。だから、お母さんが、お父さんも、すっぽり抜けた竜大の気持ちがどれほど心細いか、想像できるよ。でも俺は親にはなれないんだよ。

竜大:はい
タダ:俺はね、竜大が幸せだったらいいなって思うんだよ。幸せに出来たらいいなって思うんだよ。それは母のような愛情じゃない、方向性が違うんだよ。全くの他人で、他人だけど、母親が子供を愛すのと同じような熱量で強くそう思ってる。これが俺の竜大への愛情。
竜大:…………えへへへ。
タダ:なんで笑うんだよ!
竜大:おもったより真面目に返してくれたので嬉しくて
タダ:俺いつも真面目なんだけどなー
竜大:そうは見えないんですー
タダ:そうか?
竜大:そうです
タダ:おお、不安にさせてたらごめんな
竜大:あはははは、変なところで真面目なんだから
タダ:ええ?どっちなんだよー
竜大:どっちもです〜!
タダ:なんだよそれ〜
竜大:あはははは
タダ:あーもう、長話してると牛丼冷めるぞ
竜大:え、あ、ほんとに冷めてる
タダ:マジか
竜大:チンしますか
タダ:チンしようか

竜大:(面に向かって)だから大好きなんです。大好きなんです。俺はもう母からの愛を受け取らないけど、将吾さんが愛してくれるから幸せだ、と言える。希死念慮の息継ぎみたいに、将吾さんと共にいる。死んでもいい、死んでもいいけれど、この人は、俺が生きていることを喜んでくれる。それでいい。それが、いいと思っています。

タダ:あ、そうだ来週の休み那須高原いかない?
竜大:いいですね…

ハケ。



【もものはやにえ】

もも:可愛くない。お腹が空くのは、可愛くない。眠くなるのも性欲も可愛くない。汚泥に突っ込んでむちゃくちゃにして焼いて捨てたい。人間的なものはみんな嫌い。汚い。可愛くない。私の好きなものは、好きな物は、コンデンスミルクみたいに濃厚で甘い、血の味がするもの。生焼けの肉、生きてるからだ、抉るように舌ピにへそピ。全部バチバチにキメて隠す。世界中が可愛くなくて、私だけ可愛いのを隠すんだ。可愛いものを、いただきます。

もも:ああ。美味しい。ごめんなさい、美味しい。ありがとう、ごめんなさい、ごめんなさい、美味しいです。


りつ:あれ、もも?
もも:!!!りつ!?!?
りつ:何してるの…え?

血だらけのももを見てりつは動揺する。

りつ:何してんの。え?
もも:なんでもない!
りつ:いやでも、血?それ大丈夫なの?
もも:大丈夫、大丈夫だからほっといて
りつ:え、いや、なんで?え?
もも:なんでだろうね!?
りつ:本当に大丈夫なの?
もも:えっと、これ鼻血だから、大丈夫!
りつ:え、ティッシュいる?(近づく)
もも:あぁ〜違う違う違う違う、えっとぉ〜!えっと生理!生理だから!(気が動転している)
りつ:え?!?!そうなの!?!?なんかそれは、ごめん!(気が動転している)
もも:いやこっちこそごめん!
りつ:その、着替えなくて平気?
もも:平気だから!ね!

ももがかじっていたネズミが落ちる。

りつ:なに、それ
もも:あー…なんだろうね?

確認しようとする、防ぐの攻防。

りつ:あっ、空飛ぶペンギン
もも:え?

りつが隙をついて見る。

りつ:(確認して)わーーー?!
もも:あーー!?

りつ:なっななななな、何を、何が、え?ねずみ?
もも:見なかったことにしよう!ね?見なかったことにしよう!?
りつ:いやでも、ももが、え?
もも:りつほら絵のコンクール近いんじゃないの?部活は?
りつ:今日は、休みだけど
もも:それで絵の進捗は大丈夫なの?不安にならない?学校戻った方が良くない?ね?
りつ:いやなんでももにいわれなきゃならんの
もも:そーーーなんだけどさーーーー!
りつ:そもそも、いや、もも、何してんの?
もも:……てました
りつ:た?
もも:ネズミを食べてました!!!!
りつ:たべ…!?
もも:お腹がすいたから捕まえたの!
りつ:え
もも:お腹空いて、我慢ならなくて手近なネズミを捕まえて割いて腸をいただいてました!これでいい!?
りつ:な、なんで怒ってるの…?
もも:怒ってない。
りつ:そうなの?
もも:……帰る。

りつ:待って、待って
もも:何。ツウホウでもする気?
りつ:いや、そういうつもりじゃなくて。

もも:じゃあなんなの
りつ:えっと、、、
もも:?
りつ:なんかさ、なんか。

もも:…なに。
りつ:…5歳の時、お化け屋敷で僕が泣いて、そんでももが怒って、お化けの手に噛み付いて、お化けを泣かせたことあるじゃん
もも:何いきなり
りつ:それに小学生の時、ももは黙って座ってられなくてさ、授業中ふらふら歩いて怒られてたじゃん。修学旅行の山で、ももがどっか行って探した僕も迷って2人で迷子になったりしたじゃん。
もも:そういうこともあったけど
りつ:中学でも高校でもふらふらな癖は治らないし、部活始めたら直ぐに辞めるし、バイトも長続きしないし、その相談をいつも聞いてたし、だから
もも:だから(何)
りつ:だから、何してももう幻滅とかしないよ。しないから。
もも:そっ…か。
りつ:うん。

