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C-monologue

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長めの文章|どのようなジャンルのものなのかわからない|読み物として|イメージ(絵・写真)、詩画に通ずるものもあるかも
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天秤

時々ふと思う時がある。 嫌いになることよりも、好きで居続けることや好きになることの方が、苦しいのではないかと。 いつだったか、誰かさんが好きな事を見付けて、「それをやりたいんだ」と啖呵を切っている様子を見た時、私は苦しくて仕方なかった。 今思えば、ずいぶん青くさくてムズムズする。 近しいものを感じた。 揃いの気持ちのように思えた。 こうだったらいいなということをいくつも抱える胸の重たさ、私にも身に覚えがある。 合わせて、あれもこれも思う通りにはならずにいるもど

耳にした。 また一人。 遠退いていく背中の気配。 指先で頼りない背中をなぞる。 思い返せば、あの背中が物言わずないているようにも思えて、落ち着かない気分になる。 違う手段を、と話していた。 「ごめんなさい」と頭が下がるけれど、その言葉が必要なのは、果たして?どうにも気持ち良く喉から力が抜けない。 違っているのは自分か、それとも? 止めることもできなければ背中を押すこともできず、決まり文句のように「ありがとう」「次も頑張って」と月並みの言葉が口から出てくる。 よく聞

サイレン ト

どうしてこうも、面白いくらいに涙が出るんだろう。本当 に小さな子どもみたいで、心底恥ずかしくなる。 しつこく足元も視界も浮ついて、まるで自分の身体じゃないみたいだ。 いつまでもふわふわふわふわ、いい歳して本当に嫌になってしまう。 照明が眩しくて、人の話は右から左へ、指先までぎこちなくて、話す内容は筋違い。あんまりにもそんなことばかりで、不安になってしまう。 そうでしたね、すみません。 先ほどもそのお話聴いたばかりで、もう尋ねてしまう。自分が、一番自分のこと信じられない気

透過

静かな場所で、外部の情報の一切を遮断して、沈み込んで考える。 時計の針の音、 鳥のさえずり、 遠くで聴こえる車の音。 誰かもわからない通りすがりの小さな話し声。 真夜中の車の中。 明け方の青い窓辺。 寝乱れたベッドの上。 真昼の閉め切った部屋。 あちらこちらで痕跡が残っていく。 私が貴方が誰かが其処に居たという痕跡が。 目に見える形で、目に見えない形で。 望もうと望むまいと。 息が始まって、その心臓が動き出して。 もうその瞬間から誰も逃れられないはしない