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読書感想 人間尊重の心理学~わが人生と思想を語る~ カール・ロジャーズ

カール・ロジャーズ 著  畠瀬 直子 訳
人間尊重の心理学~わが人生と思想を語る~
発行 創元社

本書は、カウンセリング界の巨匠、カール・ロジャーズが学術論文とは違い、講演録などをもとに平易に書いた自身の気づき、思想、そして人生を まとめたものである。
カウンセラーであれば読んだであろう必読の書だと思う。
氏は、誠実な人柄で自分が自分に嘘を言っていないかということを後々まで振り返って反省するような人であった。
そして、さらには相手とのコミュニケーションについても自分は相手の気持ちを勝手に解釈したり、自分が理解したいように捻じ曲げたりしなかっ ただろうかと反省する。
つまり、相手の気持ちを本当に共感しただろうかということを追求していった。
のちに理論化されたいった、自己一致(純粋性)、無条件の肯定的関心、共感的理解ということも、カウンセリング理論というよりは、氏の誠実な人間性から出てきた、やむにやまれない、心の在りようではないかと思えてくる。
そして、そのような共感のある人間関係は、人を暗闇の中から救いだし、傷を癒し、成長させていくものであって、固い氷のような心を溶かしていく愛であるというふうに感じさせてくれる。
エンカウンターグループなどの具体的な紹介もあるので、「共感」の本当の力について納得させてくれる本であり、カウンセラーならずとも他者に 関わっていくときに勇気を与えてくれる本である。
さらには、氏は、自分に対する評価や名声などに人生を曲げられることを恐れていて、つねに自分との対話の中で行くべき方向に進んでいくので、 常に変化していったが、それは晩年まで続いていく。
しかも、他者を自分のコピーにしたくないと考えておられたので、自分の道を自分で歩いていった。
氏が生み出した技法や思想に共鳴する人がそれぞれに世界中でカウンセリングを進化させたのだが、それは氏の喜びではあったと思うが、その理由 は、自分の説が広まったという意味ではなくて、自分と他者の関わりが新しい有益なものを生み出していったということだったと思う。
私はストレスケア領域の未熟なカウンセラーであるが、氏のやわらかい、誠実な語り口に訳文ではあるが触れていくうちに、「問題は難しくなくて、人間の中の可能性を信じて引き出していけばよい」という原点に戻れるような気持ちになる。
氏の人間尊重主義には多くの人が影響を受けているが、私もその一人である。しかし、それはカウンセリングという枠にしばられたものではなく て、グループでのセッション、講演のあり方、社会の在り方、これからの人間像など、様々なテーマについてのヒントを与え続けてくれるのである。

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