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強固なフレームに必須の柔術家が一番鍛えるべき筋肉(柔術家の為のコンディショニングノート④)

ずっとコレは書かないといけないなって思っていて、ずっと書けてなかったことに、

「大胸筋って柔術にいらんやろ?」

・・・んじゃなくて、プッシュについてがあるのだけど、ブラジリアン柔術って引く動作が大事のようなイメージがあるが、

「押すのも大事でしょ!?でも、大胸筋じゃない!」

みたいなね

この押すは上半身の押すであり、ベンチプレスや腕立て伏せみたいなことで、柔術家の中には押す力がめっぽう強くて

「ベンチプレス〇〇kg挙げれます」

って人もいて〇〇が凄すぎて、逆にそんなには押す力いらんやろって・・・私自身、ベンチプレスに凝った時期もあったが、いまでは不要とまでは言わないまでも、優先順位の低い運動になり果ててしまった。

ベンチプレスの良し悪しは後述するとして、ベンチプレスが強いからと言って、柔術の中での押す動作が強くなるわけではない。もっと違う形でのプッシュが重要になる。

女性柔術家の場合

(ベンチプレスも腕立て伏せもやらんし・・・ましてや大胸筋なんて)

という人が大半だろうが、ここで述べるプッシュは男性に比べて上肢の押す力が弱い女性にこそ必須能力であるから、そのまま読んでいただきたい。

とにかく、押せるヤツは強い。

という前提で、

  • 押すとはどういう動きか?

  • 押せないと何が悪いのか?

  • どんなトレーニングが良いか?

などなど、柔術に関する押す = プッシュ

  1. 力学

  2. 解剖学

  3. 技術

この三つの視点で述べたい。

正しく押せるようになる、または無駄に押さなくなることで、ガードで相手を押すようなシーンだけでなく、パスや立技の強化もできる。



結論

何ゆえ上半身のプッシュが大事なのかという結論だが、

上半身のプッシュが正確に力強くできるということは、肩甲骨と胸郭の安定性が十分にあるということであり、それ即ち、力強い引く動作(プルやロウ)やパワフルな下半身の動作ができることに繋がります。

肩甲骨と胸郭

(肩甲骨、胸郭の安定ってなんのこっちゃ…?)

って人もおられるだろうが、とりあえずは、

『引く動作や下半身の動作の土台となるのが上半身のプッシュ』

ということであり、細かくは読んでいくうちにわかるはずだ。逆に 肩甲胸郭帯(肩まわり)が不安定ならば、つられて体幹部も不安定となり立技やパスのベースも弱くなってしまう。


ベンチプレスの何がダメなのか?

さっそくディスるが、ベンチプレスの悪いところを全てあげると多いので、

問「柔術競技の中で、ベンチプレスで鍛えた筋力が一番特異的に発揮されるのはどこか?」

この答えが力学的にわかるならば、この巻は読まなくても無問題

回答例
・マウントを取られて、下から相手を上に押す
・サイドを取られて相手を上に押す
・インバーティドで相手の腰を押す

こんな感じ

イメージ通り?どれも技術的には、極め技を狙われるので非推奨

一番特異的と書いたのは、ベンチプレスで培った大胸筋や上腕三頭筋の筋力が全く役に立たないわけではなく、運動の選択として不効率だから

また、競技動作にベンチプレスのフォームが似ているから役立つというナンセンスな理屈もない。

では、解説

ベンチプレスはベンチ台に背中をつけて行う。通常、足は床についている。つまり、床やベンチ台が土台となる。

200kgあげたるで!

この時のプッシュ動作は、床やベンチからの反力をもらうことで強く押せる。

よって上記のような、体が仰向けで床反力をもらえる状態でのプッシュパフォーマンスが一番向上することになる。


柔術で多い押す動作は?

しかしながら、柔術で背中を床にべったり着いて相手を押すことなんて、競技動作のほんの一部でしかない。

Ex.
立技で相手を押す
ガードリテンションで相手を押す
ハーフガードで相手を押す
脇を差す

etc…

圧倒的に多いのは、床反力を使わず、背中(肩甲骨)の後ろに何もない状態でのプッシュ

どういうことか?

ベンチプレスは、ベンチや床が土台になって力を発揮できるが、立技(立位)やガードリテンション(半身)、ハーフガード(半身)だと背中の後ろに土台は無い。

肩が土台でプッシュ

このような状態で強いプッシュをするには、肩甲骨が正しく動いて腕の土台になる必要がある。

ガードの場合、肘を伸ばさず上腕の骨(フレーム)で相手を止めるような技術もあるが、こちらも同様に安定した肩が必要不可欠

特に女性の場合、相手に抑えられたまたはパスされそうなシーンにおいて、上手くフレームで止めて距離を確保する方が、あまり強くない上肢でプッシュするより効率的になる。

ベンチプレスがいくら強くても、床反力がある状態のプッシュしかできないならば、競技パフォーマンスにはあまり役立たないかもしれない。


肩を安定させる筋肉

では、どうすれば肩が腕の土台になるのか?

