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パフェを探していたら、別次元においしいホットケーキに出会った話

いちごのシーズンが終わろうとしていたある日、私はいちごパフェを探していた。

スーパーで売られているいちごは残念ながらもう求める味ではなくなってしまったが、いちごパフェに使われているいちごなら、まだまだ求める味のいちごが食べられるのでは?と思ったからだ。

多くのいちごパフェの写真が並ぶ中で、ひときわ目を引いた写真があった。真っ赤な大きないちごがゴロゴロ入っている。これぞ私が求めていたパフェだ!そう思い、口コミを見てみる。

「ホットケーキで有名なお店なのに、パフェがおいしすぎてホットケーキを食べ損ねました」

えっ、なんだって?ホットケーキ???

いちごと同じくらいホットケーキが好きな私である。ホットケーキが有名ならホットケーキが食べたい。いやいや、でもいちごシーズンも残りわずか。ここで逃したらまた1年待ちだ。

そんな葛藤を胸にお店のホームページを見てみる。銅板で焼き上げた昔懐かしい味のホットケーキと書いてある。鉄板ではなく銅板なのか。何か違うのだろうか?

しかもメイプルシロップもお店で手作りしていると書いてある。これは悩ましい。実は私は水と砂糖を煮詰めて作ったシロップが苦手である。はちみつは大丈夫だが、好きなのはメイプルシロップ。ホットケーキに関わらず、メイプルシロップと書いてあるだけで思わず食いついてしまう。そのメイプルシロップ。しかも手作り。

パフェをとるか、ホットケーキをとるか……。
うーん。これは悩ましいぞ。そう思い、メニューを色々と見ていたら、ランチ限定でミニパフェとミニホットケーキのセットがあるではないか。

な、なんと素敵なセットだ。
これだ。これを食べに行こう!
そうして楽しみに迎えたとある日の土曜日。朝食は抜きにして気合を入れて昼食に臨むことにする。

よくよく調べたところ、ちょっと前ではあるがテレビでも紹介されたことがあるお店のようだ。放送直後ではないものの、人気のあるお店だろうから並んだりするのだろうか?

どんなにおいしくても並んで待つのは嫌だな、とわがままな自分が出てくる。残念ながらお店は予約不可だ。やはりここで狙うは開店時間だ!と早めに家を出た。

店の前には並んで待つ人はいなかった。時計を見ると開店時間を数分過ぎている。店内を覗いてみると、すでにお客さんがいるのが見えた。

すぐに入れるだろうか。ドア前に整理券発行機があり、ただいまの待ち人数は0人と表示されている。よかった。待たずにすぐ入れそうだ。

とはいえ、整理券をとって外で呼ばれるのを待った方がいいのか?整理券発行機に手を伸ばしかけた時、お店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ。どうぞ」
店員さんが声をかけてくれた。店内から私の姿を見て出て来てくれたようだ。そのスマートな身のこなしがホテルでさっとドアを開けてもらった時のようで、どこかのホテルで働いていた方だろうか?などと思いながら店内に入る。

中にはすでに4組のお客さんがいた。二人掛け以上のテーブル席は満席だ。一人だったのが幸いした。まだ誰も座っていないカウンター席に座る。

カウンターには赤い布表紙の厚みのある本が置いてある。表紙には不思議の国のアリスに出てきそうな絵が。絵本のようなかわいさだがメニューだろう。

ミニパフェとミニホットケーキのランチセットと決めてはいるが、形ばかりにメニューをめくってみる。

最初のページはホットケーキだ。トッピングがつかないスタンダードなものから、あずきやフルーツ、アイスといったトッピングがついたものと、数種類のホットケーキが続く。

つづいてフルーツサンドイッチやアボカドのサンドイッチ、さらにはいちごパフェ、マンゴーパフェといったメニューが並ぶ。事前のリサーチからすると、契約農家からフルーツを仕入れているようで、フルーツを使ったパフェやサンドイッチもおいしそうだ。

ふむふむ、と見ているうちにドリンクメニューになり、最終ページになってしまった。

あれ?ランチセットを見逃したぞ。
もう一度、メニューを初めから見直してみる。下の方に小さく書いているといけないから、細かい文字まで念入りにチェックだ。

が、ない。おかしい。ランチセットだけ別メニューになっているのか?きょろきょろとカウンター周りを見まわしてみたが、他にメニューらしきものはない。ホワイトボードに本日のランチセットといった感じで書かれているとか?
店内を見まわしてみるが、そもそもホワイトボードがない。

うーん。これはしくじったぞ。これはきっとランチセットは平日限定とかだ。ホームページにも書いてあったのだろうが、おいしそうな写真に目を奪われすぎて見逃したのだ。

困ったぞ。どうしよう。

動揺を隠しつつ、もう一度メニューを見る。今度は真剣にだ。ホットケーキにするか、パフェにするか。両方を食べるには量が多そうだし、なんといっても結構な金額になる。

朝食をぬいてきたせいで、お腹が鳴った。パフェだけではとてもお腹は満たされないだろう。しかもホットケーキをウリにするお店だ。ここはやはりホットケーキにしよう。パフェが食べられない分を少しでも補おうと、フルーツとアイスがトッピングされたものを選んだ。

