始まりはノック シロクマ文芸部
始まりは柔らかいノックの音だった。
柔らかいノックというのも変だと思うけれど、そうとしか言いようがない。それは確かにノックの音だったから。
私はなぜか少しウキウキしながらドアを開ける。飼い犬のロンも尻尾を振ってドアが開くのを待っている様子。
ドアが開く。
そこに立っていたのは、いや、立ってはいない。浮かんでいた。それは小さな妖精だった。
私は辺りを見回した。人影は無かった。
「中に入って」
私は、彼女に小さな声でそう言った。
ファンタジー好きの私にとって最高のお客様。ずっとこの日が訪れるのを待っていたような気がした。
ロンはさらに大きく尻尾を振る。
テーブルの上にチョコンと座った彼女に、私はハンカチを折り畳んで座布団代わりに勧めた。
花模様のハンカチがお気に召したようで笑顔を見せた彼女。
何か御もてなしをしたいと思ったが、生憎何もない。
「こんにちは、私はエリーと言います。お願いしたいことがあります」
「エリーさん、来てくださって嬉しいです。私はモモでこの子はロンです」
ロンも歓迎の挨拶、元気よくワンと一声。
「お願いしたいことって何ですか。私にできることならお手伝いしますよ」
「モモさん、ありがとうございます。実はロン君を暫くお借りしたいのです」
「ロンをどうするの?」
「私たち妖精の国に、猫が数匹やってきて国中を荒らしています。ロン君に猫を追い払って欲しいのです」
「ロンは気が小さくて、猫をほとんど見たことがないのよ。そんなことできると思えないのだけれど」
その時、ロンが私の膝に両手を置いて、私を見つめました。
「ロン、あなたできるの?」
ロンは頷きました。
「無理だったらすぐに帰ってくるのよ」
そんなわけでロンは妖精と共に出ていった。
私はこの一連の出来事が本当の事とは思えなかったが、妖精だけでなくロンもいなくなったのは事実でオロオロと毎日を過ごした。
そんなある日、手紙が届いた。ロンが妖精の国へ行って一月が過ぎた時。
差出人は『ロン』だった。
妖精の国にいるからか、ロンはいつものロンではないようだ。
うんうん、遊びに行くからね。迎えに来てね。楽しみよ。
お土産の花模様のハンカチをたくさん買っておくからね。
おしまい
小牧幸助部長、今回もよろしくお願いいたします。
『始まりは』から始まるおはなしです。
ロンはどうやって文字を書いたのか不思議ですが。妖精の国だからということで💦