これからもずっと…


ŹOOĻ・亥清悠の夢小説です。
ヒロインは小鳥遊紡ではありません。

「また一緒に歌おうね!」
太陽のような笑顔でそう言っていたあの子は、今、どこでなにをしているんだろう…。

学校の帰り道、いつものように駅へ向かっていたら突然大きなモニターの映像が切り替わった。なんだなんだと野次馬が騒ぎ始めてあっという間に人だかりができていた。かくいう私もその一人であり、モニターを見上げた。そして、ステージに現れたのはーー

「…え」

突然現れた4人組。皆それぞれ黒をベースにしたような衣装を着て圧巻のパフォーマンスをしながら心にズシンとくるような歌を歌っている。その一人に見覚えがあった。

「…はる、くん?」

私は彼らの一人から目が離せなかった…。

あの日、鮮烈なデビューを飾った彼ら・ŹOOĻは瞬く間に世間を彩った。LIVEにテレビ、ラジオ、他の番組も…もはや彼らを見ない時はないように思えた。画面の向こうで歌って踊る彼らを見ながら、思う。
「…やっぱりはるくんだ。間違いない」
髪型や雰囲気は変わったものの、その色と目や顔が証明している。
「はるくん、日本に戻ってきてたんだ」
私は画面から目線を下げて、甦る記憶を頼りに時を遡った…。

あれは小学生の頃、近所の教会で聖歌隊をしていた時のことだ。そこで、はるくんこと、亥清悠くんと出会った。みんなで声を合わせて歌う。そのことがとても楽しくて、私は夢中だった。聖歌隊のメンバーの中でも亥清悠くんこと、はるくんはとても歌が上手くて飛び抜けていたと思う。けど、それを鼻にかけることはなくてみんなの人気者だった。女子の中には密かに憧れていた子もいたんじゃないかな。…実は、私もその一人だけど。

そんなはるくんだけど、決まって誰よりも早く帰るから気になって理由を尋ねてみたんだ。
「ばあちゃんが待ってるんだ!」
なんていい子だろう!とてもおばあちゃん想いなんだと私は感心した。そのことを伝えたら、はにかんで笑ってくれた。けど、一瞬、ほんの一瞬だけなんとなく寂しそうな顔をした気がしたんだ。なんでだろう?あの時は、分からなかった。

「けど、今なら分かるかもしれない…はるくん、おばあちゃんと二人で暮らしてたんだね」
学校の帰りに買ったŹOOĻが載っている雑誌を読んだら、確実ではないけれど、それとなくそうと分かるインタビュー記事があって分かったんだ。その雑誌をたぐりよせる。
「はるくん…寂しかったのかな?」
画面の向こうでは、はるくんが圧巻のパフォーマンスをしている。目つきも、衣装も挑戦的な印象のはるくん。あの頃とは、違う。

ーー変わってしまったの?

ちょうどテレビでは、歌い終えたはるくんたちが煽るような仕草をしていた。心がチクリと、ズキンとした気がした。

それから、しばらく経ってなにやらŹOOĻの印象が少しずつ変わってきたと噂になっていた頃、私は驚く出来事に出会った。学校帰りになんとなく本屋さんやCDショップに巡るものの、特になにかを買うことなく後にしていた。…ŹOOĻの商品を見かけては、直視するのが辛くて目を逸らしたっけ。だって、はるくん…変わってしまったから。変わるのは、自由だけど、あの頃を知ってる私としては…辛かったんだ。

そのまま歩いていたら、懐かしい場所を通った。
「ここ、あの教会だ…」
見上げると、変わらないその姿にあの頃が思い出される…はるくんは、きっと私も変わってしまったのに。
「なんで、こんなに思い出すようなことばかり続くかなぁ…」
ーー思い出したくないのに。視界がゆがんで、鼻の奥がツンとして思わず教会から背を向けた。すると、少し離れたところから知っている声が聞こえた。

「ばあちゃん、大丈夫?家、もうすぐだから」
「ふふ、ありがとう、はるちゃん。大丈夫よ」
「なら、いいけど…無理しないでいいから。俺、これも持つからさ」
「優しいねぇ、はるちゃん。おばあちゃん幸せだよ」
「…へへッ!うん、おばあちゃんの孫だからね!それに一緒に夕飯食べられるの久しぶりだから、楽しみなんだ!」
「あらまぁ、腕によりをかけなくちゃね」
「おばあちゃんのご飯おいしいからそのままでいいって!」

聞こえてきたその会話は、はるくんとおそらくおばあちゃんだった。優しそうなおばあちゃんと屈託なく笑うはるくん…私は釘付けになっていた。頬を涙が伝い落ちた。堪えきれなかったのだ。
「なん、だ…はるくん…ちっとも、変わってない、じゃない…ッ」
あんな優しい姿を見てそう思わずにはいられない。ŹOOĻのはるくんがいて、おばあちゃんの孫のはるくんがいる…ただ、それだけのことで。
「…はるくん、本当におばあちゃんが大好きなんだね」
あの頃、はるくんが寂しそうに見えたのも嘘ではなかったのかもしれない。けれども、大好きなおばあちゃんのことを言われて嬉しかったのも間違いない。涙も気持ちも落ち着いてきて、私は深呼吸をした。
「時間あるし、もう一度寄ろう」
歩いてきた道を引き返して向かうのは、本屋さんとCDショップ。大人気のŹOOĻはお店の中でも目立っている。さっきは目を逸らしちゃったけど、見つけやすくて嬉しい!私、単純だな(笑)。だって仕方ない。
「本当はずっと気になってた…ŹOOĻのファンだったんだ!そして、はるくんのファンだよ…とっくの前からね!」
その日、私は奮発して写真集とCDを購入した。本当はずっとほしかったものだった。ーー私がはるくんを想う気持ちも変わっていなかった。

何度目かのŹOOĻのLIVE当日。かっこよく歌って踊ってポーズを決める彼らに周りに負けないくらい私も声援を送っていた。
「はるくーーーん!!!」
何度も呼んでいた。そしたら、はるくんがバンッ!とファンサしてくれた!と思う…いや、絶対にそう!!嬉しい!もう最高!!!その日もLIVEは大盛況のうちに幕を閉じた…名残惜しい気持ちを胸にもう一度ステージを振り返る。

はるくんへ
髪型も目つきもあの頃とは違うけれど、本当はおばあちゃんが大好きで、太陽みたいな笑顔で優しくて、素敵な仲間たちがいるはるくんをずっと応援しています。

END

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