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ナンピン買い(Chapter1-Section3)

 警備員の研修には、児童養護施設の出といった訳アリな人もいた。
 3日目の午前中、「20日の勤務後に2万円が支給されます」の言葉に大慌て。昼休みに求人誌で新たな仕事を探すも、日払いのバイトはなかった。田町にある清掃の仕事が週払い。今夜から働けるというのでお願いした。
 担当者に、4日目の研修を7日後にズラして貰った。4日の辛抱が10日になった。その間、水しか飲めなかったのである。

 渋谷から田町まで距離はあったが、何とか徒歩で通った。安全を経験したからか、帰巣本能からか、わざわざ宮下公園に寝に帰った。
 ダクトの清掃は、閉店後のレストランで行われた。厨房の空調は、人がギリギリ入れるスペースしかなく、頭からつま先まで被るタイプの清掃服を着て、マスクをした。見てくれの悪さに思わず笑ってしまったが、まだ笑える余裕が残っていた事は収穫で、まだ頑張れると思えた。
 漂白剤をダクトに吹き付け、体を回転させながら四方を磨いて汚れを落とした。ほふく前進しながら、4~5m先の出口を目指した。モグラみたいな仕事だった。日当7000円になったが、漂白剤にムセこみ、健康を損なうリスクを感じた。

 当時の時給は580円ほど。タバコが1箱120円だった憶えがある。来月、東京の最低賃金は、1113円になるので、30年かけて時給が2倍になった計算となる。ちなみにタバコは5倍になった。

 空腹が続くと、不思議とゴミ箱に目配りするようになった。食べかけの菓子パンを見つけた時、その幸運を喜んだ自分にハッとし身震いした。デパートの試食コーナーを避けたのは、みすぼらしい自分を晒すのを恥じたからである。
 
 今は姿を消したが、幼い頃に見た上野公園には、路上生活者が大勢いた。満開の桜の下で酔っぱらい、歌ったり踊ったりし、極楽浄土の住人のように映った。上野公園で新参者と挨拶をし、彼らから生活知を学ぶ方法もあった。彼らの仲間になって一緒にゴミを漁れば、腹も満たせただろうが、それはしなかった。

 何が分け隔てるのか。

 天涯孤独に感じた10日間は、自問自答の機会を与えてくれた。今がドン底なら、これ以上堕ちることはない。こんな逆転的発想が、路上生活を脱した分岐点になったと考えている。

 株探のインタビューで「損切りは何%ですか?」の質問に「損切りしません」と答えた。「え?変わった人ですね」と言われたが、売るから損をする。売らなきゃいい。これがたぶん、上手い下手をわける分岐点に思えます。
 「下がったらどうするんですか?」の質問に「ナンピン買いします」と答えると、また「変わった人ですね」と言われた。平均取得単価を下げる「ナンピン買い」は悪くない手法に思えます。一般的に「ナンピン買い」は忌避されますが、入門本を鵜呑みにしすぎです。

 これから株を始めようとする人は、この手の本は読まない方がいい。金儲けを目的に出版しているから、当たり障りのないことしか書かれていない。そこで学べることはないし、腕が上達することもない。
 ボクが初めて手にした本は、1995年に出版された日本経済新聞社の『デリバティブ~新しい金融の世界~』。同時期に日経新聞を5年間熟読して、2000年に株を始めた。

 分け隔ててるものは、投資をした・しないの行為の違いでしかない。

 20年近く投資をしているが、無価値になった銘柄は1つだけ。ナンピン買いを続けた結果、30000株になったが、紙くずに…。
劇的な復興物語を期待していたが、そうはならなかった。

 同じくナンピン買いをした「JT(2914)」の株は上がっています。ナンピン買いも悪くないんです。(9月19日時点)

 株探のインタビューで「INPEX(1605)」を推したが、それも順調に推移。(9月19日時点)

 普通に働いていても、給与が2倍になったりしませんが、株の世界では、かなりの確率で株価が2倍になります。

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