パスサッカーの確率論

フットボールには様々な戦略、戦術がありますが、いわゆる「パスサッカー」というものについて、抽象化して成功率を計算することで、その本質を考えてみます。

「パスサッカー」というと、ロングボールを蹴るのではなく、ショートパスを繋いでゴールを目指すというイメージですよね。
要するにゴールまでの手数を掛けても確率の高いプレーを選択していくということなので、ここでは抽象化するため、15回パスを繋いでシュートすることにします。

①上手いパスサッカーのモデル
まずは上手くいく例として、パス成功率を90%とします。
成功率90%のパスを15回繋いで、最後に成功率25%のシュートを打つと90%の15乗に25%を掛けるので、攻撃の成功率(=1回の攻撃でゴールが決まる確率)は5.1%になります。
ボールを持って支配できれば、相手の攻撃の時間もなくなるわけなので、20回くらい繰り返してるうちに点が入って勝てる計算です。

②下手なパスサッカーのモデル
次に失敗例です。
先程と同様に15回繋いで攻めますが、パス成功率80%とします。
80%というと結構高確率な感じがしますが、この場合の攻撃の成功率はわずか0.9%です。
つまり100回に1回決まるかどうかです。
ボールロストで相手にも攻撃の機会を多く与えてしまうので、かなり苦しい展開が予想されます。

③ロングボールでカウンターを狙うモデル
また、これに対し、ロングボールからカウンターを狙うというモデルも考えてみます。
成功率30%のロングボールから、同じく成功率30%のセンタリング、成功率25%のシュートに繋げた場合、トータルでは30%の2乗に25%を掛けることになるので、攻撃の成功率は2.25%になります。
40回くらいやったら1点は決まるだろうという計算です。
守備のブロックをしっかりと敷き、前に出てきた相手の背後を狙って素早くカウンターを狙えば、勝ち筋が見えてくるでしょう。


以上3つのモデルを考えてみましたが、いかがでしょうか。

単純化しているので、どこでどんな風にパスを繋ぐのかは全く無視していますが、フットボールはミスをするスポーツだと言われる中で、①の成功率90%というとほぼノーミスで「止める・蹴る」がプレーできるレベルではないかと思います。

成功率80%というと、それなりにミスは少なく、いい線いってるような気がしますが、パスサッカーを志向した場合、②ように成功とは言い難い結果になることが予測されます。

導かれる結論は、パスサッカーには飛び抜けたテクニックが必要だということです。
少なくとも単純なパスが度々乱れるというようなレベルでは到底実現てきないでしょうし、中途半端なレベルで志向しても失敗する可能性が高いと言えます。

これは、現実にも則しているでしょう。
伝説のヨハン・クライフを源流とするFCバルセロナ、それを継承して新次元を切り拓いたペップ・グアルディオラのマンチェスター・シティなど、ポゼッションを重視するスタイルを実現するには、圧倒的なテクニックが必要なことは言うまでもありません。

また、③のモデルのように割り切って少ない手数でカウンターを狙うのは、①のように上手くいった場合と比べれば劣りますが、②に比べればだいぶマシだと考えられます。

いや、ロングボールの成功率30%は高過ぎるという批判もあるでしょう。
実はここはあえて高めに設定していて、理由は相手がミスをする可能性もあるからです。

コントロールの乱れたショートパスはインターセプトの格好の餌食になりますが、雑なロングボールの処理は場合によっては難しいものです。
プレッシャーを掛けてクリアミスをしたところをかっさらって抜け出したり、FKやCKを獲得したりすればもちろんチャンスですし、相手陣深くでのマイボールのスローインなどそれなりにチャンスに繋げやすい状況を獲得できる可能性も充分にあります。
これらを考慮すれば30%くらいは見込めるのではないかと思います。
厳密にはどういう場合が何%か計算していかないといけませんが、今回は抽象的な議論ということで、複雑化はしないことにします。


フットボールの歴史をたどれば、FAが誕生して間もない頃からイングランドのロングパス戦法(=キック・アンド・ラッシュ)とスコットランドのショートパス戦法(=パス・アンド・ムーヴ)という2大派閥が存在していたといいます。
そこから互いに革新を繰り返し、現在はストーミングとポジショナルプレーが最先端の概念になっていますが、根底にあるのは繋ぐべきか蹴るべきかという議論で、おそらくこれはフットボール永遠のテーマでしょう。

ボールを保持して攻撃を展開するスタイルは、魅力的ではありますが、止める・蹴る・運ぶを正確に行う高い技術が必要となります。
逆に手数を掛けずに相手ゴール前にボールを運び、押し込んでいくスタイルは、走力を含めたフィジカルの強さが必要です。

戦略を立てる際には、自分たちはどんなやり方をすれば相手に対して優位になるのかを考えなければなりません。
自己分析と戦略が甘いと②の例のように失敗します。

では、①のようにパス成功率が90%以上なければ、③のロングボールを蹴り続けるしかないのかと言うと、そうではありません。
実際には、ロングボールを見せておけば相手DFラインが下がり、中盤にスペースが空いてショートパスの成功率が上がると考えられます。
また、逆にショートパスを繋ぐと見せておいて、前に出てきた相手の背後を狙うことで、ロングボールの成功率も上がるでしょう。

ペップのマンCもエデルソンのロングフィードから突破を狙ったり、ショートカウンターを繰り出したりするわけで、場合によって様々なやり方を使い分けるのがフットボールです。
強いチームはその引き出しが多いですよね。

結局は相手を見ながら判断していくということになるのですが、その判断の過程で、ゴールを奪うまでの成功率をいかに高めるかを考えることが重要です。
いわゆる、ゴールから逆算して考えろと言うやつです。
ただし、実際のプレー中には、このシミュレーションのように確率を計算している暇はありません。
自分たちのチームの強み弱みを分析し、どうやったらゴールを奪えるか、事前にシミュレーションして戦略を立てておくことが、その判断を正しい方向へ導く鍵になるでしょう。

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