りつ:制服汚して怒られたりしないの?
もも:誰に?
りつ:お姉さんたちとか、ご両親とか
もも:慣れちゃったみたい
りつ:そんなに前からやってたの、これ
もも:狩りはねぇ、小6くらいからかな
りつ:狩りって呼んでるんだ。
もも:うん
りつ:小6かぁ、なんで今まで気づかなかったんだろ
もも:気づかれないようにやってたから
りつ:そっか。

りつ:とりあえず、これ(上着)
もも:え?
りつ:そんな血だらけじゃ、人に見られた時ビビられちゃうじゃん。
もも:え、あ、なるほど?
りつ:いつも血まみれで帰ってたの?
もも:うん。
りつ:知り合いとかにどうしたのって聞かれなかった?
もも:聞かれたら鼻血だって答えてたし。
りつ:あー、なるほど
もも:りつの上着借りてる方がなんか、なんかキモくない?
りつ:きもいって酷くない
もも:あはは
りつ:それにパッと見僕のだとは思われないでしょ
もも:たしかーし
りつ:ほらちゃんと前閉めて。
もも:りつおかーさんみたい
りつ:馬鹿にしてる?
もも:してないよー
りつ:それ(ネズミ)は…どうしよう
もも:埋める!
りつ:埋めるの?
もも:うん、いつもそうしてる。よいしょ
りつ:へぇ

もも、ネズミを埋め出す。

りつ:ねえ、描いていい?
もも:ん?
りつ:描いていい?
もも:何を?
りつ:ももの狩り。コンクールに出す絵に描いていい?
もも:…こんなん描いて大丈夫なの?
りつ:綺麗だと思ったから。僕は。いいなと思ったから。描くならこれだなって思った、から。説明する時はフィクションだってことにするし。それに、ももが(獲物を見ている姿がとても)
もも:分かった。いいよ。描いていいよ。

りつ:…ありがと。
もも:描くなら綺麗に描いてね
りつ:もちろん
もも:プリクラより盛って描いてね
りつ:それはもう別人になっちゃう
もも:じゃああーちゃんの撮る写真より綺麗に描いてね!
りつ:無理難題言わないでよ。アオイさんプロじゃん。
もも:りつならできる
りつ:期待が大きすぎる
もも:しっかしまぁ、なんか、りつと話すの久しぶりな気がする
りつ:あはは、確かに。暫く部活忙しかったし。
もも:だよねえ。っていうか、絵のモデルって何すればいいの?
りつ:まずは構図を決めたりしたいし…うーん、とりあえず狩りするとき呼んでよ。
もも:えっ、狩りは気分的なものだから呼んだりとかそんな、自信ないんだけど。
りつ:どういう時に狩りするの?
もも:お腹すいた時…特に学校の帰り道とか?あと…夜とか?うーん、まちまちなんだけど。人にバレたくないし。なんというか、可愛くないし!
りつ:可愛さの問題なの?
もも:うん。お腹が空くのって可愛くないじゃん。なんというか、人の欲って可愛くないじゃん。それをさ、何とかしてこう、可愛いもので塗りつぶしたいし、人に見せるもんじゃないし、うん。自分でもわかんなくなってきたや。
りつ:言わんとしてる事はうっすら伝わるけどね。要は美的感覚に反する事象に対してストレス反応として狩りをしてるわけだ。
もも:私は律が言いたいこと全くわかんない
りつ:そう?まぁわかんなくていいや。なんか面白いね。
もも:面白い?
りつ:ももって、「自由奔放」の権化みたいでさ。
もも:馬鹿にしてる?
りつ:してないよ。自由なことはいい事。
もも:ふーん?
りつ:あはは、わかってないでしょ
もも:難しいことは分かんない。
りつ:ももらしいね。
もも:わかんない。

もも:お腹なっちゃった

りつ:帰る?
もも:そだね
りつ:お腹すいてるならなんか奢るけど
もも:いいのっ!?
りつ:何がいい?
もも:えー何しよ
りつ:久しぶりだしなんでもいいよ
もも:あれがいいなぁ、チョコシフォンケーキ
りつ:あぁ、カフェ ゴトーの?
もも:そう!
りつ:好きな物変わらないね
もも:あれがいっちばん可愛い気がするんだよね
りつ:それはちょっと分かるかも
もも:りつはミルクレープでしょ?
りつ:うん。じゃぁゴトー行こうか。
もも:おーー!

