あさひがのぼるまえに。7

トボトボと歩く背中には、羽が生えているのかすら自分ではわからない。結局は自分なんて自分では何もわからないのかとため息を付きながら、今日も出勤している。みのりとは仲直りできたけど、それはそれ、これはこれだ。自分の中にある黒いもやもやは消える気配もないまま、今日も憂鬱に会社に向かう。

人生が八分目でいいとしたら、この世界は何処まで作り上げているのだろうか。この星で願い続けていたきらめく景色に飛び込むことができたのなら、孤独な世界でひとり願うことに時間を使うのに。誰かが選んだ世界ではなくて、自分で選んだ世界がいいんだ。自分で掴み取った世界がいいんだ。筆を走らせ、色ペンを替え、逃げるように隠れるように乗り込んだコックピットで自分の人生とともに脱出したいだけなんだ。呪縛を解いてくれるのなら、自分だけなのかと言わんとする。

「その顔は、みのりと仲直りしたな。」

「おお、おっしゃるとおりで、さすが一流営業マン四ノ宮さん。」

「なんだよその厭味ったらしい言い方。なんか腹立つんだけど。そういやさ、聞いてくれよ。この前言った大学生の女の子、無事お持ち帰り完了しちゃいました〜。いや、最高すぎたね。」

「朝から下品な話きかせんな。このグーテン野郎め。」

「あっはは、なんかお前最近辛気臭いから、ちょっとは慰めになるかなって思ったんだよ。とりあえず、みのりのことは解決したみたいだな。」

「みのりのこと「は?」。」

「そうだろ、だってお前、それ以外にも悩んでいることあるだろうに。ほら、どうせ今の会社から転職するかどうするかとかだろ。」

「まぁ、そりゃ相変わらず悩んでいるけど。」

「ほら、仕事しろ仕事ぉ〜〜〜!!!」

「げ、須崎先輩だ。逃げろ〜〜〜。」

「四ノ宮はまた逃げたか。どうだ石上。今週の商談資料はできているんだろうな。」

「はい、できています。3部ずつのコピーで良ければここに。」

「おお、珍しいじゃないか。石上にしては。何だお前、いいことでもあったんか、なんかの風の吹き回しか?」

「いや、別に。でも、。」

「でも?」

なんとなく自分で立つことの意味がわかった気がしている。昨日の城戸先輩の話もそうだし、みのりとの話しもそうだし、まずは置かれたところで咲いてこそ、自分で自立するってもんなんだと思う。心を入れ替えて頑張らないといけないなと、自分なりに噛み砕いて思っているのは確かだ。

だから君のポケットの未来を僕に、笑って渡してほしいから、言葉尻一つで勘違いしないでほしい。自分は自分で決められるし、自分でも予想もしない自分になれる気はしないけれど、予想通りの人生ぐらいは歩める気がしているんだ。

変に構えて撒いた種よりも、ホッとした時に落ちた種のほうがのびがいいというのは本当の話だろう。人生にもボロ雑巾のように砕け散った人生から、精神を飛ばして活気づいた人もいる。何があるかわからない人生だからこそ、何でもしなきゃいけないんだ。

踊り続けていれば先頭、自分で道は切り開いていくことなんざ、高校時代から培ってきた得意分野だ。なんだか自分でも何かしらの役に立てるんじゃないかと、不覚にも昨日少し思ってしまったんだ。喜びがもし倍になったって、悲しみは半分になったりはしないが、それでも何がしたいか、損得も忖度も死ぬ間際に抱きしめるような物以外はいらないと自分に言い聞かせて、前を進むと決めたんだ。

「いえ、なんでもないですけど、最近はちょっと調子いいかもしれないです。」

「おお、そいつは関心だな。そういうお前に朗報だぞ。これから3年間で最期の大仕事である、ブランディングコンサル業の新規営業に、明日から異動だ。よろしく。私の本は離れて、営業部の齋藤さんが面倒見てくれることになってる。今日にでも挨拶してこい。」

「え、え、え、え?異動?しかも明日?」

「3年ってスパンが決まっているんだ。組織編成は早く、フットワークは軽く行くらしいぞ。今よりもずっと厳しい戦いが待っているだろうが、ま、この長い人生で見ればほんの一部だ。一回全力掛けてみてもいいと思うんなら、やってみろ。」

「はい!明日から頑張ります!」

何度も期待して傷ついて、最後の夜を共にしていた。今夜も家を出なきゃいけないのだろうかと思うが、それは叶わないと思っていた。何度も泣いてもまた繰り返すだけだと思っていた。人生なんてそこそこで、自分なんて何処からも必要とされないと思ってた。だからこそ、だからこそ。

曖昧な言葉と態度でごまかしが効かない世界で、ただただ時間だけ過ぎるのがもったいないと思ったのはいつからだろうか。時計の針が憎らしく見えたころもある。とっくに世界が冷たいことは知っているが、君の手は暖かかった。もう騙されはしないと思いつつも、こういうときだけは信じてしまうのが人間というもので、期待をしてしまうのが人生というもので。

帰る場所があるということは、独りになる場所がないということではない。自分が夏だとしたら玄関は春だ。次の恋を待つぐらいなら、僕は芋ですら温めて時を待つことにするよ。

それでも、ふやけきったさつまいもは、徐々に腐敗していくのが運命なのだ。

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