今井桂三先生と昆虫画の世界
図鑑を取り巻く状況は常に変化を続けている。
学研の図鑑が全て生体写真となって新しくなったのも記憶に新しい。
その一方で、歴史を振り返り、少し前の図鑑を開くと、そこには細密で描かれた標本画の世界が広がっている。
生物の特徴を誤りなく読者に伝えるための手段である標本画。
同時に私を含む多くの”昆虫少年”にとって” 美術“と最初に出会うシーンだったとも思う。
画家である今井桂三先生の名を初めて見たのは、幼少の頃持っていた学習図鑑だった。
当時の私は図鑑の図版が絵、あるいは写真なのかという概念すら無かったが、図鑑の昆虫は絵であり、それを描いた人がいることを親がそっと教えてくれたのを覚えている。
子供の頃に夢中になった図鑑の絵を手掛けている人ともなると、雲の上の存在ともいうべきで、お会いする機会などあるはずも無いと思っていた。
先生との出会いのきっかけになったのは、
未来屋書店北戸田店で開催の原画展。
展示担当の大庭さんのご厚意で、
打ち合わせに同席させて頂いた。
先生は笑顔の印象的な方で、聞けば私と同じ山形は庄内の生まれ。
数々の原画はどれも図鑑でみた姿そのもの。共に語られる貴重なお話に耳を傾ける時間は筆舌に尽くしがたい。
見覚えのある原画と共に初めて見る標本画の姿が‥
〜ヒメキベリアオゴミムシ 2022.08.27〜
なんと、こちらは未来屋書店さんがオーダーした最新作なのだった。
この作品の仕上がりは実に素晴らしく、
水彩で描かれたゴミムシの美しい姿に心奪われた。
同時に、先生の描く標本画を自分も欲しくなり、
思い切って先生にお願いしてみることにした。
モチーフはギンヤンマ。私のお気に入りのヤンマだ。
それから数ヶ月後、
先生からの作品完成のメールが届き、作品の受け取りに。場所は未来屋書店北戸田店。
グラシン紙のカバーをめくると、
そこには色鮮やかに描かれた水彩のギンヤンマの勇姿が!
凄い!予想を遥かに上回る出来栄えに感激!
一方、先生は「ハネの調子が強すぎたかな‥」と謙虚な姿勢。
今井先生の描くギンヤンマは姿勢が整っていて、手脚も行儀良く綺麗な姿であるが、標本のような整然さはあまり感じられない。どこか、虫が自らモデルになってくれていて、綺麗なポーズをとるように努めてくれているように見える。ギンヤンマの勝虫としての自信が伝わってくるように思う。
作品制作をお願いするにあたり、資料として提供させて頂いた標本はとても丁寧に扱って頂き、先生の仕事に対する姿勢が感じられた。
今井桂三先生作のギンヤンマ。標本箱をイメージさせる額装を施した。
昆虫図鑑を探究する中で知った標本画の世界。
標本画家の先生との出会い。
素敵なご縁に恵まれました。
今井桂三先生、未来屋書店大庭さんに深く感謝致します。
岡村悠紀
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?