【読書記録】2022年4月・7月

ごきげんよう。ゆきです。

子育てと同時進行の引越しを挟んだので読書どころではなくなり、久しぶりの更新となりました。4月は1冊、7月は3冊だったのでまとめての記録になります。気の向くままの選書になりました。どうぞお付き合いください。

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あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した……。夏休みにひとり。それと、冬休みにもうひとり。あたしはもうだめ。ぜんぜんだめ。少女の魂は殺人に向かない。誰か最初にそう教えてくれたらよかったのに。だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけだったから――。これは、ふたりの少女の凄絶な《闘い》の記録。直木賞受賞作家が『私の男』に先駆け、過酷な運命に翻弄される少女の姿を鮮烈に描いた慟哭の傑作!

年に1回は読みたくなる作家、桜庭一樹。読み始めて「あぁこれこれこの感じ〜!」と、久しぶりの桜庭ワールドにテンションがダダ上がりだった。相変わらずの不穏な空気とリアルな少女像。暖かくなってきて明るい春を感じるこの時期(当時)に読む物語ではない気がするものの、最後の1行まで心拍数を上げながら読了。

何か特別などんでん返しがあるわけでも、非日常が込められている訳でもないのにこんなに終始胸がざわつくのは、筆者が描く少女がいつかの等身大の自分に重なるからだろうか。綱渡りのような友人との付き合い、理由もなく楯を突きたくなる親の存在、恋ではないと思いながらもちょっと気になる幼馴染の男の子……とにかく心のバランスが危うい少女を描くのが上手いのが桜庭一樹、という印象を私は持っている。本作もその中の1つ。

田舎に暮らす少女が人を2人殺める過程を、心情や風景描写をふんだんに織り交ぜて描いていく。私がこの作者を好きな理由に、この風景描写の言葉選びがある。ちょっとした場面でも心に引っかかるような言葉をチョイスするのだ。このセンス、どうやったら身につくのだろうか。物語とは別のところでも桜庭作品は大好物。

決して爽やかな終わりではないし、登場人物全員くせ者で肩入れは出来ない。でも思春期の少女2人の闘いは間違いなく私の心に刺さっている。女子校出身だからか尚更、静香の本音に胸が締め付けられた。百合1歩手前くらいの少し危ない女の子たちの関係、苦しくなるけど好き。

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私たちの日常に潜む小さな“歪み”、
あなたは見抜くことができるか。

家庭教師の派遣サービス業に従事する大学生が、とある家族の異変に気がついて……(「惨者面談」)。不妊に悩む夫婦がようやく授かった我が子。しかしそこへ「あなたの精子提供によって生まれた子供です」と名乗る別の〈娘〉が現れたことから予想外の真実が明らかになる(「パンドラ」)。子供が4人しかいない島で、僕らはiPhoneを手に入れ「ゆーちゅーばー」になることにした。でも、ある事件を境に島のひとびとがやけによそよそしくなっていって……(「#拡散希望」)など、昨年「#拡散希望」が第74回日本推理作家協会賞を受賞。そして今年、第22回本格ミステリ大賞にノミネートされるなど、いま話題沸騰中の著者による、現代日本の〈いま〉とミステリの技巧が見事に融合した珠玉の5篇を収録。


朝の情報番組で「初版が4日で完売!即重版!」と騒がれていたので気になり、すぐさま購入して2日で読了。現代を生きる若者にどれも刺さりそうなミステリが5本収録された短編集。

全編読了した感想としては、本書はミステリ初心者向けだな、という感じ。平易な文章で書かれており、重苦しいミステリ大好物の私は初め、その軽さに少し抵抗があった。叙述面でも「ヤリモク」「三角奸計」なんかは多分初心者でも結末が読めてしまうくらいのレベルだと思う。それでも「#拡散希望」は賞を獲っているだけあって一読の価値あり。現実にギリギリ有り得そうな設定というところがいい塩梅でゾッとさせてくれる。

