メイクが上手くいった

お化粧がうまくいった。

それだけで、一日の始まりが明るくなる。

メイクをしない選択肢は、わたしにはない。どれだけ忙しくても、眉毛は書くし、まつ毛はビューラーで上げる。

病院実習中で鮮やかなメイクはできないので、毎日ぎりぎりを攻めている。最低限のレベルをいかに上げるかが勝負の状態で、自分で鏡を見て「今日のわたし、なかなか良いじゃん」と思える日は貴重だ。

うまくいく必要なんてないのだけれど、でもやっぱりうまくいく方がうれしい。

今週一週間は、そんな思いに少しだけ振り回され、朝を迎えるのがいつもより楽しかった。

先週から病院実習回っている診療科が用意してくれた控室が、かねてより仲良くしてくれている男子（以下、Tくんとしよう）が同じだった。控室は回る診療科によって異なるし、他科と共有することあまりないので、今回重なったのは偶然だった。

先週から、Tくんの班がいるなぁとは思っていたけれど、手を振って挨拶するくらいでお互い実習が忙しく特に話す機会もなかったが、今週の月曜は40分も話せる時間をもらってしまった。わたしがオペ見学中に迷走神経反射で倒れた話を、カルテ記載に忙しい中聞いてくれて、構ってくれてとてもうれしかった。

そのおかげで、「今日も会うかもしれない」というそわそわした思いを抱えながら1週間を過ごしていた。

火曜は、カンファ室の出入り口で、お互いの診療科の入れ替えで一瞬すれ違っただけだった。でもわたしに気付いてくれてうれしかった。

水曜のメイクはとてもうまくいった。メイクする前から顔のコンディションが良い気はして、メイクし終わった後も自己肯定感が高かった。誰か、せっかくならTくんが見てくれるならうれしいなと思った。

見てほしい！でもなく、見せたいでもない。
見てくれたらうれしいな。

Tくんについて、あくまでも「すきな人」ではないということを書いておきたい。1年生の時から、（授業にあまり来ない人だったので、顔を見ない期間も長かったけれど）ずっと仲良くしてくれている人だ。わたしより年上で、オチのないわたしの話を笑いながら聞いてくれる、優しいお友達である。

だけど、水曜は1秒も会えなかった。とても残念だった。

その夜、中華スープに水餃子も浮かべたものを食べたら、結果的に木曜は朝一番から顔がまるくなっていた。明らかに、前夜に塩分の高いものを食べたせいだった。

できるなら今日の午前中は会いたくないなと思っていたら、願いが通じたのか、せかせか動いていたら、一日が終わった。疲れたので1秒でも早く家に帰ろうと階段を降りていたら、更衣室の入り口でTくんに会った。診療科や曜日によって解散時間は結構違うので会ったことにとても驚いたし、偶然は重なるものなのだなと思った。

そのまま一緒に階段をおりていたら、そこで急に「今日かわいいね」と言われた。

他の人だったら口説いてるのかなと思った気がするけど、いつもの2人の関係性からそうは思わなかったし、自分の服装も少し省みてそんなことはないだろうと思い、「そう？いつもと一緒だよ」と言ったら、「ちょっと大人っぽい気がする」と言われた。

ただそれだけなんだけど、お化粧がうまくいった日に、見てもらえたらいいなと思った人に会って、しかも外見を褒めてもらえるとこんなにもうれしいんだと思った。

顔には出さなかったけどとても浮かれていたので、Tくんと別れた後にすごく苦手な人に会って声をかけられてもそれなりに返事できるくらい心が豊かだった。

金曜は、一度も見かけなかった。2週間まわった診療科がそれぞれ今日で最終日なので、どこかできっとまとめの症例検討会でもしていたのだろう。

来週もがんばって生きよう。
Tくんには来週は会えないけど。

#私は私のここが