一般的に肩といえば、肩こりで揉む僧帽筋やメロン肩(もう聞かなくったけど)の三角筋など、肩周りの筋肉をイメージされるだろうが

肩関節

安定性を考える場合、まずは関節

  • 胸鎖関節

  • 肩鎖関節

  • 肩甲上腕関節

  • 肩甲胸郭関節

これらが肩関節(覚えなくてもいい)

前鋸筋

この中でも、肩甲胸郭関節(肩甲骨と肋をつなぐ)に関係する前鋸筋は肩甲骨のポジショニングにおいて重要な筋肉である。

脇腹

MMAファイターやボクサーの計量時に脇の下あたりに浮き出るギザギザ(肋ではない)の筋肉

余談・・・試合経験が浅いと会場で

(うわぁ〜相手・・・超マッチョやん・・・)

みたいに筋肉スカウターしがちだが、柔術で大事なのはまず骨格、次いで筋肉

首の太さ、前鋸筋、体幹部の太さ、デカいケツがあると戦闘能力高め。軽量級においてはあまり関係なく骨格だけ見とけばいいかな・・・(以上、余談でした)

前鋸筋は肩甲骨の内側と肋骨をつなぐ筋肉です。肩甲骨を外転、上方回旋、下方回旋させる作用に加えて、肋を引き上げて呼吸の補助であったり、肩甲骨を胸郭上に安定させる働きがあります。

前鋸筋の作用

肋の上の方にある上部繊維と肋の下の方にある下部繊維で機能が異なり、一般的には上部繊維は硬くなりがちで、下部繊維は上手く使えてないことが多い。

肩が土台になるプッシュを強化するには、前鋸筋が刺激される運動を推奨

暑いからではないし、いいオッサンの筋肉アピールでもない。肩甲骨の動きをわかりやすくする為の上裸なので、肩周りを重点的に見てほしい。

①Scapula Pushにおいて、肩甲骨を外転させている。前鋸筋は唯一の肩甲骨外転筋なので、この運動は基本、難しい人は

  • 足を床に置く(リグレッション1)

  • 膝をついて四つ這い(リグレッション2)

あたりからはじめて欲しい。歩く↓のはScapula Pushがちゃんとできたからで良い。

②Elbow Walkでは一歩一歩、床をしっかり押すことで前鋸筋を働かせて肩甲骨の外転をキープ

③Scapula Pressは肩甲骨の上方回旋となり、前鋸筋の下部繊維(脇腹のギザギザ)と僧帽筋が働く

他にも優秀な前鋸筋エクササイズはあるが、柔術の練習前後、または家で取り組めるので推奨、一般的なトレーニングジムでやるのはスタッフが飛んでくるから非推奨、上裸はもっとダメ

一般的なウェイトトレーニング種目では、

  • プッシュアップ

  • フロントプレス

  • ダンベルプレス(片手)

  • ダンベルショルダープレス

  • ランドマインプレス

これらの前鋸筋や僧帽筋を刺激できる運動を推奨

ベンチプレスを5セットやるよりも、ベンチプレスを1〜2セットに減らして、他の運動を組み合わせることをおすすめする。


不安定な肩とは?

すでに肩を怪我してるというのは別として、安定してない肩の一例に翼状肩甲(ウィンギング)というのがある。

肩甲骨の外転は、前鋸筋の収縮により、肋を土台に肩甲骨が動きますが、上の動画のような姿勢やプッシュアップのような手を床についたうつ伏せでは肩甲骨に対し肋が動きます。

前鋸筋のリバースアクション

つまり何かをプッシュしたり、手や肘を床についた時に肩甲骨が肋から離れないように前鋸筋がブレーキをかけるわけだが、

前鋸筋の機能が低下 → 肩甲骨が浮く

これがウィンギング、天使の羽なんて良いもんじゃない(女性は多分わかる)

病的なものは前鋸筋に働く長胸神経の損傷で起こるが、単純な筋力低下でも肩甲骨が浮くことはある。

立甲(エヴァンゲリオンみたいなやつ)

何年か前に、肋から肩甲骨を浮かす立甲というのが一時流行り廃れたが、あれの良し悪しはともかく、手や肘を床についたり、何かをプッシュした時になんでもかんでも肩甲骨が浮いてしまう人は要注意

力強いプッシュができないだけでなく、肩を怪我するリスクも高くなる。

ゆえに、以前紹介したHand WalkやElbow Walk、Push Upなどのような、
手や肘を床につく運動において、肩甲骨が浮いてないかを、動画を撮ったりパートナーに確認してもらうことが望ましい。


肩の不安定性と運動パフォーマンス

反力なしでもプッシュできる人が、ベンチプレスを一つのオプションとしてトレーニングするのは有り。

Ex. 高重量を扱う種目として筋力向上の目的で行う

しかしながら・・・

「筋トレといえばベンチプレス、BIG3にあるからベンチプレス、とりあえずビールみたいなノリでトレーニング種目を決めるのは、そろそろ無くなっていい時代ですわ。」

そして、ベンチプレスに偏りすぎると前鋸筋が働きにくくなることもある(後述)

さて・・・柔術は腰や首、膝が怪我の頻発部位だが、昔の私は肩をよく怪我していた。

組み技は手で掴んでナンボで肩への負担も大きい。立技やハーフガードのような密着の攻防では、肩の可動性、安定性だけでなく、胸椎の可動性が不足していると肩を痛める。

前々巻に書いたように、例えばスクワットのような脚で地面をプッシュするパフォーマンスを実施するとき、安定した足場とグラグラした不安定な足場では、安定した足場の方がパワフルにプッシュできる。

コイツを思い出してほしい

同様に、自身の体の安定も大事で、足や膝、股関節はもちろんのこと、体幹部や胸郭肩甲帯、頭部のどれかが不安定だと脚は力強く押せなくなる。

いきなり肩を怪我するのは無理なので・・・試しにその場で頭を横に傾けてスクワットしてみてほしい。おそらく脚のプッシュが弱々しく感じたと思う。

肩関節が不安定になるだけで、パスやタックルみたいな肩に関係なさそうな運動のパフォーマンスもガタ落ちする。

例えば、前鋸筋は外腹斜筋を介して体幹部と繋がっている。外腹斜筋は呼吸時に肋を閉める役割がある。前鋸筋が弱いと外腹斜筋も弱くなり、肋がパカっと開くことで体幹部の安定性も弱くなる

肩が弱い → ベースも弱い

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