見出し画像

トランジット

ひさしぶりに会った。
随分歳をとったような気がする。
おめでとうと言って、花を渡したかったが、
そんな安易な事をされるのは嫌だと知っていた。

去年の冬は週に三回も会っていたというのに。
最近は月に三回も会っていない。
射精を目的としない人間が、私に何の欲をぶつけて押し付けて塗りたくって汚したいのか、イマイチ分からないままだった。

“男の人は恋愛感情が湧かない生き物”という、
認識は歪んでいないと心の底から思っている。
彼が私にして欲しい事はなんだろう。

いつかの日記

こんなことを書いたのが数ヶ月前で、
先週昼から銀座でお酒を飲んだ。

前日の夜に連絡がなく、店が決まらない事に苛立っており、キャンセルしようかと思ったくらいだった。
私は予定を決めるのが遅い男と、
タクシーを使うべき時に使えない男が、
大嫌いなのだ。

けれども、駅で待ち合わせして、散歩しながら歩くというのもなかなか良いもので、
二人とも汗をダラダラとかいていたものの、
私たちの共通項を話しながら移動するのは、
刺激的な体験であった。


普段、一杯しか飲まない私と一緒に日本酒を飲むのが楽しかったらしい。
お互い酔っ払っていて、お土産にちらし寿司を作ってもらった挙句、二軒目まで行った。

私がフラフラとタクシーから降りたら、
手をぱっと掴まれて、少しだけ驚いた。
「こんなところ、君の男に見られたら悪いな」
と言われて思わず笑ってしまった。

二軒目は喫茶店で酔い覚まし。
後ろの席で物騒な男性三人組の話が盛り上がっていた。
紅茶を飲みながら、昔話を要求し、
海外留学と車、学生時代の話を聞いた。


なんだかゾッとした。
目の前にいる人間は、私のことを慕っている。
そのことは分かるのだけれど、
あまりにも私と性質が違ったのだ。

人間同じような外形を持っていても、
自己人格生成期の環境や社会、そして運と努力と元来の性格と。何もかもが違うと、理解し難い恐怖心に似た感情を持つのかも。
嫉妬とか羨望ではなく、触れたことのない深海魚みたいな感じ?

その家に生まれる、その暮らしを強いられる、
そうであることが正しいとされる、
それが善であると認識している、
一般的ではない事に疑問は無く、
明確な違いについて考えていないのかもしれない。

にしても、生まれた街の馴染みの店で、
それも仕事場のそばに私を連れて行った事に、
少しだけ驚いた。
お寿司はとびきり美味しかった。
仕事の話をする貴方は、一段と素敵でしたよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?