カバンを持ったり

もも:そういえばコンクールの絵のお題ってなんなの?
りつ:なんだと思う?
もも:うーん……動物?狩り?
りつ:「愛」だよ
もも:なんだって?
りつ:なんでもなーい
もも:あ、ちょっと待ってよ教えてよー

ハケ


【心をくすねて】

リリア:思ったことは全てだ。けれど見えているものは全てではない。見えているものが全てではない。見えているものが全てではない。なんて、嘘で、実際は心に黒黒と抱えている色が、本当の色だったりする。だから引きずり出すしかないんだ、死んだ赤子を腹から引っ張り出すように。隠して殺したものを、もしも。その人が大事ならば、暴かなきゃ行けない時もある。そうでしょう?


リリア:おじゃましま〜す
ななり:いらっしゃ〜い
リリア:ひゃー、広いですね!
ななり:そうでも無いけどね。荷物そっちおいといて
リリア:はーい。あ、綺麗なお花
ななり:お花屋さんのサブスク取ってるんだよね。気持ちが雪がれて、なんか元気になれるでしょ
リリア:そんなサブスクあるんですね!これなんの花です?
ななり:サンビタリアだよ。
リリア:初めて聞きました
ななり:私もこれ届いて初めて知ったんだよね。
リリア:ななりさん、綺麗なものを見つけるのが得意ですよね。この絵も素敵
ななり:ローランサンだよ。好きなんだよね、色彩が綺麗でしょ
リリア:へえ…
ななり:飲み物何がいい?
リリア:うーんと…何がありますか?
ななり:紅茶ならダージリン、アッサム、あとはセイロン島行った時のお土産で…なんちゃらかんちゃらっていうお茶。えへへ。コーヒーならブルーマウントと高倉町珈琲で買ったブレンドの豆しかないや。フレーバーティーとかにする?オレンジピールとか…ストロベリーティーあるよ
リリア:ストロベリー!!それにします!
ななり:好きだねいちご
リリア:そうなんですよ〜、毎年いちご狩り行くくらい好きなんです。
ななり:え、 いちご狩り!?いいよね、今度の冬は一緒に行こうよ
リリア:行きます行きます!!やった〜
ななり:そういえばさ、もみじも「狩る」って言うよね?
リリア:もみじを狩る?
ななり:もみじ見に行くこと紅葉狩りっていうじゃん?
リリア:あ、確かに!なんでなんでしょうね
ななり:ググルか
リリア:あ、それ私のスマホです
ななり:あれ?ほんとだ
リリア:私調べますよ
ななり:お、ありがと
リリア:えっと〜、「狩り」が紅葉や草花を愛でる意味になったのは、狩猟をしない貴族が現れたのが由来とされています。 平安時代は身近な環境に紅葉がなかったため、紅葉を楽しむ場合は山や渓谷に足を運ぶ必要がありました。 そのため、紅葉を見に出かけることを「狩り」に見立てるようになったとされています。ですって。 いちご狩りも概ね似たような意味らしいですよ。
ななり:ほー、なるほどね。風流だなぁ
リリア:風流ですねえ、こんな雅やかな意味があったなんて。
ななり:紅葉狩りも行こうよ。ってか、風流な狩りを網羅したい!
リリア:ぶどう狩りとか潮干狩りとかですかね?
ななり:あ、確かに潮干狩りも!なんか夏秋冬の予定埋まったね。春なんかないの?
リリア:調べたら「桜狩り」って表記した短歌があるとか。
ななり:それはもう花見じゃん(笑)いいね、行こう
リリア:行きましょ!潮干狩りとかだいぶ久しぶりだなぁ〜。
ななり:えへへ、何だか予定とかやりたいこといっぱい出来て嬉しいね
リリア:ですね!なんかこういう予定作るの大学生以来で嬉しいです。
ななり:私も社会人になってから仲良くなったのリリアちゃんくらいだよ。いっぱい遊びに行こうね
リリア:行きましょ!
ななり:あ、お茶おかわりいる?
リリア:いいですか?あと御手洗に…
ななり:そこ突き当たり右のドアね
リリア:お借りしまーす

