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サクソフォン奏者のつぶやき③


木下音感協会様からのご依頼で、2021〜2022年の全3回にわたり季刊誌にコラムを掲載させて頂いておりました。

この先一生コラムを連載することは二度とないことと思いますので(爆)、記念にこのnoteに残そうと思います。掲載時のものを、ほんの少し修正しています。

今回はその第3回!


◆ようやくホールでコンサート!でも…?!

早いもので、この全3回のコラムも最終回となりました。これまでご覧下さいました皆様に、心より感謝申し上げます。

このコラムの第一回は、昨年の5月頃に書いたものでした。その頃はまだまだ感染症の収束が見えず、私自身も先の演奏活動の見えない不安の中で書いたものでした。
それが何とか、昨年の秋頃から新規感染者数は激減し、昨年末にはありがたいことにホールでの演奏の機会に恵まれました。
今回は、そのことについて書いてみようと思います。

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主に都内で演奏活動されている、フルートアンサンブル・トリプティークというフルート三重奏のアンサンブルがあります。そのメンバーである樋口貴子さんから「三國さんのサックス四重奏で、トリプティークと共演してくれませんか?」というお話しを頂いたのが、昨年の9月頃でした。
このトリプティークは本当に素晴らしいアンサンブルで、私はこんな打診を頂いて天にも昇る心地でした。生きていれば、こんなに良いことがあるのか!と驚きました。
樋口さんは、同じ音楽教室に勤務する関係で私を誘って下さったのですが、こちらはその素晴らしい演奏活動を存じておりましたので、かねてより一方的に尊敬しておりました。

さて、肝心のその演奏会の内容でありますが、
●フルート三重奏とサクソフォン四重奏のコラボレーション。この七重奏に朗読が入る曲もある
●フルートとソプラノサクソフォンの二重奏の新曲がこの日のために書かれる
という、よくよく考えると肝の冷えるものでございました…。

加えて、こちらのサクソフォン四重奏のメンバーで休業に入ったメンバーがおり、ダメ元である方に賛助を依頼したところ、なんとその方がさらっと快諾して下さいました。

その方は私が上京して以来、何かと気にかけて下さって、「いつか一緒に吹こうね!」とおっしゃった言葉は、どんな時も私を支え続けてくれました。年月を経た今も、私の憧れのプレイヤーです。また、この方の主宰するサクソフォン四重奏が、今回の演奏曲目の初演メンバーだったのです。これ以上に心強いことがあるでしょうか。

七人で演奏する曲は、ムソルグスキーの『禿山の一夜』、そしてこの七重奏に朗読が加わるファリャの『恋は魔術師』。
オーケストラの曲を、作曲家の堀内貴晃さんが七重奏に編曲した作品です。
いやまさか、サクソフォンなんかがオーケストラの曲を?と思われる方が大多数だと思いますし、私もまさかまさか、という気持ちでした。しかしこの編曲が大変に素晴らしく、きちんと演奏できればオーケストラのサウンドが確かに聞こえるのです。

楽譜は完璧なのです。

つまり、出来不出来は、演奏家の手腕一つにかかっているのです。
演奏会まで、私は死にものぐるいで練習をしました。しかし、周りは自分よりもレベルが格段に上の方々です。これは、自分が最下位ということと同義です。リハーサルの後はいつも自己嫌悪やら情けないやらで、それでもメンタルを良好に保ち練習に明け暮れ、日々の仕事は通常通りこなし…。
あっという間に演奏会当日を迎えました。兎にも角にも、全編に渡って必死で食らい付いて演奏してきました。

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よくSNSでは「演奏できることに感謝」「音楽をできる幸せをかみしめました」という演奏家のお言葉を見かけます。それは彼らの心より正直な言葉であることには間違いないでしょう。
しかし、私自身の久しぶりのホールでの演奏会は
「とにかく必死」「極限状態」
という言葉でしか言い表せない、幸せをかみしめるとは程遠いものでした。

でも、もしかしたらこれが自分の本質なのではないか、と最近は思います。どのように音楽と付き合うかは千差万別ですし、誰かと同じものでもないと思うのです。
だったら、自分なりに必死にやってようやく人様の足元にほんのちょっとだけ及ぶ、それなら上出来じゃないか、と思えるのです。

次に控えている演奏会では、また「極限状態」の自己最高記録が更新されてしまうのではないかと今から危惧していますが…。

来月、本誌にも連載をされているピアニストである山崎早登美さんとの共演がございます。前回のコラムでテーマにしました、ヴィンテージのサクソフォンを演奏致します。ご興味のある方はぜひお運びくださいませ。(詳細はホームページ http://kanako392.com にて)

ここに、第一回のコラムの最後に書いた言葉をもう一度掲載させて頂きます。

『いつか、世の中が今よりもよくなった時に、演奏を聴いていただけますように。そしてさらに音楽を好きになってくださったら、それ以上の喜びはありません。』

それでは、皆さまにどこかでお目にかかれましたら嬉しく思います。
ここまでご覧下さいまして、ありがとうございました。

(2022年1月/三國可奈子・サクソフォン奏者)

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2021年12月ルーテル市ヶ谷にて開催されたフルートアンサンブル・トリプティーク〜リサイタル2021。また演奏したい!

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