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私の日々、心や考えの移り変わりについて。 丁寧に、1文字ずつ意味を持たせています。
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春になってもここにいるね

彼女はわたしの鼻先に手の甲を近づけた。 「香水、もう消えてるかもしれないけれど」 匂いとくっついた記憶は色濃くて離れない。すでに知っているいつもの空気を吸い込んで、窓の外を見る。季節は三度目の春を迎えようとしていた。 無意識ながら爪にはピンクが棲みつき、髪は嬉しそうにカールを受け入れる。全身のすべてが春の訪れを喜んでいた。 春は、出会いとともに別れがあるから好きだ。長い時間をかけて築き上げた関係が、ぽっと出の誰かに奪われる瞬間を目の当たりにする。同時にわたしも突然現れ

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大晦日なんかにお気に入りのイヤフォンをなくした。 「No music, No life.」の畑で過ごしてきた人間なのだ、ああ、ショックなんかよりも焦りの方が大きい。これがないと困る。 例年ほとんど雪なんか降らないが、今日はほんの数分だけ降っていた。そのくらい寒いと言うのに、私は母を引き連れて地面を睨みつけながら来た道を戻っている。 「やっぱりないなぁ」などと呟きながら探していたが、結局、イヤフォンは見つからなかった。 思えば本厄だ。上手いこと理由付けするなと言われたが、

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今まで私があなたに綴った手紙と言えば、それはどれも不器用で拙い言葉ばかりだった。きっと純粋に想っているから、だけでなく、あなたが居なくなってからの彼らと、自分の生活とを、ずっと照らし合わせてきたからなのだと思う。 人を導くことに長けていた、しなやかな思考の持ち主だったあなたの力をほんの少し借りてみたくて、手紙の中には疑問符ばかりが溢れた。それは例えば小さなこと、日常のつまらないこと。どこにいるの、何をしているの、なんてことは最初から知りようのなかったことだから。 会ったこ

私が私であるために

暗くて寒い部屋の中で、布団をかぶってスマホだけを見続けた日々を過ごした。 落ちて、落ちて、落ちきったとき、私を支えてくれたのは音楽や美しいものやお笑いだった。生きていくのに必要最低限のものではないかもしれないそれらは、私にとっては生きていくための糧だ。 今でも、何かのきっかけであのときと同じくらい落ちそうになる瞬間がある。だけどぐっと堪えて、ふらふらと先の見えないトンネルに迷ったような私を導く光にしたがって進む。 もがいて苦しんでぐちゃぐちゃに絡まっても、前を向けばそこ

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失速、思考回路は疾走4月10日午後5時、私は自転車を漕いでいた。 漕いで、漕いで、ペダルを足でぐっと押し込んだ。だらしない太腿が力み、痛みに変わる。お腹の下の部分が緊張し、息が乱れた。 17歳だったこの一年間で、私は自転車がトラウマになってしまった。 普段歩いているだけなら疲れないような短い道のりでも、あり得ないほどの体力を消耗し、身体がこわばり、漕いでいられなくなってしまう。それをどうしても、18歳になる前に、克服しておきたかった。17歳最後の今日、何がなんでも目的の

自分を嫌いになれるのも好きになれるのも自分だけだ

自分のことが嫌いでたまらない。そんな時がある。 自己嫌悪に陥って、気持ちが悪くて、醜くて、どうして私はこんなやつなんだろうと思う。鏡に映る自分の顔にムカつく。変な考えしかできない自分がキモい。ずっと怠惰で何もできない自分が許せない。 人は言う。 「そんなことないよ」「かわいいよ」「普通だよ」「頑張ってるじゃん」 申し訳ないが、そんな言葉一つで「ああそうですか自分サイコー」と思えるならこんなに自己嫌悪に陥っていない。 自分のことを一番よく知っているのはどう考えても自分

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