お茶を入れ終えたななり、カバンをふと漁り出す。ハンカチとか財布を眺める。カバンの底にあるお守りを見て、いけないいけない、リリアの気配を感じお守りを握ってしまう。

リリア:おまたせしました
ななり:いまいれてるからね〜
リリア:はーい…ハンカチハンカチ
ななり:忘れたの?
リリア:そんなはずは…ああ、変なとこに入ってました
ななり:あるあるそういうの
リリア:最近多いんですよね〜こういうの。この前もカメラフィルム、出先で落としちゃってななりさんにに拾ってもらって。
ななり:そうだったね
リリア:あーん疲れてるのかなー、ボケボケだ
ななり:同僚から聞いたんだけど、ルピシアのハーブティーとか無印のおやすみアロマが結構効くみたいだよ。Twitterでバズってたんだけど、これが本当に眠れるんだよねぇ。
リリア:へぇー、いいんですか?
ななり:めっちゃいいよ。これ使うようになってからぐっすり
リリア:それは良いですね!最近不眠なんで、帰りに買おうかな〜
ななり:リリアさんはオススメの香りとかある?
リリア:有名どころなんですけど「ロリータレンピカ」いいですよ。
ななり:あーー!聞くね、たしかに良いって!香水でしょ?
リリア:はい!甘い雰囲気なんですけど、ちょっとワイルドな香りが挑戦的で。こんな香りがあるんだってビックリしちゃいました。なんかネットショッピングとかだと怪しい中古ばっかりなんですけど…随分昔に叔母が旅行で買ってきて、それ以来ちびちび使ってるんですよ。
ななり:へ〜、たしかに現物持ってるの珍しいかも。今度探そうかなぁ
リリア:売ってるんですかね今…?
ななり:知り合いに海外ブランドで調香師してる人がいるから、今度聞いてみるわ
リリア:ななりさんは顔が広いですね…!
ななり:いやぁたまたまだよ。こういう仕事だからちょっとそういう人と知り合う機会が多いの。
リリア:なるほど!専門家に知り合いが多いとこういう時に良いですね。
ななり:えへへ。あと安眠といえば、枕が大事だって。
リリア:えそうなんですか?枕なんてどれも一緒かと思ってました。
ななり:意外と重要らしいよ〜。今どんなの使ってる?
リリア:えと、大きなピカチュウのぬいぐるみを枕にしてますよ
ななり:いやかわいいかよ。
リリア:えへへ
ななり:ほら、うちのはこれなんだけど。枕屋さん行って、自分の首の高さとか寝心地の良い硬さとか測ってもらって作るの。お店教えたげるから今度行きな〜
リリア:行きます!目指せ安眠〜。
ななり:快眠だとお肌の調子も良くなるしね
リリア:めちゃくちゃ大事ですね
ななり:お茶はどう?そういえばそれも美肌効果のあるコラーゲン配合って書いてた気がする
リリア:そうなんですか?いい感じに甘酸っぱさが口に拡がって…幸せな味ですよ…!
ななり:良かった!
リリア:やっぱりストロベリーしか勝たんです
ななり:いえーい
リリア:いえーい
ななり:そういえば今日見せたいものがあるって言ってたけど
リリア:そういえばそうでした、ななりさんって森岡アオイさんのファンでしたよね?
ななり:うん!めっちゃファン。よく知ってたね?
リリア:前聞いたから…。今一緒に仕事してるんで、サイン本頂いてきたんですよ!
ななり:うっそーーー!!!マジで!?!?え、えーーー嬉しいーー!!
リリア:今お渡ししますね

リリア:…あれ?
ななり:どうしたの?
リリア:いや、お財布無いなぁーって。気のせいかな?
ななり:え、あ
リリア:あれー、本当にないな。いやはは、どこやったんだろ?
ななり:…。(冷や汗)
リリア:駅かな〜?タクシーかな〜?
ななり:あの
リリア:はい?
ななり:げ、玄関先とか…?
リリア:いや、そんなはずは…?

ななり:あー!
リリア:ん?
ななり:机の下に落ちてましたよ〜?
リリア:そんな、えぇ?
ななり:はい、どうぞ
リリア:(解せぬの顔)???
ななり:あ、あの、それで、サイン本は…
リリア:あぁ、えっと…

リリア:あれ?

リリア:おかしい、無い、無い、無い!
ななり:え?
リリア:お守りが、いつも入れてるとこにない、なんで?なんで?
ななり:え?(そういえばさっき、リリアが突然来て隠してしまったのだ)
リリア:なんで、えっと、なんで?
ななり:えと大丈夫?
リリア:お守り…(涙目)

ななり:あの、これ…?
リリア:…なんで持ってるんですか…!?
ななり:さっき落としてた(よ…)
リリア:え

リリア:そんなわけない。そんなわけないです。これは絶対入れる場所が決まってるんです。外に出してないから落とすわけないんです。財布とは話が違うんです。
ななり:えっと、
リリア:どういうことですか?

ななり:どういうって…どう、
リリア:落とすわけないんですよ、それ。絶対に落とさないような場所に入れてるんです。だって、それ、妹の遺骨入ってるんです。
ななり:い、遺骨!?
リリア:そうです。死んだ妹の遺骨です。それにこの前のカメラフィルムだって。おかしいと思ったんですよ。私なんでななりさんと一緒にいるとなくし物ばっかりするんですかね?
ななり:………。
リリア:………。
ななり:………。
リリア:………。
ななり:………。
リリア:………………………………あの。
ななり:…はい
リリア:なんでなんですか。
ななり:なんでって。
リリア:なんで人のもの盗ったりするんですか。
ななり:そんな、そんなことなんで聞くの!
リリア:は?なんで逆ギレしてんですか?
ななり:言いたくない、言いたくないの!
リリア:は?
ななり:は?
リリア:は?
ななり:…はぁ?
リリア:人の妹の遺骨盗んどいて、言いたくない、ですか!?
ななり:それはごめんなさいだけど
リリア:ごめんなさいで済む話ですか?
ななり:済まない話だけど
リリア:だけど?!
ななり:どうしたらいいの…(泣き出す)
リリア:…なん、なんですか…。
ななり:………。
リリア:「どうしたらいいの」はこっちのセリフですよ…。

