わたしと『歌ってみた』の話




音楽は人並みに好きだった。
今よりテレビでは音楽番組をよくやっていたし、好きなアイドルのCDを買ったり、母の車の中で流れる曲を覚えて口ずさんだりもした。
ただあまり裕福な家庭ではなかったので、少ないお小遣いの中で自分のお金をどこに使うか優先順位をシビアに決めなければならなかった。
小学校低学年の頃からわたしの興味の頂点にあったのは漫画で、まずたくさんの本を読みたかった。きれいな絵がみたかったしドキドキする話が知りたかった。そして倣うようにして絵を描くことは紙と鉛筆さえあればいつでもどこでもできた。
できればお金のかからない音楽が欲しかった。

中学生になって、友だちと一緒に行ったカラオケで新しい衝撃がわたしに走った。
『ワールドイズマイン』。
かわいくてきれいな絵と、今まで聴いたことがないような歌詞。キャラクターソングには触れてきていなかったので、物語性、キャラ性の強い音楽は初めてだった。しかも、なんか、歌ってるのは機械?らしい。人じゃないんだって。
え、これ動画サイトで見れるの? え、これもおすすめ? ありがとう、じゃあ聴いてみるね。

VOCALOIDが好きになった。
かわいいし、かっこいいし、おもしろいし、切ないし、エロいし、何よりめちゃくちゃ曲がある。こんなん歌えないよね、やばいって、神曲。
少ししたらボカロ曲を実際に歌っている人がいるらしい、とも教えてもらった。いやいやボカロ曲ってボカロだからいいんじゃん、わからんわそれは〜〜……


ハマった。
元々好きだった曲が歌う人によって全く違う表情になる。これ歌えんの?! え〜〜声めっちゃかわいい、替え歌おもしろすぎ、この人たちの声の相性が好き〜〜!
ちょうど二次創作そのものを知って楽しみ始めていた時で、ほとんど同じ感覚で新しい文化を吸収していった。

そのうち、どういう人たちが歌っているのかが気になっていく。どういう人なのか何となく知っていく。その人達の関係性も。
インターネットという画面越しの身近な距離で、歌をうたう人たちは楽しそうで、眩しくて、ちょっと羨ましかった。

気になっていた人たちがライブでちょっとこっちの方まで来るらしい。全国的に見れば地方の、都市部とはいえここからはまだ遠い。でも東京よりよっぽど行ける。手の届く距離だ。
行ってみたいな
でもライブって行ったことないし、ちょっと怖い。
でも気になる。しかも頑張れば行ける距離だし。
親にお願いしてみた。連れて行ってくれたりしませんか?
だめです。
え〜、そこをなんとか。

何回か押し問答を繰り返していくうち、どんどん意地になってきた。わたしはいつの間にか泣きながら親に土下座していた。その時にはもう絶対に行く、と心に決めていた。

家出だな。
連れてってくれねえなら自分の力で行ってやるわ。

ちょうど反抗期だったこともあり、わたしは人生初のライブというものに足を運ぶことにした。その辺のいじらしいポエムは既出『家出をするときは大体秋か冬、それか夏
https://note.com/0atori/n/nffa63f3e058f
』にて。
(※未成年が保護者に許可を取らずライブに行くことはだめなので絶対に真似しないでください。)

そのライブのステージに立っていたうちのひとり、そう、名前は違えど今のMonsterZ MATE コーサカ。

キャパ300人ほどのライブハウスのステージと観客席で、わたしはその人にはじめましてをした。


初ライブ以降みるみる歌ってみたにハマっていったわたしはそれはもう熱心な歌ってみたファン、であったように思う。
その時には既に『この人たちを応援したい』、という気持ちの方が勝っていたので、動画を再生してCDを買って行けそうだったらライブも行ったしグッズも買った。
音楽にお金を払うことを教えてくれた存在だった。
果たしてそれは"音楽"にお金を払っているのか? という話は別の話なので、わたしにとっての第一歩だったと思ってほしい。


楽しかったのだ。誰かが楽しそうにしている姿を見て、一緒に過ごしているような感覚になって、音楽で感情を共有できたことが。
共有できる音楽を与えてくれたことが。
嬉しかったのだ。

自分がVtuberをはじめて、仲間であるumaくんがコーサカさんとやり取りをするようになってからもいまいちわたしは現実を掴めずにいた。いちファンとしてMZMを教えた身としてはumaあいつ最初に教えたとき反応悪かったじゃんかよ……などと陰湿なオタクらしいことを考えていた。
その時のumaくんの心境は先日MZMのチャンネルにて挙行していただいた卒業式
https://youtu.be/bzUg0UlmMLs
の答辞で、本人が言葉にしてくれている。
わたしはというとちょっと浮かれたり謎の賢者モードに陥ったり自意識と戦ったり何かと大変だった。
でも昔の話はタブーかもしれないし失礼を犯す可能性もあるし、何より、『Vtuberのわたし』は対等でいたかった。

隣人が玄関から挨拶に来てくれたのに、わたしが勝手に神棚に上げてはならないだろう

と、必死で自分を説いていた。
まあコーサカさんの場合玄関からというよりベランダからいきなりやってきたみたいなかんじだったけど。

案の定わたしから言わなくてもumaくんにばらされたので、ご本人達の知るところにもなったのだが。大変優しく接していただきました。その説はお世話になりました。
でも結果的には伝えてくれてよかったと思う。それが無ければ自分からは永久的に言ってなかったかもしれないし、感謝を伝えることもできなかったのだから。

まだまだ伝えきれないけれど。

もちろん今だって会うと実は一瞬怯む。連絡をするときも緊張する。「ちゃんとしなきゃ」って思うし期待に応えたいとも思う。応えられなかったら自分を責める。でもそういうことをぐるぐる考えているのを隠したいと必死にもなる。

バーチャルなんて騙りながらあまりにも人間らしくて笑ってしまう。
だからどうか笑ってほしい


世界にはこんな縁があるということ
夢の続きに現実があること
バーチャルでなければ出会えなかったこと

わたしにとっては人生を揺るがすような劇的だったことを。


p.s.
個人的にはあまり生き急ぎたくはないんだけれど、糧にしてどうにか前に進んでいこうとおもいます。あなたたちのように。


魔法なんかじゃない coverd MZM
https://youtu.be/eJli8ATRWQw

『魔法なんかじゃない』MV
https://youtu.be/81KfENgtAdU


ちゃらんぽらん隊 あとり

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?