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絵本の裏側 6

"とんがりの貝" から目を上げて、もうそろそろ立ち上がろうかな。
男の子はまた、歩き出します。

気のせいかな?

よっこいしょ。
腰を上げたその時です。

カサッ。

何かが動いたような。気のせいだろうか?

カササッ。

気のせいじゃないみたい。
木の幹からだ。
ぼくか動くたび、何かがサッと隠れるみたい。

ぼくが動く、なにかがサッと。
ぼくが一歩、なにかがサッと。

何が動いているんだろう?

ガサガサ

きっとこの木の裏側にいるはずだ…

何度も覗いてみるけれど、
なかなかその姿を見つけることができません。

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男の子はついにその正体を確かめることができませんでした。

それにしたって、がっさがさだなぁ。

正体を突き止めることはさておいて、
その何かに導かれるように、まじまじとオヒルギの幹に見入ってしまいます。

うろこみたいにひび割れたり、ポップコーンのように弾けたみたいなところもある。
幹に手を触れたら痛いかな…

恐る恐る触れた手から、カサカサッ。感触が音になって伝わってきました。(実際のところ、優しく触れたら痛くないです。)

この木に隠れた何かも、こんな風に幹を滑って行ったのかな。

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何かの正体

かくれんぼ上手の「何か」を一目見るには、コツが必要。
幹のあちら側とこちら側とで挟み込むように探すと、順番こに見られるかも知れません。

さて。その何かの正体とは...

カニでした。

ヒルギハシリイワガニ。
ヒルギ(マングローブのこと)を、ハシリまわるイワガニの仲間です。
彼らが幹を移動すると、本当にかさかさと音がします。
よーく耳を澄ませていれば、音を頼りにして探すことができるかも知れません。

平べったいからだ。
オヒルギの幹に似ているような似ていないような色の甲羅。
鮮やかな紫色のはさみ。
星粒のような斑点。
からっとした表情のオヒルギの幹の上で、唯一ツヤを放って見えるその体。
なぜだか、大抵お尻を上にして幹にくっついています。

ヒルギ、ハシリ、イワガニ。
少し長い名前ですが、意味を考えながらゆっくり言えば、きっと覚えられるカニさんです。

収納上手

マングローブの林の中には、ヒルギハシリイワガニ以外にも、いろいろな種類のカニがいます。

干潮時にはシオマネキが数種類、地面の巣穴から出てきます。
シオマネキより大振りで、同じく巣穴から登場するのはアシハラガニ。

ヒルギハシリイワガニ同様、木の上や幹、根っこの隙間にいることの多いのは、クロベンケイガニの仲間。ハサミの色に注目すると、ヒルギハシリイワガニと見分けがつけやすいです。

満潮時や泥深いところには、大きなノコギリガザミが潜んでいることもあります。硬い二枚貝の貝殻だって割ってしまう、強いハサミの持ち主です。

どのカニも、自分の隠れる場所に見合った体をしています。
隙間が好きなカニたちは、薄っぺらな体。長い脚でしっかり幹にしがみつきます。
砂の穴の中に潜むカニたちは、巣穴に入りやすいようにやや横長の体で、隙間専門のカニよりは厚みのあるからだをしていることが多いです(横向きに巣穴に入っていく)。

大事なはさみを、めいめいきれいに収納する瞬間。
甲羅の側とはさみの側との形が、パズルのようにきれいに組み合わされます。その様子を目撃するのがとても好きです。
〈本編P.5-6〉

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