ななり:……。
リリア:……。

リリア:…とりあえず返してください
ななり:…はい

ななりが隠していたほかのものまで落ちる。

リリア:(平手打ち)
ななり:!!!!
リリア:こんな人だと思いませんでした。こんな人だと思いませんでした!優しく話してくれるし、仕事の話も聞いてくれるし、なのに、なんでこんな、なんで?
ななり:ごめんなさい
リリア:……っ
ななり:ごめんなさいとしか、言えなくて、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、分かってるの、ダメだってこと、ごめんなさい、辞められなくて、ごめんなさい、苦しい、苦しいの。ごめんね、ごめんなさい…っ。
リリア:……………………なんで、なんで人のもの盗ったりしたんですか?
ななり:……………。
リリア:……聞きますから。ちゃんと。
ななり:本当に、きいて、くれるの?

リリア:はい。
ななり:…ごめんなさい。
リリア:……。
ななり:ただそこに置いてあるものを見たら、見たらうずうずして。手を出してしまって。ダメだって分かってるのに、分かってるからより強く惹かれてしまって。でも、毎回ちゃんと元に戻してるの。ホントなの!持ち主に返してるし、店のものだって五分くらい持ち出したら元のところに返してる。
リリア:持ち出した時点で犯罪者ですよ。
ななり:そうなの、知ってるよ、知ってるの。だから、苦しい、辞めたい、辞めたい、辞めたいの。ごめんなさい。本当に、良くないってわかってるの。本当なの。
リリア:…そう、ですか
ななり:…………………。
リリア:………………。
ななり:……。
リリア:(何度か深呼吸する)(行ったり来たり、苛立ったり、落ち着いたり)
ななり:……。
リリア:はぁ
ななり:(ビクッとする)
リリア:(深呼吸)病院に行きます?
ななり:…へ?
リリア:冷静になったら思い出したんですよ。窃盗癖って治せって言って治らない場合があるって聞いたことあって。だから病院行って、現状を把握して、それからどうするか考えましょ?
ななり:……なんでそんな、怒らないの…?
リリア:怒ってますよ?
ななり:ごめんなさい。
リリア:怒ってることには怒ってるんですけど…。なんというか。怒鳴ったり警察に突き出したりするんじゃなくて、まず事情を聞かないとダメだなって。ちょっと冷静になりました。
ななり:……ありがとう?
リリア:こういうこと、よくあるんですね?
ななり:うん、うん。すぐに返すんだけど、つい人のもの触って、いじってるうちにポケットに入れちゃったりするの、本当にダメだって分かってて…でも。
リリア:でも?
ななり:ううん、ダメなことはダメ、分かってる。
リリア:何か家庭環境とか過去にあったとか
ななり:そういうんじゃないの!ずっとなの。普通で幸せで、仕事も遊ぶことも楽しくて、でも。
リリア:…。
ななり:私おかしいのかなぁ
リリア:まぁ、おかしいと思いますよ

リリア/ななり:ごめんなさい
ななり:え?
リリア:…突っ走って色々言っちゃいました。許せない、許せないけど、叩いたりはすべきでなかったと思います。
ななり:……………。
リリア:帰ります

ななり:待って。

ななり:たす、けて


ななり:直したい、の。直したい。こんなこともうしたくないの、お門違いだろうけど、わたしが、こんな、頼むなんて。でも、リリアさんしか知らないから、こんな私、を。だから、助けて欲しいの、病院に行けばいいの?カウンセリング?それとも自首?分からないの、分からないから、どうしたら、あの、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

リリア、戻ってくる。悩む。しかし、肩に手をかける。

リリア:潮干狩りも、紅葉狩りも、楽しみなんです、本当に。

ななり:…。

リリア:一緒に行きましょう。それまでに、一緒に考えましょう。

ななり:…ごめんなさい
リリア:もう無くしたくないだけです。物も、人も。…だから。です。

ななり:ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ
リリア:ありがとうって、言ってください
ななり:…ありがとう


リリア:怖い。怖い、人の内側に潜むもの。だけど引っ張り出して、見て、それが存在すると分からないといけない。だって、むき出しなものを売りにするのが私だから。見えているものが全て、ではない。という訳では無い。難しい。理解が指の間からこぼれ落ちる。でも。ねぇ、生きているならば、先を見なければならない。そうでしょう?

はけ


【不等式の答え】
みいこ:言わなくてごめんね。嘘じゃないけれど、後ろめたさだけが後をひたひた着いてくる。言えなくてごめんなさい。都合のいい時だけ頼って、それ以外を隠して、友達ってラッピングは素敵だ。どうしようもない時は、ちかちゃんのことを思い出す。


雨、電話がかかってくる。



ちか :もしもしみいこ?どしたの?

みいこ:ねえ、ごめんね、あの、ちょっとね

ちか :うん、どうした?

