技の質が上がる、一番簡単な方法(柔術家の為のコンディショニングノート③)
「自分の体もまともに動かせないヤツが、他人の体を動かせるわけがない」
これは、私が若い頃に聞いた言葉です。
例えば、ブラジリアン柔術でいうソロドリルのような動きがちゃんとできないと、相手を投げたり、スイープしたりなんて難しい・・・みたいな?
なので
「まずは自分の体を操れるようになろう!」
果たして、これは正解なのでしょうか?
「否」ってほどのNoではないですが、少なくとも100%のYesではありません。
この記事では、自分の体を操るということについて解説します。ソロドリルの有効性、自体重を利用したトレーニングのメリット&デメリット、ウェイトトレーニングとの関係etc…
柔術を練習するにしても、フィジカルトレーニングをするにしても、よく誤解されている情報をスッキリさせることで、効率的な練習を行えるようになるはずです。
序論
まず白状しますと、私は上の事柄が正しいと思ってました。かなり長く・・・
しかし、だいぶ年齢も経験も知識も増えた私の答えとしては
力学的には間違っている
感覚レベルでは正解の可能性がある
というものであり、どちらにせよ必ず正しいとは言えないものです。
①力学的にっていうのは、少し頭良いアピールの為に使っただけで、間違っている理由は小学生でも理解できる簡単なものです。
②感覚レベルと書くと、曖昧な雰囲気になりそうですが、何も私の経験からくるバイアスフルな感覚ではなく、運動学に基づく感覚(視覚、前庭覚、体性感覚)によるもので、ちゃんと理由があります。
結論(自分の体を操るとは?)
ソロドリルや自分の体重を利用したトレーニングでは自分の体を上手くコントロールするスキルを磨きます。
ソロドリルの動きが上達することで、柔術競技の動きにも転化されて競技力の向上が見込まれます。
Ex. エビ、ブリッジ、ジャカレ
自重トレーニングはバイオメカニクス的に正しい動きにより筋肉に負荷をかけることで筋機能の向上を目指します。
Ex. 腕立て伏せ、懸垂
何より、これらの運動は自分の体一つと少しのスペース(床、壁)があれば実施可能なので、やる気さえあればいつでもできる簡単な練習(補強)です。
では、自分の体を上手くコントロールするとは何でしょうか?
答えは
『重力下での重心の制御』
となります。
重力下での移動
いくつか例を出します。
スクワットでは移動の方向は上下です。下方向にかかる重力を上回る力を発揮して立ち上がります。脚で床をプッシュすることで反力が得られます。
しかし、バランスを崩さないように上下に移動するには、自分の重心を支持基底面上におさまるようにコントロールしないといけません。その為に、お尻を引いたり、膝を前に出したり、腕をリーチしたりします。
支持基底面内で重心を制御する動作戦略はStabilization Strategyと言います。
この戦略は
支持基底面の広さ
重さ
重心の低さ
この3つが要素になるので
こんな感じの人が安定します。
柔術で言うならば、軽量級より重量級、二足より四つばいやニーリングの方が重心の制御に優れます。
ランニングのように体が前後左右にも動く場合、重心が支持基底面の外に移動します。タイミングよく新しい指示基底面をつくる(右足)ことで重心を制御します。
こちらはMomentum Strategyというものです。
柔術のように複雑な動きが連続する場合は、二つの動作戦略が重なっていることもあります。
支持基底面に関しては上の記事を参考にしてください。
合成重心の制御
柔術のソロドリル、自体重を用いたトレーニングともに重力下でいかに自分の重心をコントロールするかがポイントです。
では・・・
これはどうでしょうか?
この二つは同じ運動なのでしょうか?
これは完全にNoです。
もちろんスクワットという動作名は同じですが、重心の制御は異なっています。
ウェイト(外部負荷)を持つと、自分の重心に加えてウェイトの重心(二つの合成重心)も支持基底面におさまるように動く必要があります。
つまり、ウェイトがあるのと無いのとでは、そもそものしゃがみ方が変化します。
もちろん同じウェイトを持つにしても、どのような負荷(ex.バーベル、ダンベル、ケトルetc)を持つのか?どこに持つのか(ex.バック、フロント、体側、片側のみetc)によってとるべきフォームが変わります。
トレーニング経験者の中には、いつもスクワットで高重量を扱っているのに、アップで自重スクワットをやると上手くしゃがめなかった経験をしたことがある人もいるかもしれません。
これは当然で、二つの動きは別物なので自重の制御が下手なのです。※
よくある誤解としては、自重でのトレーニング種目の延長線上にウェイトを利用したトレーニングがあるというもので
自重での運動と荷重での運動は別の運動制御として学習されることを押さえてください。
これにより、自重と荷重、それぞれのトレーニングのアップサイド&ダウンサイドを考えて実施する必要があります。
※関節の可動性が足りていないとか、神経が活性化してないなど他の要因もあります。アップですから
自分の体を思い通りに操ることができれば、相手も操れる?
では、冒頭の
「自分の体もまともに動かせないヤツが、他人の体を動かせるわけがない」
といういのはどうでしょうか?
柔術に限らず組技には
自分が動く
相手を動かす
リフト etc・・・
みたいに様々な動きが混在します。
ということになり、少なくとも
自分の体を思い通りに動かす
相手の体を動かす
自分と相手の体を動かす
といった力学的には異なった運動制御を練習しなくてはなりません。
なので、ソロドリルを頑張ったからといって、相手もコントロールできるわけではないのです。別の運動ととらえて、それぞれ練習することをおすすめします。
次は運動感覚の視点からソロドリルの有効性を説明します。
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