「何故、僕だけが皆から責められるのだろう?」とホセは思った。
「何故、僕だけが皆から責められるのだろう?」とホセは思った。
職場であった街場の英会話教室の同僚からは集団でいびられた。純粋で無垢な人間性に対する憧れが、嫉妬にまで強まった時の人間の悲痛な表情。陰湿な負の感情達に、ホセはターゲットにされた。
ホセの純粋さ。ホセの素直な精神。ホセの夢見がちな生き方。
今まで必死に蜘蛛の巣を払ってくれた、ホセの両親の年老いた手。
攻撃が実際の暴力ではない得体の知れない空気感や、決定的な尻尾は出さない自分に対する明らかな嘲笑を含めて、ホセの人格に毎日定刻通りに雨の様に降り注いだ。
その時もホセは「何故、僕だけが皆から責められるのだろう?」と思った。
証拠の残らない凍てついたスリング・ブレイドが、優しいホセという一人の男の純粋な感性を容赦無く斬り刻んでバラバラにした。残酷な現実だ。好きな事を実現する為にホセは金と職を求めただけだったのに。
ホセはグシャグシャに砕かれた心で考えた。
「何故、僕だけが皆から責められるのだろう?」
その後遺症なのかは分からないがホセは、疑心暗鬼と被害妄想が、対人的な行為や思考に徐々にノイズ気味に渦巻く様になっていることを感じた。人間を信じられなくなる自分に疑問を感じて、自家撞着を起こした。
無垢なホセの魂は、哀しき正答を求めるあまりに、ケミカルな処方薬と雑酒を併用した挙げ句、拝金主義の宗教に入信する有様になった。そうしてホセは、他人を信じるという行為の全てを止めてしまった。
あれから何年経っただろうか?
ホセは資格試験に合格し、相変わらずなあの街の介護施設で勤務していた。
あれからホセは、自分よりも弱い人間の存在に気が付いた。ホセは己のトラウマを燃やし尽くす為だけに仕事場へ通った。夢と目的は悲しい現実の中ですり替わってしまっていた。
ある時この街で昔から付き合いのある先輩に、今の自分の話を聴かせようと、ホセは電話をして先輩を呼んだ。
「先輩、聴いてくださいよ。俺、虐待してるんすよ!」とホセが言った。
「ああ、そう。」と、先輩は、入所者に睡眠薬を増量した話や食事に混ぜ物をした話等を黙って聴いていた。
ホセは優越感に浸っていた。ポケットにはドーパミンを増幅する処方薬もある。先輩の注告も無視して刺青も入れた。
入所者はモノも言えない。目も見えない。
今では、ホセは何でも思うままに誰にでも振舞う事が出来た。
と、突然に先輩が言った。
「おいホセ、お前馬鹿か?今すぐ職場に行って謝ってこい。恐らくカメラは付いてるから、お前はアウトだ。」
「えっ!?」とホセ。
「お前は無目的な罪人になっちまったんだよ。」
ホセには何が何やら理解が出来なかった。
「あのなぁ、お前の仕事は入所者の眼になり耳になり助けるのが仕事なんだよ。今すぐに謝ってこい。」
今は午前3時だ。ホセは面食らった。
続け様「明日の勤務で、虐めた入所者に詫びを入れろ。俺が悪かったと。それから俺に連絡しろ。」と先輩に言われた。
ホセはその場を適当に誤魔化して起訴もされずにまた逃げる様に退職した。
そして思った。
「何故、僕だけが皆から責められるのだろう?」と。
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