みいこ:彼氏とね、喧嘩してね、あのね。このままじゃおうち帰れないから

ちか :そうなの?うちおいでとりあえず、ね

みいこ:ありがとう、行くね


姉        :どうしたの?
ちか    :友達がちょっと大変みたいで、今からうち来るって
姉        :ありゃま。お茶とか用意しといた方がいいかな?
ちか    :あ、ありがとう。お願い。

ピンポーン


ちか :はーい。うわ、スゴイ濡れてるじゃん…傘もってなかったの?大丈夫…?その、けがも

みいこ、堪え切れず泣く

ちか :よしよし、大丈夫。大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫だよ。大丈夫だからね
泣くみいこを宥めるちか

みいこ:……瞬くんがいきなり、ぶかつのこととか、あんまりデートできないこととか怒って、それでね、それでね。

ちか :うんうん

みいこ:私の描いたわんこの絵を破っちゃったし、それで泣いたらうざいって殴られてね、それでもうどうしたらいいかわかんなくなって、別れてくれって言ったらもっと殴られてね、出てけって、いわれてつきとばされて

ちか :もういいよ、言わなくていいよ。まずは中で温かくしよう。コーンポタージュは好き?

みいこ;好き。

ちか :じゃあ中で一緒に飲もう。



姉  :おおう、大丈夫?

ちか :うん。私の部屋入れていいよね?

姉  :いいよ。けがもしてるみたいだけど大丈夫なの?

ちか :どうしたらいいかなぁ

姉  :とりあえずバスタオルと救急箱もってくるね



みいこ:お姉さん、きれいだね、いい人だね

ちか :でしょ。

みいこ:…。

ちか :服も汚れちゃってるね。洗って乾かすか。私の寝巻貸すのでいい?

みいこ:ありがとう…。

ちか :いいってことよ。

みいこ:あのね、あの。

ちか :ん?

みいこ:ありがとう。いろいろ、聞かないでくれたり、心配してくれたり、ごめん、ありがとう。

ちか :ん?うん、別に言いたくないならいいの。みいこがとりあえず安心できるならそれでいいよ。

みいこ:ありがとう。

ちか :それより楽しいこと考えよう。明日の部活とかさ。みいこは何描くの結局

みいこ:なににしようかなぁ…



姉  :落ち着いた?これコーンポタージュ

みいこ:あ、ありがとうございます

姉  :救急箱置いとくからなんでも使ってね。洗面台はあっちだから、最初にけがについた土流した方がいいかも。一緒に行く?

みいこ:あ、お願いします…。



さっきまでみいこがもっていた、イヌの絵の紙切れを見るちか。



みいこ:あ

ちか :あ、ゴメン勝手に見て。

みいこ:いいよ。おねえさんお菓子買ってきてくださるって

ちか :さすがぁ

みいこ:…それどうしようかな

ちか :貼り付けて元の一枚にする?

みいこ:いや、それはいいかな

ちか :そっか

静かに座っている。なにか言い出しそうで、言い出せない。
ちか/みいこ:あの
みいこ:ふ、ふふふ
ちか    :あははは、なんか変な感じ
みいこ:ね
ちか    :大丈夫そう?
みいこ:なんか、大丈夫になった
ちか    :それは良かった。

みいこ:えへへ
ちか    :今日泊まっていきなよ
みいこ:いいの?
ちか    :いいよ
みいこ:…………(ポロポロ泣き出す)
ちか    :えっ!?あ、え?
みいこ:ちがうの、嬉しいの、嬉しいの、嬉しいよ。ありがとう、ありがとう。
ちか    :いいよ、いいから、大丈夫だよ
みいこ:何も言ってなくてごめんね、ダメになってから頼ってごめん。
ちか    :いいんだよ、それくらい都合よくていいんだよ、友達だもん。私こそ、なにも出来なくてごめん。本当にごめん。

みいこ:ちかちゃんはなんにも悪くないよ。謝ることないよ。
ちか:でも、もっと早く…なにか出来たかもしれないのに。
みいこ:いいんだよ、いいの

しーん

姉:ただいまー、駅前行ったらさぁ、ハッピーターンのパウダー250パーセント増量が馬鹿みたいに安かったから3袋買ってきちゃったぁ。お菓子はやっぱりお菓子のまちおかだよね!カントリーマァムはバニラとチョコどっちがいい…?あれ?2人とも大丈夫?

みいこ、ちか、笑い出す

姉:え。なになになにそんな変なことした私?

みいこ:素敵なお姉ちゃんだね
ちか:でしょ
(後ろで姉は誇らしげ)
みいこ:絵は進んでる?
ちか:ばっちし。
姉:絵って何?
ちか:お姉ちゃんにはまだひみつー
姉:なにそれ!教えてよ
ちか:秘密です〜!
みいこ:あはははは
ちか:あ、今日みいこ泊まるから
みいこ:すみません
姉:いいよいいよ〜。夜通し人生ゲームと恋バナでもする?最近ちーちゃんから恋バナ全然聞かせて貰えないんだよお
みいこ:いいですよ〜
ちか:よくなーい!
みいこ:ふふふふふ
姉:いいじゃんねぇ、あ、キッチンまでジュース取りにおいで
2人:はーい