カフェオレと一緒に注文し、さて、どうしようと思う。ホットケーキが焼きあがるのに15~20分かかると書いてあった。

ホットケーキを焼く様子を見ながらのんびり待ちたかったが、キッチン内は見えない。座りながら背伸びしてみたが、やはり見えない。残念だ。

カウンターに目を戻すと、ホットケーキのおいしい食べ方が書いてある。

① バターは2枚それぞれに塗る。
ふむ、ふむ。これはいつも、そうしているな。

② 2枚を重ねてお好みサイスにカットして…
2枚一緒に食べるのか~。いつも1枚ずつで食べていたぞ。

③ シロップをたっぷりと廻しかけます。
うん、うん。そうね、そうね。

おいしい食べ方を学んだところで、先に入ったお客さんにホットケーキが運ばれてきた。お客さんの嬉しそうな顔。あぁ、たまらないな。私の分のホットケーキが待ち遠しい。

お腹がぐーぐー鳴っている。気を紛らわすために本を読みながら待つことにした。しばらくすると甘い香りが漂ってきた。お腹がすいたところにこの香り。たまらない。

まだ一組、私が来る前にいたお客さんにホットケーキが運ばれてきていないから、その方々の分だろうか?甘い香りが店内を充満していく。これ以上 待たされるのは拷問のようなおいしそうな香りだ。

一緒に私の分のホットケーキも焼きあがったりしないだろうか。キッチンからホットケーキが運ばれ、やはり私が来る前にいたお客さんのテーブルに置かれた。

私の分は?私の分は?

もはや本に集中できない。さっきから同じところを何度も読み直しているが、内容が頭に入ってこない。

頼む。私の分も~!!

そう強く願った甲斐があった。数分後、私にもホットケーキが運ばれてきた。

きた!きた!!きた~~~!!!

テンションがあがる。想像より随分と焼いた感じのホットケーキだ。おいしそうなホットケーキとして、柴犬の茶色よりちょっと濃いくらいの焼き加減を想像していたが、それよりずっと濃い茶色だ。焦げてはいないが、茶色というよりこげ茶色に近い。

ナイフとフォークを持つ。お店のおいしい食べ方には書いていなかったが、まずは何もつけずにホットケーキそのものを味見だ。

興奮を抑えつつナイフを入れる。瞬間、手が止まった。1回ナイフを入れただけで違いがわかる。これが銅板で焼いたということなのだろうか。ナイフからホットケーキ表面のカリ、サクっとした感じが伝わってくる。

興奮して思わず手が震えてしまう。一切れ、口に入れてみる。想像どおり、表面がサクサクだ。

やばい。これはおいしい。どうしよう。

一口のつもりだったが止められない。もう一口、何もつけずに食べてみる。あぁ、やはりおいしい。

表面のこのサクサクとした食感。反比例するかのような内側のふんわり感。ほのかに感じる甘み。何もつけていないのに十分に、いやむしろ普段 私が食べているホットケーキよりもはるかにおいしい。

これは悩ましい。
ホットケーキとバター・シロップに交互に目をやる。ホットケーキの数は2枚。もはやこのまま何もつけずに2枚食べてしまおうか。それとも1枚はバターやシロップをつけるか。

あぁ、なぜホットケーキをもう1枚追加して注文しなかったのか。後悔までも生まれるおいしさだ。

このサクサクとしたおいしさは他では食べられないだろう。だが、これほどホットケーキのみでおいしいにも関わらず、お店のお勧めはあえてバターとシロップをたっぷりつける食べ方だ。しかもシロップはお店手作りのメープルシロップ。

ここはやはりお店のお勧めに従おう。名残惜しいので、もう一口だけ何もつけずにホットケーキを食べた後、バターをたっぷり塗り、シロップをかける。

ほんのりとメープルの香りが漂ってきた。ホットケーキにナイフを入れる。サクサク感はもうない。やはりちょっと残念な気持ちになってしまう。

しっとりしたホットケーキ2枚にフォークをさし、口に入れる。

おいしい!なんだ、おいしいぞ!!

先ほどのサクサク感こそないものの、あれだけバターを塗ったのにしつこさを感じないし、シロップも甘すぎずさっぱりしている。

やばい。これは止まらない。
ゆっくりと楽しみたいが、とてもそんなに食べるのを待てない。手が勝手に次々とホットケーキを口に運んでいく。

食べるのが遅いと言われる私だが、こんなに早く食べることができたのかと自分でビックリしてしまうほど、パクパクと食べ進んでいく。

気づけばあっという間に食べ終わってしまっていた。

おいしい。これはおいしい。
もはや私の知るホットケーキとは似て非なるものである。何か別の名前を付けた方がいいのではないのだろうか?

せめて、一定基準を超えたホットケーキのみが名乗ることができる、プレミアムホットケーキとか、うーん、いい名称が思い浮かばないが、何か称号のようなものをつけた方がいいのではないか?それほどレベルが違うホットケーキだ。

誰もが平等に同じ味に焼けるのがホットケーキだと思ってきた。だからホットケーキは粉で決まる。そう思ってきた、

だが、違うのだ。
もちろん粉も重要なのだろうが、焼きも重要なのだ。さらにその粉と焼きにあったバターやシロップで、また味が全く違うものに変わる。

別次元のホットケーキはこうして生まれるのだ。

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