【連載小説】 彌終(いやはて)の胎児 9章〖61〗
9章〖61〗 十階建ての『メゾンF』の前。五〇七号室に、もう一人の加代子がいるのだ。一緒にマンションの入ろうとする啓吉を制して、加代子が言うことに、
「啓吉さんはここで待っていて。これはわたしと『妹』の問題。直談判よ。大丈夫、わたしを信用して。元は一人なのよ。底の底までお見通し。グサリと急所を突いてやるわ」
言い終わって静かに目を閉じ、顔を上向けるのに、啓吉はそっと唇を合わせた。加代子は力強いVサインを作ると、髪を靡かせ、甲斐甲斐しくマンションの入り口に消えた