ハケ


【キッチン】
さつき:普通じゃない、とか。ちょっとヤバい、とか。そういう言葉に挟まれてると、私がバランスをとって見えるみたい。三人姉妹の真ん中は、一本橋を上手に渡る。ゆーらゆら。お姉ちゃんは、一本橋を自分色に作り替えるし、妹は一本橋なんてそもそも通らない。私はこの道が好き。この道が楽しい。普遍性とか没個性とか、そういう言葉では私を表せないんです。えへん。

もも    :ダライ・ラマ〜
さつき:なにそれ
もも    :ただいま!
さつき:なるほど?
もも    :なんか食べ物ある〜?
さつき:冷蔵庫にピノあるよ
もも    :よっしゃ
さつき:食べる前にシャツ洗剤につけてよ、血の汚れって落としにくいんだから
もも    :やだめんどくさい
さつき:ももちゃん
もも    :さっちゃんおねがいやってよー
さつき:仕方ないなー、脱いどいて
もも    :はーい

アオイ:まないたー
さつき:だからなんなのそれは
アオイ:ただいま!
さつき:はーい
アオイ:現場で貰ったマスクメロンあーげる
さつき:お、サイコーじゃん!ももちゃーん
もも    :なあにい
さつき:お姉ちゃんがメロン持って帰ってきた!
もも    :やっほーい!!あーちゃん最高!
さつき/もも:めっろっん〜🎶めっろっん〜🎶めっろっん〜🎶
さつきともも、メロンメロンダンスを踊る

さつき:あれももちゃん、シャツは
もも    :あ、忘れてた
さつき:もー
アオイ:おー、これは盛大にやったね?何?ネズミ?
もも    :カモ!
アオイ:鴨かぁ
さつき:いつ捕まるか分からないんだからもうやめて欲しいんだけど…。
もも    :やめようやめようとは思ってるんだけどね〜、動物を見たらつい手を出しちゃうんだよね
アオイ:うんうん、そうだよね〜
さつき:薬物みたいに言わないでよ
アオイ:キャントストップイーティングなんだよね〜
もも    :ね〜?
さつき:良くないことだからね?今すぐにでもやめて欲しいんだからね?
もも    :努力しまーす
アオイ:メロンもう切って出していい?
さつき:いーよー
もも    :めっろっん〜🎶めっろっん〜🎶
アオイ:はい、おまちどおさま
さつき:ウワーめっちゃ美味しそう!誰から貰ったの?
アオイ:モデルのリリアさんから
さつき:リリアさん!?あの、あの綺麗な、この前特番に出てたリリアさん!?
アオイ:そだよー、今一緒に仕事してるって言ったじゃん
さつき:ほんとうにあのリリアさんから!?マジで!!?やばくない!?え、ちょっとまってじゃあこのメロン、昨日インスタに上げてた「親戚から頂きました^^」って書いてたヤツ…ってこと…?やば…。
もも    :さっちゃんほんとーにリリアさんの熱心なファンだよねー
さつき:綺麗な人は好きだよ
もも    :それはわかるけど
さつき:それに熱心って程ではないよ、普通だよ。インスタは見てるけど、雑誌載ってるって聞いたらたまに買うくらいで。
もも    :ふつうかー
アオイ:ももちゃんはテレビ興味無いもんね
もも    :あ、でも最近「デザインあ」だけよく見てる
さつき:なんで?
もも    :りつに勧められた
アオイ/さつき:りつくんかー(にこにこ)
アオイ:最近りつくんとよく一緒にいない?
もも    :コンクールの絵のモデルやって欲しいって言われたの
さつき:うんうん
アオイ:青春だねえ
もも    :青春なの?
さつき:青春でしょ〜

もも:あ、そういうこと?違うからね?
さつき/アオイ:うんうん
もも:違うってば!
アオイ:青春してる人はね、みんなそう言うのよ
もも:怒るよ?
さつき:まぁまぁ
もも:もーー!もーー!!違うって言ってんじゃん!
アオイ:反抗期こわーい(笑)
さつき:こわーい🥺
さつき/アオイ:こわーい🥺🥺
もも:あーちゃんもさっちゃんも知らない!



