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いやな女

アヤは昔からいやな女だった。
雀荘のカウンターの前で追っかけと写真を撮ろうとした際に彼女の入ってる卓が目に付く。
「みのりちゃんどうかした?」
追っかけが携帯を構えながら話かけてくる。
「いいえ、別に」「よし、なら写真お願いしまーす。いつものポーズで!」
追っかけと私の顔の横でCのポーズをして写真を撮る。
汗くさいキャラクターのTシャツに変な柄のシャツ、顔も油ぎってる。よくこんな格好で人前に出てこれるものだと思う。
そして、そんな相手に頼まれ無料で笑顔を振りまかないといけない自分の【女流】という職業に嫌悪を感じる。

雀荘…知らない人同士がお金を賭け麻雀をする。法律的にアウトらしいが。検挙するのが難しいとの事で見逃されている、グレーな場所になるのか。
麻雀は4人揃わないと出来ないので、人が足りない場合には店員が入る事となる。ただの中年男性が入るより若くてかわいい子と一緒に麻雀がしたいというニーズに応える為に、女流ゲストという仕事がある。

みのりはもう一度アヤがいる奥の卓に目を向けた。ゲームが終わりお金の精算をしている。
卓の中に黒いジャケットの男性を見た。
年齢は30ぐらいで清潔感あり、髪もワックスで整えられていた。アヤとゲストが一緒だった際に2、3度見た事がある。
みのりは興味を惹かれていた。特に彼のキレイな手と麻雀の所作の丁寧なのが良かった。アヤの恋人なのだろうか?ゲスト先に彼氏が追っかけに来る事も珍しくはない。
「みのりちゃん3卓入ってくれる?」
店長の吉田から指示がある。
「はーい」と笑顔で卓に向かう。
吉田はこの店の店長であり、みのりの恋人であった。狭い業界で男女が入り乱れるので恋愛関係があるのは珍しくない。

「飲み会の後部屋行って良い?」
ゲスト終わりに吉田が声をかけてきた。
ゲスト終わりは大体、店長やオーナーと飲み会がある。みのりもそこで吉田に口説かれ付きあう事となった。
「いいよ」簡潔に答える。
吉田はみのりより一回り上だが雀荘の寮に住んでいる。なので会うとなるとだいたいみのりの部屋になる。
40近い男性が寮生活だって…そういった話をしたところで白けた雰囲気になるだけなのは今までの経験からわかる。

飲み会後に吉田がコンビニでいろいろ買い込み部屋に来た。【コンビニで大量にものを買う】この行為もみのりは好きではなかった。
部屋で軽く飲み吉田がキスをしてきたところでセックスが開始する。シャワーぐらい浴びてきて欲しいものだが、彼の興奮具合から何を言っても無駄であろう。ベッドに入るも吉田の匂いや汚さが気になり行為に集中出来ない。目を閉じ、わざとらしく声をあげ彼が果てるのを待つしかない自分に絶望する。

2日ほど経った時だろうかTwitterの通知に『クロ』といアカウントからフォローがあった。ツイートを読んでいるうちに黒いジャケットの彼であることを認識した。フォローを返して1時間ほど経った時だろうか『クロ』より「フォローありがとうございます。この間みのりプロの追っかけに行ったのですが同卓できず残念でした。また機会があればお伺いしますのでその時はよろしくお願いします」とDMが届いた。すぐに返事をしようとしようとしたが、いけないと思いその日の寝る前に「ありがとうございます」と近日のゲストの予定だけを送った。

『クロ』=彼と正確に認識したのは次のゲストイベントである。彼を見た時に本当に来てくれたんだと思った。DMはみのりからの返事で終わっており期待はしていなかったのだ。同卓した際も「約束守りましたよ」の一言で会話が終わった。その淡白な行為がみのりの好感度をより上げた。

仕事を終えるとDMに「今日はありがとうございました。ゲスト先だとゆっくり話せないのが残念ですね、また機会があれば」と入っていた。すぐに「お礼を言うのはこちらの方で来て頂きありがとうございました。ゲスト先だとどうしてもバタバタなりますよね。ゆっくりご飯でも出来たら良いんですが」返事をする。みのりの顔は少しにやけていた。

食事当日新橋の待ち合わせ場所にいたみのりは緊張していた。あのDMから5日程やり取りをして本日食事に行く事になったのだ。スーツ姿の彼が駆け足で近づいてくるのがわかった「待たせたね」「いいえ、今着たとこです」と社交辞令を交わし彼が予約をした居酒屋へ入っていく。

麻雀という共通の話題があるおかげであろう、彼との話は大いに盛り上がった。その中でもアヤの話題は格別であった。【自分自身を美人と思っている】【いけ好かない】【麻雀が他の女流より強いと思っている】【他者を見下している】など2人して彼女に対しての不満を口にした。

「めちゃくちゃ楽しいな。もう少し話をしたいけどこの後も付き合ってくれる?」私が頷くと行きつけのバーがあるからとすぐに店を出る。その段階でお会計が終わっている事に気づきスマートだなと遊びばれてるの印象を持つ。

外に出てご飯のお礼を言うと「楽しい時間をもらったから」と返される。バーが近いので歩いていく事になるがその時にはもう2人の手は繋がれていた。

バーでの会話はもうどうでも良かった。
ホテルに行くまでの時間つぶし、体のいい言い訳だ。それに私はもうこの男と寝たいと思っている。
「そういえば写真撮ってないですよね」と彼が言った。「いいですよ」と笑顔で撮る。その後「こっち向いてもらっていいですか?」と横を向いた瞬間にキスをされ写真を撮られた。

近くのホテルに入ると次は私からキスをした。
そして舌を入れ動かしていく。「大胆だね」と彼が少し笑う。
その後もキスをし、その唇を首、胸元からお腹へと段々と下に下ろしていき彼の大きくなった物を口に入れ上下に動かす。しばらくして「触らして」と次は彼が私の全身を愛撫する。「入れてほしい」とお願いすると少し笑顔を見せゴムを付け挿入する。
「好きだよ」「愛してる」中身のないその言葉だけでもみのりは嬉しく満足感を得た。ただ終わった後に思うのは彼との関係は長くは続かないだろうという感想だった。

その週末もゲストであった、またアヤと一緒だ。全日本プロ連盟という団体の同期なのでセットでの活動が多いのだ。また彼女と比べられる事も多かったが、もう彼女に嫉妬するもないだろうと感じていた。
雀荘に入り挨拶するとすぐにアヤが話しかけてきた。
「ありがとう。あの男には迷惑してたのよ」
感情をあまり表に出さない彼女が上機嫌で話しを始める。
「どういう事?」
「清田さん、あーTwitterでは『クロ』って名乗ってるんだっけ?」
私は頭が真っ白になった。
「彼ね愛澤プロ(先輩)の彼氏なのよ、それなのに私の事口説こうとしてきてそれで私愛澤プロにはお世話になってるから無下にはできないし、先輩に相談するわけにもいかないから悩んでたとこだったのよ」
返す言葉がなく黙っていると
「彼バカだから裏アカにあなたとのキスショットあげてやったって報告してたわよ。本当にバカってやる事までバカね。後あなたも出会った頃からから変わらずバカ、それに劣等感を満足させるやり方も単純ですぐ男と寝るところも変わってなくて良かったわ。前も私に好意を抱いている同期の男性プロと寝たわよね?」
頭がクラクラして今すぐこの場から離れたい。
「ちなみに吉田さんにもそのツイート見せておいたから、何か話があるかもね」と去っていく。
最後に残した言葉は「あなたって昔からいやな女だったわ」だった。

(終)

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