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⑭ ルッコラ

ルッコラ

         Ⅰ

日を浴びてあおあおと
野放図に葉をひろげている
         誰も植えず誰も水やりしない
なのに虫にも食われない

人間さまには  見向きもされず
たまに見つかると 引っこ抜かれる
それでいて 生でもゆでてもおいしい
元気をくれる優秀な菜にもなる

地を這い ロゼットを広げ
雪の季節にも緑のままで冬を越し
春になると耕されて また肥料になる
そしてなにもいわない
路傍と田の畔の 葉陰に生えている

わたしは
いつのまにか 
じぶんの人生に重ねている
路傍をゆくことの多い
永く 転々とする人生を
道草を食い とおまわりをしてきて
もう はんぶんは過ぎた人生を

みちばたで
せいいっぱいに陽をあびて
ひろげている ちいさな葉っぱと
 もっとちいさな 誰も見ない花

       Ⅱ

犬と山へ向かうまひる
茶色のしみのある緑のルッコラは
ドレスをひろげた
ちいさな女の人にみえる

私は 
変身せよ と 呪文をかける
白いシャツと黒いズボンの 
自転車に乗った中学生たちが
話しながら通る

ベルの中に
女のひとが飛び移っていった
それは 秒以下の はやわざなので
だれもきづいていないはずだ

犬の鼻づらの 湿ったさきに
化身は 乗って 運ばれていったから

もとより それでよいのさ と
犬は ロールパンみたいなしっぽを
お尻のうえで くるくる回すと
まひるの星にむかって 号令をかける

いや 

はた目にはただ むやみに吠えているだけさ

すると 

子午線を境に うえとしたとで 
反対まわりに 地球がまわりだす

海の波が
大地が
恋人たちが
壁もないところでまっぷたつにわかれ
それを見ていた 上海のお針子が
あわててひっぱっては 縫い止めを
ナッツロールの形につくって
留めつけたから

それで落っこちずに
ポケットのなかのパンが
昼寝ちゅうの  
おまえをはさんでいる
サンドイッチ
犬とともに山で食べる
トマト 
それからボローニャソーセージは
お気にいり

愛情あふれる みどりのゆびで
花を咲かせようと
小太りなこぶとりの じいさんをスパイにやって
ト音記号をペンで まっ白い紙に
ひと筆がきで かりかりと書いていく

みんな 触ってはいけない テキストになって
おお それは
赤とピンクと紫の
アイスクリームのはいった 袋から取り出される

アンとマシューが現れて
じゃがいもを運ぶようにいいつけるが
じゃがいもの芽は みな出てしまっている

ルッコラは ぎざぎざの葉が 立ち上がったのと
丸い葉のロゼットで 匍匐するのとある

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