シャンディの創ったもの

ほんの3分未満の時間。たったそれだけの時間で自分の中にそれまでに見えていなかった世界が広がった感じがした。超特急さんの新曲『シャンディ』。世界一大好きな歌声が歌う初めて聴く曲に、歌われる言葉に、次々と感情が弾かれて無数の感覚と記憶が急速に結びついていく。時間の経過に馴染むためだけに蓋をして、勝手に開かないようにした大切な想い。グラスに注ぎたての炭酸水の中で踊る気泡のように、毎日毎分毎秒浮かび上がり続ける違和感。心の中で眩く輝き続ける想い出を手放さないことに必死で、いつの間にか目を背けたくなるような歪な形に歪んでいた自分。
歌詞の言葉に刺激され、沢山の思考が内側で主張し始める。この曲の中に大切なものがあるという妙な確信を得て、探究心を抑えることをやめてみる。取り繕うカバーを外し、自由な感情と思考を歌声に預ける。覚悟さえ決めてしまえば、世界でいちばん大好きで、この世で最も信頼するもののひとつであるタカシくんの歌声に心を任せるのはあまりに容易い。曲の世界を自由に歩き回るように、何度も何度も繰り返し聴く。聴けば聴くほど好きなところが増えて、同時に肌が粟立つような焦燥感が強くなる。私はこれまでずっと何かを見落とし続けている。散歩中に見つけた気になる景色にスマホのカメラを向けるように、歌声の中で出会った言葉ひとつひとつに視線を向けてみる。歌い紡がれる言葉のイメージが次々と連なり、そこに描かれた景色が頭の中で鮮明さを増す。悲しく静かで美しい見たことのない景色が、自分の内側に実際に存在するかのように自然とそこに在るようになってくる。その広がり方のあまりのさりげなさに、心を見透かされたような感覚の居心地の悪さに、鳥肌が立つ。それでも、歌声の中にある全部を受け取る気持ちで、共鳴するように波立つ感情の起伏の中を必死で泳ぐ。飽きることなく、自分でも怖いくらいひたすらにシャンディを聴き続ける。沢山の、なんで?どうして?いつまで?の声に曝され、内側を守るためにいつの間にか積み重ねていた、ガサガサに風化した地層のようになった私の外側から、まるで雪解け水のようにシャンディが染み込んでくる。
♬この気持ちが愛なんだね
何回目かに聴いた最後の一言が小さな水滴のようになってポトリと真っ暗な底の底に落ちる。
小さな水滴が落ちた場所から、柔らかい光が生まれる。
そうだった。どれほど理解できない異物のような扱いを受けようと、私は私の大切を譲れないままでいるしかできないんだ。
いびつに歪んだカタチの中で、唯一輝いていた宝石のような想いを瞳に嵌め込む。
さあ、この輝きを守る為ならどこまでも歪んでやろうじゃないか。

シャンディが私の心に完全に溶け込んだ。もうこの曲に聴く前には戻れない。自分の歪さを見つけてしまったけれど、譲れないものを大切にし続ける覚悟が決まった。弾き出されるその時まで、シャンディを聴きながら立ち続けよう。

超特急『シャンディ』
♬シャンディライフ シャンディライフ
 二人を創った
 君のためだけに生きていていたい
 光灯したモンスター
短い曲の中に、ものすごく深くて暗くて広い物語を感じました。長編の小説を読むくらいの時間何度も夢中で聴き、フッと掴んだ私なりに見つけたシャンディの物語。

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