ドラマチックな人生を歩んでみたいか?

連絡が取れないらしい。
いつもならすぐ既読になる LINEが既読にならない。

彼女はスマホ依存症だったから、未読スルーなんてありえない。未読スルーするくらいなら、既読スルーしちゃう。そんな人だった。

彼女はなんていうか、冒険心が強くて、色んなことを面白がっていた。
つい最近もシェアハウスに住むことにした、と楽しそうに見知らぬ人とお酒を飲む写真がLINEのグループに送られてきていたのを思い出した。
高そうなシャンパンで乾杯して、彩度の高いデリバリーと一緒に写った写真だった。微妙に細部を思い出せない彼女の顔は犬耳と美肌効果によって加工されていた。

私はそれにイイネ👍とスタンプを返した。

彼女は決して私に伝えたかったのではない。
大学時代のサークルのラインで、時たま思い出したかのように繰り広げられる自慢合戦に、手札を切るようにシェアハウスの楽しげな一幕を共有してきたのだ。

シェアハウスに住むことにしたの
メンバーが歓迎パーティー開いてくれた🎉

え、すごーい

みんなすごく優しくて面白い人達なのー

楽しそー

今度遊びに行ってもいい?

ぜひぜひ〜

私に伝えたかったのではない。
ただ自慢したかったのを、私は知ってる。だから、何も言わずにイイネとスタンプを返した。

くだらないマウンティングだって分かっていたけど、そのグループから抜けることはできなかった。

私のいなくなったグループで私のことをどんな風に罵るのか、怖くて仕方なかった。
何も触れられないのも、それはそれで恐ろしかったし、そんなことを気にしているなんて打ち明けることすらできなかった。

正直、身元のしれない人達と寝食を共にするなんて信じられなかった。
両親にさえ遠慮をして深夜にお風呂に入るのを躊躇うのに、いわんや知らない人をや。(反語)

彼女だってそう思っていたはずだ。

例えば、飲み会の時「そのお酒一口ちょーだい」というのは嫌だったけど、鍋を囲った時に直箸するのは平気だった。
大学生の頃からそういう感覚的なところがどうも似通っていたらしく、時折妙に意気投合をしてしまう時があった。

私はそれに妙な心地よさを覚えていたのだけど、彼女がどう思っていたのかは知らない。
でも、他のメンバーとは少し違う扱いしてくれていたと思う。

なぜなら彼女が歓迎会の写真をアップした時、私はすでにシェアハウスに引っ越していたことを知っていた。

というかすでに、新しい生活への不満があふれていた。
彼女は何かあるたびに、私へ逐一報告をしてきた。
いきなり電話がかかってきたかと思ったら、やれゴミの分別がありえないだの、やれ洗面台の使い方が汚いだの。そんなことを感情的にぶちまけた。

そうだね、ありえないね。
と返すと、彼女はいくらか落ち着いて、でもメリットもあるのよ、自慢してきた。

よくよく話を聞いてみると、シェアハウスと言いながら家賃は払っていないようだった。
そのハウスは一緒に写っていたメンバーの1人の所有物で、その人の所有物らしく、色々な人が出入りしている部屋らしかった。

毎日派手なパーティを開いては、煌びやかな毎日を送っていたらしい。

まるで芸能人のインスタみたいだね、と言ったら彼女はんふふっと笑っていた。
電話越しの笑い声を聞いた時、ファーストフード店でバニラシェイクを飲みながらバカな話を夜中までしてた時の、目を細めた笑い顔をふと思い出した。

その時の髪とか服は覚えてないのに、細めた目だけはヤケにリアルに思い出せた。

#日記 #エッセイ #続くかも


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