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おしゃれパフェに惨敗した話

数十年ぶりにパフェを食べに行った。

パフェといっても昭和レトロと懐かしがられる、子供の頃に食べたあのパフェではない。SNSをやらない私には全く無縁の、いわゆる映えパフェ。まるでアートのように美しくおしゃれなあのパフェに初挑戦したのである。

張り切って予約までした。
おしゃれパフェのお店だけあって、店内もおしゃれだし、お客さんも若い。明らかに私より二十歳は若いだろう。いつもなら、この時点でひるんで帰っていた。

だが、予約をしていているのに帰るわけにもいかないし、今日は珍しく化粧して精いっぱいのおしゃれまでしている。

ここはマダムになりきって、さぁ勇気を出して、いざ行かん!

かわいい笑顔の若い店員さんが感じよく店内へ案内してくれる。紅茶を飲みながらパフェを待つこと、十数分。

気配を感じたので、ふと顔をあげると先ほどの店員さんがこちらに近づいてきていた。が、その店員さんの顔が明らかにこわばっている。

え、なに?
この数分の間に、一体何が起きたの?

席に案内してくれたときはかわいい笑顔だった店員さんの顔は、いまや悪質クレーマーに食事を運んでいるのかと思うほどにこわばっている。 

え、何かミスをして店長に怒られたとか?
いや、知らぬ間に私が何かした?

動揺する私の視線を一心に受けたまま、店員さんが私のテーブルにパフェを置く。瞬間、明らかにほっとした顔をする店員さん。逆にこわばりが伝染する私。

脚が長いワイングラスに盛られたパフェが、テーブルの上でカタカタと音を立てて揺れている。謎は解けた。このパフェ、いつ倒れてもおかしくない。

ごゆっくり、と笑顔で去っていく店員さん。
あぁ待って、とすがりたい私。だが、今はおしゃれマダムのつもりである。ぐっとこらえ、動揺を悟られないよう、ありがとうと応える。

ひとまず、倒れないようにそっとパフェの脚をつかんだ。瞬間、悟る。

このパフェ、頭でっかちすぎる。
細くて長い脚に丸みを帯びた大きなガラスのボ
ディ。その中にはアイスやイチゴ、クリームだのがぎっしり詰まり、その重さが私の手にまで伝わってくる。手を離した瞬間にバタッと倒れそうだ。

緊張が走る。これは優雅にパフェを愛でている場合じゃないぞ。早いところ食べてグラスを軽くしなければ。

そう思い、スプーンでてっぺんのイチゴをすくおうとした瞬間、手が止まった。

あれ?パフェってこんなに手をあげて食べるものだっけ?

私の手は目線の高さにまで上がっている。
何か食べ方が違うのか?
さっと他のお客さんに目を走らせると、同じように手をあげ背伸びして食べている。

うん。そのようにして食べるものらしい。
とりあえずイチゴを口に運ぶ。

・・・・・味がしない。

つづいてアイスを口に運ぶ。ジャスミンアイスらしいが、やはり味がしない。

いつ倒れるか分からないパフェを前に、気が動転しすぎて味を感じられないのか?

落ち着け、私。
気持ちを静めようと水を飲む。だがその間も、手はしっかりとパフェの脚を掴んでいなければならない。
 
いや、こんな状況で落ち着けるか~!
 
ここから私の不満が一気に爆発する。
そもそもパフェって、こんなに緊張感を持って食べるものだっけ?大体、なんだ。こんなに背の高いパフェを出すなら、テーブルはローテーブルにすべきだろう。腕を高くあげすぎて、手がつるわ!

だが、そんな不満を口に出すわけにはもちろんいかない。誰も文句を言わず楽しそうに、おいしそうに食べているのだ。

残念ながら、これは私の未熟ゆえなのだろう。もはやマダムを気取る元気も萎えてしまった。

あぁ、おしゃれパフェなんて、しょせん私には高嶺の花だったのだ。

しょんぼりしながら、ピンク色のアイスに手を出してみた。

ぬぉ。おいしい!
なんだ、めちゃくちゃおいしいぞ。

しっかりとイチゴの甘い味と香りが感じられる。どうやら、しょんぼり落ち込んだ結果、緊張や怒りが一気に落ち着いて味を感じられるようになったようだ。

よし、よし。ここから巻き返しだ。

再びのマダム気取りである。
丸めた背中をピンとのばし、食べ進めていく。

うん。おいしい。おしゃれパフェ、見た目だけかと思っていたが、味もおいしい。昭和のパフェのような生クリームたっぷり、激甘感はないけれど、上品で幸せな味だ。

それゆえきっと、食べる者を選ぶのだろう。
帰り道、どっと疲れている自分がいた。

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