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ヤギさん郵便No.51「生きていく術」

最後のイチゴを食べたくても妹が食べたいと駄々をこねれば「お姉ちゃんなんだから妹にあげなさい」と言われる。そうやってお姉ちゃんなんだからと言われ続けると、自己主張しても自分の意見って通らないんだ。お姉ちゃん役を引き受けて我慢していた方が、この環境には抵抗が少ない事を学ぶ。そして嫌々お姉ちゃん役を引き受ける。


母が付き合っていた彼氏は自分勝手な人だった。自分がイライラしていると弱い者に牙をむける。牙をむけられる度に成す術もなく傷口が増えていく。何度やられても痛いものは痛い。

その傷から学んだ。目立たないように息を殺すこと。それが当時の生きていく術となった。


母の彼氏が目の前からいなくなっても、その生きていく術は残った。


母の元彼に似ている、自分勝手な人の前に立つと、頭が真っ白になってオロオロしてしまう。そのオロオロしている姿を見ているとムカつくんだろう。よくとばっちりを受けていた。
母の元彼がいなかったらこんな事にならなかった。母の元彼に呪いをかけられた気分だった。


その呪いをかけた母の元彼を恨んだし、呪いにかかっても抗えない自分にいつも嫌悪していた。


今も昔ほどじゃないけど、母の元彼に似ている人に会うと怖い。反射的に逃げたくなる。


生きていく術を身に付けた。
息を殺して自分を殺して生きていく術を身につけた。もしかしたら、その生きていく術は間違っていたのかもしれない。でも、怠けていたり、楽をしていたんじゃない。その術を握りしめて必死に生きてきた。


今までは、その術を頼りに生きていたのに、必要じゃなくなった途端に邪魔者扱いをしている。それはあまりにも可愛そう。

母の彼氏と一緒に暮らしていた頃の私が目の前にいたら、ハーゲンダッツをたらふく食べさせてあげる。たまごっちなんて要らないと言われても、何台も買ってあげる。そして、母の彼氏にとばっちりを受けていたら、わたしが盾になってあげる。痛い思いをしたら私があいつに噛みついてやる。


ごめんね。今まで邪魔者扱いをしちゃって。
小さい体で必死に生きてきたんだよね。


ありがとうね。


でもね、今の私には子どもの頃に身に付けた生きる術は必要じゃないの。


怖い世界にはもう住んでいないんだよ。気付いてる??


だから、その生きる術はもうバイバイしても大丈夫だよ。今までありがとう。



これからも、よろしくね。








マガジン「ヤギさん郵便」をはじめました。エッセイのような手紙のような交換日記です。Yayoiさんの文章はこちらから読めます。⇩⇩⇩







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