もも、つい笑い出す。2人も笑う。
さつき:本当になんもないの?付き合ったりしてないの?
もも:ないない、ただ絵のモデルしてるだけ
さつき:でも画家はモデルと結婚したって話多いよね
もも:そうなの?
アオイ:多いねえ。
もも:でも本当になんもないからね、最近はただりつが狩りに着いてくるだけだし。
アオイ/さつき:えー!?!?
もも:え?
アオイ:りつくん狩りのこと知ってるの!?
もも:この前バレた
さつき:よく絶交とかされなかったね
もも:私も縁切られるかと思ってビビっちゃったんだけど、なんかりつ絵の題材に悩んでたらしくて、たまたま琴線に触れたからとかであっさりと
アオイ:懐の広い男だ
さつき:絶対手放しちゃダメだからね
もも:え、うん
アオイ:真面目な話、こういう私やももみたいな逸脱した趣味を持つ人って、なかなか他人に認められづらいからさ、律くんは大事にした方がいいよ
もも:うーん、分かった
さつき:というか、狩りを描きたいって大丈夫なの?ももの奇行がコンクールで晒されて平気?
もも:フィクションだって言い張るみたいだよ
さつき:よくわかってるなぁ
アオイ:いいねぇ、私も自分の趣味を受け入れてくれる人間と出会いたいなぁ
もも:あーちゃんのアカウントに大量にいるフォロワーは受け入れてくれてるんじゃないの?
アオイ:そうでもないよ。まぁ、作品は受け入れられてるんだろうけど。私自身が認められてるわけじゃないよ、多分。
さつき:難しい話だね。
アオイ:孤軍奮闘なわけですよ、私は。あーまぁ、最近私そのものの価値観に興味を抱いてくれる人は出来たけどね
もも:ひさびさの彼氏!?
アオイ:違いまーす仕事仲間でーす
もも:なんだぁ
さつき:まぁ、普通が一番だよ
もも:そーう?
さつき:普通に夢見て、現実的なとこに落ち着いて、好きな物は応援して、家族とわいわい美味しい物食べて、そういう普通がとても好きだよ。私にとっては1番。
アオイ:そっかぁ。
さつき:それに普通の人にはたくさんの理解者がいる。普通だから。気が合う人も沢山いる
アオイ:いいなぁ〜〜それは羨ましい
もも:…気が合う人が多いと嬉しいものなの?
アオイ:味方が多いってことだよ。戦わなくても味方は多い方がいいじゃん?
もも:うーん
さつき:ももちゃんはつるまないタイプだから分からないかもね
もも:つるまないんじゃなくてつるめないの。なんか距離感分からん。りつとも、どうしたらいいかわからんし。
さつき/アオイ:(ニコニコしている)ふーん?
もも:何にやにやしてるの
アオイ:なんか、ももちゃんも高校生なんだなーって思った。可愛い
もも:かわ…!?馬鹿にしてる?
さつき:お姉ちゃんたちは感慨深いんです
もも:もーーー、なんか恥ずかしい。お姉ちゃんたちの分もたべちゃえ
アオイ:え、あ、コラ!
さつき:やめてやめてやめて
もも:もぐもぐはぐはぐ
さつき:きゃー私のメロンの欠片1号が!
アオイ:いま姉1号が助けに行きます!
もも:遅かったな!聖なる剣「フォーク1号」がメロンを襲う!デューン!
さつき/あおい:きゃーーー!

じゃれて笑う

さつき:ごめん、ゴメンだから普通に食べよ
アオイ:そうだね、食べ物で遊んじゃダメだよ。
もも:あーちゃんが1番ノリノリだったのに
さつき:ね、大人気ない
アオイ:ひどーい
さつき:あっっという間に食べちゃったね、メロン
アオイ:もう2玉あるよ
もも:いっぱい貰ってきたの?
アオイ:うん。果物は足が早いしもう半分くらい食べちゃおっか。
さつき/もも:やったぁ!

さつき:りつくんかー。なんか、りつくんとももは結婚しそうだよね
もも:りつの話蒸し返すのやめてよ
さつき:ごめごめ。いやーそうなれば幸せなのになって。
もも:結婚が幸せとは限らないじゃん。私は結婚したくないし
さつき:うーん、結婚は幸せだと思うよ?
もも:セケンイッパンのカチカンってやつ?
さつき:ももを見ててそう思うの。家族以外に理解者がいることって、とても心強いと思うよ。
もも:……。
さつき:ももはさ、お姉ちゃんほど何かに集中して傾倒する訳でもないけど、やっぱりおかしな、面白い子だからさ。言われ慣れてるだろうけど、普通じゃないから。だから、生きづらいと思う。でしょ?
もも:うん。
さつき:誰かが支えてくれるだけですごく違うと思うんだ。律くんなら、それが出来ると思う。
もも:うーん、そうなのかなぁ、てかどうしたの急に。
さつき:大学の友達でさ、親元から逃げてきたちょっと不思議な雰囲気の男の子いるんだけど、その子が理解者の男性と生活してるらしくて、その話聞いてなんかホッコリしちゃってね。
もも:ふーん?
アオイ:メロン切れたよ
さつき:いぇい!
さつき/もも:めっろっん〜🎶めっろっん〜!!
アオイ:なんの話ししてたの。
さつき:人から支えてもらうのは大事って話
アオイ:道徳の授業みたいだね
もも:たしかに。
さつき:あ、そうだこれさー、インスタにあげていい?
アオイ:いいけど、リリアさんからって言っちゃダメだよ?
さつき:言わない!
アオイ:じゃよし。
さつき:せっかくだしみんなで写真撮ろ。
もも:いいね
さつき:じゃあ撮るよ〜?

さつき:あれ、インカメ使えないや、なんで?
もも:写真撮りすぎなんじゃない?
さつき:えーどうしよう
アオイ:私の一眼使う?
さつき:本格的じゃん(笑)いいね

アオイ:じゃあ撮るよ〜
もも/さつき:はーい
アオイ:はい、チーズ

暗転

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