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サクソフォン奏者のつぶやき②

木下音感協会様からのご依頼で、2021〜2022年の全3回にわたり季刊誌にコラムを掲載させて頂いておりました。

この先一生コラムを連載することは二度とないことと思いますので(爆)、記念にこのnoteに残そうと思います。掲載時のものを、ほんの少し修正しています。

今回はその第2回!


◆青春期の音楽体験

皆さま、こんにちは。クラシック・サックス奏者の三國と申します。
前回のコラムにも掲載したように、私はクラシック音楽のスタイルに則って、「サクソフォン」という楽器を演奏したり、教えたりしています。(サクソフォン、では長いので「サックス」と表記します。)

なぜ、私はサックスでクラシック音楽の道を選んだのか?
その根底にあったものは何だったのか?

今回のコラムでは、そのお話しを書かせて頂こうと思います。

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私は音楽が大好きな子供で、小さい頃からピアノを習っていましたが、同時に中学2年生からは吹奏楽部でサックスを始めました。これがもう面白くて、完全にどハマり!来る日もくる日も練習に明け暮れました。

そうすると、今度は色々な演奏が聞きたくなります。今のようにインターネットさえあれば無料でいくらでも音楽が手に入る時代ではありませんでしたし、お小遣いにも限りがありましたので、音楽の主な情報源はテレビ、そしてラジオでした。少しでもサックスの音が入っているものなら何でも録画・録音して、片っ端から聞きまくって真似していました。これをコピーと言いますが、コピーは音やリズムだけではなく、その演奏家の演奏スタイルや音楽のニュアンスも全て取り入れて練習しますので、部活動とはまた違う楽しさがありました。

さて、そんな部活三昧、コピー三昧の私にある日、買い物中に父が「好きなCDを買っていいよ」と言ってくれました!

初めてのサックスのCDです!

喜び勇んで、そのお店のCDフロアの「サックス」と書かれた棚に走りました。

そこには、2枚のCDが並べられていました。一枚は、ジャズ界の神様、渡辺貞夫さんの「Night and day」。

もう一枚が、クラシック・サックスの神様、マルセル・ミュールの「Le patron of the saxophone」というCDでした。当時の私はミュールこそ知らなかったものの、「面白そうだな」と思って2枚とも買ってもらい、飽きもせず毎日聞いていました。
渡辺貞夫さんももちろん素晴らしかったのですが、ミュールのCDはサックスで演奏されたフランス小品、サックスとオーケストラの協奏曲、サックス四重奏と、バラエティーに富んだ内容で、いくら聞いても聞き飽きることがありませんでした。

また、なんと言っても頭から離れないのがあのミュールの音…。聞いたことのない美しい、それでいて溢れんばかりの音楽表現を全て体現する音に、すっかり心酔していました。

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そんな青春期を過ごし、音大生活を経て社会人となり、日々を暮らす中で、私は再びミュールの音に出会います。

縁あって、フランスの楽器メーカーであるケノン社が1933年に製造した、アルトサックスを購入する機会に恵まれたのです。これはマルセル・ミュールが開発した楽器で、実は私が昔何度も聞いていたあのCDは、全てがこのケノン社製のサックスで録音されたものでした。

この楽器を演奏することで、自分の記憶の底にはこの音が横たわっていたことに、大人になった今気付かされました。嬉しさや感激ももちろんありましたが、探していたピースがぴったりはまって、自分の音楽人生がリスタートしたような不思議な気持ちにもなりました。
また、この楽器を演奏することでようやく、自分が「クラシック演奏家」になれたと思います。

2018年、「私たちの音楽の好みは14歳の時に聴いた音楽によって形成されている」という研究結果がニューヨーク・タイムズに掲載されました。いま14歳の子供たちは、何を楽しく聞いているでしょうか?
それがどんなものであっても、今後の人生を豊かに過ごす手助けになって欲しいと、昔14歳だった私は密かに願っているのです。

(2021年9月/三國可奈子・サクソフォン奏者)


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このコラムのために作成されたタイトルのロゴがかわいくて、毎回感激しておりました😆左上には2019年のケノンのコンサート(東京公演)。ピアニストゆうこりんが見切れています。

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