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2020年 圧倒的な作品体験を求めて

今年は新型コロナ感染症の流行による世界的に混乱の1年でした。本当に昨年2019年末にこのベスト展覧会を書いてた頃には全く想像したいなかった様々な暮らしと社会の変化…。今日明日で何が起こるか、なんて、わからない。そんな中で、大きく変わることなく生活できたのは本当に幸運なこと。美術館やギャラリーにもそれなりに行けたけれど、やはり実際にその場所に行って、その空間を感じ取れた展示が印象に残っている。

1. 鴻池朋子「ちゅうがえり」ジャムセッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 @アーティゾン美術館
鴻池さんの世界観を空間全体にインストールした大掛かりな展示。襖絵で仕切られた空間にすべり台があったり。ジャムセッションというだけあって、鴻池さんの絵の隣にクールベの絵があったのはグッときた。今年多かった現代美術と古典美術合わせて見せる展示の1つ。「ツキノワ川を登る」という映像作品も印象的で鴻池さんの自然に寄り添うというスタンスがよく伝わる作品。リニューアル後はじめてのアーティゾン美術館だったが、ショップやカフェ、展示室横の休憩スペースなど細部にこだわった空間がとてもよい。同時開催していた2019年ベネチア・ビエンナーレ日本館の帰国展(再現展示やドキュメンテーション)もとても良くて、見どころたっぷりだった。

2. さいたま国際芸術祭2020
今回は取り壊し前の旧大宮区役所と大宮図書館を利用した会場がメインであった。取り壊し前の建物の作品展示はだいたい楽しい。やはり、室内空間に展示する時って様々な制約や配慮の中に作品は置かれている。それを限りなく取っ払える廃屋での展示は自由で魅力的だ。区役所窓口フロア空間に砂時計のように天井から砂が降り注ぐ篠田太郎さんのインスタレーションや、地下食堂・書庫空間を迷路のように変えた梅田哲也さんのインスタレーションは特に大掛かりで素晴らしかった。一方で、地域ベースの芸術祭は、その地域に住む人への非日常体験のキッカケやコミュニティづくりも大切。2016年に開催された第1回から継続的なコミュニティづくりやリサーチプログラムも充実していたようで、次回(3年後?)もまた来よう!という気持ちになった。

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3. 臼井良平「Solid, State, Survivor」@無人島プロダクション
無人島プロダクションは、その展示空間時代が唯一無二で、天井の高い木造のスペースはとても気持ちが良い。そんな室内に、都会の河川を表現したインスタレーション、河川に漂着しているペットボトルやプラスチック容器の”ゴミ”をガラスで制作した作品があった。本来は”汚い”川辺の光景を見立てた空間は過度に洗練されて記号化されたミニマリスティックで演出されたきれいなインスタレーションとなっていることも皮肉めいていた。

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4. 森靖「Ba de ya」 @PARCEL
圧倒的な巨像がつくり出すエネルギー、覇気、圧倒的な…言葉を失う存在感のメインの作品。仏像は信仰心が高まるために作られるものだが、そのような信仰の対象という役割を持たない、しかし、圧倒的な存在感のこの作品はとても彫刻的でありながら、とても彫刻的ではない(その役割みたいなものがあたえられていない)といった感じ。ビジュアルは全く異なるが、ジェフ・クーンズの作品のよう。あと、搬入・インストールプロセス(もちろんおそらく搬出も)もとてもドラマティックであった。

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5. 井出賢嗣「立体3」@アートセンター・オンゴーイング
井出さんの作品の醍醐味は巧みな情景描写である。特に小さな抽象的な彫刻作品にぎゅっと私的な(しかし共感できる)情景が詰め込まれていて引き込まれる。今回は家族でのドライブがテーマで、道路に見立てられた展示台に点在する車窓からの風景がスケッチのような彫刻で表現されていた。抽象化された風景を見る側は自分の思い出の風景で再構築するような展示であった。カフェではラジオが流れていて、そうそう、車の中でラジオがかかっていたりすることって昔やタクシーであるな、とまた様々な思い出が蘇ったりする。しかし、ラジオではずっとコロナに関する話が流れており、今(の異常な状況)を強く意識させられた。

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今回のトップ写真は原美術館の入り口。2020年末で東京の原美術館は閉館する。大学の頃から結婚式は原美術館でしたい!と思っていたのに間に合わなかったわ。完全予約制のクロージング企画も予約でいっぱいで行けず終いになりそう…たくさんの思い出をありがとう、さようなら。
2021年はより平穏な1年であることを願って!

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