著者は新人作家ということで、今後の作品にも期待。連作短編出してくれたら面白そうだなと勝手に想像している。

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著者・長江俊和が手にしたのは、いわくつきの原稿だった。題名は「カミュの刺客」、執筆者はライターの若橋呉成。内容は、有名なドキュメンタリー作家と心中し、生き残った新藤七緒への独占インタビューだった。死の匂いが立ちこめる山荘、心中のすべてを記録したビデオ。不倫の果ての悲劇なのか。なぜ女だけが生還したのか。息を呑む展開、恐るべきどんでん返し。異形の傑作ミステリー。

読みながら「これは小説だっけ、実話だっけ」と混乱する作品も珍しい。この小説の著者が出版禁止となったルポルタージュを読み、そこに書かれた真実を世間に公表しようと奮闘して出来たのが本書、という設定。この設定だけで面白い。

あらすじと設定で心を掴まれ期待をし過ぎたのか、読了後の満足感は正直微妙だった。というのも、残り1/4を残しておおかた仕掛けが読めてしまったのだ。本来であれば最後にゾッとする所を、読みながら「こういうことでしょ?」と閃いてしまったものだから、単調な読書となってしまった。ぐぬぬ。

面白いことは間違いない。ただ、たまたま私の中で察しがついてしまったことが不幸で、100%の楽しみ方が出来なかった。まぁほぼミステリしか普段読まなかったら見破りも上手くなるよね、と自分を慰めている。とはいえ、ポリ袋を買った主人公が鍋を食べている、という情報で真実を確信したのはちょっと我ながら自分が怖い。PSYCHO-PASSの世界だったら犯罪係数的にアウトな気がする。

心中が作品の核なのだが、なんとも皮肉な結末。ルポルタージュという設定のため、普通の小説と文体等が異なり、読みにくさを感じる人もいるかもしれない。個人的にはこの形式が(リアリティをより感じるという意味でも)好きなので、続編も読む気満々である。次はもう少し詮索欲を抑え、フラットに楽しもうと思う。

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ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに篭めた想いとは―。山本周五郎賞受賞作。

「『アノニム』面白かったなー」と振り返っていたら、高校時代の友人が「『楽園のカンヴァス』読了。おすすめ」と教えてくれたので選書。著者の代表作なのは知っていたが何となく手に取っていなかった。読了した今、「いいから早く読め」と以前の自分に押し付けたい。

名作すぎた。『アノニム』が完全にエンタメに振り切っているのとは対照的に、こちらはミステリ要素ありの重厚な美術小説。ルソーの『夢』がモチーフとなっている。

無論、私は美術に明るくない。「マグリットが好きかなー」とは言ってみるものの、1つ1つの絵に詳しいわけでも、展覧会を巡っているわけでもない。それが読了後はどうだ。多分その辺を歩いている人よりもルソーについて語れる自信があるし、『夢』の魅力を知ってもらいたくて画集を買って見せるかもしれない。描かれている女性はどんな人物で、ルソーにはこんな情熱があって、なんて偉そうに解説も出来ると思う。それもこれも、本書に魅せられた結果である。

美術に詳しくない人ほど、この世界観に浸かってほしい。私のように、MoMAに行きたくて仕方なくなってほしい。あくまでもフィクションではあるが、1つの絵画が読者にたくさんの「夢」を見させてくれる。至高の1冊だった。

巻末の参考文献の量は圧巻。もう原田マハの虜である。次はどの画家に浸ろうか。選書の段階で胸が高鳴っている。

本書にある恋愛要素にも胸が締め付けられた。大きく2つの愛が描かれているが、どちらも読みながら感情移入が止まらず、後半はずっと涙目。どこを取っても最高傑作だった。久しぶりにこんなに感動の読書体験をした。本書に出逢えてよかった。

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『楽園のカンヴァス』が良すぎて、正直その前に読んでいた本の記憶が薄れています。読了の度に下書きをしておいてよかった。今感想を書けと言われても、中2冊の記録は出来なかったでしょう。

読書が趣味の友人があまりいないので、今回おすすめしてくれた友人とそのチョイスに感謝です。

8月は短編縛りにしようかなと画策中。夫の夏休みがあるので、ぼちぼち読めると期待しています。

今回もお付き合いいただきありがとうございました。

またお会いしましょう。ゆきでした。

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