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2019年のベスト展覧会というより、注目したい作家など

今年行った展覧会を見返してみたら、企画展をあまり見に行っておらず…どちらかというとずっと追いかけている好きな作家さんや気になる作家さんの展示に行く機会が多かったので、今年のベストは大小共に個展が多い。

でも、社会的には、「企画」される展示に多くの注目が集まった1年でもあっただろう。瀬戸内トリエンナーレ2019は開催ごとに知名度を上げ、今年は、New York TimesやVogueのような海外メディアで訪れるべき世界の場所2019特集で取り上げられていて、観光産業的な視点で見れば、大成功である。一方で、あいちトリエンナーレは作品を置き去りにした思想抗争に発展したように見えた。これも、公的な芸術イベントのあり方という視点で多くの示唆を残した。

作家1人1人はそれぞれ個々の問題意識を持って作品を制作している。それは、現在の広い社会的な問題である場合も、限定的な事象の問題である場合も、個人的や内面的な問題である場合もあるだろう。どれも、結果的には「現在」という時代の表象に繋がると思うし、ひとつの側面からの「現在」を多様な作品を集めて見せる企画展は面白いが、その反面、個々の作品はその作家が辿った作品の変化という視点からは切り離される。今年は、そのような作品が独立して意味を発する場より、1人の人間が生み出す作品の変化していく様をより丁寧に見たいと感じた。

1.ミルク倉庫+ココナッツ 「東京計画2019」vol.4 @GalleryαM
私が好きなアート作品のモチーフは石・遺跡・土器・食べ物とTwitterに書いているが、食をテーマにした作品は本当に好きで、今回の展示は最高に楽しかった。料理レシピを通して、都会(東京)に住む多文化で食習慣や生活習慣が多様な人々の”るつぼ”が表現されていた。また、ギャラリー空間の中に設えられた仮設キッチン・展示されている料理は、ホワイトキューブの中で浄化された状態であったことも興味深い。水垢がついた流しや賞味期限切れのものが混じった冷蔵庫、油汚れがついたガス代など…生活の中のキッチンはだいたい煩雑な空間である。さらに、展示料理は腐敗していないのと同時に、ほとんど無臭であった。料理といえば、においである。台所から漂う夕食の準備のにおいが住宅街の道まで漏れている事はよくあるが、本展示では料理のにおいがほとんどしない。リアリティのない料理たちは、虚構的な都市の姿を体現しているようであった。

2.平田尚也 「Paranoia Drive」@Anagra
平田尚也さんの作品を初めて見たのは、2019年1月「1_WALL」グランプリ作家としてガーディアン・ガーデンで行われた展示で、ありえない事物を組み合わせた”立体作品”は強いインパクトがあった。しかし、実際は、もちろんありえない事物を組み合わせるのは現実空間では難しく、すべては仮想空間で行われているバーチャル彫刻家だ。作品も出力作品か動画作品で、確かに楽しいけれど、欲を言えばもう少し作品に近づきたいという気持ちになる。回り込んで裏から見たり、3Dで見たり・触れたいと強く思わせる作品なのである。年末開催であったAnagraでの個展は、そのようなもどかしさを解消させる多様な表現の思索が見られた。3Dプリント出力したものや、短編映像作品は、分断された”向こう側”のバーチャル空間に少し近づけたような気持ちになった。今後の展開がとても楽しみ。

3.増子博子 「積層をぬって」@ギャラリーモモ両国
増子博子さんは自然をモチーフにした細密な作品のイメージがあるが、それ以外に日々欠かさず1枚以上は描いているという”毎日の絵”がある。植物で染めた糸のステッチを入れた絵や革に描いた「側の器」シリーズの絵は販売もしない。今回は、どんどんと蓄積されている作品群が展示されていたが、重ねられた絵をめくって、その下を見ることができるわけではない。しかし、その物量から表現者の生活感が垣間見える。素材も技法も描いているものも日々変化している。普段はFacebookやTwitterでも、「側の器」シリーズとして描かれた日々の絵を見ることができる。”今日の作品いいな!”と思ったり、”はじめての形?”と思ったり、毎日の小さな楽しみである。

4.原田郁 「もうひとつの世界10年目の地図」@府中市美術館
原田郁さんは、作品と作品アーカイブすべてが大きな物語で繋がっているような制作を続けている。展示ごとに制作された作品は、想像上の”もうひとつの世界”に追加されていく。そのような作品も10年目を迎えるということで、府中美術館で公開滞在制作が行われていた。今まではなかなか見ることができなかった、”もうひとつの世界”の全貌を眺めることができた(写真の地図)。ホワイトキューブは空間の主張を最小限に抑えて作品が際立つための工夫でもあると思うが、原田さんの”もうひとつの世界”は人がおらず、ミニマルな空間の展示室建築が点在した廃墟のようで、一方で過剰に整備されたアート作品のためのユートピアのような世界が広がっている。

5.光るグラフィック展2 @クリエイションギャラリーG8
2014年に行われた展示の第2弾である本展示は、現実空間とバーチャル空間の境界線を曖昧にするような仕掛けがあった。展示空間すべてがバーチャル空間上で再現されており、コントローラーを使って、バーチャル空間側の展示空間を歩くこともできるようになっていた。展示空間が再現されているので、作品も、もちろん再現されているのだが、一部、現実空間とバーチャル空間で色など、少し異なっているものもあった。現実空間と少し違うバーチャル空間は、パラレルワールドのように、私達が暮らす現実と別の時間軸で存在しているようである。これは、原田郁さんの”もうひとつの世界”を見ているのと似たような感覚だが、バーチャルと現実の最も違う点は、バーチャル空間に人がいないということである。自分1人だけが取り残された世界のようである。
今年は、同じように現実空間とバーチャル空間にまたがって開催された「BHVR」展もあった。この展示は対照的で、バーチャル空間には、アバター参加者がおり、現実でもバーチャルでも他者の存在を感じて、孤独も感じない不思議である。

今年はなんとなく、現実世界の危うさを感じたりする中で、バーチャル空間と繋がっているような作品が気になったのかもしれない。そうそう、今年は、初めてStartbahn経由で作品を購入し、ブロックチェーン証明書が付いたが、あまり実感が湧きません…

買った作品は中根唯さんの「ブロック」

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