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スパゲッティ・ダ・ステファノ

海の幸のスパゲッティ・ステファノ風。(Spaghetti da Stefano)

 その昔、フィレンツェの郊外にダ・ステファノ(Da Stefano)というとても美味しいシーフード専門レストランがあった。
 トスカーナ州には海岸線もあり、沿岸の町例えばピサやリヴォルノではもちろんシーフードは食べられるのだけれども、フィレンツェは海岸線から100kmほど内陸部のため、シーフード専門のレストランは少ない。しかも観光都市であるフィレンツェはご存知Tボーンステーキなどご当地メニューとして肉料理を売りにしているから、観光客も当然それを目当てにレストランに行く。加えてイタリア人は食に対して保守的な人が多い。郷土料理以外は受け付けない人が多く、フィレンツェでは驚くことに生まれてこのかた一度も魚を食べたことがない、なんていう人もいる!
 というわけで当時フィレンツェ郊外の丘陵地帯に住んでいた僕にとって魚料理を食べに行くという選択肢は壊滅的な状況だった。

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 そんな時、突然本格的な魚料理のレストランがフィレンツェ郊外に出現した。衝撃的だった。そのダ・ステファノと呼ばれるレストランで出す料理は、海沿いの町で出される魚料理と同じくらい新鮮で、アイデアに溢れ、ゴージャスでパワフルだった。当然瞬く間に人気店になった。ある日注文を取るためにテーブルに来たオーナーのステファノに、すごいね、予約取るのが難しくなっちゃったよ、と言うと『俺はついにフィレンツェを征服したぜ。』と僕にウインクして見せた。

 残念なことにこのレストランはもう存在しない。ある日パッタリと店を閉めてしまった。理由はここでは書かないけど、僕の記憶に残る本当に美味しい数少ないレストランの一つだった。

ここでは今はなきDa Stefanoに行くと必ず注文していたSpaghetti da Stefano(ステファノのスパゲッティ)を再現してみようと思います。

 全体


材料: 4人前スパゲッティ 320g(お好みで増減してください。)
オマール海老 一匹
海老(タイガーなど) 8尾(有頭の方が出汁が出ます。)
イカ 一杯
アサリ約400g
ムール貝約400g
トマト缶半分
ニンニク一片
フレッシュなローリエ 2枚
バター80g
オリーブオイル大さじ2
イタリアンパセリ適宜


材料について。
 基本的にはトマトベースの海産物のパスタなので、入れる具材は自由にアレンジできます。今回はステファノのパスタを完全再現したかったのでオマール海老を入れましたが、なくても大丈夫です。手に入りやすいイカ、エビ、アサリがあれば十分です。このパスタソースの1番のキモはバターとローリエです。この二つの具材がトマトベースの海産物のソースの表情をガラッと変えるのに驚かれることと思います。ローリエはぜひフレッシュなものを。ドライのものでは香りがいまいちです。ちなみに僕はこのレシピのために月桂樹の苗を買ってきて庭に植えました。(笑)

作り方
レストランではこのメニューは最低二人前からの注文となっていました。両取手付きの大きなアルミのフライパン(鍋?)でそのままテーブルに運ばれ、客の前で取り分けるというスタイルでした。ちなみにここでは直径36cmのアルミの鍋を使っています。

1)オマール海老を縦に切り分ます。活オマールの場合は、捌く前に冷凍庫に40分程入れておくと良いです。背中の中心部分に身体に沿って包丁を垂直に突き立て、尾の方に包丁を倒します。次に包丁の刃を持ち替えて先ほど包丁を突き立てたところから今度は頭の方に向かって包丁を倒します。

2)エビは尾の殻を剥き、背ワタを取ります。イカは骨を抜いて1cmくらいの輪切りにし、足は2-4分割します。アサリとムール貝を洗います。

3)オリーブオイル大さじ2くらいで玉ねぎのスライスを炒めます。その時包丁の腹で潰したニンニクも入れて香りづけをします。玉ねぎがしんなりとしたらニンニクを取り出し、バターを入れ、オマール海老を殻側を下にしてフライパンに置きます。づづいてアサリ、ムール貝、エビ、イカ、全ての海産物を入れます。缶半分のトマトとローリエを入れます。煮立ったら、さらに中火で5分くらい煮込んで、貝類の殻の開き具合を確認します。貝類がほとんど開いたらソースは完成です。

4)
オマール海老はいったん鍋から外し、他の具材を鍋の外側に寄せ、鍋の真ん中にパスタ用のスペースを作ります。標準茹で時間より少し早めに揚げたパスタを鍋の中心に入れ、トングでグルグル回転させるように回し、魚介類からでた水分とトマトで出来たソースに馴染ませ、乳化させるように中〜弱火で2分くらいかき混ぜ続けます。

5)取り出しておいたオマール海老を鍋に戻し、みじん切りにしたパセリを上から振って完成です。レストランがやっていたように鍋のままテーブルに運びます。

見た目がリッチなのでホムパのメニューに最適です。調理中の間を持たすために前菜を少し用意して、付け合わせにサラダなどがあれば、これだけでメイン料理として十分満足できると思います。

余談ですが、イタリア半島の真ん中にはアペニン山脈という山塊がちょうどフィレンツェとボローニャ間80kmの間に両都市を分断するように横たわっています。このアペニン山脈を挟んでボローニャから北は突然料理に使うバターの量が多くなります。
フィレンツェ以南では料理にバターを使うことはほとんどありません。したがって我が家もトスカーナ州に住んでからは、普段冷蔵庫にバターが入っていることはありません。ほとんどすべての料理はオリーブオイルで調理します。一年に一度か二度思い出したようにフランス料理に挑戦したくなったり、このステファノのパスタを作るときは、わざわざ買いに行くくらいです。なので、フィレンツェの人たちにとってこのバターをたっぷり使った、それも海産物のパスタというのは結構なカルチャーショックだったのだろうと推測できます。なんにしても美味しいのでお試しあれ。




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