8月1日を一緒に迎えてくれるあなたへ。

窓を閉めていても蝉の鳴き声が響き渡っていたので、いっそのこと開き直って、窓を開けてみた。
無遠慮に侵入する熱と囁く程度の風が触れる。これを書き終わったら閉めて、冷房を付けようと思う。
夏は思考がクリアになる。遠くのものを見つめて、なにかを考えたくなる。考えるというより、なにかを思い出しているのかもしれなかった。
耳を澄ますと蝉以外にもたくさんの音がちいさく、大きく、そこかしこで溢れていて、世界が鳴っていると魅せてくれた映画『蜜蜂と遠雷』のワンシーンを思い出す。

そうしてこれまで23回、この身に降りかかった8月1日のことを、思い出す。


最も記憶に古い8月1日は、7歳。
その後11ヶ月過ごすことになる病室に、初めて入った日だった。
毎日居るベッドに日付が記されていたので、忘れようもないのだった。

ああ、大事な日なんだな、と体に刻み込まれていた。

それから1年経つたびその日を迎えると、母がもう3年だね、とかもう5年だね、はやいね、としみじみ言ってくるので、笑ってそうだねえはやいねえと返した。
あの頃に比べてピンピンとだらだら夏を過ごしています。あの頃のおかげで培われなかった体力が今牙を向いてるけど。

10年目になった17歳の8月1日は、どんな日だったっけ。
受験を控えた夏だったので学校だったかなと思ったが、調べると土曜日だったので恐らく家か、外か、多分家かなあ。思い出せないってことは日常に紛れ込んでいるんだろう。

20歳の8月1日、ああやっと、上書きができるんだなあと思った。
もっと大事な日になるのかもしれないと、予感がしていた。
出会いと決別と決意を手に入れた日だった。
https://note.com/0atori/n/nffa63f3e058f

浮遊信号を結成することが決まるその日までの一週間ほど、わたしは思春期を引きずりながら家出(何かを捨てて何かを求めてひとりで出る旅を、わたしは家出と呼んでいる)をしていて、初めて行く土地であてもなく歩いたり、2日間連続で夜行バスに乗ってみたりしていた。初めての夜行バスで2連続をキメてしまったので今となってはまあまあ反省しているが、後悔はしていない。

たくさん、ほんとうにたくさんのことがたまたま繋がって、ああ音楽をやろうと思った。やらなきゃと思った。義務ではない、使命として。
そこで思い出したのがesora umaだった。というかこの人しかいなかった。(友だちがすくない。)
音楽をやるなら、この人と一緒じゃなきゃ無理だ。いやだ。
確信めいた予感を持ちながら家出を遂行している最中に、その終末を飾ってくれるステージがあることを思い出したので、「一緒に行かない?」と声をかけてみたのだった。

esora umaが最初の一手として語ってくれるあの日、花譜のライブは、わたしにとっては、最後の一手だった。

これが無理でもどうにか始められるのかもしれない、でも、これが絶対に今の最上だ。これを叶えたい。たぶん、きっと、叶えられる。
そうして2人で同じことを言った。「音楽をやりたい。」
音楽をやりたかった。今もだ。

とは言っても全部は上手くいかないし、そもそも性格が合わねえ。方向性?最初から違う。行きたいところもやりたいことも好きなものも抱く感情も違う。それまでだって冷戦的な期間もあったし、浮遊信号になってからは対面でも喧嘩した。今もする。ふつうにむかつく。友だちの中で一番理解できない。
それでも一緒にやる。一緒にやってくれる。
8月1日を、共有したからだ。

2回目の8月1日。
https://www.youtube.com/watch?v=rHsoC2yNNYE

これはほとんどわたしのわがままとこじつけだ。8月1日に起こることは大体わたしのわがままなのだ。付き合ってくれてありがとう。タイミングがあまりにもよかったので、理由がもっと欲しくなった。意味をたくさんたくさん重ねて、宝物にしたくなった。
もちろんそれはわたしだけが持ってる感情とエゴなので、ほかのひとがどう思おうと自由だ。もちろん、わたしがどう思おうとも自由だ。

3回目の8月1日。
https://www.youtube.com/watch?v=i90OEmXbFQ8

もうさすがに、宝物ですって、言ってもいいかな。
まだ早いかな。まだはやいかな~~~~~~~………………

だってわたしひとりの宝物にしておくには、あまりにも惜しいから。
もっともっとたくさんの、意味が欲しいから。

できればあなたの意味も、重ねて欲しい。
これからも、重ねていって欲しい。

どうなるかなんてわかんないけど。
明日のことすら不安になるけど。
昨日の自分すら信じられなくなるけど。
隣にいる人すら見えなくなる時もあるけど。

でも、
ただ今は。
歌ってたいので。


8月1日、受け取ってくれるあなたのおかげで迎えられます。
よろしくお願いします。

2021.07.31 あとり依和
(浮遊信号pixivFANBOXより再掲)

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